第87話 十二の試練-3
芽衣に連れられた雅也と琴実が中央の広間を目指す。目的は...。
「十二箇所全部封鎖していいんだよね?」
「うん。」
大技の余波を封鎖する。やろうと思えば、多分一撃で壊せるのかもしれない...がそれでもないのとあるのとでは話が180度違う。
琴実が聞いた言葉に、小さく返答をする芽衣。
長くも無い道だ。すぐに封鎖は可能であるし、そもそも芽衣が能力を使ったこともあってすぐに広間についた。
・・・だが、そこで繰り広げられてる闘いは凡そ...。
『無銘 廻!!』
武器の回転と共に自身の回転を載せた遠心の一撃を軽く跳びながら腕一本でいなす金髪の怪物に返り血...いや、流血を纏いながら戦う武者。
そして、金髪の怪物を追う『黒』とでも呼ぶべき生命体。
影を伸ばし敵を留めることで、自身に足りぬ速度を補いながら間を詰め二槍による連撃を仕掛ける。
それすらも手で受け流す怪物。そうして前蹴りを『黒』に見舞うことで距離を取らせる。
これらの攻防がほんの一瞬間で行われ続けるその闘いに心を奪われる。
凡そ人智を越えた闘いが目の前にあって、自身の届かなさを理解して...。
その思考を挟んだ直後だった。
「琴実っ!」
一瞬の油断を生む。行動への思考を手放したその一瞬の内に眼前にいる金色の怪物...いや。
(これが、神・・・)
地獄の番犬ケルベロスで一瞬で三人との距離を詰める。臨戦態勢を整えることすら忘れていた三人に振り下ろされた拳は無慈悲で。
『模倣神技 ケルベロス』
それすら晴らす光がそこにあった。
神速に等しき速度のヘラクレスをその場で模倣。そして灼装によるブーストと瞬間運用に、今まで深炎夜叉で使っていた加速を移動に振り切ることで最大速度の運用。
だが、当然使い方はまだまだ御粗末。だからこその...。
「ブハッ!!?」
側面からの顔面跳び膝蹴り。いや側面だから厳密には顔面って言うよりもみあげだがまぁ細かいことはさておき。
飛びながら膝を入れる。この行為そのものは身体能力がクソほど高いという前提とタイミングさえクリアしてしまえばそんなに難しいことではない。体当たりを膝でやりながら顔面を狙い撃ちするってだけだ。
・・・十分難しい気もするが、まぁそこは暁人。しっかり横から決めてヘラクレスを大きく吹き飛ばしよろめかせる。
三人とヘラクレスの間に割って入るように着地した暁人。
その男の姿が熱で膨張して見えたのだろうか?わからない...だが、いつにもまして大きく優しく見えたのは...気のせいだったのだろうか?
その男はただ一言。三人の方を振り返りもせず。
「頼んだ。」
そう呟くや否や神速を利用しタックルをかまし、投げ飛ばされと自身の戦闘へと帰っていく。
言葉を、目的を見失いかけた三人だったが、その一言が時を戻す。
「・・・やろう。私達は私達でやるべきことがあるんだ...!」
「だな。アイツに鼓舞されるのは癪だが。」
「・・・うん。」
三人はその言葉で円を描くように回りだす。片端から「城塞」と「固定」で力の逃げ道を消していく。
そして都合十二箇所全てを封鎖すると同時に、もう一つの出入り口「境界」を作り出す。
一瞬の隙を突いたヘラクレスがここに留めると全速力で飛びかかる。だが...。
「帰れ!」
滑らかな動きだし、緩慢な動作から放った芽衣の鋭い蹴りがヘラクレスを吹き飛ばす。
「・・・つうっ...。」
想定を超えてくる。それは暁人たちにとってのヘラクレスだけではない。ヘラクレスたちにとっての英雄予備軍も同じだった。
境界の設定、ゲートの設置。どちらもすぐに完成する。
その境界に三人は一人ずつ入っていく。
最後に入った芽衣が誰に言うでもなく、小さく。
「勝ってよ。」
誰に願うものでもない祈りを呟いて去るのだった。
残された三人はまた対峙する。そんな三人にヘラクレスは言う。
「まったく...どいつもこいつも。お前らが代表で残ったかと思えば他も揃いも揃って化け物かよ。」
「フッ、多分さっきの三人もお前には言われたくねえだろうな。」
鼻で笑って言った暁人。眼は一瞬たりとも離さないが、しかし。いつになく...誇らしげに暁人は言う。
「だが...当然だろ。俺の仲間だぞ。」
その言葉に、ハッハと笑いヘラクレスは言う。
「まぁそうだな。お前の仲間だからな...。」
