第9話 |器完《きかん》
3か月近く...もしかしたらもっとかもしれないほど、ずっと...ずっと...
暁人は武器をふるっていた。薙刀を。槍を。刀を。槌を。それらすべてを極めんと進む。戦う。そうして、身体に染み込ませる。そして、最後の武器を。
ズドンッ!!!
右手に握られた火縄銃は、踊る木人形の心臓を撃ち抜いた。
最後の修業はいたってシンプル。銃火器の扱いに慣れさせること。これに関しては武道として教えるというより、あまりに拙かった銃の撃ち方を少しでも改善させようというものだったのだが、暁人の上達率を見たヒュプノスはもっと高次の技術を習得させようとしたかったのだろう。それゆえに新たな特訓として木人形という的を動く的とし、接近もする。攻撃もする。といった、より実戦に近い形の修業を積ませたかったのだろう。本当なら、もっと苦戦するはずだっただろう。だがしかし。
「・・・・・」
極度の集中状態に意識的に入れるようになった暁人には。その程度、ただの雑魚かというがごとく。身体をクルリクルリと翻しながら手元に火縄銃をポンポン生み出し、一発撃っては捨て、一発撃っては捨て。と。軽々と。全ての木人形を破壊していった。
(灼装の使用を開放したらそれだけでこの実力とは...バケモンものだな)
「・・・ふぅ...これですべてか?じじい」
「おう、成長したな、小童」
「...もう少し禅修業を積みたいくらいなんだが」
「やりすぎだし、正直これ以上続けるとフェアリーテイルに戻せなくなる」
「・・・?どういうことだ?」
「単純な話、他と経っている時間が違いすぎるとな。その時間経過の摩擦でフェアリーテイルが壊れる。現実世界の強度なら持つかもだがさすがに俺が作ったもんだとな...」
「あー...それもそうか」
「納得されるのも腹立つけど、まぁ、世界の修復力ではかなわんわ」
なんだかんだ、正味納得してしまったし。そろそろ向こうに戻るか。戻り方知らないけど。
(・・・あ、そー言えば今更だけどひじりんや、志島、留目たちは大丈夫なんだろうか?いや、まぁ、能力解析してもらってたし、あいつも殺す気がないみたいだったとは思うけど...いや、女子勢大丈夫か?こいつ相当の変態やろ?うわ心配...)
「どうした?」
「お前の分身体に友達が襲われてねえかなってなっただけだ。ヅラジジイ」
「誰がヅラだ。問題ねえよ...多分。知らねえけどな。同期しているわけじゃねえからよ。」
「そういやそうだったっけ。俺みたいに想定してねえことが起きた場合とかはマニュアルなんだろうけど基本的には独立志向型の分身体なんだもんな。結構心配だわ。」
「そう思うなら、さっさと帰ってやんな」
「まぁ、それもそうだが。この空間自体は解除しないと出られないものとかじゃねえのか?」
っていうか、ここから自力で出られるんなら、俺の心折れたらどうするんだって感じなんだが。
「あー、まぁ、解除ってわけではないが。出口は存在するんだよ。不可視化してはいたし、一定以上力がつかなかったら見抜くことすらできねえだろうけどな」
「力?あー、魔力制御による空間知覚のことか?」
「は?お前それ出来んの?」
「まぁ、小範囲なら」
「ふむ。なら確実に見切れるな。それ以外にも魔力を眼に宿す魔力制御だけで十二分に見抜けるぜ。」
「へー。」
(空間知覚が可能といった時に驚かれたけど、そんなむずかったんだな。体感的には戦いの中で身に着けたものだったから、感覚がさっぱりなかったわ。ハハッワロス。)
実際、とてつもなく強い。死角からの攻撃も感知できるというのは、まさしく隙がないということと同義なのだから。
先ほど言われたように体に纏う魔力を眼に集めその空間全てをじっくりと。よりじっくりと。空間全体を見てみる。
すると、あぁ、確かに。空間ひずんでるところあるな。なんかぐるぐる渦を巻いてやがる。
