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エースバーン・トランポリオ司祭




 魔物のみ脱力する結界の奇跡(ウィークネス)

 正方形状に囲まれた光の結界を作り出す奇跡。それに囲まれた魔物は力を失い身動きができなくなるという効力を発揮する。


 そうだお前達。エリーミア監査官が発動した奇跡とはまさにこれのこと。

 その効果は絶大だ。あの夫婦ネズミ(マリード・ラット)が身動きがとれず俺の尻の上で硬直している。俺が命からがら発動までの時間を稼いだだけはある。


 なあお前達、俺の尻の穴は守られた。俺は涙したよ。

 普段なら思いもしないことだが、今この時だけはエリーミア監査官に感謝の言葉を直に伝えてお礼のキスをしてやってもいいくらいには俺の胸中は歓喜に打ち震えていた。

     


 しかし……それを台無しにするのがこの男、エリーミア監査官だ。

 俺が奴に感謝の意を伝えようとしていた時のこと。

 奴は手印を組み換えて新たなる奇跡を発動した。




「エリーミアッ、おっセえぞッ。

 でもよくやったぜッ。あとはコイツらを一匹残らず狩り尽くしてやるだけだ。 

 にしてもこんな強力な結界を張れるなんて、さすがじゃねえか。

 今回ばかりは助かっタぜ。お礼のキスでもしてやりてえくらい……」




  

「魔物を豪華爆滅させる奇跡オンリー・エクスプロージョン




 エリーミア監査官がそう告げた後、結界内にいた魔鼠ども全員が凄まじい爆発音を告げるとともに爆散した。俺の尻の上にいた夫婦ネズミ(マリード・ラット)も同様だ。

 血肉をぶちまけて飛散した。

 魔物は死んだ。



 しかし、遺憾ながら俺がそれを最期まで見届けることはなかった。

 目が重くてな。お前達。意識もまどろんでいた。

 姿勢もおかしい。


 俺は目を閉じた。





      ###




 どういうことなのか説明しよう。


 ……魔物を豪華爆滅させる奇跡オンリー・エクスプロージョン

 お前達。それは結界内限定で行使できる爆裂系の奇跡だ。結界内のみという条件付きなのが曲者だが、魔物のみを標的に爆発させる効力を持っているためその命中率ほぼ必中。

 そのため有用性は高い。


 教会の解析班の分析では、結界内の神力で満たされた光子が魔物の体表面と交じ合うことで爆発が起きているのでは?という説があるが、……まあそんなことはどうでもいい。


 重要なことは魔物を爆発させるということだ。

 一般に人には無害を謳うこの奇跡。だが、爆発現象であることに代わりはない。

 わかるか?お前達。

 人の尻の上で爆発を起こされた人の気持ちがよお。


 当然、その衝撃は凄まじいもので俺の尻もまた無事ではすまなかったさ。俺の下半身はその爆発の余波で甚大な被害を被った。 

 痛みがどうこうよりも、まずは超直近での衝撃破で俺の意識は見事に刈り取られた。


 お前達、つまりはそういうことだ。


 俺は気絶したのだ。

   

    





       ###






「……ああ、よかった。

 イゾット司祭、気がつかれましたか?」


「……あ、あ?」


「私が誰だか分かりますか?」

「……エリーミア、ここは?」

    

「ふふ。中央教会セントラル病院です。

 貴方の受けたダメージが中々に大きく、重症でしたのでね。応急処置だけでは回復は見込めなかったので、ここまで搬送となりました。」




 そう言うと、エリーミア監査官はフフと微笑んだ。


 お前達。意識が回復した俺に待っていたのは白い天井と布切れのような壁。そして俺を傍で見守るエリーミア監査官の顔であった。

 消毒剤特有の香り鼻腔をくすぐった。



 中央教会セントラル病院。

 中央教会が運営する集中治療施設。数多くいるシスター、ブラザーの中でも治療回復のエキスパート達が集う場所だ。

 回復の奇跡はシスターの基礎ではあるが、その扱いの幅はとても広く、極めるにはその分野に特化して研鑽を積まなければ技術の向上は望めないと言われる程だ。


 お前達。俺はどうやら都市部まで運ばれたらしい。

 それほどの重症を負ったということだ。


     

