3話 正体
あ
俺たちはまず最初に世界の監視塔の周りをぐるっと回ってみることにした。監視塔と言っても、窓も飾りも一つもない綺麗な円柱だった。目を一生懸命に凝らしても何も見つからない。これじゃ入口も無いんじゃなかろうか。しばらく回ってみたがほんとーに何も見つからない。黙って見ていてもどうしようもないと悟った俺たちは船を手が届く距離まで近づけた。バクドーがさっきのようにグローブをはめて柱に触れる、が何も起こらない。今更気づいたことだが、特別な権限者しかこの塔に入れないとかだったら俺たちには何もできない。そんな人のコネもない。ただ10年も旅してハンバーグ島に関しての情報を得る事が出来なかったのと同じように、この柱についても何も知りえなかったから、ハンバーグ島と世界の監視塔何か関係してんじゃねぐらいの気持ちでやってきただけだ。そんな根拠も証もないものに縋っている。でももうそんなものにしか縋ってみるしかないのだ。そんなことを考えながらバクドーに見やるとグローブを外して直接右手を触れるところだった。何も起きねーだろうなーとボケーと見てたら、触れた瞬間、唐突に手を青白い炎が覆うように激しく燃え始めた。
「兄さん、触れてみたけどなんにもなんないね」なんて今も右手が燃えてるってのに何事も起きてませんよーって顔でこっちに振り向いて苦笑してる。「いやいやいやいやいや!お前、手燃えてんだろうが!」「?」いや、?はこっちだよ、バカ「右手だよ!右手!」俺は必至に指を指す。ようやく自分の振り返った顔を戻し、右手を見たバクドーは「ぎゃあああああああああああああああああああああああ、燃えてるぅぅぅ!?」手を思いっきり剥がした反動で体制を崩し、船から勢いよく落ちた。「おい、大丈夫か!」船から身を乗り出して、バクドーが落ちた方に声をかけ手を伸ばす。あれじゃあ、もう右手は使いものにならねえ、あんな燃え方じゃ火傷程度で済む訳がない。クソ、こうなるって分かってたらもっと慎重になるべきだった。なのに俺は呆けて黙って見てただけって使えねえ、ほんとに使えねえ。冷や汗がドロドロ垂れて、心臓の鼓動が早い。おいまだ上がってこねえのか、もしかしたら気絶でもして落ちてんじゃねえだろうな。さらに鼓動が早くなって痛いぐらいだった。自分も飛び込もうとしたとき、バクドーは一人でに両手で手すりにつかまり這い上がってきた。「は?お前手はどうしたんだよ」バクドーの右手を見てみるが、不思議なことに損傷は見当たらなかった。「いや、ぼくもさっきは火の勢いに驚いて思わず落ちちゃったけど、なぜか熱くなかったんだよね。むしろ温かったよ。」なにがなんだか俺は分からないが、ひとまずなんともないことを知ったら、気が抜けて仰向けに倒れた。「は~~~~~~~~~~~~~」よかった。ほんとによかった。
「さっきの炎なんだったんだろ、まさか、魔法使いの才能が芽生えたとか!今日からぼくは魔法使いの卵★」俺はこんなに心配してったつうのに、もうはしゃいでいやがる。
「な訳ねえだろ、普通に考えて触れたのをきっかけに仕掛けが作動したんだろ」
「ちぇえ、夢が無いねえ兄さんは」
「うるせえ、言ってろ夢想家が」
起き上がってさきほどバクドーが手をついてた壁に目をやる。手をついていたところを中心に井戸の穴の大きさほど真っ黒な壁がなくなり、縁側はロウソクみたいにどろりと溶けた跡になっていた。そして壁が無くなった部分からまた壁が見えた。たださっきの壁とは違い黒色と茶色が混ざった、何かに例えるならハンバーグとしか言いようがなかった。ん?ハンバーグ、ハンバーグ、ハンバーグ.... ハンバーグだと!?「おい、バクドー!そこどけ」バクドーの反応を無視して手で払いのけ壁にかぶりつく。平らで些か食いにくかったが、間違いない。あふれ出てくる肉汁と肉塊のほどよい柔らかさ、ハンバーグだ。俺は無心に食らいつく。美味い、美味い、美味い、美味いなこりゃ、けど至高のハンバーグかって聞かれるとそれはないと言い切れる。まだチーズン帝国で食ったハンバーグや俺たちが作るハンバーグの方が上だ。だが決してまずい訳でもないし、普通な訳でもない。この食い意地を見れば分かるだろうがレベルは高い。ハンバーグ通の人じゃなきゃ太鼓判を押すはずだ。そう批評している内に空気を噛んだ。ふと我にかえて壁から顔を離すと不格好で小さなトンネルができていた。
「兄さんだけずるいぞ、ぼくにも食わせろよ」バクドーの口調は静かだったが明らかにキレていた。夢中になりすぎてこいつの存在忘れてたぜ「わりいわりい、ほらお前も存分に食えよ」
「言われなくたってそうするさ」
二人で交互に食い合ってる内に這って進めば人が通れそうなぐらいの内側までの入口ができた。内側を覗くと灯りがついてるのは分かる。さっきの負い目があったから自分が先に侵入することにした。内側まで来てみるとあったのはお城の玉座の間のよう赤いカーペットやタペストリー、シャングリラなどで豪華に飾った想像だにしなかった景色だった。しかし玉座の間とは違って玉座の代わりに階段がある。だがもっと目を見張る、というか自然に釘付けになってしまうものがあった、というかいた。この部屋の中心に。
赤と白のしましま模様の三角帽子を被り、シルクの青いパジャマを着て、仕舞いには背中から1対のかわいらしい羽根を生やした見目麗しい女性、ではなく太っちょのおじさんが背の低いイスに座っていて、同じようなイスにぬいぐるみ?を乗せて一つの丸いテーブルを向かい合うように囲んでいた。おじさんがこっちに気づく。
「お主ら何者じゃ」
つい