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幕間:休憩の語らい

(場面は、先ほどの白熱したスタジオから一転、静かで不思議な雰囲気に満ちた休憩室へと移る。そこは『SalondesÉtoilesPerdues』。柔らかな絨毯が敷かれ、壁際には大きな暖炉があり、パチパチと音を立ててオレンジ色の火が燃えている。壁には、ある場所には緑豊かな森を描いた大きなタペストリー、またある場所には荒涼としたアメリカ西部の風景画が掛けられ、部屋の片隅には金箔が施された日本の古い屏風が、存在感を放ちながら立てかけられている。大きな窓の外には、現実のどの時代の空とも異なる、無数の星々がまたたく、幻想的な光景が広がっている。部屋の中央には重厚な木のテーブルがあり、その上には、それぞれの好みを反映した飲み物が用意されている。)


(石川五右衛門は、大きめの陶器の杯になみなみと注がれた濁り酒を片手に、革張りのソファにどっかりと腰を下ろしている。鼠小僧次郎吉は、小さなお盆に乗ったお猪口と徳利をそばに置き、座布団の上で少し行儀悪くあぐらをかいている。ロビン・フッドは、暖炉の前に立ち、大きなジョッキに入ったエールビールをゆっくりと味わっている。ジェシー・ジェイムズは、窓の外の星空を眺めながら、ロックグラスに入ったバーボンウィスキーの氷を静かに揺らしている。)


石川五右衛門:(杯の濁り酒をぐいっと呷り、ふぅーっと大きな息をつく)「けっ!ちっと、言いすぎちまったか?あの案内人の嬢ちゃん、煽るのがうめぇから、つい乗っちまったぜ」


(五右衛門は、少しバツが悪そうに頭を掻く)


石川五右衛門:「しかし、あのロビンの旦那。理想が高ぇのは結構なこったが、ちいとばかり青臭ぇんじゃねぇか?『民の心に寄り添う』だぁ?そんな甘っちょろいこと言ってて、よく今まで生き延びてこれたもんだ」


ロビン・フッド:(暖炉の火を見つめながら、静かにエールを一口飲む)「五右衛門殿、君の言うことも、あるいは現実の一面なのかもしれない。だが、理想を捨ててしまったら、人はただ生きるだけの獣と何ら変わらなくなるのではないかな?たとえ青臭いと言われようと、私は信じたいのだ。人の心の善性を、そして正義の力を」


鼠小僧次郎吉:(徳利からお猪口に冷酒を注ぎながら)「まあまあ、お二人さん、熱くなるのはスタジオの中だけにしときやしょうや。どっちもどっち、ってことでさぁ」


(鼠小僧は、冷酒をちびりと舐める)


鼠小僧次郎吉:「しかしよぉ…さっきのジェシーの旦那の話は…ちと、ヘビーだったな。裏切り、ねぇ…。仲間ってのも、考えもんだなぁ」


ジェシー・ジェイムズ:(窓の外から視線を外し、鼠小僧を静かに見る。ロックグラスの氷がカラン、と音を立てる)「……お前さんだって、一人で危ない橋を渡ってきたんだろう、鼠小僧とやら。裏切りは、どこにでもある。他人だけじゃねぇ、自分自身の中にもな」


鼠小僧次郎吉:(少し驚いた顔で)「自分自身の中にも…かい?そりゃまた、難しい話だねぇ。あっしは基本的に一人働きだからよ。仲間がいるってのは、頼もしい反面、やっぱり怖いもんでもあるんだろうな、あんたの話聞いてると」


ロビン・フッド:「だからこそ、信頼が何よりも重要なのだよ、次郎吉殿。我がメリーメンは、単なる寄せ集めではない。共に苦難を乗り越え、互いを支え合う、家族同然の絆で結ばれているのだ。…そう信じている」


石川五右衛門:(杯を弄びながら、ふと呟く)「家族、ねぇ…。俺にはとんと縁のねぇ言葉だ」(少しだけ、遠い目をする)


ジェシー・ジェイムズ:(黙ってウィスキーを飲む。その横顔には、何か複雑な感情がよぎるが、言葉には出さない)「…………」


(しばし、暖炉の燃える音と、グラスの氷が溶ける音だけが響く)


鼠小僧次郎吉:(場の空気を変えようと、少し明るい声で)「なんだかんだ言ってもよぉ、俺たちみてぇな『日陰者』は、どこの時代、どこの国でも、肩身が狭いもんだなぁ。お天道様の下を、大手を振って歩けるわけじゃねぇしよ」


ロビン・フッド:(窓の外の星々を見上げ)「確かに、常に追われる身ではあったな。心休まる時は少なかった。だが、シャーウッドの森の中は別だった。あの緑の木々と、鳥の声、そして信頼できる仲間たちの笑顔…。私にとっては、どんな堅牢な城壁よりも、確かな安らぎを与えてくれる場所だった」


石川五右衛門:「自由、か。…結局、俺たちが一番欲しかったのは、それかもしれねぇな。誰にも、何にも縛られず、己の思うがままに生きる。まあ、俺の場合は、欲しいモンを力ずくで奪うってのが、そのやり方だったわけだがな!ガッハッハ!」(豪快に笑うが、その目には一瞬、寂しさがよぎる)


ジェシー・ジェイムズ:(グラスを置き、静かに口を開く)「……自由にも、代償が伴う。俺たちが手にした『自由』は、多くの血で贖われたものだったかもしれん。その重荷は、死ぬまで消えることはないだろう…」


(再び、静かな時間が流れる。四者四様の「自由」とその代償について、思いを巡らせているようだ)


鼠小僧次郎吉:(しみじみと)「…しかし、本当に変なもんだな。こうやって、安土桃山の大泥棒に、イギリスの森の英雄、アメリカのガンマンと、江戸のしがない盗っ人のあっしが、同じ部屋で酒酌み交わしてるなんてよ。夢でも見てるみてぇだ。あの案内人の嬢ちゃん、一体何者なんだろうな?ただの小娘じゃねぇな、ありゃ」


ロビン・フッド:(微笑んで)「全く、不思議な体験だ。だが、決して悪くない。君たちのような、それぞれの時代で、良くも悪くも『本物』の魂を持った者たちと語り合えるのは、私にとっても得難い機会だ。多くのことを学ばせてもらっているよ」


石川五右衛門:(鼻を鳴らして)「ふん。まあ、こうやって美味い酒が飲めるんなら、文句はねぇか。退屈しのぎにはなる。さて、次のラウンドは何を聞かれるんだか知らねぇが、俺は言いてぇことを言わせてもらうだけだぜ」


ジェシー・ジェイムズ:(静かに頷く)「……ああ。話は、まだ終わっていない」


(四人は、それぞれのグラスを静かに傾ける。激しい議論の後の、束の間の休息。窓の外の星々は、彼らの数奇な運命を見守るかのように、ただ静かに瞬いている。)

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