ラウンド3:義賊か、悪党か?・民衆が愛した、その真相
(スタジオ内。ラウンド2で見られた各々の「流儀」の違いを踏まえ、司会者あすかが核心的なテーマへと切り込む。)
あすか:「ラウンド2では、皆さまの仕事の流儀、そのプロフェッショナルな一面と、譲れない美学を垣間見ることができました。実に興味深いお話ばかりでしたね」
あすか:「しかし、その結果として…つまり、法を破る行為の結果として、皆さまは単なる『犯罪者』として歴史に名を残すだけでなく、ある種の『英雄』、あるいは『義賊』として語り継がれることになります。人々はなぜ、法を犯したあなたたちに喝采を送り、物語を紡いだのでしょうか?」
あすか:「そこで、ラウンド3!いよいよ今回の核心に迫ります!テーマはこちら!」
(背景モニターに「ラウンド3:義賊か、悪党か?・民衆が愛した、その真相」という文字が大きく映し出される。スタジオの照明が、よりドラマチックな陰影を作る。)
あすか:「『義賊』…この言葉を語る上で、まずこの方にお話を伺わないわけにはまいりません。ロビン・フッド様!あなたの伝説は、まさに『富める者から奪い、貧しき者に与える』義賊の鑑として、時代を超え、世界中の人々に愛されています。ご自身でも、民衆のために戦ったという強い自負がおありですよね?」
ロビン・フッド:(背筋を伸ばし、真摯な表情で頷く)「無論だ、ミス・アスカ。先ほども述べた通り、我々メリーメンの目的は常に、圧政に苦しむ人々を助け、奪われたものを取り戻し、この地に正義をもたらすことにあった。シャーウッドの森で我々が生き延び、戦い続けることができたのは、ひとえに民衆の支持と協力があったからだ。彼らが分け与えてくれるなけなしの食料、危険を顧みず提供してくれた隠れ家、そして代官の動きを知らせてくれる貴重な情報…それら全てが我々の力となったのだ。彼らが我々を『愛した』というなら、それは我々が圧政に対する抵抗の象徴として、彼らの心に希望の灯を灯したからだと、私は信じている」
(ロビンの言葉には、確固たる信念と、民衆への感謝が込められている。)
あすか:「民衆の愛こそが戦う力…まさに理想のヒーロー像ですね。…しかし、鼠小僧さん」
(あすか、いたずらっぽい笑みを浮かべ、鼠小僧に視線を移す)
あすか:「あなたの場合は、後世の芝居や講談で『稀代の義賊!』としてもてはやされ、大人気になったわけですが…巷の噂では、捕まった際に役人の取り調べに対して『貧しい人に施しをした覚えはねぇ』と、あっさり白状したとかしないとか…?ぶっちゃけ、そのあたり、本当のところはどうなんですか?」
鼠小僧次郎吉:(ギクッとした表情で、慌てて手ぬぐいで汗を拭う)「ぶ、ぶっちゃけって言われてもなぁ、案内人さんよぉ…!」
(鼠小僧は、周りの視線を感じて、バツが悪そうに、しかし正直に語り始める)
鼠小僧次郎吉:「まあ、その…なんだ。さっきも言った通りよ。義賊だなんて、そんな大層なもんじゃねぇって。あっしはただ、腕一本で仕事してた、ただの盗っ人でぃ。盗んだ金かい?そりゃあ、景気よくパーッと使っちまったり、馴染みの女に貢いだり、博打でスっちまったり…まあ、たまには人のいい長屋の大家に工面してやるみてぇな、人情話がなかったとは言わねぇが、ロビンのお大尽みてぇに『虐げられた貧しい人々のために、この金を分け与える!』なんて、そんな殊勝な考えは、これっぽっちもなかったねぇ、正直な話!」
ロビン・フッド:(少し驚いた顔で、しかし穏やかに)「次郎吉殿…それは意外だな。では、なぜ君の伝説は、そのように義賊として語り継がれているのだ?何か理由があるはずだ」
鼠小僧次郎吉:(肩をすくめて)「さあねぇ…あっしが知るわけねぇだろう。たぶん、芝居の作者とか講釈師とかが、話を面白くするために、勝手に話を盛ったんじゃねぇか?江戸の庶民てのは、そういう威勢が良くて、お上に逆らうような話が大好きだからよぉ。大名屋敷から千両箱せしめて、それを貧乏長屋にばら撒く!なんて話は、いかにもウケがいいってもんだろう?」
