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異能と迷宮で青春を!  作者: 銀之蒸
試練と正義の英雄編
97/103

第86話 十二の試練-2

 灼焔刃を抜いた暁人が、ヘラクレスと真っ向から打ち合って凡そ2・3分程度だろうか。


 押されているのは暁人である。


「っ…!」


 その剣技は比類するのはいても聖だけ。それほどまでの速度で打ち続ける。放ち続ける。


 それほどまでの連撃でもなお一手すら通らない。


 いやになるほど卓越した技量。並大抵で通る技量ではない。


「ふんっ!」


 打ち合っていた時より重く、力を乗せた一撃で暁人を弾き飛ばす。


 一瞬だけ転がりながらもすぐさま態勢を立て直す。


 踏み込み、飛びかからんとしたヘラクレスが唐突に足を止める。


 ぷしゅー、と殆どの場合人体から鳴らない音を発しながら蒸気を発生させるヘラクレス。


 何事かと、警戒をする三人にヘラクレスは驚きの表情を浮かべる。


「驚いた…随分と早いじゃねえか。」


「「「???」」」


 眉を寄せながら…あるいは首を傾げながら聞く三人に、ヘラクレスは言う。


「悪いが此処からは文字通り全身全霊で行かせてもらおう!」


 棍棒を地に突き言うヘラクレス。跳ね上がる威圧感、魔力。そして…殺気。


(まーだ上があんのかよ…!)


 辟易とするほど強い神を前に、ただ笑うしか出来ない暁人。


地獄の番犬(第十二業)ケルベロス(凶つ脚)


 構えを解いてはいない。警戒だってしていた。


 でもそれでも…。


「」


 言葉を挟む間も許されないほどの刹那、三人の視界の内から消えたようにすら思われるほどの速度で暁人との間合いを詰める。


 いや、厳密には。


クレータ(第七業)牡牛(角慣し)


 棍棒を捨てた、渾身の右腕の一振り。灼灮を素手で掻き消すほどの圧倒的なまでの膂力(パワー)。暁人の視界の左側から振り抜かれかける。


(まずっ)


 全速で膝を抜き、全身を落とすことで死ぬ気で回避を目指す。目指す・・・が。


(流石に無理か!?)


 直撃コースを免れない。それは暁人にもわかる。


 せめて直撃しても吹き飛べるよう身体の力を抜きつつ全力の魔力防御を固める。


 怪物殺しを甘く見ていたわけではない...が、化け物じみた性能。それですら今まで枷を付けたままだったということをシンプルに分かってなかっただけである。


 十二の試練の『業』、その多重使用がこれほどまでの実力の差を生むとは・・・いやそもそも、多重使用が可能だということすら、分かっていなかった。そりゃあそうだ。


 暁人は一騎打ちでの修業でも業を一つしか引き出せていなかったし、何なら最初に三人がかりだった時でも一発で押し流された。


 わかっていなかった―――いや、違う。


 ()()()()()()()()()()()


 一騎打ちでこの男に敵わないことなど。その強さが最初っから底知れなかったことなど。


 ()()()()()、『想定内』の『想定外』だ。


 だから...そのための。


『影縛 沼手』


 篝の伸ばした影は、人を縛る影縛を更に手の様にすることで、対象をより留めやすくしたもの・・・その応用系の応用。


 影沼+影縛。その場で編み出した合わせ技。対象を引き摺り回し、その上で影に沈める技。


 単純な異能の習熟度は全員の中で上位に位置する篝だからこその技巧、発想。


 暁人の全身が影に引き込まれ、紙一重…いや、髪一重で拳は通り過ぎる。


 その暁人の陰から、もう一枚。


「私を、忘れんなぁ!」


 全身の力を載せ、尋常ならざるパワーを秘めた薙刀が横薙ぎに。


『無銘 薙!』


 本来の一撃は、距離を取った複数の敵に対する一閃でありあくまでも遠距離の相手を断ち伏せる技である。


 だが、それほどの魔力を放出する斬撃なら当然のことだが異次元じみた破壊力がなければ成り立たない。


 そのため、仮に薙刀が直撃したとしても、相手の骨を砕く程度はなんら不可能なものではない!


