第79話 十全の英雄-2
琴実と留目の戦いが終わって、各々が戻っていく。
留目は志島と蒼衣の所へと戻っていく。
敗けたとは思えないほど晴れ晴れとした表情で。
「わりいな。敗けたわ。」
と、二人に言う。志島は苦笑して。
「別に悪いってことはないでしょ。でもナイスファイト。」
そう健闘をたたえる。それに同意をするように蒼衣は頷く。
何でもない様に、その隣へと立ち決勝戦の始まりを待つ留目。
その様子に全くへこんでないような印象を受ける...だが。
蒼衣は見逃さなかった。
その手の形に表される...滲む悔しさが炎の如く燃え盛っているという事実を。
勝った琴実は息をつきながらリング外へと戻る。
近くには鳴子と愛がいた。
「・・・さすがだね。」
「やっぱり強いね!」
と。鳴子と愛は称賛の言葉を贈る。
それを琴実は、ありがとう...と受け止めながらも謙遜のように言う。
「でもね。この強さはあくまで借りものなのよ。言っても聖に言われた通りの組み上げ方を練習してただけ。だから、まだなの。」
と。自身の力を認めないでいるため、愛に絡まれ頭をわしゃわしゃとされている。
それに混ざりながら鳴子は言う。
「でもさ。それでも、勝ったのは事実だよ。留目はかなり強いしね。」
「そうだよ。留目は一緒に戦った時からずーっと化け物だよ。」
それに勝つなんて本当にすごいんだよ?と同意をするように愛は言う。
真っ直ぐに放たれる掛け値なしの言葉に頬をほころばせて。
自然な感謝の言の葉が琴実の口からも出る。
なんとなく、ほっこりとしたところに。
「あー...ちょっといいか?」
と、どことなく申し訳なさそうに見えないことも無い表情で口を開く篝。
「ん?」
「どしたの?」
と反応する鳴子と愛。いや、お前等じゃねえわ。と篝が苦笑気味に突っ込む。
その言葉で、漸く自分のことと気づく。
「あぁ、私?ってことは...。」
「そう。お察しの通り、決勝のことだね。」
と、淡々と言う。
「うん。すぐやる?」
「いや、それは不利すぎるだろって、多分浩也から文句来るわ。」
あいつクソ真面目だから。と散々ないわれような気がする浩也だが他二人も同意をするように頷く。
あはは...と苦笑いをしながら琴実は希望の時間を告げる。
「10分かな。それだけあれば私は十二分。代わりにお水貰ってくるけどいい?」
「あーまぁ大丈夫だろ。万全に備えな。」
と。あっさりと許可を出す篝。
「んじゃ、俺保健室行って浩也に話してくるわ。」
と、篝が告げて出ていく。
少しして、琴実は。
「水貰ってくるね。」
と。食堂へと向かうことにした。雑談しながらじゃれ合う二人に微笑みながらも。
全員仲こそ睦まじい物の...その内心は。
各々の課題と、向上心で満たされているのだった。
ガラガラガラ。
音を立てて保健室の扉を開く篝。
とはいえど大あくびしながらなので威厳や威圧感などのそれらはない。
妙にげっそりした様子の沙紀と向かい合うように浩也が座っていた。
また怪我人と言わんばかりの表情で空いたドアの方を見る沙紀に釣られて浩也も向く。
が一瞥し、怪我人じゃないことがわかると一息をつきながら浩也の方に向き直る。
体勢をそのままに浩也が口を開いた。
「どうした?もう決勝か?」
「いやまだだ。さっき終わったからな。10分後ならいけるか?」
「大丈夫だ。別に今すぐでもいいが、まぁ向こうも消耗してんだろ。」
やっぱり言ったよ。なんて表情をする篝。その言い草に苦笑する沙紀。
だが、大して気にする様子もなく浩也はまた口を開く。
「で、どっちが勝ったん?琴実か?」
読み通りなら琴実なんだが。と自身の中での下馬評を口にする浩也にそこらへんにあった椅子に座りながら肯定を返す篝。
それを聞いて、楽し気に言う浩也。
「最高だな。」
一番試したかった相手だ。
浩也の言葉にあん?と頭を首を捻る篝。
「ま、あなたならそうでしょうね。」
その言葉に割って入るように、菜月が割り込むように口を開く。
「あ、起きたのね。」
「ええ。快眠だったわ。ありがとね。」
感謝をする菜月にニッコリと笑みを返す沙紀。
ふと見たベッド群に寝ているのは聖ぐらいしかいなかった。
他にはベッドに腰かけたままの朱莉や身体の調子を確かめている雨月がいた。六花は六花で思うところがあるみたいで考え事をしている様子だった。
さっきランチルームで詩織がゆったりしてるのは見かけたから、行方が分からないのは芽衣だけということにはなる。
場所そのものは分からなかったが、大まかな見当はついてるし問題はない。
まぁ、それはさておき。
「あなたなら、ってどういう意味だ。」
と、菜月に聞く篝。笑いながら椅子に腰かけて口を開く。
「そりゃそうでしょ。なんせ、彼女の能力は「固定」」
硬さ比べにおいて、無比の強さを誇るわよ?と。
その言葉を聞いて思い出した。
「あぁ、なるほど。」
(そーいや、城塞の固定で一度組ませてたな...。そん時も機能したらしいし、ターロスが相手の時も機能したと聞く。そう考えりゃ確かに怪物じみた...。)
と、少し考えてからふと気づく。
「そーいや、さっきの大気の盾。どうやって壊すんだ?」
呟くように浮かび上がった疑問を口にする篝。
あん?とか、何それ?とか適当な応対に先程の試合を簡単に説明した。
それを聞いた各々が考える...その中で最初に答えを浩也は導き出す。
「ぶち抜く。」
と。いや、理屈は?
