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その15✤ベギンホフでの暮らし

【第1章】幼き3人の姫君達


15話✤ベギンホフでの暮らし

 ベアトリスはベギンホフに3人で住むための小さな家を購入した。今でもブル-ジュなどに残っているが、当時の中世の家というのは天井も低く、台所も部屋も階段も全てが小さい。


 しかしながら2階建てで2階には寝室用の部屋があり、1階には台所とは別に食事をしたり家族と過ごしたり作業もできる暖炉がついた部屋もあった。一軒家というよりは、隣同士の壁がぴったりとくっついた家なのだが、家の裏には小さな畑もあり、3人でなんとか生きていくことができそうだと、ベアトリスは心から安心した。


「まさかあの人達は私達がこんなところに住んでいるとは思いもしないことでしょう」親族が寄こした追手達は、ベアトリス達が船で川に出て、その後こうやって無事に生き永らえたかどうかも定かではなく、その上まさかベギンホフへ入ってしまうとは思ってもいなかったのだ。


「いつか時が来るまで、なんとかここでこの2人を守っていかなければ……いつか私達にとっても良い時代が来る日まで……」


 正直、今は絶望的な状況ではあったものの、将来は好転し、自分達が隠れずに生きていくことができる日が来るだろうと、なんとなく信じていた。


 ベアトリスは基本的には朗らかで前向きな性格でもあったのだ。


「私にはこの大切な可愛い2人がついているじゃない」そう考えると、力が湧いて来たし、同時になんて有り難いことなのだろう、と毎日神様に心から感謝していた。


「あの時、愛しいエドモンドが亡くなったと知った時に逃げていなければ、セシリアは産まれてからも私の側にはおいておけなかったことでしょう」

あの時海を渡って、大陸に逃げて来たのは間違った選択ではなかったと、つくづく思えたのだ。


 かつての母国での豊かな生活とは違い、家のことも子供達の世話も自分一人でしなければならなかったベアトリスだったが、子供達の成長を見ていると、彼女は深く幸せを感じることができた。


 また、ベアトリス自身は子供時代によく花を育てることを楽しみとしていた子供だったので、どうやって野菜を栽培すれば良いのか全くわからない、というわけではなかったということも幸いした。


 一方、アリシアは11歳になり、もう随分としっかりした少女になっていた。通常の年齢より少し大人びて見えるのは、自分でもベアトリスを助け、セシリアを守っていかなければ、と思っていたからなのだろう。


 家事も畑の仕事もベアトリスをよく手伝い、ベアトリスが手を離せない時は、いつもセシリアの世話をしていた。小さなセシリアと一緒に遊んだり、おしゃべりをしたり、隣で寝ながらお話を聞かせたりするのが大好きだったのだ。そして4歳になったセシリアはアリシアの側を離れない、まるでお人形のように可愛らしい少女で、セシリアの方もアリシアを実の姉と思っていたし、深く慕っていたのだ。


 得意の編み物(注1参照)もますます上手になり、土曜日の市場に出すお店の一角にベアトリスの作品はもちろん、アリシアの作品も並べて置いてもらったのだが、毎週2~3枚ほどは売れるようになっていたし、イタリア、あるいは神聖ドイツ帝国からの行商達がまとめて10枚程買ってくれる日もあり、そんな日は卵や蜂蜜を少し買って、それを余ったすっかり堅くなったパンに浸して甘いお菓子を作ることができる日もあった。


 フラマン語もすっかり上手になったベアトリスだったが、相変わらず将来何があっても困らないようにと、子供達にも色々な言葉の勉強を続けさせた。


 その甲斐あって、アリシアはフラマン語、英語、フランス語、ラテン語が理解できるようになっていたし、女ばかりの家族3人での生活は貧しいながらも誰にも束縛されずに自由で、ベアトリスが当初心配していたよりも遥かに快適に過ごしていたその頃の3人だったのだ。


 アリシアにとっても、幼い時にずっと修道院の奥で、修道女のような生活をしていた頃に比べたら、今のベアトリスとの生活は家族のぬくもりを感じることができる人間的な、そして自然と共に過ごすことができる、伸び伸びとした生活に思えた。


 母を知らないアリシアにとって、ベアトリスは“母“そのものだったし、アリシア自身もベアトリスはもちろんセシリアと離れる生活というのは想像もできなかった。


 3人での生活は幸せだった。


 そして一方、マリーの母イザベルが亡くなったのは、ちょうどこの頃のことだった。

挿絵(By みてみん)

※今もベルギーにある小さな白い家。ベギンホフのベアトリス達が暮らしていた家はまさにこのような家だった。


(注1)


 ヨーロッパに編み物をもたらしたのは、8世紀頃にスペインに侵入したアラブ人だったと言われている。

 ヨーロッパにおいて商業編み物について最初に記録されたのは、1268年のパリだった。パリの編み物のギルドは、1366年、1380年、1467年でも記録されている。

具体的には、編み物のギルドは、当時ブルゴーニュ領(1429年)であったトゥルネーとスペインのバルセロナ(1496年)でも記録がある。

 また神聖ローマ帝国で最初に記録されたのは、ニュルンベルクのズボンとストッキングの編み物で、1600年のことだった。


(参考文献 https://de.wikibrief.org/wiki/History_of_knitting)



次回は久しぶりにマリーの話に戻ります!


たくさんの作品が並ぶ中、お立ち寄りいただきましてありがとうございます。


ご感想などもいただけますと大変有り難いです!


毎週火曜日と金曜日、日本時間21時の公開予定です。


またベルギーに近いドイツ在住の地の利を生かして、Twitterやインスタグラムではマリー・ド・ブルゴーニュのゆかりの地ベルギーのブルージュで見かけた、マリー姫に関連するものをご紹介していきます。

この物語と合わせてお楽しみ下さい。


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