第8話 |拾徳《しゅうとく》
「ってえなぁ。」
頭を押さえながら暁人はゆっくりと身体を起こす。正直なところ頭よりも、右腕のほうがよっぽど痛かった。
「クソ。気絶してたのか。あいつの死に面とか、驚いた面とかヅラとか見れなかったな...にしても」
と、独り言をやめて周辺を見渡す。
周辺の光景が変わって教室に戻ってるかと思ってたが。いまだ白紙の世界である。ってことは、あいつを倒しきれてないのか?と疑問に思ったが、周辺にあいつの姿が見えない。流石に分身体ではあの技には耐えられなかったか。
「とはいってもなぁ...」
と少し思うところがある様子だった。
(いくらなんでも、反動はでかすぎらぁな。ぶっちゃけやってることは、片腕を砲弾にしてぶっ放すようなもんだしな。三段衝撃はいいが、ありゃあ普段使いするには使いにくい。とりあえずは外筋肉や炎籠手だけはつかえそうだが...暁暗照らす烈火の籠手は反動がやばいな。でもこれ外筋肉のせいか?わからん。ちょっと使って試すしかない...どっちにしろ...)
「疲れた...眠い...って夢の世界で別の世界に拉致られてその先で眠ったら鏡合わせの無限にとらわれそうやんな...」
そもそも彼が連れてこられたのは御伽噺自体。そこから別世界にぶち込まれて、そのうえでそこで眠ったら、これの無限ループを繰り返しそうになるんじゃないかな、と。
まぁ、ぶっちゃけ杞憂な気がしてるんだけど。
「ま、気絶明けだし、ゆっくりやりますかねえ...」
そこら辺を歩き回って、特に何もないことを確認しながら右肩をほぐすようにぐるぐる回す。流石にちょっと痛い。にしても眠いのはなんでだろう?
「・・・寝て起きたら魔力がさっきくらいにまで回復してるか、あいつが復活しているか、元居た場所に戻るかのどれかだな。」
と考え、横になることにした。床は硬かったが、あんまり気にもせず爆睡することができた。
一応、さっきの思考の説明をしておこう。単純に魔力が損耗している状態をそのまま精神力が落ちている状態、もしくは疲労している状態と考えていたため、それが原因で眠いのかな、というのが最初の思考。その次のヒュプノス復活と元居た場所に戻るのは夢の支配者たるヒュプノスが関連するからである。
最初にフェアリーテイルに呼び込まれた時だって眠った状態から呼び込まれていたわけなので、眠りで場所転換、及び人間追加とかあってもおかしくないのである。
(あー、元の場所に戻るとは限らないのかぁ。なんも考えてねえってか全然頭回らないやなぁ...)
そんなことを考えながら、爆睡し始めた......
どれほど時間がたったんだろう。1時間?2時間?いやもっと...?それぐらい長い時間寝て、ようやっと、といった様子で目を覚まし体を起こした。
(多少身体が動く...いや、ほぼ完全に身体は動くか。右肩の痛みは何とかなってきてるし。)
「おう、起きたか」
うわ聞きたくねえ声。
「うるせえ死ねやなんで生きてんだてめえってかどこだここ。」
「一つにまとめろ」
「くたばれクソジジイ」
そんな毒を吐きながら周囲を見渡す。先ほど考えていたこと、つまるところ「目を覚ましたらどうなってるか」についてだが。
端的に述べよう。少し違っていたがほとんどあってた。さっきのレベルまで、すなわちある程度の武装が作れるところまでは武装は回復したし、もしかしたらさっきよりも、もしかしたらさっきよりも魔力の量が増えているかもしれないほどには壮健な状態であった。また大っ嫌いなクソジジイもいた。違っていたのは元の場所にもどったわけではない、ということだ。
暁人が目を覚まし、悪態をついた場所は床が畳の、武道場の床に寝ていた。周辺には竹刀とかで打ち込みをする用の木人形?藁人形?サイズ感は人型なんだけど、材質が何とも言えない感じの、時代劇とかでみるような奴。すげえな初めて見たぜ。リアルに。
「・・・まったく、分身体一体消し飛ばしてくれおって。面倒くさいことになっちゃったじゃねえか。」
「へっ。ざまぁねえな。舐め腐ってるからだバーカ。」
ゆっくりとヒュプノスのほうを向くと袴...?なんだろう、少なくとも着物なんだけど。浴衣なんかな?
