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お前達、俺の話を聞いてくれ





 なあお前達、知ってるか?



 古より伝わる伝承にて、黒い太陽が登りし時、人々に大いなる災禍が訪れる。これは聖書に伝わる一文だ。



 そして今より十年前、事実として世に起きたものであり、魔王エボンの復活を明確に示した事柄であった。


 

 


      ###



 お前達。俺はとある田舎のシスターだ。


 黒を貴重とした神衣に身を包み、司祭を示す首飾りの装飾をかけては、ボロっちい教会の掃除を日課とするありふれたシスター様さ。


 それでもこういう神職をしている以上、この世の中どうしても非日常的なことも時には起こりうる。



 ……例えばこんな風にな。




「ureeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeee!!!!!!!!」



「きゃああああああああああああッ!!!!!!!!!!!」


 


 民家の壁が豪快に弾け飛び、中から巨大な猿の化け物が姿を現す。薄暗い夜の中、その化け物の赤い眼孔はとても不気味に映った。


 お前達。これが非日常だ。壊された民家の住人が助けを求めて俺にしがみついてきた。



「シスターッ、父がッ!!! 父がッ!!!」


「落ち着けッ。お父上のことは気の毒だが、まずは下がってろッ」

 


 娘さんを下がらせる。戦いの邪魔だ。


 お前達。事の経緯はこうだ。


 ここ最近、近隣の村の中でなにやら動物に襲われたかのような傷跡を残す死者が続出。加えて、自分の父が時折話が噛み合わなくなっては獣のような唸り声を出すと不審がった村人の娘さんは教会のシスターたるこの俺に相談を持ちかけたということだ。



 こんなの誰でもわかる。人間のみを執拗に殺戮対象としてつけ狙う動物を魔物と呼ぶが、中でも人に化けて人間社会に溶け込む魔物も存在する。こんなの、この娘さんの父がダウトに決まってんだろ。


 

 お前達。俺は即効に決めつけにかかった。娘さんに退魔の護符を渡しそのお父さんの化けの皮を剥がす作戦を試み、結果それが功を成した故での化け物猿のお出ましというわけだ。


 化け物猿が破壊に伴って発生した砂煙の中からのッしのっしと地響きを鳴らしてこちら歩み寄ってくる。      


 牙を剥き、咆哮を発した。臨戦体勢だ。なあお前達、最ッ低に面白くなってきたなッ。

 化け物猿が地を蹴りあげた。俺も応じる。



「ureeeeeeeeeeeee!!!!!!!!!」


 


「指より光の熱線を出す奇跡(フィンガーレイ)ッ」



 化け物猿はその巨体に見合わないスピードを以て俺に肉薄してきたが、俺は指先を向けて光の熱線をやつの顔面にお見舞いしてやった。


 がッ、それは叶わずッ。化け物猿はさらなる驚きの身体能力をもって体をネジって寸前で回避しやがったッ。


 馬鹿なッ。お前達。俺はマジで仰天した。なんて化け物かと。まあ化け物猿と呼んでるわけだから今更なんだって話なんだが。


 

「シスターッ危ないッ」



「うっせえッ」


 


 回避してさらに距離を詰めた化け物猿が俺にその豪腕を振るったッ。もはや避けるには一手遅い。


 見事だッ。だが危ないってのはおかしい話だ。なあお前達。俺はシスター。司祭位に上り詰めたシスターだ。こんなありふれたシチュエーションなど嫌というほど経験している。魔物との戦闘においてプロ意識を自覚する俺がなんの準備もなく戦いに赴くはずがないだろう。


 指に嵌めた指輪の翡翠石が光る。



「第三級俊敏性強化の奇跡(サード・アジリティッ)



 化け物猿の豪腕が空を切ったッ。


 見ろッお前達。化け物猿が一撃を見舞った瞬間、俺はやつの遥か頭上に回避していた。俺の両足には緑色の光子でできた紋様が絡むように浮かび上がっている。これぞ神の奇跡。


 奇跡による身体能力の急激な向上が俺に尋常ならざる回避動作を成してみせたのだ。

 当然まだ終わらん。化け物猿のがら空きの頭部。腕を振り切った故の大きな隙。これを逃すはずがなかろう。


 指輪がさらに緑石の光を発す。



宙を連続で蹴る奇跡(スカイ・キック)ッ」



 宙を蹴り飛ばし、その向上した脚力を持って化け物猿に垂直下降して肉薄する俺。

 


「第三級頑強性強化の奇跡(サード・ロヴェスト)ッ」



 鋼鉄のごとき頑強性を得た俺の足は、その脚力との相乗効果で鋼鉄のハンマー何トン分もの威力に匹敵する。

 お前達。これは一撃必殺だ。二の次などない。

 肉薄する中俺は吠えた。


 


「死ねェッ、こンの化け物猿がァアアアアッ!!!!!!!」


 