首と手を鳴らし、ヘラクレスはアウゲイアースの家畜小屋を構える。
「そんだけ善い仲間なんだ。残り時間ももう少ねえ。だから悪いがそっちが嫌がりそうなことをさせてもらうぜ。」
無尽蔵を疑う次元の魔力量を以て規格外の水量を振り放つ。
『アウゲイアースの家畜小屋!!』
その一撃を皮切りに、激闘は再開される...。
離れた三人が次に向かったのは鹿のフロア。第三の試練、ケリュネイアの鹿である。
曰くアルテミスでも捉えられぬほどの速度を誇りそれを捕まえさせるという難題であった。殺すことを許されず、生け捕りにしなければならなかったため、ヘラクレスは1年間追い回すことで疲弊させたところを足を射ることで捕らえたとされている。
つまり...この空間における鹿との闘い。それは...。
「待てやごるァァァアアア!!!!」
鬼ごっこである。ギリシャ神話でも屈指の俊足を誇るアキレウス。その力を引き継いだ修斗ですら追い付けない。順当にいけば一年追い回して弱らせなければいけないのだが人間である修斗たちでは流石に水を飲む時間ぐらいは必要になる。
そのための修斗と祥子・・・だったのだが。
未来を予測し放った弾丸ですら届かない...というか、放たれた場所が尋常ではないほど広い空間であり、正直跳弾として狙うことができない空間だったのだ。
そのため早期解決のために二人を呼んだのだった。
さすがに疲労したので一度止まる二人。しかもかなりの距離を取りながらゆっくり草原の草を食べ挑発をしているかの如くである。
「クッソが...どんな体力だよ...。」
「さすがに想定してなかったんだろうね...。思ってた以上に広かったのと、思ってた以上に速度があったね。」
「と言うよりは、こっちより林檎の方が難しかったんじゃないか?あっちの方の人員貰うことになる訳だけど...大丈夫なのか?」
そう話す二人に合流する三人。厳密に言えば、送り届けるや否や。
「じゃあ」
とだけ残して帰っていった訳なので、来たのは実質二人で現状は四人なのだが。
それはさておき、四人が顔を合わせるなり修斗は開口一番。
「すまん!」
の謝罪から始まった。聞けば俺がもっと速ければ...とのことだった。
確かにそれはそうかもしれない。でも、さっきの戦いを見た琴実は思う。
「大丈夫よ。これらの試練を攻略することそのものが異次元の難易度だと思うもの。」
「・・・え?」
「さっき、私たちはヘラクレスと戦う三人を見てきた。私にはどれも、人には到底見えなかった。暁人も篝も...鳴子でさえも。人なんかじゃない、化け物にしか見えなかった。そのヘラクレスですら捕まえるのに相応以上に時間を要したのなら、並みの人類なんかには到底不可能だわ。」
そう思った。そう思ってしまったから...諦めたいって思った。私なんかには無理だもの。でも、投げだせない。投げだしてはならない。
でも、多分だけど。並の人類じゃない奴らはそんなものを知らないんだ。
天井知らずの知識の聖も。
だったら...折れたくない。だからこそ折れたくない。
「でもやるしかないから。やらずに逃げることだけは自分自身が許してくれないから。信頼には結果で答えるのみよ。」
「何それかっけえ…。」
シンプルに目を輝かせる修斗にすごいことを言ってしまったと頬を赤らめる琴実。
その様子に苦笑する祥子と雅也。少しして、雅也は言う。
「そうだった。この人、クッソかっこいいんだった。」
「できればかわいいがよかったんだけどなぁ...。」
「ハハッ。まぁ、なんだ。そう呼ばれるような日常に帰るためにもよ。しっかり頑張ろうじゃねえか。」
優しく発破をかける雅也。その言葉に三人で返答する。
ただ、なぜかは分からないがどこか血が騒ぐ修斗だった。
一方そのころ、六花は。
「~~~~と言うわけである。我が国の家畜小屋のほどは30年以上も...」
(・・・長い。)
バカほどめんどくさいチュートリアルをぶつけられていた。
RPGにおいてならまぁ、王様に命じられたから魔王を倒しに行ってきます。の王様の部分に当たるのだが、わざわざ試練までそれを再現されるとは思っていなかった。
とはいえわざわざクソの溜まり場の家畜小屋にて話されるのは結構な地獄である。
(っていうか、他の試練もこんな感じなの?)