 溜め込まれた魔力を載せた渾身の一撃を、ヘラクレスは振り抜いた右腕で受け、大きく()()()()()()()


 今まで、この男を退けるために積み上げた三人の連携が初めて実を結んだのだ。


 三人から遥か遠くの壁に背をつけたヘラクレスは驚きの表情をしながらも…口元には笑みを浮かべていた。


「善い…善いじゃねえか!こっから本番なのはそっちもか!」


「うっさいわね…暁人がせっかちすぎなだけよ。」


「え?この流れで俺に飛び火すんの?マジで?」


「構え解いてんじゃねえぞバカ。さっきのだって油断しすぎだっつーの。こっからあいつも本領なんだ、全力でやんなきゃ全員死ぬぞ!」


 珍しく苛立ちを見せる篝に、気を引き締められる二人。その様子に、ヘラクレスは。


(悪くねぇ…いいチームじゃねえか。だがな、こっちも試練として立った以上、全部使って叩き潰す!)


「じゃあ、その修行の成果とやら見せてもらうぜ…!」


 膨大な魔力を両腕に、背後から何かを引っ張りだすような…。


「来るぞ!」


 三人は知っている。最初の怪物じみたあの御業。そう。


アウゲイアース(第五業)家畜小屋(合せ川)!』


 膨大な水量を持って押し流すその一撃。躱す手筈を整えて後ろへと飛びのこうとして…思い出す。


(いや違え!)


 壁に影を伸ばし飛び退いた二人とは対称的に、暁人はその場に留まる。


「なっ!」


 そりゃあそうだ。この業は三人にとっての初見ではない。厳密に言えば暁人が起きてなかったとかそういうところはあっても、角慣しと同様にちゃんと対策を立てたはずなのに、その対策を投げ捨てて立ち止まった。


 何してんだてめえ!その言葉の頭だけ篝の口から飛び出して、その瞬間に気付く。


 この空間への入り方。


(そうか!この水の行き先がどこかわかんねえ!空間に留まらないとは言い切れない…が、普通に考えたら全箇所に水が流れる!この尋常じゃない水量が、もし仮に一方向にしか抜けなかったら!?)


 いち早く、暁人はその可能性に気づいた。故に立ち止まったのだ。


 今飛びのいた二人にできることは何もない。ただ…。


(!…いや、違うだろ!次に出来る最適解を考えろ!)


 驚きを殺し、次の手へと積み上げることだけである。


 そんな二人の心情を暁人は知らない。でも、今やるべきことだけは目の前にある。


「…真っ向勝負だ。」


 刀をゆっくりと、前方に振り抜くために構える。


 刀に秘めた熱量が、心に灯った熱い陽が。暁人の力を彩光へと引き上げる…!


『灼㷔刃 暁光!』


 未完を騙った、彩光の一撃。確かに、レーヴァテイン程の魔力量は使わない。だが、その日の光が照らす先に障害なんて許さない。


 確固たる意思を宿した熱い鉄が放った光に二つの川の濁流は消しとばされる。


 一瞬でヘラクレスまでの道を開いた光。その熱量はヘラクレスに防御の構えを取らせるほどだった。


 その一瞬の硬直を逃さない二人の影と魔力の斬撃を真っ向から喰らいながらもその防御は崩せなかった。


「…本日何度目の驚きか。もう数え損ねたわ。」


 善いじゃねえか…英雄予備軍と舐めてたが…いやはや、悪くない。悪くない!


 ふっ...と笑みを零すヘラクレス。それとは対照的に片膝をつく暁人。

 

(さすがに消耗が激しい…残りは6・7割ってとこか?撃てて後二発。神器一本約五割換算で、まぁほぼガス欠か。あんま打ちたくねえなぁ...。)


 だが、今はそれ以上に...。


「暁人!」


 篝と鳴子が膝をつく暁人に駆け寄り盾になるように前に出る。


「・・・わかってるよな?暁人。」


「ん。分かってんよ。じゃあそっちを任せるわ。」


「じゃあ任された。」


 傍から聞けば何を言っているか分からないことだとは思う。実際、鳴子は分かっていない。だが、それでもとりあえずわかっていることは。


「・・・時間稼ぎでいいんだよね?」


「おうともさ。兎にも角にも時間を稼ぐ。」


 欲を言えば、暁人の魔力を取っておきたくもあるしな。


 と、作戦の伝令を簡単に済ませる。


 その様子を見てヘラクレスは苦笑して言う。


「敵の前で作戦会議とは...悪手じゃあないのか?」


「いいんだよ。別に。ほとんど俺らだけで伝わってんだから。」


「・・・はん。まぁ構わんさ。二対一で十分だからな。」


 言うじゃねえかクソ野郎。お言葉に甘えさせてもらうぜ?


