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Space Marine

作者: T-X

「宇宙海兵隊は誰よりも早く地獄に降り立つ 我らは誰よりも早く戦地に赴き、道を切り開く


我らは過酷極まりない地獄を行軍する そして我らは勝利をつかみ、生還を果たす


宇宙海兵隊の前に立ちふさがる敵には徹底的な破滅がもたらされるだろう 我らは共和国の最精鋭なり!」


銀河共和国(Republic) 宇宙海兵隊(Marine) 公式軍歌 一部抜粋


ヨハンナ・シュミット。今年で25歳になる彼女は、金髪碧眼のドイツ系系女性であり、はっきりいって美人の部類に入る女性だが、ただ美しいばかりの女性ではない。宇宙時代に入ってから宇宙移民として故国を先祖が離れために、太陽系外惑星で産声を上げた彼女の家系は4代前から続く軍人の家系である。流石に士官こそ輩出していないものの、彼女の父もその父もまたその父も軍人として最初は母星のために、後に汎銀河系国家・銀河共和国(Republic)のために軍人として忠誠をつくしており、その家系を誇りと思っている。


そんな家柄であるため、彼女も軍人として国家に尽くすのだという決意が自然に醸造されていった。高校(ハイスクール)を卒業した後、共和国軍に入隊し、父祖と同じ道を歩むつもりだった。勿論ヨハンナの決断に対して家族からの反対の声は上がった―21世紀初頭から先進国では女性を陸軍等でさえ実戦部隊に配備することが当たり前になりつつあったが、それでも差別的な意味ではなく純粋な心配から女性を軍に配備するべきでないという考えは未だにある。


母親は強硬に反対し、従軍経験のある父も消極的な反対の声を唱えたが、それをもってしても堅固な意志を変えることはできなかった。根負けした家族は遂に彼女の軍隊入りを認め、彼女は高校(ハイスクール)卒業と同時に軍隊に入隊した。それも大気圏内空軍や海軍、宇宙軍ではなく銀河共和国宇宙海兵隊、共和国軍の先鋒を務める精兵の群れの中に彼女は仲間入りを果たした。


つまりヨハンナという女性は、屈強な海兵隊員であり、一般の男性を素手で軽々と撃退できる猛者に他ならない。確かに地球時代のある国(イスラエル)の報告で、歩兵部隊の女性がけがを負う割合は高いという報告にあるように、男女差による体力的な問題は実際にある。


が、それでも数10キロの装備を装着し、何10キロも徒歩で野外を走破する訓練を積んだ女性に一般人が一対一かつ徒手空拳で挑んで勝てはしないだろう。勝てるとすれば数の暴力のほかない。


それに彼女が入隊したのは、銀河連合共和国宇宙海兵隊。『宇宙から(Byspace,)陸から(Byland)』を標語とする強者共の集いで、陸軍よりも海兵が遥かに強いと豪語にする共和国の最精鋭集団。危険な惑星降下任務をこなす宇宙海兵隊の戦闘能力は実際に極めて高く、そこに属す彼女の戦闘能力も総じて高水準だ。


そもそも彼女の兵科は歩兵である。基礎訓練以降も、六年に渡って歩兵として研鑽してきた彼女はもはや物騒な戦乙女と化している。


そんな彼女でも、初めから屈強な海兵隊員として完成していたわけでなく、新兵訓練を行うための教育訓練施設のある惑星で新兵訓練を受けた際はあまりの過酷さからやめようかと思ったくらいだ。軍隊に待ち受けていた彼女を待っていたのは、容赦のない罵詈雑言だった。集団で組織的戦闘を行うのが軍隊であり、兵士に命令遵守の精神を教え込むために新兵のあらゆる行動に対して罵声を浴び、命令に従わせさせようとする。


それは女性であっても変わりはなく、むしろ戦闘部隊に女性が配備されるようになっているためますます激しくなっていた。聞くに堪えない人格否定、性差別的な内容を含む罵声を教官から四六時中浴びせられ、彼女は人知れずなき、ひそかに弱音を零し、訓練についていけないと挫けようとしていた。


ある意味では軍隊が英雄願望(ヒロイズム)を満たすものでないという現実をしり、彼女が大人になった瞬間だった。それでも彼女は訓練をやり遂げた。


五感さえも再現する高度な仮想現実と実際に仮想現実での動きを可能とするため―仮想現実で泥の中を歩けようと現実で歩けなくては意味がない―現実世界の両方で行われる殺人的な訓練に彼女は適応していった。