「めんどくさくない?」
っていうか、このおじさんなんかめっちゃ後光が眩しいんだけど。なんで人間が光ってんの?
とか思いながらボソッとこぼすと。
「何がめんどくさい事か!」
「反応した!?」
完全にNPCだと思っていたその王様が反応したため驚いてしまう六花。そんな様子に王はより怒った様子で言う。
「我を誰と心得る!?我はエーリスの王、『輝ける男』アウゲイアースであるぞ!?」
「でも...ヘラクレスに負けたんでしょ?嘘もついて・・・逆ギレして・・・あげく…ねぇ?」
と、何事もなく聞いていた事実を発し煽る六花。そしてその発言に対して貴様っ...!?とアウゲイアースが言う。だがその直後に黙ったのをこれ幸いと指を一本立てて六花は言う。
「あのね、私はヘラクレスじゃないから小屋ごと吹き飛ばそうとも思わないし、牛たちを報酬として奪い取る気なんて微塵もない。だけどね...いや、だからね?」
これ以上ないほど饒舌に、これ以上ないほど苛立ちを込めた六花の笑顔が小屋に放たれて。アウゲイアースに一歩物理的にも精神的にも引かせるほどの威圧感を放ってただ一言。
「黙ってろ。」
ただ、シンプルに。自分の仕事を果たさせろと。心の底からの言葉が漏れ出る。
集中している人が口数が少なかったり、頭のいい人が言葉数が少なかったりするのは端的に効率である。口数を少なくすると、途端にきつく聞こえるだろう。
そう。それは集中の証。明確にスイッチが切り替わった証であった。
厳密には極限の集中ではない。まだ自力で入れないからだ。だが、その集中はある感情に紐づいている。それ故にある意味ではやや暴発気味に発動した集中といっても過言ではない。
暴発した集中が六花の心を駆る。
(タスクは二つ。正確かつ、適正な量を指先に集める。そして少しでも精密に汚れを絡めとる。これが最高形・・・!)
暁人の...みんなの役に立つのでしょう?それぐらい...。
出来なければ、あたしの価値はない。
「一点収束...。」
指先に水を生み出し集める。膨大な量を集めながら一度その形を凝縮させる。徐々に膨らむ水の塊が、次第に指先に収まるものはなく段々とその形を指先の規模から手のひらの規模、そしてバラエティでしか見たことのないような巨大風船並みの規模へとサイズを膨らませていく。
(よし...じゃあ次は、水をどう操るかだ。汚れを確実に、完璧に絡めとるには、水圧を強くしながら正確に当てる。そのためには...。)
脳裏に浮かぶは赤く輝くしなやかな刃。だけど、殺傷目的ではないから・・・。
しなやかで柔らかく、速くて正確に・・・!
『流水 水蛇!!』
アナコンダ並みのサイズの太さで且つ凄まじき速度で汚れを絡めとる。絡めとった汚れを一点に集める。その結果、この世のものとは思えないほどの不浄の汚水が出来上がった。
シンプルな水操作ではあるものの使いこなすにはそれ相応の技量を必要とする。
まぁそれはさておき、出来上がった汚水をどこに捨てればいいのか少し迷ってしまう。
「・・・で、これをどこに捨てればいいのかしら?」
「んなっ...それは...うむ。そこの用水路にそのまま流してしまって構わないのだが...できれば分離するようにしてもらってだな…。」
と色々手順を踏むことにはなったものの結果としては六花一人で掃除そのものはものの1分程度で終わったのだった。
凡そ試練開始から五分程度の頃だった・・・。
えー...なんか最近隔週投稿になってきてしまった感が否めないのですが、どうでしょう?
まぁそれはさておき...どうも皆さん作者の銀之丞です。
これ時間軸を作るってことが大事だなって少し思いました。
つまり作ってないってことです。グダグダじゃないか全く!
と思っております。まぁしょうがないですね。しょうがなくねえか。しゃーないな。
・・・急ぎまーす。
と言うわけでいつもの挨拶をば。
いつも読んでくださっている皆様!誠にありがとうございます!!!!




