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ママ?






「……そういうわけだから、アンタ達にはこの街の下水道の調査に当たってもらうわ。

 ちなみにこれは私からの命令だから。

 アンタ達に拒否権はないわよ」


    

「ほう」

「あ、ああッ!!? なんで俺がそんなことをッ!!?」


     



 夫婦ネズミ(マリード・ラット)の討伐より数週間。俺は集中治療を経て完全治癒へと至り、退院の運びとなった。


 お前達。夫婦ネズミ(マリード・ラット)の討伐に伴い俺は思わぬ重症を負い、果てにはその治療先ではど偉い人物との会合と相成って多少のごたつきはあったものの、任務が達成されたことには違いはない。

 そうだろ?

 だから、基本的にはこれでめでたしめでたし。

 この件に関しては幕を閉じた……




 ……かったがどうも、そうは問屋が下ろさないらしい。


 お前達。この話には続きがあった。

 夫婦ネズミ(マリード・ラット)の討伐完了後、再びこの街にて夫婦ネズミ(マリード・ラット)が出没したのだ。

 勿論、同一個体ではない。死んだ個体が蘇るなんてことは当然ない。新たな個体が発生したのだ。

 それと同時に通常の魔鼠も点々と出没しているようで、俺の入院期間中に増加の一途を辿っている。

    

 問題は夫婦ネズミ(マリード・ラット)だ。

 新たな個体に関しては既に他のエクソシストによって討伐されている。幸いにもその個体は俺が相手をした個体よりは弱かったようだな。


 問題はその次。夫婦ネズミ(マリード・ラット)がポツポツと出没し続けているということだ。これは明らかな異常であった。

 夫婦ネズミ(マリード・ラット)は恐らく、魔鼠の上位個体。

 魔物はその成長過程で著しい変化を遂げることがあるが、これは魔物特有の特性だ。

 なあお前達。しかしその上位個体というのはある種の突然変異のようなもので、そう滅多に起きることではねえんだ。


 しかし現状は違う。

 故に異常であると。なるほどな。

 情報部の調査によると、魔鼠、夫婦ネズミ(マリード・ラット)の出没情報は現在この街のみに留まっているようで、出所は下水道の可能性が高いとの分析だ。


 それで俺達に下りてきた調査任務ということだ。

 なるほどな、話はわかった。

 俺は理解した。


 なあお前達。

 でもおかしいと思わねえ?

 俺はこの街のシスターじゃねえんだぜ? なのに、わざわざ借り出されては調査しに行ってこいだなんてよお。

 おかしいよなあ?

 エリーミア監査官は別にいいよ?奴はこの街のシスターだからな。でも俺は違えだろ。

 俺は管轄外の仕事はしない主義なんだ。


 俺は断固反対した。




「これはこの街の問題、つまりは中央教会の問題でしょウ。  

 なんで地方のしがない司祭である俺がそんなことにまでに力を貸さなきゃなんねえンでございますかネえ!!?」



 一応相手は神聖使徒団セイクリッドナンバーズの偉い人物。

 俺は謙虚なシスターとして、組織人として敬語を使った。


     

「うっさいわね。

 人手は多いに越したことはないのよ。つべこべ言わずにやんなさい」   


「イヤッつってンだろ。いや、イヤでございまスぅ。

 つかその間に俺の町になにかあったらどうすんですか!!? 俺は自分の町の安全を守る義務があるんデございますゥ!!」 




「はァ~~~~~~~~~~ッ!!!!!!!(クソデカため息)

 これだから男ってのは。

 チンポも小さければ器もちっさい奴ねアンタ」


 

「は、はアッッ!!!!??

 ちッさくネえわッボケがッ!!!!!!!

 そんなに言うならやってやろうじゃねえカッ。見とけやボケがッ!!!!!」

     




 お前達。そういうことになった。





     ###






 聖都セントラルハイツ。

 ここは中央教会の本部が設置されており、交通の便などからも昔から交易が盛んだったこの街は大陸でも一番の繁栄を誇る巨大都市だ。

 レンガ式の建築物が一般的に浸透しているこの街では、デザイン性の優れた赤茶色の家々が並び立つ。


 展望台から街を見渡せばその情緒的な趣のある景観の美しさに誰もが息を飲むことだろう。


 お前達。俺の横をキャッキャッとはしゃぐ幼い子供たちが通り過ぎて行った。

 今この街では魔鼠の脅威に晒されている。

 だというのに、その子供達の様子を見るとそんな面影は全くないようにも思えるのが不思議だ。


 いや、市民に危険が及ぶ前に対処できているという証拠か。

 素晴らしいぜ、ここら辺はさすがは中央のエクソシストと言うべきか。

 俺は街に平穏さ、子供達の無邪気さに微笑んだ。


    

「イゾット司祭、イゾット司祭」



 エリーミア監査官が俺を呼んだ。



「ここです。

 情報部の情報だと、ここの入り口から続く下水道から魔鼠が発生しているのでは?という話です。

 確かにここら辺は魔鼠の匂いと味が強く感じます。

 慎重に行きましょう。」



 エリーミア監査官は真剣な表情をおもむろに見せると静かにそう語った。タイル張りされた地面をベロベロと舐めながらだ……。

 近くの子供達が物珍しげに見たり、はたまた、うえ~とした苦い顔で見ていたりもした。


 お前達。あれは子供達のお母さん達であろうか?見ちゃいけませんと言ってはそそくさと子供達を連れ去っていった。

 俺は悲しくなった。

 しかし……ああ、とても賢明な判断だ。

 良識深いお母さん達の存在があれば将来の子供達は安泰だろう。

 それを知れた俺は、憂いを帯びた微笑みを湛えながら、フッと鼻を鳴らした。

     