 どうやらあの後、夫婦ネズミ(マリード・ラット)の死亡は確認され、奴らが繁殖した他の魔鼠どもも全ての駆逐が完了したようだ。

 エリーミア監査完の放った魔物を豪華爆滅させる奇跡オンリー・エクスプロージョンで九割九分の魔鼠を殲滅させたようだから後処理も大分早く済んだらしい。

 さすがはエリーミア監査官だ。あのレベルの奇跡を扱えるものなど数えるほどしかいないというのに。

 実に素晴らしい。お前達。俺は感嘆した。



 ただ、事後処理で一番困ったのは俺の応急処置らしい。なんと下半身が木っ端微塵に吹き飛ぶほどの損傷だったとか。

 エリーミア監査官は回復の奇跡に関してはあまり上手いとは言えない。あの後現場に召集された本隊の連中の中に治療専門のブラザーがいたらしいが、そんな回復専門家の奴でもギリギリの応急処置が手一杯だったようだ。

 それ故にここに搬送と相成ったと。

 それほど俺は危険に瀕していた。


 なるほどなぁ。

 お前達。俺は納得した。

 当然だ。あれほどの至近距離から爆裂系の奇跡を被ったのだ。命が助かってるだけでもある意味奇跡と言える。

 

 俺の回復にとても嬉しそうにしてそう語るエリーミア監査官。

 エクソシストは常に死と隣り合わせ。

 魔物の討伐を何よりも優先し、人命救助など二の次だ。戦闘員の命となるとなおさら、踏み台にしてでも任務を優先すべきときもある。


 だというのに、俺はそんな環境下の中、命を助けられた。あんな片田舎からここまで搬送するのにとても大変であったろうに。

 エリーミア監査官とその他の隊員達にはお礼を言わないとな。




「エリーミア……」

   

「はい?」




 お前達。俺は照れくさくてへへと鼻をすすった。











    









「オんドレッ!!! 一ッッッ回ィ死に晒せやア!!!!

 このクソボケペロリスト野郎がアあああああああああああああああアあああああああッッ!!!!!」





「アべしッ!!!!」




     

 ハッ、お前達ッ。俺は渾身の一撃でもってエリーミア監査官のそのキレイな顔をぶん殴ってやったッ。

 頬にめり込む拳ッ。粉砕音。飛び出す唾。そして変な声を上げてぐるぐると回転して吹き飛ばされたエリーミア監査官。

 無論まだ終わらんぞ。俺はエリーミア監査官にマウントを取ると更に顔面を何度も何度も殴り付けてやった。


 エクソシストが魔物討伐を第一優先とするのは百も承知だし、俺を巻き添えにして敵を殺すのも結構なことだ。

 ああ、そうだ。理解を示そう。だけど怒らないかと言ったら話は別だ。俺は怒りのままに気が済むまでぶん殴るねッ。


 愚かで悲しいことにもそれが人間というものだ。

 そうだろ?お前達ッ。残念だったナあ、なあエリーミアッ。ケツの穴守ってくれたのかと思いきや、ケツ丸ごと吹き飛ばしやがって、このどぐされがア!!!


 この恨み、晴らさずおくべきかッ、晴らさずおくべきかッ。

 振り上げる拳に殺意を込めるッ。

 殴られる度に変な声を上げては、待ってくださいだの一旦落ち着いてだのと制止の声を上げていたエリーミア監査官だったが、知ったことか。

 殴る、殴る、殴るッ。

 マジで死ねッ。

     




「ちょっと。ここは病院よ。

 暴れるなら外に出てってくれないかしら?」





 あッ~?


