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5話 玉ねぎから愛を込めて

俺妹サイコ――――――――――――!

 よう、俺たちは今牢屋の中で絶賛不貞腐れ中だ。あんな意気揚々に冒険のクラッチを切ったのにもう足止めさ。それも今横たわって小指で鼻の清掃をしてるグイダのせいだ。何があったかっというとだな・・・


 俺たちが階段を上った先には澄み渡る青空があった。雲は端っこで小さく縮こまって恥ずかしがっている。しかし日照りは強くなく、吹く風はそよ風で見た目に反してずっと涼しい。ここ、、塔の中だよな、どうしてまるで塔の外みたいな景色なんだ。どこまでも続いてるように見えるし、夢でも見てんのか俺。

「どうしたのじゃ、行くぞ。ハンジャにバクドー」

「なーグイダー、ここって確かに塔の中で第二階層なんだよなー?」

「? 何を当たり前のことを言ってるのじゃ、丁度さっき階段を上ってきたところじゃろう。怖気づいたのかハンジャー?」ニヤニヤと小馬鹿にした顔で聞いてくる。うぜえ。

「違えよ、この目前の光景見たら室内だとは到底思えないって言ってんだよ」

「なんだそのことか。ここはタマネギン様が治めてる層だからな、自分が暮らしやすい空間に変えてるんじゃよ」さも常識だよみたいに言われてもな、全く分からんよ

「おいおい、空間を変えるって簡単に言うけどな」

「へー!いいなあ、この塔にいる人たちってみんなそんな魔法が使えるの?」

「いや、それは妖精たちに与えられた魔法じゃ。普通のやつには使えんよ、簡単なのなら使えるかもしれんがな」

「妖精がみんな、そんなとんでも魔法使えんなら創造主さまは何ができちゃうんだよ」

「さあな。その知識は俺には与えられておらん。どうでもよいがな、俺は与えられた役目を果たすまでじゃ」

「ふーん」こいつ案外真面目なんだな。

「そういえばパジャマのままだけどいいのかよ」

「忘れておったわ、まあ動きやすいからええじゃろ」だらしないけど。

とこうして話しながら歩いてると柵で囲まれた割と大きめの村が見えてきた。

入口には人二人分の高さの門があり、門の両脇に兵隊らしき人がいた。人には見えないけど。

「ねえねえ、グイダ!あれなにあの兵隊さんの恰好してるの、人じゃないよね!」バクドーが興奮気味にグイダに問いかける。予想はつくけどな。

「タマネギ族じゃな、俺も初めてみるがあの茶髪に薄い緑が混ざった白い肌は間違いないじゃろう」

補足しておくと茶髪といっても人の髪のように一本一本別になってる訳ではなく、タマネギの茶色の皮が花のように広がって髪のようになっていって、肌はタマネギそのものだ。しかし、目鼻口もちゃんと揃っている。

「どうすんだ?このまま門に向かっていいのか?」

「普通なら怪しまれるじゃろうが、ここは俺に任せるのじゃ」この自信に満ちた顔、なんか得策があんだな。

「いいぜ任せた。いいよなバクドー」

「うん、いいよ。よろしくグイダ」

「フンッ。大船に乗ったつもりで待っておれ」ぷっくり膨れたお腹をバチーンと叩いて軽快な音を鳴らしたグイダは兵隊の所に駆け足で向かっていった。今気づいたけど、あの羽飾りだろ。飛ばねえならなんの意味あんだよ。


 何やら話した後、片方の兵隊がどこかに走り去って、また戻ってきたと思ったら見た目が派手になった兵隊、兵士長だろうか、それと門にいた兵隊と同じ格好した兵隊を10人ほど連れてきていた。なんだ、なんだ、何事だ?あいつの策は上手くいってんのか?あいつは・・・こっちからじゃ兵士長に何やら話し込んでて表情が分からんな。お、兵士長が部下になんか命令したぞ。こっちにぞろぞろやってくる。人間なんて珍しいだろうしなー、盛大なおもてなしなんだよな、これ。そうだよな!グイダ!そうだろ、グイダ・・・って、んだよそのごめんね、テヘペロはああああああああああああああああ!!!!!!畜生がああああああ!!!!!!

兵隊たちが俺らをゆっくり警戒しながら囲み始める。戦うか逃げるかという選択肢が一瞬浮かんだが、この数を見てすぐに消え去った。

「あー違うんすよ、何かの手違いすよ、なあバクドー?」

「ぼくら、ただの兄弟で旅してただけです」

そんな抗議は悲しく無視され

「お前ら動くなよ、動いたら周りのこいつらでぶちのめすから」と脅してきた。口が悪くてよ、兵隊さん。あーあ、この調子じゃ俺たち完全に悪者じゃん、なんでよ。するとおもむろに口が悪い兵隊が両手を手前に掲げると目を瞑り瞑想を始めた。すると俺の体が他人に操縦されるように一人でに動き直立の姿勢になった。隣を見るとバクドーも同じようだ。直立の姿勢になると、瞑想中の兵隊の斜め後ろ両脇にいる兵隊がそれぞれ同じように瞑想をはじめ、両手を掲げるのではなく、にぎにぎし始めた。すると玉ねぎの葉っぱがどこからともなく現れ腕と胴体一緒に無限に出てくる葉っぱでぐるぐる巻きにされた。解こうにも硬すぎてびくともしない。

「ふう、終わった。連れてくぞー」

そう周りに呼びかけるや否や、俺たちの後ろにいた兵隊がリュックをドンッと押してきたので、それに突き動かされるように歩き始めた。

「なー聞いていいか、俺たちなんで捕まえられたんだ?身に覚えがないんだが」

「ハッ、いいからだまって付いてこい」教えてくれんらしい。出会い頭に捕らえられ、理由も伏せられるのはいただけないが、今は言う通りにするしかない。俺たちは渋々彼らについていった。


