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《塔の王子達を殺したのは誰なのか》その2

《Kaffeepause ☆カフェブレイク☆Cafépause》


【番外編】《塔の王子達を殺したのは誰なのか》その2


挿絵(By みてみん)

※クラレンス公ジョージとリチャード3世兄弟と、イサベルとアン姉妹のダブル結婚がよく理解できるように、家系図を作成してみました。



 シェークスピアはこう描いています。


「リチャード3世が戴冠できたのは、兄王の子供達である甥2人がいなくなったから。リチャードは自分が王になるために邪魔な幼い甥2人を殺した」

 

 この一見誰もがすんなり信じてしまうほど上手に描かれたシェークスピアの悪王「リチャード3世」ですが、実はこれ自体が真実ではありませんでした。


  なぜなら、リチャード3世が王として戴冠できたのは、甥2人が死んだという理由ではなかったからなのです。これは全く見当外れな説でした。


 1483年4月9日にエドワード4世が死去し、息子であるエドワード5世が戴冠する直前、バース・アンド・ウェルズ司教のロバート・スティリントンが


「エドワード4世はエリザベス・ウッドヴィルと結婚する前に、エレノア ・バトラーという女性と結婚していた」という証拠を提出します。


 これを受けて、エドワード4世とエリザベス・ウッドヴィルの子供達は全員非嫡子となり、1483年6月25日にリチャード3世は甥に代わって王位を継承したのでした。


 当時の人達にとって神の前で誓った婚姻は絶対のものでした。これをヘンリー8世が後に全てを覆し、カトリックのローマ教皇庁から離脱してイングランド国教会を創設するわけですが、それはもう少し先の話で、リチャード3世の頃は皆まだ信心深いカトリック教徒でした。


 特にヨーク家は母セシリーの影響もあり、またセシリーはもともとランカスター家出身ですから、プランタジネット家自体が皆、敬虔なカトリック教徒だったことでしょう。ですから大司教が証拠を提出したら、リチャードも最早それを無視することはできなかったはずなのです。


 そうなのです、エドワード4世の子供達が非嫡子であると公になった今となっては、子供達は決して王位を継ぐことはできなかったのでした。なので子供達が生きていても、あるいは死んでいてもリチャードが王位を継ぐことは動かしようがない当然の事で、リチャードには2人を殺す動機すらなかったのです。


 もちろん、この非常に重要な証拠を大司教に誰が提出するよう迫ったかという疑問はありますが、これもやはりリチャードが王になりたくて、仕組んだとは簡単には言えないのです。


 第一の理由は、エリザベス・ウッドヴィルの一族はイングランド中から嫌われていたので、リチャード3世だけが敵ではなかったのでした。エリザベス・ウッドヴィルはエドワード4世と結婚した事により、イングランド王妃の地位に登り詰めましたが、その恩恵を受けたのは彼女だけではなかったのです。それは彼女のたくさんの兄弟や親族、全員でした。


 彼女は兄弟姉妹も大変多く、全員が素晴らしい縁組を結ぶことに成功し、ウッドヴィル家は大変な勢いで繁栄していたのでした。


 エドワード4世とキングメーカーことウォリック伯の亀裂が入ったのは正にこのウッドヴィル家のせいでした。


 エドワード4世は秘密裏にエリザベス・ウッドヴィルと婚姻を結び、ウォリック伯が決めてきたフランスの蜘蛛王ルイ11世の王妃の姪ボナ姫との縁組の話を反故にしてウォリック伯の顔に泥を塗ったばかりではなく、ウォリック伯の宮廷での地位を脅かすほどにウッドヴィル家の台頭を許していました。


 このウッドヴィル家の我が物顔には、クラレンス公ジョージはじめ、リチャード3世もエドワード4世の親族は苦々しく思っていたことは間違いなく、そしてそれは多くの貴族も同じ気持ちでした。


 なので、

「エドワード4世はエリザベス・ウッドヴィルと結婚する前に、エレノア ・バトラーという女性と結婚していた」という証拠はリチャード3世が望んでも、望まなくても、どの道いずれは公になったことでしょう。


エドワード4世が健在の間は、ウッドヴィル家に叛意をひるがすことができなかった人々の長年の鬱屈が、エドワード4世に死によってついに開放され、その結果ウッドヴィル家の子供達は非嫡子と認められ、リチャード3世が王になる、というのは多分その時の多数の人々の願いでもあったのでしょう。