俺はあんまり詳しくないからわかんないけど、竹刀を片手で持ち、こっちを見ている。ヒュプノスのほうの奥側には、薙刀だったり竹刀だったり、大弓だったりが立て掛けられている。
(マジの武道場...?いやでもな...)
「また質問か?」
「当たり前だろジジイ。なんでこんな空間なんだよ。」
「ふむ?こんなってーのは?」
「ここの床、畳だろ?いわゆる井草。なのになんでてめえはそんな風に竹刀もってんだよ。」
「答えまで推測してみればいいじゃねえか」
(うわ、うぜえ...けど確かに。少しは頭使わないとひじりんには追い付けないわな)
暁人はゆっくりと思考をし始めた。
(なんで・・・いわゆるホワイダニットってーやつか。基本的に井草が敷かれる理由は?単純だ。柔道などで投げた時に緩衝材の役割を果たすからだろう?ならなんで弓や、刀、薙刀なんかまで?答えとしては足場の悪さ?いや違う。それなら山みたいなものにした方がよっぽど足腰に来るだろ。ってか、緩衝材...いろんな武器...)
「・・・クソ単純な話だったわ」
「そうだな。話すまでもない」
超単純に、投げもありだからだ。試合なら切れば一勝。投げれば一勝。極めれば一勝。じゃあ、戦いなら?投げたって、切ったって、全部ありなら?それ込みの実戦形式なら?全部使っていいルールのなかでの稽古試合なら?床は井草でなければそりゃ死ぬ。流石に床が板やコンクリ、これらに類する硬さなら死ぬに決まってる。無理ゲーだよね。だから。
クソ単純な話だった
そう暁人がまとめたことに何の間違いもなかった。
「んー…ってことは第二ラウンドだ!ってやつか?これ。」
「まぁそれでもいいんだがな。野生の戦い方はもう十分だと思ってな?その戦い方だとゴリ押し中心になっちまう。別に悪くはねえが、ハードル高すぎんだろ?」
「わからなくはねえけども。つーことはなんだ。ここから数ヶ月くらい刀だのなんだので鍛え続けろと?」
暁人がそう問うと、竹刀を正眼に構えて、
「武、だ。これをてめえに叩き込む。好きな武器を使え。俺の後ろにある」
あ、あの竹刀とか薙刀とかは俺のためのなのね。
「なるほど。つまりはさっきと変わらずかかってこい、ぶっ殺してやるよ、と。」
「言ってない。」
「じゃあ、横失礼して」
さらりと、横を移動しようと思った。
「まぁ、そのまま通すわけないけどな」
当然のように飛んでくる竹刀。予想通りすぎて流石にかわす暁人。
「うっわ!性格わっる!」
言っては見るけど躱しながらいうセリフではない。
「まぁ、だわな。だけど、この連撃を防げるならそれでもいいんだがな」
先程はヒュプノスの左側を通ろうとしたその時に、ヒュプノスは最小の動きで切り掛かってきていた。それを元の位置に戻るように後ろに跳んだのだが。
今回はそういうわけにもいかなかった。誤算があったのだ。
一つは、身体強化の割合。白紙の世界と違い、魔力強化値が10倍、なんていう訳の分からない比率ではなかったこと。
もう一つは。武を舐めていたことにあった。暁人は確かに武に敬意をもってはいた。それは間違いない。だが、敬意だけであり、正しく理合いを知らないのであればそれは舐めているというのと同じことであった。
その一撃は鋭く、加えてとてつもなく重かった。刀に魔力を宿していたなら竹刀ですら人を切り裂いただろう。さきほどの切り掛かりから即座に身体を起こしたヒュプノスは、後ろに飛びのいた暁人の腹に正確に、追撃を決めた。
「グエッ」
「ワキが甘い、とは言わんが、詰めは甘いな。」