 凛として潔癖然とした女性の声が響く。

 お前達。俺はとても気が立っていた。

 殴る拳を止めて振り向き様に怒声を飛ばした。




「うッセえッッなああッ!!!!!

 てめッ!!俺を誰だと思ってッ…」



 お前達。俺は最後まで威勢のいい言葉は続けることは出来なかった。相手に萎縮したとかそういう話ではない。

 物理的に止めざるを得なかったのだ。いや、止められたというべきか。


 風を切るような接近音。 

 横っ面から走る衝撃。


 俺は気付けばベッドやら棚やらを巻き込んで揉んどり打っては吹き飛ばされていた。

 俺はすぐに理解した。俺はあの女に蹴り飛ばされたのだと。


 それを証明するように、視線を向けた先では、ヒールを履いたその足をそのままに蹴り飛ばした姿勢で見事に静止させ、侮蔑の視線をこちらによこす女が一人。

 そしてさらには追い討ちをかけるように女は侮蔑の言葉をはくのだった。

    

    

「あらやだ。

 ちょっと。そのキッッタナイものを見せないでくれるかしら?

 全く、男ってのは本当に下劣でどうしようもないわ。

 動くなら動くで結構だけど、下着をはく常識くらい持ち合わせて欲しいものねえ?」



 お前達。俺は病み上がりだ。だから蹴り飛ばされたのちに姿勢を整える余力などなく、視線を辛うじて女に向けたまま俺は床にのびた状態であった。


 両足は開脚しきっていた。

 そして、下半身をぶっ飛ばされて治療回復を受けたものの、そこに履き物を履かせるほどの優しさはこの病院にはないらしい。

 全く、衛生概念はどうなってんのか。

 俺はボロボロの戦闘服のまま、下半身は素っ裸だった。

    

 つまりはそういうことだ。

 男のモツが飛び出していた。


     

 泣けるぜ。



「あ、あッ?汚くねえしッ。」


     

 俺は股間を隠したかったが、余力がないためそれすら出来なかった。

 つか、お前達。絶世の美女をしのぐ美しさを持つこの俺だぞ?その俺の息子が汚い筈がねえし、そもそもただで見せてやる程安くもねえよッ。

 金払えや。

 俺は憤慨した。



 いやしかし、この女もまた、中々の美熟女だった。

 俺には当然負けるがな。

 司祭服にオーダーメイドでもしているのか、丈は短くその素足が露出していたし、胸元から臍にかけてもその豊満な乳袋を見せるように切り開かれている。


 美人なその顔にやや小ジワが入っており、年齢推定は約五十歳前後。年を考えないその前衛的なスタイル。

 なんてドスケベな女か。そしてその首もとには司祭位を示す装飾過多な首飾り。




 ……いや、ちょっと、待て。

 お前達、俺は目を見開いた。

 その女の首もとの首飾りは単なる司祭位を示すだけのきらびやかな首飾りではないからだ。

     


 中央教会にはとある序列がある。

 エクソシストなどの戦闘員やその治療班にあたるメディック。それら全ての隊員を含め、中でも特に優秀だとされる上位十名の一等級の司祭には序列番号が授けられるというシステムだ。


 その上位十名。

 彼らはこう呼ばれる。

 神聖使徒団セイクリッドナンバーズと。




「あ、あ、あ貴女様は……まさか」




 そして、目の前のこの初老の女。

 お前達。俺は声を震わせた。

 ガクガクと指をさす。

 まさかのど偉い人物との遭遇に驚愕の意を禁じ得なかった。


 その首飾りは神聖使徒団セイクリッドナンバーズを象徴する紋様とともに、五の番号が象られている。

 初老の女はフンッとつまらなさそうに鼻を鳴らし、ソッポ向いた。









神聖使徒団セイクリッドナンバーズ序列第五位、エースバーン・トランポリオ司祭殿」

   


   

    







 そして、元男だ。







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