 化け物猿の脳天に凄まじいまでの勢いが乗ったかかと落としが炸裂ッ。強烈な破壊音が響き、頭蓋骨が粉砕されるとともに血飛沫が周囲に飛び交った。


 お前達。もはや叫び声を上げる間もなく、その化け物猿は絶命した。

 ……ぐちゅりとした肉片を踏んだ感触が足の裏に響く。終わったか。戦いの終わりを肌で感じた。


 なあお前達。化け物との戦いの勝利にあるのは喜びじゃねぇ。やっと終わったかという気だるさだけだ。



 砂煙が舞う。

 月星に照らされた現場の景色が晴れた。

 化け物の死体が誰の目にも如実と映り、村の安寧が訪れたことが明確になった瞬間であった。


 お前達。見てみろ。遠くから傍観していた村人達の歓声が上がった。




「シスター様ああああ!!!!」 


「あああ、ありがたやありがたや!!!」


「魔物が死んだッ魔物が死んだぞおおお!!!!!!」


 



「…………」



 喜びの声が口々に上がる中、沈んだ顔が一つ。


 魔物であった父親の娘さんだ。

 娘は化け物猿の死体の傍によると膝をついた。


 お前達。魔物が人に成り代わるに当たって、その手法はいくつかあるが、その全てに共通するのは何だと思う?……そうだ。成り代わる元の相手は全員漏れなく死んでいる、ということだ。


 成り代わる相手が生きていちゃあすぐにバレちまんだからなぁ。娘さんの父上らしき顔の皮が死体にくっついている。娘さんもわかっているのだろう。



 お前達。総じて、村は救われた。


 しかし救われなかったものもある。それが事実だ。


 

「アリさん、君のお父上のことはとても残念だった。

 ご冥福お祈りする。 


 森の神の祝福があらんことを。」



 アリさん。娘さんの名前だ。

 娘さんは目元を拭うと俺に向き合い、

 


「シスター様。この度は父の敵を、……引いては村を救って頂き、本当にあり……が……、


 きゃああああああああッ!!!!!!!!!」



 突然の娘さんの絶叫に当然俺は驚いた。


 お前達。父上が死んでいて悲しみに暮れているところ気丈に振る舞って健気にお礼を述べようとしている娘さんに、俺は深い感動とともに救ってあげられなかったという複雑な思いに浸っていたのだ。

 そこでの俺を見ての絶叫。そりゃあ驚くだろ。


 なんだ?敵か?しかし俺の索敵範囲に魔物らしきものは感知できないのだが。


 しかし魔物ではないようだ。娘さんは顔を赤らめている。その素振りから魔物がどうのという話ではなさそうだ。手で顔を覆っているが、指の隙間からこちらを見ている。それあまり意味ないのでは? なあお前達。俺は思った。


「アリさん、急にどうしたんだ?」


 仕方ないので聞いてみる。


 娘さんはこちらを指差した。



「し、しししししシスター様……貴方様は、おお、おおお、……お、おお、お、お、お…………」



 ……オットセイかな? 


 おっおおっおいうだけのその様は父を失った悲しみに暮れていた娘さんはなんだったのかという気持ちになる。


 しかしついのはしっかり言うようだ。お前達。俺は辛抱強く娘さんの言葉を腕を組んで待った。待ったといっても数秒程度だが。




「男だったんですかッ!!!!??」


 

 ……なに?


 お前達。俺は確かに34の男だ。だがシスターであるためシスターの神衣を着ている。そして自分で言うのもなんだが、俺は……美しい。


 男どころか、俺以上の美しい女もそうはいないと確信しているくらいには自分の美しさの罪深さは自覚している程だ。


 だというのに、この外見で俺が男と言い当てるとは。いや、別に性別を隠しているつもりもないがな。わざわざ言わないだけで。


 お前達。しかし俺は気づいた。娘さんの向ける指先がよくよく見れば俺の股間を指差していることに。


 俺は自らの股間を見た。


 

 ……ou


 おそらく、化け物猿の攻撃を避けた時であろう。俺自身に傷は負っていないが、下衣はやつの爪などに引っ掛かったのか大きく裂けてしまっている。俺の立派な逸物が何も覆われずにモロだしになっていた。


 これは失敬。……しかし、娘さんの反応があまりに初心なもので、これはこれでいいなと少し興奮した。モツがビクリと反応した。つか、勃起した。



「嫌ああああああああッ!!!!!!!!! 不潔ッ!!!! 変態ッ、変態イイイイイイッ!!!!!!!!!」

 


 ちっ、うっせえな。初心なのはいいが、度が過ぎれば及ばざるが如し。単純にうぜえ。娘さんも年齢は二十歳頃と見える。

 お前達。俺は別にこれくらいいいじゃないかと思うのだが、向こうはそうじゃないようだ。周囲の村人達はてんやわんや。 


 娘さんは泣きべそをかいてを俺を悪く言いやがる。まあ田舎の小娘だ。知見が低いのだろう。ここは上位者としておおらかな気持ちで対応しよう。



「男なのに女の服を着るなんて、気持ち悪い」


 

 やはりやめだ。腹が立ったので勃起した逸物を見せつけてやった。小娘はギャン泣きした。ハンッ、傾国の美男たる俺のモツを見れたのだから這いつくばって感謝して欲しいくらいだがな。なあお前達。

 俺は村人より謝礼をもらい、ひと悶着あったものの総じて感謝感激雨あられという感じで幕を下ろした。

 


 まあ一部のやつらには「変態女装シスター」などと呼ばれ、不名誉な渾名がついたが。


 


 


 

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