うるせえ言葉遊びしてんじゃねえよ、と思いながらも凄まじき威力を流すために体の向きを変え、側面から転がる。
「クソうぜえな。邪道使えないかな」
「あ?何言っ」
「灼装 自動拳銃」
そう言いながら右手に魔力を込めるが、
「チッ、やっぱりダメか」
顕現することはできなかった。
「能力かよ…それむしろ正道すぎるわ。ただなぁ…いいか?能力頼りだったとして、仮に能力無効化とかいう敵が出てきたらどうすんだよ。」
「例えば?」
「想像はつかねえけどさぁ…」
「この御伽噺にはいねえってことか」
「わからん。イレギュラーを除けばいないとしか言えんな」
「結構言及してんじゃねえか」
「まぁな」
やはり、能力などを利用して戦う戦闘方法をある程度は確立しているのか。ってことはやっぱり能力会得してからも長そうだな。もしくは何度か既に戦闘を行っている可能性すらある訳だ。
「はぁ。素直に従うしかねえか」
「そう言われるとそれはそれで疑いたくもなるが…まぁよい。慣れてもらおう。」
こうして、暁人の、超長時間にわたる修行は始まった。
まず、この男に対して、武術の厳しさを叩き込みたかったのか、もしくは凄さを叩き込みたかったのか、恨みを返したかったのかは不明だが、しばらく、少なくとも1週間以上程度は、ヒュプノスは毎日竹刀でボコボコにした。とは言っても、睡眠も食事も、一応は規則的に、暁人と共に取ってはいたが。暁人は何度も躱そうと軌道を予測して避けるが無駄の多い動きでは、無駄な話であった。
そうして武器を手に持つことすらできず1週間。漸く暁人は目で見切れるようになってきた。そして武道場に飛ばされてから約2週間。
劇的な変化と言えるだろう。ヒュプノスの竹刀の間合い内で、正確無比なその剣撃を。服に当てられようとも、肉体には一切当てさせないまでの完璧な体さばきを会得させていた。無駄を削り落とし、削ぎ落とす。
遂には剣を見ずとも躱せるほどに。
「・・・・・」
完全な沈黙。完全な集中。これほどまでの集中をどうやって引き出しているのかはわかっていない。それは暁人にもヒュプノスにもである。ただただ確かなことは。
「せいやぁ!」
あえて大振りに、その代わりに凄まじき一刀となったその一撃を。
「・・・」
沈黙のまま、左手の指3本で。片手で止めきってみせた。
「ふむぅ。合格じゃな」
掛け値なしで褒めるヒュプノス。だが。
「いや、まだだ。」
「うむ?」
「俺はまだ素手しか鍛えてない」
「え?いやまぁ、ここまで鍛えられればもう十分じ」
「知るか。まだ刀も薙刀も弓も銃も、何もかも練度が足りねえ。基礎を教えろ」
ヒュプノスの言葉を遮って、暁人は傲岸不遜に要求ふる。
スパルタコーチはよく聞く。つまり死ぬほどきついってことだ。教え方が死ぬほどきついってことだ。よくある。だけど生徒がスパルタコーチにしごかれても足りないからもっとかかってこいっていうのは滅多にないだろう。
(こりゃあ、本当にありがてえなぁ。クソガキよ)
ヒュプノスは心の中でそう思いながら、
「…いいぜ。全部てめえの使える武器を増やしまくってやる」
そうしてヒュプノスと暁人は死ぬほどきつく、実際死んだんじゃないかというほどの実践を積むことになった。
この修行の中で暁人が手にしたものは幾つもあるが、武術と、沢山の武器の見識。そして魔力制御。また魔力で触れることによる空間知覚。沢山の力を手にした。
ただし、暁人の武術は完全なる我流として花開くこととなったが。
遅くなって申し訳ないし、まだ修行してます。更新少し早くなるといいな…皆さん良いお年を(少し早い)