それは別のK
旧国鉄のK駅は県の北部にある。Kときけば、菅沼事件のことを思い出す人もいるが、それは別のKである。読みこそ同じであれ名前は違う。
K駅は小さな廃村のそばにある無人駅で、村があったころは駅員がひとり詰めていたようだが、村がなくなり利用者もいなくなると、駅員も知らず知らずのうちに消えた。ちなみに駅員はSという男だが、珍しい名字なのでSときくと、家の床下から行方不明になった八人の子どもたちが発見されたあの事件のSを思い出すかもしれないが、違うSだ。
県庁所在地が南部であり、もともと人口も港のある南部に集中していたので、県南部に住む人びとからすれば、K駅のことはほとんど分からない。バラエティ番組がその僻地ぶりを笑って特集を組んだりするくらいだ。ちなみに出演者のひとりがスタジオで生放送中に血の混じった泡を吹き、原因不明の突然死をした〈呪われた回〉はK駅を特集した回ではなく、C駅を特集した回であり、それもまったく別の県の駅の話だ。
K駅については全てが勘違いであるにも関わらず、噂が立ち、そこに人間の興味が肥料となり都市伝説に成長する。そして怪奇スポットとして有名になり、ユーチューバーなどの動画配信者やオカルト・マニア、ただ廃駅をまわることを生きがいとする鉄道マニアが引き寄せられる。ただ、東京に住んでいる人が自分の家の最寄り駅を出発点にして、K駅を到着駅にして検索すれば、間違いなく十八時間以上かかった。しかし、アクセスが不便であれば不便であるほど、動画配信者たちには都合がいいらしい。そもそも、彼らは普段なら誰もやらないことをして、クリック数を稼いでいるのだ。それが行き過ぎて、人差し指の左クリックのことしか考えれなくなった人気ユーチューバーRが生配信中に自分の右手の人差し指を食いちぎった。一説には彼がK駅で行ったあの儀式のせいではないかとさんざん噂されたが、そのユーチューバーの動画を全て見る限り、K駅でそんな儀式は行っていない。儀式はBという湖のそばの廃病院で行われている。
さて、K駅へ行く人のなかには渓流釣りをしにやってくる人もいる。僻地には人知れぬ沢があり、そういうところへイワナやアマゴを求め、釣り客も降りる。村があるころは釣り客向けの民宿もあった。Sも常連だった。駅員のSではない。子どもたちが床下から発見されたほうのSだ。それにN大学の登山サークルもよく来ていた。隣の県であるし、自然が豊かで、上級者向けの道は登りがいもある。登山チーム全員が怪死体で見つかったのはN大学ではない。M大学のサークルだ。そして、そのM大登山サークルに途中までSがついていったという話があるが、そのSは床下から子どもたちが見つかったほうのSではない。駅員のSだ。
K駅のそばのかつての村はK村と呼ばれていた。
全ての水場には主が宿るというアニミズム的な信仰があり、それにまつわる儀式もあった。
そもそも村の名であり駅の名でもあるKとは水に宿った主のことを指す古い言葉なのだ。それが訛って、S、C、R、B、N、Mと呼ばれることもある。