呆れ顔で聞く菜月に対して、眉根に皺を寄せながら浩也は口を開く。
「あくまで固定されているのは座標にある空気。それに対して並大抵の物理じゃあ動かないだろうな。なんせ、そこに存在する空気という存在が、そこという座標の数字に留まり続けんだから。」
概念的に動かないように設定された物質を物理で動かすことは出来ない。当たり前だよな。
と冷静に分析を口にする。さっき言ってたこと忘れました?って感じの空気感と共に全員がもう一度あきれ顔を見せる。
それを受け取ってなお浩也は続ける。
「でも、そもそもの話。どんなものにも維持にはリソースがかかる。仮にスイッチ形式で固定・非固定状態を切り替えられるとしてもそのリソースは魔力だろ?」
なら、魔力でならぶち抜けないって道理はない筈だろ。
なるほど確かに、と思わせる一言。
例えば『貫通』という能力があったとしよう。貫通という概念は何かを貫き通すと書く。が、もしそんなものを固定した物質にぶつけたのなら...答えは恐らく「矛盾」と同義なんだ。
そこに現実で答えを出すならやはり...。
「・・・魔力量次第ってことになる訳か。」
「あぁ。多分そんな感じじゃねえかな。」
と、結論を示した篝にあっさりと答えを示す浩也。どうすりゃ勝てるって理屈を示してのける。
・・・とくれば。
「・・・次の試合は、魔力勝負になるって事かしら?」
頭を掻きながら菜月が言う。まぁ互いが勝利を目指しあううえで、攻防勝負とくればまぁそうなるんじゃねえか?
そう篝が同調するが、それに対して。
「いーや。そうはならねえんだな。これが。」
と。先程の理論提唱者が口を開く。
「・・・?」
全員が疑問符を浮かべるが、浩也は笑って。
「もう一つの手段を使うのさ。」
そう言いながら、浩也は保健室を後にする。
あぁ、凄まじく。
「いやな予感がする...。」
と、沙紀が呟く。その予感は全員に蔓延していたのだった。
少しの間をおいて、菜月と六花は一緒になって体育館へと向かった。
ほんの少しだけ話はしたけれど、大したことではなかった。
六花はとっても悔しがっていたけれど、今の実力を計っただけだからと伝えたら、少しは緩和したように見えた。
(ま、六花は…ね。)
凡その頑張る理由が分かってたから何となく母性にも似た感情を心に抱いていた。
と、そのまま体育館に入ると殆どの面々が揃っていた。
そう。聖と暁人、二人を除く全員が。
各々思いはあれど、決勝を見守る形である。
六花を鳴子・愛のところに預け菜月は行司として取り仕切りを行う。
「・・・浩也、琴実。準備はいい?」
フィールドに立ち、準備運動をしている浩也。対する琴実も身体を伸ばし、動く準備を整えている。
「俺はOKだ。」
「私も大丈夫よ。」
と。各々の返事が返ってくる。
それを受けて菜月は。
「決勝戦。浩也対琴実…始めっ!」
最硬vs最硬の。暫定的な最強を決める戦いの幕が開く…。
「・・・。」
試合は始まっている。だが、互いに動きはない。琴実は鎌を投げるつもりはあるのだろう。
両手に一つずつ握ったまま、機をじっと伺っている。
対する浩也は構えすらしない。ただゆっくり、ゆっくりと身体を慣らすように、腕を回したり背中を伸ばしたりしているようにしか見えない。
これがもし、レスリングや柔道の試合なら確実に警告とか取られるし、相撲なら「のこった!」と、また発破をかけられるだろう。
だが、これは別に競技ではない。どう攻め込むかをゆっくりと考えたり、のーんびりと気を練るのは別に反則にはならない。
催促はしたくなるけども。
と、考えている菜月のそばに沙紀が朱莉を連れて耳打ちしにくる。
「これって今何してんの?」
と、こっそりと聞いてくる。
「わかんない…まさかとは思うけど、耐久戦でもしてんのかしら…?」
と。菜月は浩也の言っていたことを考えてからの発言をする。
それに対して朱莉は。
「多分…自信はないけど、それはないと思う…かな?」
控えめに。出来る限り控えめに、朱莉は主張する。
それに対し、沙紀は朱莉を後ろから抱きしめながら口を開く。
「それまたどうして?」
「えーっと、観た感じなんだけど…浩也の身体がゆっくりと、バランス良く順繰りに…体温が上昇してるからかな?」
見てわかる?と思ったけどよく考えたら、朱莉の能力は『観察』。そりゃそこいらの性能はずば抜けてるよね…。
まぁ、もっと自信持っていい気がするんだけど…負けたの引きずってる?