 そして今に至る。拘束は既に解かれていた。

「なあグイダさんよお、これはどういうこった。」

俺は床に胡坐をかいて横になってるグイダに問いかける。グイダはこちらに向き直り、

「俺はなんてたって導きの妖精、五妖精の内の一人じゃからのお、俺の名を出せば恐れ慄いて通すはずと思ったんじゃよ」

「それで名を告げたらどうなったんだ?」

「俺の名を告げた途端にあの門番焦って兵士長を連れてきたと思ったら、開口一番に「なるほど確かにグイダ様のようだ、即刻この者らを捕らえよ!」と叫び出しおったのじゃ、何を言っても「お答えできかねます」と繰り返すだけ。ほんと腹が立ったわい、俺を妖精様と知っての狼藉か!」顔を赤くして、ワナワナと震えて仕舞には床でジタバタ暴れ出した。ガキか、てめえは。

「いやお前らグイダ達がどんだけ偉いのかは知らんけど、一階層みたいに何か魔法使えばよかったじゃねえか。空間変えれるぐらいなんだから、この村を粉々のチリペッパーにすんぞーとか脅して、兵隊一人を人質にすれば、流石に対応変えるだろ」

「兄さん、物騒だよ。いつもビビッてもっと穏便に済まそうとするじゃん」格子の反対側の壁に寄りかかりながら、らしくないと諭してくる。

「いや例えばだよ例えば。グイダたちの魔法ならどうとでもなっただろって言いたいんだよ」タマネギ族が俺らを拘束した魔法も目を見張るものだったが、こいらの方がきっと何百倍も凄い魔法を使えるだろ、こんな建物の中とは思えない不思議な空間を作れるぐらいなんだから。

「いや、言い忘れておったが俺らは自分が担当するエリア以外では魔法は使えんのじゃ」

「はあああ!?なんだよそれ。もっと早く言えよ、俺はお前みたいな中年おやじでも、あの魔法が使えるなら便利だし、しょうがねえなって渋々了承してたんだぜ?」がっかりだぜ、グイダ。

「あん?お主らみたいななーーんにも知らん異邦人に分かりやすくいろいろ説明してやってるじゃろうが。もっと感謝するべきじゃないか?えー?」

「まあそりゃそうだけどよ・・・あんがとな」こいつが魔法使えないってのは凄く残念ではあるが、こいつがもたらしてくれる情報は大変助かる。なんの灯りもなしにダンジョンに潜るのと松明もってダンジョンに潜るのとでは大違いだ。

「じゃあよ、この牢屋から抜け出す方法なんかないの?」格子はタマネギの白い部分がそのまま格子の形になっていて、握って揺らしても、殴っても堅牢な出来だった。まるで鉄格子。因みにバクドーが噛り付いてみたところ、硬すぎて歯形を付けるのでやっとだった。じゃあ荷物は?っていうと当たり前だが没収された。

「んー」と10秒ほど唸ったグイダは何か思いついたのか柏手を打ち

「バクドーがハンバーグ塔の壁を燃やした青白い炎とやらはどうじゃ。あの結界を壊せるのならこんなタマネギ格子いとも簡単に燃やせるじゃろうて、やってみい」言われたバクドーは、なるほどその手があったかあと得心し、タマネギ格子に近づき手を這わせる。

「・・・・・・・・・・ダメみたい」唇を尖らせながらこちらを向く。

「・・・念じてみたら?」俺がそう提案するともう一度格子と対面し集中し始めるが何も起こらない。

それを見たグイダは立ち上がり拳を突き上げ

「もっとじゃ、もっと気合を入れるんじゃ!」

「うおおおおおおおおおお、うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」

「あの壁を燃やした時を思い出すんじゃ、その時お前は何を願った、何を信じたんじゃ!」

「ぼくは、ぼくはハンバーグの未来、可能性、無限性を願い、信じた!」世界の果てまで届けとばかりに口から溢れる思いを声に乗せる。

俺も立ち上がり、力の限り声を張り上げる。

「見せてやれよ!お前の愛ってやつをさああああああ!!!」

「大大大大大大好きだ!ぼくと結婚してくださあああああああああああああああああああああい!!!!」

「言えたじゃねえか」目頭が熱くなる。いっけねえ、感動の余りに涙が。

「フッ、お主の愛の叫びきっと届いたはずじゃ」チラッと隣を見ると俺と同じ気持ちのようだ。

俺は見た、見たんだ。ついに弟がずっとひた隠しにしてきた思いをぶちまける時をさ、今まで辛かったよな、身分の違い、年の違い、すれ違い、彼女の急な転校、留学、エトセトラエトセトラ。それを乗り越え今至った。この場所に。それを隣で見てきたんだ、嬉しくないはずがない。精一杯の祝福を送るぜ、兄弟。

「よかったなバクドー」

「うん」振り返ったバクドーから涙が一粒落ちる。そこに今現在のいろんな感情、気持ちが凝縮されている、そんな気がした。


「なーに、やってるのかしら、この変人たちは?」そんな俺たちのハッピーな空気を台無しにする声が向かい側にある階段方向から聞こえてくる。カツッ、カツッと甲高い音が響き、大きくなってくる。やがて姿を現したのは、きめ細やかな意匠が施された衣服で身を包んだタマネギの女だった。長く伸びた髪をバサァとかきあげて

「助けてあげるわ、この珠音様がね」

ハンバーグじゃなくてタマネギに届くとはな。



 


桐野かわいすぎるぜ

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