『影纏』


 光を呑む影がゆっくりと篝を包み縛り上げるような黒衣へと変わっていく。


 ギチギチと音が鳴るほどに縛り上げられた身体は、その束縛からは想像できないほどの可動域と運動補助を兼ねる。


 ふぅぅぅぅぅ...とゆっくりと、息を吐く鳴子。それは奇しくもヘラクレスと同様で。


 まさしく相撲の息を合わせるような儀式と重なるようで。


 ダンッ!!


 三者が同時に思いっきり踏み出す。


 神と三人の戦いはまだまだ始まったばかりであった。




「・・・ってわけだ。悪いが、二人を回してくれないか?」


 と、本部の元へ連絡が飛ぶ。


 発信元は暁人。連絡を受けたのは三人であったが、言葉を返したのは沙紀だった。


「わかった。芽衣で飛ばすけど問題はないよね?」


「あぁ。そこいらは現場判断で任せんよ。」


「了解。気を付けて。」


「うぃ。」


 と短い返事で会話を終える。先の伝言の伝令を考える。


「・・・さて、さっさと捌かないとだよね。」


「欲を言えば、速攻で六花が終わらせてくれればいいんだろうけど...それでもほかの技の余波がいかないとは限らないって事よね?」


 逸る芽衣に朱莉が分析をまとめる。


「うん。それであってると思うよ。じゃ、全体に伝令を飛ばそう。」


「「了解」」


 とは言ったものの、することは非常にシンプル。発信先から暁人を除いて、一方的に通話を送るだけである。


「・・・本部より伝令!」


 三人の空間に沙紀の声がこだまする...。





「・・・オーバー。」


 ここは、林檎の間。曰く、ヘラクレスの十二の試練に於ける十一の試練に当たるものである。


 へスぺリデスの黄金の林檎、この話は二つの形がある。一つは百の頭を持つ龍、ラードーンを打ち倒し黄金の林檎を手に入れたという説。


「うぉぉぉぉぉぉぉぉん・・・・・。」


 そしてもう一つは、へスぺリデスの父たるアトラスに代わりに取りに行かせたという説。


 だが、アトラスは天空を支えるという業を背負っている。故に一時的にアトラスに代わってヘラクレスは天空を支えた。そのアトラスは天空を支えるという仕事を代わってもらったためルンルンで林檎を取りに行った。


 またその際にアトラスはヘラクレスを騙し完全に開放されようとしたのだが逆に騙され天空を支え続ける羽目になったのだ。


 まぁ因果応報と言うか、現代の社畜にも適応されそうでとても胸の痛い話ではある。


 特に痛む胸がある菜月にとっては・・・。


「うぉぉぉぉぉぉん・・・・。」


 すすり泣くように、吼えるように言うアトラス。


 超を付けても足りないほど巨大な大の男に泣かれる女子二人と男子一人。


 どうしていいかわからない...と言うことはないのだが、沙紀の伝令の件があった。


「さっきからどう支えるかを考えてたけど、でも・・・。」


 と、琴実が言う。雅也も同じ表情である。


 正直、菜月と琴実、雅也が居ればこの作業をどうにかしてやることなど簡単だっただろう。だが、今来た伝令は...。


 眉根を寄せながら菜月は言う。


「しょうがないでしょ。やるべきことは、どっちか。こっちは後でもいい。後から幾らでもなんとかできる・・・けど、ヘラクレスだけは最優先でしょ。しかも、結果として言えば()()()()()()()()()()()()()()()。」