 また、リチャードが王になりたくて、色々な事を仕組んだと思えない2つ目の理由は、彼は自分の支配していた地であるヨークシャーとカンバーランドで、充分に幸せな生活を送っていたことは皆が知っている有名な話だからです。


 もちろんリチャード3世の胸の内まではわかりませんが、リチャード3世はむしろ全く国王になりたくはなかったのだ、と私はイギリス出身の友人から聞きましたし、それを裏付ける1つに話として、リチャード3世は、1465 年から 1485 年に亡くなるまでの 20 年間にわたり、グロスター公として、そして後にイングランド王として、ヨークの市長や市会議員、ヨーク大聖堂の学部長や司祭らと永続的な友情の絆を築きました。また 1483 年に王位を継承するまで、リチャードはエドワード4世の忠実な副官としてイングランド北部を統治し、正義を与え、市の慈悲深い善良な領主としてヨークと特別な関係を築いていました。リチャード3世の統治は非常に公平であり、ヨークシャー地方の人々に大変に愛されていたという事実があります。


 彼は自分から望んでロンドンへ行きたかったのでしょうか。あまりそうとは思えません。彼は特にヨークシャーには愛着を持って支配していました。リチャードの生涯を通じての最大の願望は、愛するヨークに戻り、北の監視官としてそこの人々に奉仕することだったと書かれたものすらあります。


 もともと、エドワード4世の死後、甥のエドワード5世の摂政の地位を命じられ、甥の戴冠式の用意までしていたのですが、なぜ甥をロンドン塔に閉じ込めることになったかと言えば、そこにウッドヴィル家の不穏な動きがあったからであり、当初は甥を保護する目的だったと思われます。ただもともとは単に皇太子を戴冠前の標準的な王室のアパートに住まわせたという見方もできます。ロンドン塔は牢獄ではなく、当時王宮だったのですから。


 しかし摂政となり、エドワード5世を身近で見た時に、12歳で幼い上に、後ろには自分達の利益しか考えていないウッドヴィル家が控えている新王ではイングランドを危険に陥れる可能性が高い、とリチャードはその時初めて考えたという可能性はあります。


 ウッドヴィル家の常軌を逸した介入ぶりを肌で感じ、もともと信心深く、非常に真面目で公平さを生きる指針としてきたようなリチャードは、自分が王になるしか無い、と決心したのではないでしょうか。


 イングランドを守るためにも、隣の大国フランスやブルゴーニュ公国と二度と戦争にならないためには、選択肢は他にないと考え、自分が即位したのではないかと思わずにいられません。


 ヨークシャーとカンバーランド地方で、そこの人々の利益を優先した統治の仕方で多大なる信頼を集めていたリチャードが我が身の欲のために王冠を手にしたとは、私には到底考えられないのです。


 さて、リチャード3世にとって「非嫡子」と正式に認められた幼い王子2人を殺す理由は既に無かったということはわかっていただけたでしょうか。


 王位継承権を剥奪したのは、王子達よりもその後ろにいる我が物顔のウッドヴィル家を先制するために仕方なかったのではないでしょうか。そうしなければ、いずれはウッドヴィル家によって自分の家族も危険にさらされると考えた可能性はあります。


 ですが、リチャードは兄王エドワード4世に非常に忠実で、常に兄を崇拝していたというのも有名な話で、子供時代から長年、心から仕えていた兄の子供達を手に掛けて殺したとは到底思えないという多くの意見もあります。


 そもそも王子達はロンドン塔の中で手厚く世話をされていて、決して虐待されていたわけではありません。 そしてこの2人の姿が消えた時にリチャード3世は必死に彼らの行方を捜査したという記憶も残っているそうです。


 このような理由からも犯人はリチャード3世ではないと、私にも思えるのですが、それならでは一体誰が2人の王子を殺害したと言うのでしょうか?


 今回も少し長くなりましたので、続きは次回に持ち越したいと思います。




Copyright@2023-kaorukyara



しばらく週に1度、週末の日本時間22時頃の公開予定です。



またベルギーに近いドイツ在住の地の利を生かして、InstagramやTwitterではマリー・ド・ブルゴーニュのゆかりの地ベルギーのブルージュで見かけた、マリー姫に関連するものをご紹介していきます。


この物語と合わせてお楽しみ下さい。



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