「お前ッッ、人前でそれヤメろッつッッたろウがッッ!!!!!」



「はべぐッ!!!!??」



 俺はこの糞ペロ野郎をぶん殴った。奴は揉んどり打っては身体を回転させて地面を転がっていった。

 拳に残った感触。顔面へのめり込み具合。我ながらいいパンチだ……。俺はそう思った。

 しかしそれで俺の怒りが収まるかと言えば全くそうではないがな。


 エリーミア監査官。

 この糞ペロ野郎め。純真無垢な子供達の前であろうとお構い無くその醜態を晒すとは。人々の模範となるべきシスターが、全くなんたることか。


 俺はエリーミア監査官にその無神経さを叱った。

 しかし心のない奴には全く響かない。そのキレイな顔をポケッとさせては顔を傾けさせるばかりだ。



    

「……もう、イゾット司祭、いたた。

 暴力はよくありませんよぉ。」


「黙れッペロリスト。

 言葉で通じないなら拳で叩きこませるまで。覚えないてめえか悪いンだよ」



「私は任務のためにやってるだけなんですが……」

    

「るセえッ。口答えするなッ!!

 お前のやり口は著しく市民の心証を損なう。いいかッ、今後人前では絶対やるなよ!??」




 全く、何度言ってもわからん奴だ。

 お前達。俺は腕を組んでフンッと鼻を鳴らすと奴に睨みを飛ばした。

 まだまだ言いたいことは山ほどあった。

 俺は言葉を続けた。が、それも叶わなかった。


 教会の異端者を正道に戻そうと頑張る俺をどつき飛ばした不届者がいたからだ。

 そうだ、次の瞬間、俺は背後から誰かに蹴飛ばされた。

 どわさッッ!!?


 揉んどり打っては地を這った。顔を強かに打ち付けた上に顔を擦っちまったわ。

 俺はあまりの衝撃にビックリした。

 おい、誰だと思う?こんなことをする不届者は。


 聞いて驚け。

 まさかのあのお偉いさんだ。




「いつまで無駄口を叩いているのよ。

 とっとと仕事につきなさいな」

     


 神聖使徒団体セイクリッドナンバーズ序列第五位、エースバーン・トランポリオ司祭その人である。

 首飾りの五の番号の装飾がキラリと光る。


 この女、いや元男だが、いやしかしある意味もう女みたいなものなのでもういいわ。

 この女、エースバーン司祭は鼻を鳴らした。その瞳は侮蔑の色で染まっている。

 この暴力ババアがッ。

 お前達。俺は内心ハラワタが煮え繰り返っていたが、相手は偉い人である。わざわざ表に出すことはあるまい。


 俺はすまねえと謝罪の意を示した。

 何より任務の直前。こんなところでグダグダしていた俺にも非はあるだろう。


 というわけで、演技臭く痛がるエリーミア監査官の手を引き準備に取りかかろうとするも、俺はそこでふと気になることがあった。

 気になるというより、もはや気にせざるを得ないというか。



 俺の視線の先。

 お前達。それは女であった。

 そいつはさっきからずっとエースバーン司祭の後ろから興味深げにチラチラと首を出してはこちらの様子を伺っていた。

 だが、ついには今この時、その女は俺達の前にまで歩みを進めてきた。




「へえ~~~~、貴方ってホントに男の人なの?

 すっっごい美人よねえッ~!!!

 なんか、もう~女の子にしか見えないってゆ~か~。

 髪も超ツヤツヤ出し~。 

 なんか特別なものでも付けてんの~~?」


     

 すごい前のめりに寄ってきてはそうべらべらと口を開いた。

 やたらと身体やら髪やらも無遠慮に触ってくる。

 栗色のセミロングの髪。顔はまあまあか。相も変わらず俺には及ばねえ。


 一般的に美人の部類であろうが、第一印象としては明るい女という印象意外、特にこれといってなかった。

 ただ、とにかくグイグイとくる。

 そういう感じだ。

 だからお前達。俺は言った。





「なンだこのブス?」


 

「はア"ッ!!!!???」



 急に女は切れた。

 なんだ?何を怒る?

 俺はただ事実を言ったまでだが。


   


「ちょっとママッ!!

 この人超失礼なんだけどッッ!!!!??

 せっかくこの私が目をかけてやろうとしたのに、何なのコイツ~~~。

 超ムカつくッ。ねえッママッ、アイツをどっか遠い糞田舎に左遷してやってよ~~~ッ。

 私に悪口言ったことを後悔させてやってェ~~~」





「……ハぁ~~~~~(クソデカため息)」




 エースバーン司祭は頭痛に堪えるようにこめかみを揉んで深いため息をつく。

 いや、ママって……。エースバーン司祭、アンタ子供産めないでしょ。

 いや、もしかしてこの人ならあり得るのか?

 お前達。俺は理解が追い付かなかった。ママという言葉に口をあんぐりとさせるしかない。


 他はというと、物珍しげに彼女を見るエリーミア監査官。

 そしてエースバーン司祭の腕を揺すってはママと喚く謎の女。

 

 なあ。

 俺達はこれから下水道調査をする筈なんだが?

     

     



「……なんなんだこれは」

    


      

 俺はボソリと呟いた。









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