「・・・大丈夫?」


「どうにでもするわ。」


 だから任せなさい。そう菜月が言いきったとき、芽衣が飛び込んでくる。


「・・・来たよ。」


「そう。じゃあ二人を連れて行きなさい。その後は、修斗たちの所へ。」


「ん。気を付けてね。」


「ここじゃ気を付けることなんて何にもないわよ。」


 皮肉めいて笑って見せる菜月にコクリと頷く芽衣。そして二人を境界へと連れていく。


「・・・さて...。」


 どうしようかしら?と頭を抱える菜月。


「さっさと終わらせてヘラクレス組の負担減らさせないといけないのに・・・困ったわね。」


 明確に、憎々しげに菜月は言う。


 その言葉に、涙を流し続けていたアトラスは言う。


「ヘラ・・・クレス・・・?」


「あら、あんた意識あったの。」


「…君は...誰?」


「んー...訳あってヘラクレスを倒すためにあんたに黄金の林檎を取ってきてもらいたいただの一般女子大生よ。」


 適当な自己紹介を混ぜながら目的をはっきりと言い切る。


 アトラスの表情が見えないが...何も思わないわけではないのだろう。


 ゆっくりと...ポツポツと語っていく。


「俺も...わかってはいたんだ。それでも...それでも・・・。」


 大粒の涙が、下に...具体的に言うと菜月の目の前にバチャバチャ降ってくる。


「・・・とりあえず泣き止みなさい。水が撥ねてかかるでしょ。」


 コクリと頷くアトラスにハァ...と溜め息をつく菜月。


(あたしこんなのばっかりじゃない?まぁいいけどさぁ...。)


 少しして、アトラスは口を開く。


「・・・わかったよ。ヘラクレスを倒すためなら・・・協力する。」


 でも少しの間だけ、支えててくれないか?そうじゃないと取りに行けない...。


 そう言うアトラスに菜月は考え込む。


(・・・でも...。)


 確かに、一時的に代わればそれだけで解決するんだ。それだけで、こっちの試練は終わるしただそれだけで...。


 瞬間的に頭をよぎるあの時の浩也。


 不可能を否定するために自身の全身全霊をかけたあの時の...。


 結果として右腕を砕いた浩也が頭をよぎる。


(私は、今できる最善手っていうものを考えたら。あれしか存在しない。だけど...それは。)


「・・・女子大生?」


「...。」


 不安そうにするアトラスに、はぁ...と溜め息をつく菜月。もう、やるしかない。


 ここまで乞われたのならもう...。


「岩金菜月。」


「うん?」


「あたしの名前は、岩金 菜月よ。」


 面食らった表情を浮かべている...であろうアトラスの顔面に指を指して言う。


()()()!あんたをこっから完全に解放してあげる!だから...あたしの要求を()()()()()()()()


「!!?」


 驚いたかのような空気感が流れる。そりゃそうよ、あたしだって救う必要なんてどこにもないもの。


 でも...。


「どうして?どうして救おうとするの?どうして騙そうとするの?」


 アトラスが精神で猜疑と希望で揺れる。そんなアトラスに一喝するように言う。


「うっさいわね!あんたを救うつもりなんて毛頭ないわよ!!でもね!あたしがしなきゃいけないことはあたしの()()を護ることよ!そのためならあたしは自分の命ぐらい使()()()()()!」


 その言葉が、嘘偽りなく自身らのためのものであることをアトラスに理解させた。


 だから...。


「いいの...?本当に、本当に...ここから、、、?」


 混乱はただではないのだろう。尋常でもない。


「全部、あたしの覚悟次第よ...それでも命を懸ける覚悟くらいある?」


「うん…うん・・・!」


 と、泣きじゃくる子供の様に反応をするアトラスを見て、菜月は心の底からの覚悟を決める。





 こうして試練は進む。全員の命運を動かしながら...。




と言うわけで菜月覚醒フラグです。楽しみですね?


どうも皆さん作者の銀之丞です。


やっぱバトルシーンていいですよね、なんとかしながら書いてますけど。


まぁのんびりゆったりってことで許していただきたい・・・申し訳sorry。


許されたし...。


と言うわけでいつもの挨拶をば。


いつも読んでくださっている皆様!誠にありがとうございます!!


めっちゃトイレ行きてえ。

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