敬礼を初め、気を付け、回れ右など軍隊で身に着けなければならない日常的動作。銃火器に対する座学と実際に手にとって使用する訓練。座学と実戦からなる戦闘外傷に対する応急処置の仕方。匍匐前進に歩哨、夜営を行う方法。


体力錬成を目的とする何キロも基地内を走らされるランニング。長距離行軍訓練。掩体等の掘開の仕方。化学防護装備の使用方法。訓練の締めくくりとして行われる模擬野外戦と市街戦演習。


宇宙空間に人類が進出し、光よりも早い速度で宇宙を移動し、惑星そのものを人為的に地球と同じ環境に改造することが可能な技術が実用化されていても、歩兵の戦闘技術にさしたる進展は見られていない。

確かに義体(cyborg)強化外骨格(Powedsuit)技術も実用化されているが、費用対効果からすべての部隊に配備することができず、そのため地球時代と歩兵の技術はさして変わっていないのが実情だ。それでも飛躍的に向上しているのだが。


ヨハンナはこの全ての訓練をやり遂げ、彼女は新たな産声を上げた。宇宙海兵隊員という名の雛鳥だ。まだまだ嘴の青いひよっこに過ぎないとはいえ、彼女は宇宙海兵隊員として歩む最初の第1関門をくぐり抜け、屈強な宇宙海隊員としての生を迎えていた。軍人として国家に尽くすという彼女の願いの陀一歩を踏み出したのだ。


それから彼女は任期を更新しながら、6年間海兵隊員として勤務し続けた。階級は上等兵に昇進していた。本格的な配属以降訓練に励んだ彼女は戦闘技術はますます飛躍的発展を遂げていた。欧米の軍隊を範として形成される銀河共和国軍。その中でも銀河共和国宇宙海兵隊(Marine)は、アメリカ海兵隊(USMarine)を範としているため宇宙海兵隊は兵士の射撃能力に力を入れている。


そのお蔭で彼女も卓越した射撃能力を身に着けている。狙撃手やマークスマンにならずとも、実弾・非実弾問わずで彼女は優れた射撃能力を発揮している。6年の勤務の間に特技検定として斥候の資格も取得している。


斥候。敵陣奥深くに入り相手の内情を偵察し、部隊と行動するにあっては敵の痕跡や監視がないかをなによりも先に悟らなくてはならない役割。斥候資格は伊達ではなく、彼女は野戦なら落ち葉を踏んだほんの僅かな手がかりからでさえも敵の存在を察知することができるし、市街地でも敵の存在を察知することができる。


そればかりか敵の背後に忍び寄って音もなく既による絞殺やナイフで首筋を切り裂きこともできーナイフは武器の一つに過ぎないが―、光学迷彩や赤外線偽装・ステルス搭載の偽装網やギリースーツによらずとも木の葉などの自然物やドーランで巧みに偽装することで人の目で目視困難な条項で行動することもできる。


プロの軍人にふさわしい技能をこの6年で彼女は一層身に着けていた。それでも彼女には不満があった。軍隊は英雄願望(ヒロイズム)を満たすものではないと理解しながらも、彼女は未だ若い。その若さゆえに国への献身として実戦での活躍を待望にしていた。


一応実戦には従事している。大量虐殺(ジェノサイド)・民族浄化を働いた独裁国家の元首の捕縛と独裁国家の解体を目的とした軍事作戦。(オペレーション)これに彼女も参加しているが、実戦部隊であるにもかかわらず彼女が働いたのは後方での補給物資の目録つくりなどの事務作業やあらゆる種類の軍用品の搬送作業。


女性である彼女への差別ではなく、他の女性兵士は実戦参加する者もいるだけに彼女にはこの経験は我慢ならないものだった。もう十分戦える準備はできているというのに。別に戦闘狂や殺人狂はないが、彼女は戦いを欲した。


そして彼女の願いはかなうことになる。銀河共和国(Republic)からの分離独立を目論む武装勢力が跳梁跋扈する惑星の最前線。そこに彼女は拝眉され、熾烈な戦闘を経験することになる。


そこで彼女は思い知らされる―軍隊に入隊したのと同じく戦争に華々しさなどないということを。






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