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我にイケメンを与え給え

 イケメンと恋人になりたい!

 なんならそのまま結婚したい!


 そんな私の願望を神が憐れに思い給うたのかは分からんけれども!

 私は転生しましたよ!

 まさかの異世界に!

 ……輪廻転生から外れてんのにコレ、転生扱いでいいのかとか、まぁそんな細かいことはこの際どうでもいい。置いておく。六道でいうと人間の次は修羅らしいし。怖いよ、修羅とか!


 今の私が異世界転生というものならば、何某なにがしかの世界なわけで、ヒロインだとか攻略対象者だとか悪役令嬢がいたりいなかったり。

 乙ゲーあんまりやったことないし、悪役令嬢なんか見たことないぞ? と思うけど、確かにこの世界は異世界転生っぽい。

 だって……。

 少し離れたところで、男爵令嬢をイケメンズが取り囲んでいるからサ。そしてそれを遠巻きに見ている高貴さダダ漏れ縦ロールのキツめ美人!

 実にいかにもな光景。

 アレがヒロインで、周囲は攻略対象者って奴で、あの美人さんが悪役令嬢って奴でしょう、きっと。うん、理解した。

 乙ゲーに転生じゃなく、乙ゲーを舞台にした異世界転生ものに転生しちゃったっぽい?


 ……死んだ記憶はないんだけど、夢なのかなぁと思いながら一ヶ月経ったから、夢ではないかなと。

 どなたかの身体を乗っ取ってしまった、というのはなさそう。多大な影響は受けてる。それは間違いない。でも、自分と前世の自分は別物だなぁ、という感覚がある。性格もあまり変わってない。脳内が暴走気味なのも実は前から。

 昔っからイケメンに強い憧れを持っていて、口にしてたし。

 ……そう、イケメンですよ。イケメン。

 私もイケメンと恋愛したい……が、極上じゃなくていい。普通のイケメンで! そこそこイケメンでも今の私には十分すぎるほど幸せなんです。

 何故ならばこの世界の人たち顔が良いんですよ。普通といわれる人でも。

 前世の記憶を取り戻す前は不満だらけだった。過去の私に言いたい。足るを知れ、と。

 我が今生の父が私の婚約者を探してくれているらしいので、今から楽しみでしかたない。

 イケメンプリーズ!







 紹介された婚約者は、皆に言わせれば普通。でも私にはイケメンです。

 あああああ、神様ありがとうございますぅぅぅ!! 前世で大した徳も積んでないのにこんなイケメンと結婚できるなんて! 死んでもいい! いや、よくない!


 挨拶もそこそこに、庭でも散歩してきたらと言われ、二人で散歩をすることに。

 本当にあるんだ、あとは若い二人で的な流れ。

 婚約者になったレニー・ラッセル・キーティング様。赤みがかったブラウンの髪に、ヘーゼルの瞳。身長は同い年の私より既に高い。成長期だからもっと伸びるのかも? 背中とか広い。わぁ、もうそれだけできゅんとした!

 何度も思う。普通といわれる顔でこんなにイケメンだなんて、この世界凄い。右を見ても左を見てもイケメンや美女、美少女がわんさか。なんて目に優しい世界! 鏡に映る自分を見ても可愛くて嬉しくなっちゃう。記憶を取り戻してからずっと幸せな気持ち!


 先を歩いていたレニー様が振り返る。意を決したような表情。真剣な表情も素敵。はぁ、何度も言うけどイケメン。

 開いた口は、言葉を発することなく閉じられた。


「レニー様? どうかなさいましたか?」

「……いや、なんでもない」


 首を横に振る。さきほどの真剣な表情は消えていて、少し戸惑っているように見える。それすらイケ(以下略)


「この先に母上自慢のバラ園がある。今が見頃なんだ」

「まぁ、楽しみです」


 イケメンとバラ園。絵になりそう。

 バラ園なんて前世では見に行ったことがない。ガーデニングに興味もなかったから。

 案内されたバラ園は、自慢というだけあって結構な規模のもので、しかも統一感があった。キーティング伯爵夫人はオールドローズがお好みらしい。

 前世の私は花に関心はなかったけど、スイーツは大好きで、イスパハンの香りがするものに一時期ハマった。

 同じ香りのするバラについ足が向く。

 イスパハンはあちらの地名から取っているから、こっちでは違う名前なんだろうけど、懐かしい香りに思わず顔が綻ぶ。

 あー、美味しかったし、良い匂いだったなぁ、あのスイーツ!