と、思う菜月の内心をよそに、沙紀は。
「それなら、これから蹴りをつけにいくってことか。さすがだねぇ。」
と、どことなくふわふわしたテンションで朱莉の頭を撫でる。
もしかして疲れすぎて脳溶けてる?それとも…。
そう考えた菜月の思考を遮るように。
「さて、と。そろそろいいかな。」
と。浩也が口を開く。
突如として動こうとする戦況に、菜月達三人も話をやめて試合の方へと向き直る。
そんな浩也に対して、琴実は聞き返す。
「ようやく、かかってくるのかしら?」
「まぁね...ちゃーんと強さの勝ち負けをつけなきゃいけないと思ったんだけど...やっぱだめだわ。」
うん...?と首を傾げるのが何人かちらほらといる。どういうことだと。
さっきの話を聞いてなければ理解できないこと。だから...。
「わりいな...琴実。一度だけ白黒つけさせてくれや・・・。」
「・・・。」
その言葉に疑問符を明確に顔に浮かべる琴実。
放つ言葉は決まっている。
「矛盾勝負だ。最強の硬度同士...されど。ほとんどアタッカーとして使われる矛の俺と、最高クラスの盾として使われるお前。」
どっちが強いのかを...今。ここで。
「決めてえんだ。」
真摯な態度。硬度それそのものが最強に結び付けられなくもいい。孤高の最強を求めない。最強は二人いたって良い。
でも...この最硬は。一人でありたい・・・と。
「・・・いいわ。やりましょう...その代わりに。」
これ一度っきりよ。
そう断るや否や、空中に張り出される『大気の盾』。
そこに込められた魔力の量は、今までとは比にならない。まさしく最高硬度の盾だったのだろう。
それを見て笑う浩也。
「ははっ...やっぱり攻略法に気付いてたか・・・。」
「当然でしょ。あたしの能力よ?」
「・・・そうか。そりゃそうだよな...。」
そう言いながら、数歩、盾から遠ざかる。
「・・・じゃあいくぜ?」
と。腰を落とし、右腕にありったけの金剛を全身に五行を。
その姿に違和感を抱く。
ありったけなら、右腕だけでいい。
『じゃあ何で・・・?』
浩也の提示するもう一つの手段。その拳に載せるのは魔力...。
ほんとうに?
(ちげえよ。そうじゃねえ。魔力を乗せることだけが正解じゃねえ。俺が思った極限の世界は、そんなちゃちなもんじゃねえ。)
どれほど強くったって。極限の体術って言うのは概念すら超える。
あり得ないと思われる三段突きが。ありえないと思われる早撃ちが。この世に存在しうるなら。
概念上で固定された盾をぶち抜く拳だってあったっていい。
それこそ極限。それを為せずに空間を裂く爪を防ぎきれる理などありはしない...!
握る拳。載せる決意。全身の力のありったけで踏み込む。
全力の助走。全力の加速。全力の硬度。
『極点 金剛天腕!』
腕ごと金剛を乗せて、全身に五行を乗せて、そして。ありったけの今の全力を。
「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛アアア゛ア゛アアア゛!!!!!!!!!!!!」
その一撃、その軌跡。流星の如く。全力を叩き込んで。
一体、響き渡ったのはどんな音だっただろう。
何かがはじける音?何かが砕け散った音?わからない。分からないけれど...。
ただ、そこにあった現実は。
「・・・俺の...。」
右腕の前腕部が、完全に砕け散って。大量の血を流しながら、その足元へとゆっくりと、倒れこんだ。
壮絶というほどの結末ではない。ただ、残った結果だけが凄絶すぎて。
その勝負の幕を下ろしたのだった...。
はい。書いててこの試合はこういう結果にしようと最初っから決めてました。
だがしかし、書けば書くほど浩也を優遇してあげたかった...!
でもまぁしょうがないですね。シナリオの都合ですね。
というわけでどうも、作者の銀之丞です。
考えようによるんですが、浩也ってやっぱ最強なんすよね(?)
でもね。固定には勝てないんだよね...。
だって強いんだもん。しょうがないよね...。
もう何言ってるのかわからなくなりましたてへぺろ。
さーてさっさとにーげよ。
というわけでいつもの挨拶をば!
いつも読んでくださっている皆様!誠にありがとうございます!!
・・・新作の話を最近してる気しかしない...。