それを暁人は指さしながらあっさりと問う。
「あれ?」
「あれ。」
ボキャ貧かと思われるほど圧縮した会話を行う。それで通じてんだけどさ。
「あ、あとそうだ。お前にも渡しておかないとな。」
「え?なにくれんの?金?」
「現金な奴じゃな」
そりゃ求めてるもの金ですし。
「違うならなにくれるん?」
「服。」
「服?」
「服。衣類な」
うわくそいらねえ...とも言えねえのが腹立つ。
炎でも燃えないタイプの服とかそういうのがないと制服とかすぐに燃えるしね。って、
「・・・あ?」
「なんだよ」
「この世界の衣類って何でできてんの?」
「人々のイメージの集合体だ。魔力で編まれているからな。」
「つーことは俺が服を作ることもできる?」
「あぁ。まぁ、可能だわな。そんなわけだが、まぁ、最初くらいは俺が作ってやってもいいかと思ってな?そんだけだよ」
「・・・まぁ、うん。一応受け取っておくか。」
「何で不服そうなんだよ」
「えー...だって男の編んだ服とか嫌じゃねえの?かわいい女の子たちから渡されるような手編みのマフラーです、とセーター上げるとかならクソほどうれしいんだが」
「そんな燃えやすいものは渡さねえ」
「確かに...ってか現実世界だと夏だしな」
「安心しろ、袖はない」
「うわ、何で火傷しないようにとか怪我しにくいようにとかじゃねえんだクソか」
死ぬほど悪態をつきまくってはいるが実際魔力を編み込み作られた素材、きっと死ぬほど便利だと思ってはいる。だから感謝はするけども。
「・・・あ。」
「なんだよ」
「二つ質問ができた」
「またかよ」
質問多いやつだなって言いたそう。超わかる。
「いいから、答えろよ」
「何だ?」
「魔力ってそんな風に加工できるのか?」
「できるわ。空間知覚できるんだろ?」
「まぁ。」
「あれを例えるなら魔力のセンサーだ。赤外線みたいに扱うってことだな。」
「今回の場合は...繊維?」
「そうなるな。」
「んじゃ、もう一つ。こっちクッッッッッッッッッソ重要な」
「なんだよ。」
さっきの質問顔から超真顔に戻った暁人。暁人にそこまでの顔を指せる質問はなんなのか、と少し固まるヒュプノス。
少し溜めを作って暁人は質問する。
「・・・女子勢の服の寸法ってどうなってるんだ」
「・・・」
「お前...何も言わずに女子のスリーサイズ測ったりしたんじゃねえだろうな。それってただのえろじz」
「うるせえ!データ通り作っただけだわ!帰れ!」
いつの間にかヒュプノスの右手に握られていたビニールとも何とも言えないものに包まれ、そこにはご丁寧に「八束暁人」と書かれた付箋のついたよくわかんねえ服。ご丁寧な状態のもには最も不釣り合いな渡し方で渡された。
「うえええええええええ」
なんと包装はビニールだけでなく、魔力でも包まれていたらしい。魔力の球体に包まれ、ほぼバレーボールくらいになった衣服を。先ほどの訓練でも見せなかったほどの強肩を以て暁人の腹筋に直撃。さながらドッジボールである。
腹部に届いた魔力球を、暁人は全霊で受け止めようとするが誤算が2つあった。
一つは想定以上に重かったこと。もう一つは腰が浮いていたこと。だから当然の如く、吹き飛ぶ。
先ほど、あえて言わなかったことがある。それは。
出口は暁人の背中側にあったということ。
つまり、必然の如く。
「女子のスリーサイズのデータよこせぇぇえぇぇぇええぇぇえええぇぇぇぇぇぇっぇ」
・・・。沈黙した武道場でヒュプノスは思う。
(あんな奴に任せられるんかなぁ...まぁいいか。)
「・・・達者でな」
そう一言いうと、分身体は糸が切れたように崩れ落ち、空間に溶け、空間とともに消えていった。
なんとか短いけどもう一本書き上げられました。
ようやく修行終わったね...
次回は20人(暁人含む)クラスメイトの説明会になると思うよ(頑張って早く書き上げられるよう努力します(:-:)