「気に入ったのか?」


 私が立ち止まって眺めているのを見て、レニー様はそう思ったらしい。

 懐かしいとは言えないので、頷いた。


「とても素敵なバラ園です。香りもとても芳しくて」


 美味しそう。


「私も弟もあまり花には造詣が深くなくて、母はつまらなさそうにしていたんだが、君が誉めていたと知ったら喜ぶだろうな」


 手塩にかけて育て──たのは庭師かも知れんけど、好みに作り上げた庭を褒められて嫌がる人はいない。


 レニー様に案内されながらバラ園を一周しただろうか。

 バラも美しいけど、バラとイケメンというシチュエーションに胸躍らせていた私。

 なんでこの世界カメラないの。


 春になったとはいえ、時折強い風が吹く。それは暖かい風ではなくて、少し冷たい奴。

 思わず身震いした私に、レニー様は気づいてくれたようだった。


「すまない、気が付かなくて。屋敷に戻って温かいお茶を用意させよう」


 気遣いもできるなんて優しい! お父様こんな素晴らしい人をよく見つけてきましたね?!


 屋敷に戻った私たちは、温かいお茶を飲んでほっとひと息吐いた。

 バラの良し悪しは分からないけど、キレイだったし美味しそうな匂いだったー。イケメンとのコラボもまた良かった!


「温まったか?」


 声をかけられて顔を上げると、レニー様が少し不安そうな顔をしていた。


「はい、温まりました。お気遣いありがとうございます」


 イケメンの心遣いに身も心もあったまりました!


 笑顔を返すと、レニー様は目を細めて微笑んだ。


「良かった」


 右目の下に黒子があるのが見えた。でもそれはよく見ないと分からないぐらいの小ささ。

 セクシーさも隠し持ってるとは、このイケメン、ポテンシャル高い!







 レニー様との顔合わせから数日後。

 友人と歩いていたところに声をかけられた。友人と話すのに夢中になっていて、レニー様にまったく気づいてなかった。イケメンを見逃すところだった。


「やぁ、ロザリンド嬢」

「まぁ、レニー様、ごきげんよう」


 うん、今日もイケメン。

 ご友人もイケメン。

 あぁ、素晴らしい!

 なんと潤いのある世界!


「楽しそうに話していたのを呼び止めてごめん。母がまた遊びに来て欲しいと言っていたから、近いうちに手紙を送るよ」

「ありがとうございます。楽しみにしております」


 友人と去って行ったレニー様の背中を見送る。

 広い背中、いいよね。

 この前より今日のほうが自然体っていうか、年相応で、これもまたよし。


「ローザ、キーティング様とはどういうお付き合いなの?」


 ローザは私、ロザリンドの愛称。


「婚約したの、レニー様と」

「え?!」


 あまりに友人が驚くから、もしや友人の想い人がレニー様なのかという考えがよぎる。袖を引かれて人の目のつかない柱の影に連れていかれる。

 友人は声のトーンを落として言った。


「キーティング様はあの男爵令嬢のとりまきの一人なのよ? 結婚しても絶対不幸になるわ!」


 え? いたっけ?

 男爵令嬢ヒロインの取り巻きを思い出すものの、全然記憶にない。その他のとりまきのイケメン度が眩しくて目に入らなかったのかな。


 友人のミリーは私がイケメンと恋愛結婚する夢を抱いていることを知っている。記憶を取り戻す前から話していたから。既に誰かに心を奪われたレニー様とは恋愛結婚ができないと言っているのだろう。


 そっかー、あのイケメン、ヒロインが好きなのかー。それだと私と恋愛はしてくれなさそうだなぁ。可愛かったもんなぁ、ヒロイン。顔ちっちゃかったし、色も白かったし、髪の毛もふわふわしてて。要するに勝ち目ゼロ!

 ヒロインがレニー様を選ばない場合は、そのまま政略結婚って形で私と結婚するのかもしれないけど、他の人を思い続けてる人との結婚は微妙。

 結婚してからの不貞もありえるわけだし、どっちもどっちなのかな。

 あー、でもイケメンと恋愛したかったー。最終的に飽きられて浮気されるにしても、初めは私に気持ちが向いてるのなら、最初から私に気持ちが向くはずのないレニー様より他の人のほうが良いのかな。

 え、これお父様に要相談案件かも!?


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