あすか:「なるほど…民衆の願望や、物語の力が、英雄像を作り上げたのかもしれない、と。…民衆の願望…ジェシーさん、あなたの場合はいかがでしょう?南北戦争後、南部の多くの人々があなたたちジェイムズ=ヤンガー・ギャング団を、北部の支配に立ち向かう英雄として、ある種、熱狂的に支持したと言われています。しかし先ほど、『利用されただけかもしれん』ともおっしゃいましたね。その『英雄視』の実態を、ご自身はどう捉えていましたか?」
ジェシー・ジェイムズ:(苦々しい表情で、低い声で語る)「ああ。南部の連中にとっちゃ、俺たちはヤンキーども…特に、俺たちから搾り取ることしか考えていない銀行家や鉄道会社に一泡吹かせる、都合のいい存在だったんだろう。俺たちが列車強盗で大金奪ったと聞けば、拍手喝采する奴らも多かったはずだ。例のダイムノヴェルとかいう三文小説が、俺たちをロビン・フッドもどきの、ありもしない英雄に仕立て上げた。おかげで、俺たちの名前は売れたがな…」
(ジェシーは、一度言葉を切り、嘲るように続ける)
ジェシー・ジェイムズ:「だがな、それは所詮、物語だ。現実の一面でしかない。俺たちを英雄扱いする舌の根も乾かぬうちに、俺たちの首に懸けられた懸賞金目当てに、密告しようと企む奴らも掃いて捨てるほどいた。それに、俺たちの『仕事』のせいで、流れ弾に当たって死んだ、全く関係のない人間もいたんだ。…民衆の『愛』なんてものは、そんなもんだ。気まぐれで、身勝手で、すぐに憎しみに変わる。光と影、その両方だ」
石川五右衛門:(ジェシーの言葉に、深く頷く)「フン、ようやく分かってきたじゃねぇか、アメリカの小僧。民衆なんざ、手のひらを返すのは朝飯前よ。当てにするだけ無駄だ」
あすか:(五右衛門に視線を移し)「では、五右衛門殿。あなたご自身は、秀吉という天下人に逆らったことで、結果的に民衆の喝采を浴びた側面もあるかと思いますが、『義賊』というレッテルを貼られることについて、どう思われますか?民衆の反応は、全く気にも留めなかった?」
石川五右衛門:(腕を組み、鼻で笑い飛ばす)「義賊だと?ハッ!くだらねぇ!ちゃんちゃらおかしいわ!俺がいつ、民衆のために盗みなんぞしたってんだ?教えてもらいてぇもんだな!」
(五右衛門は、スタジオ全体を見渡し、挑むように続ける)
石川五右衛門:「俺は俺が欲しいから盗んだ!俺が気に食わねぇ奴から奪った!ただそれだけだ!それがたまたま、当時の天下人だったり、ふんぞり返った大名だったりしたから、下の虫けらどもが面白がって騒いだだけだろうよ!まあ、俺様のおかげで、あの猿(秀吉)の権威に多少なりとも泥が塗れたってんなら、それはそれで痛快だがな!だが、断じて言っておく!俺は誰かのためにやったんじゃねぇ!この石川五右衛門様が、やりてぇからやったんだ!文句あっか!」
あすか:(圧倒されつつも)「い、いえ、滅相もございません…!皆さま、それぞれに民衆との距離感、そして関係性が全く異なるようですね…。実際に、民衆に助けられた経験や、逆に裏切られたり、迷惑をかけられたりした経験など、具体的に思い出すことはありますか?」
ロビン・フッド:「先ほども言ったが、森での我々の活動は、常に民衆の協力なしには成り立たなかった。代官の追手が迫っていることを、命がけで知らせてくれた村人、なけなしのパンをそっと差し入れてくれた農夫…彼らの小さな勇気と優しさには、何度助けられたことか。彼らこそ真の英雄だ」
鼠小僧次郎吉:「裏切りねぇ…まあ、盗っ人稼業してりゃ、密告の一つや二つ、覚悟の上よ。こっちも信用しちゃいねぇからな。だけどよぉ…一度だけ、忘れられねぇことがあったな。押し込み先から逃げる時に、角で見張ってた番太の旦那と鉢合わせしちまったんだ。もうダメかと思ったらよ、その旦那、俺の顔をじっと見て、すっと道を開けて、『次郎吉、達者でな』って、小声で言いやがった。あれは…ちっと、ジーンときたかなぁ…」
ジェシー・ジェイムズ:(目を伏せ、苦い表情で)「助けられたことより、裏切られたことの方が、鮮明に覚えてるな。信じていた仲間に…家族同然だった男に…」(言葉を詰まらせる)「……いや、この話はやめよう。思い出したくもない」
石川五右衛門:(吐き捨てるように)「助けられた?裏切られた?そんなもん、いちいち覚えてるか!弱い奴は頼るしかねぇし、裏切るしかねぇんだ!俺は俺の力だけでやってきた!誰の助けも借りねぇし、誰に裏切られる心配もねぇ!」
あすか:(深く息を吸い込み、スタジオの空気を変えるように)「ありがとうございます…。『民衆が愛したアウトロー』という、一見華やかな言葉の裏には、実に複雑で、時には残酷な真実が隠されているようですね…」
(あすか、全員の顔をゆっくりと見渡し、核心的な問いを投げかける)
あすか:「ロビン様のように民衆と固い絆で結ばれ、その愛を力に変えた方もいれば、鼠小僧さんのように、本人の意図とは裏腹に、民衆の願望によって英雄に祭り上げられた方、ジェシーさんのように、愛と憎しみの間で翻弄され、利用されたと感じる方、そして五右衛門殿のように、民衆の存在など歯牙にもかけず、己の道を突き進んだ方もいる…」
あすか:「では、皆さまに、あえてお聞きします。この場で、『真の義賊』とは、一体何なのでしょうか?それは存在するのでしょうか?そして、民衆が本当に愛したのは、皆さまのありのままの姿、その『実像』だったのでしょうか?それとも、彼らが見たいように見て、聞きたいように聞いて、勝手に作り上げた、都合の良い『虚像』だったのでしょうか?!」
ロビン・フッド:(即座に)「いや、虚像ではない!民は我々の行動の中に、真実の…たとえ小さくとも、正義の輝きを見てくれたのだ!そうでなければ、我々の伝説がこれほど長く語り継がれるはずがない!」
鼠小僧次郎吉:「うーん…虚像か実像かなんて、そんな小難しいこと、あっしには分からねぇよ。ただ、みんな退屈してたんだろ?だから、あっしみてぇな破天荒な奴の話で、憂さ晴らしでもしたかったんじゃねぇのかい?」
ジェシー・ジェイムズ:(冷ややかに)「虚像だろうが実像だろうが、関係ない。時代が、人が、英雄を必要としていただけだ。それが俺たちだったというだけの話さ。愛された?フン、飽きられたら忘れられる、そんなもんだろ」
石川五右衛門:(腕を組み、ふてぶてしく)「どっちでもいいじゃねぇか!虚像だろうが実像だろうが、俺は石川五右衛門だ!民衆がどう思おうが、俺の知ったこっちゃねぇ!俺がこの世に生きた証は、俺自身のこの生き様よ!」
ロビン・フッド:「五右衛門殿、それではあまりに寂しいではないか!民の心に寄り添うことこそが…!」
石川五右衛門:「甘ったれるな、ロビン!民衆に寄り添うだと?そんな暇があったら、もっとデカい獲物を狙うね、俺は!」
ジェシー・ジェイムズ:「ロビン殿の理想は美しい。だがな、現実の泥水を啜ったことがない者の言葉に聞こえるぜ」
鼠小僧次郎吉:「まあまあ、皆さん、落ち着いてくだせぇよ…」
あすか:(興奮を隠せない様子で)「おおっと!これは…熱い!熱い議論になってまいりました!『義賊』とは?民衆の『愛』とは?そして、伝説の『真実』とは?!皆さまの意見は真っ向から対立しています!」
あすか:「この白熱した議論、まだまだ続けたいところですが…皆さま、少々ヒートアップしすぎたようです。ここで一度、クールダウンといたしましょう!休憩を挟んで、この議論の続きを、さらに深めていきたいと思います!」
(あすか、少し名残惜しそうに、しかし議論の熱気を保ったまま、幕間への移行を告げる)