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異能と迷宮で青春を!  作者: 銀之蒸
試練と正義の英雄編
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第65話 二人の英雄-1

 暁人が向かった先は、もはや兼ねてより夜に向かうことが日課となりかけていた稽古室。


 行く理由は自身の稽古ではない。どちらかといえば暁人が計画を企てる上で被害者に選ばれることになる可哀そうな人たちである。


 まぁ、悪だくみといっても大したことではないし大きな被害は特には出ない。


 せいぜいがなつに叱られる程度の話である。


 そうは思いながらも同級生に叱られるというのはどうかとは思うが。


 そんなわけで暁人は稽古室につく。そこで修行しているのは...。


「フッ!」


 横薙ぎの一閃。竹刀を払いつつ自身は後ろに下がって、バトンかと見紛うほどの軽やかさで手元で回し扱っていく。


 攻守一体。近接するときには攻に転じ、下がるときは守に転じる。


 わかりやすい技術且つ理屈も簡単。だがしかし...。


(強い...!)


 反復して繰り返した動作は、段々と成長へとつながっていく。


 毎日正拳突きを繰り返すほどに拳速が上がるように、竹刀の素振りを繰り返すほどに剣速が上がるように。


 いつもいつも、毎日毎日。飽きる程の実戦を、鍛錬を積み重ねただけ。ただそれだけの薙刀捌きが、鳴子の強さをその場で示していた。


 恐ろしいほどの成長。ただ一度暁人と戦った時よりもはるかに成長している。


 時に世界は人を、勝ちよりも負けの方が成長させる。


 そう表すかのように、その武は洗練されていた。


 暁人をして見惚れさせるほどには。


 その一体となった攻防が、絡繰り武者を追い込んでいく。


 自身が距離を取る技ではなく、相手自身に距離を取らせるようにその場で回り遠心力を込みで叩き込む。


 その技は、まるで...。


(俺の...あれか!)


 回転して叩き込む技は幾つもある。といっても、そもそも暁人の技巧には舞のような要素が大きく含まれているのは言うまでもない。


 回転すれば勢いを載せることも、回転すれば勢いを流すこともどちらにも応用できる。


 その距離を取らせる技を...鳴子は暁人から直接習ったわけでも、直接見たわけでもなかったが...以前暁人が間接的に流した手法から本人が独自に編み出した形が...暁人と重なる。


 吹き飛ばすように放った一撃に大きく弾き飛ばされる。ただ暁人と違ったのは得物の差か、パワーの差か、武者を大きく吹き飛ばす。


 あの武者が地を転がるほどの威力。今までだってそこまでは出なかった。そこまでの威力は...芽衣の拳だけ。


 それに震撼しかけていた暁人が、度肝を抜いたのは。


 もう一つ。暁人の知らない一つの奥義の形。


 スタイル:ジゲン。其の弐の太刀。屍山血河の一撃同様の物。


 それは、薙刀による居合の形。でも、居合とは違い、収める鞘は無く。


 右足を前に、左手で薙刀を持つ。その薙刀の矛先は、武者の方向とは真逆に。


 ゆっくりと、右手を薙刀に伸ばす。ありったけの力で握って、しっかりと身体を左側へ捻る。


 地を踏みしめ、その力をゆっくりと...溜める。


 気が満ちる。その場に、充満する空気が震えてるようにすら感じる程の...重厚な殺気。


 進もうとする足を...意志を。止める程の...殺気。


 感情はないのだろう武者に、死を予感させ...その歩みを止めさせるその怪物っぷり。


 だが、武者に踏み込まぬ選択肢無し。


 武者は一歩...加速的に踏み込む。その速度は、暁人をして速いと思うほどに。


 今鳴子が闘っている武者の難易度はアドバンス。逆説的に今の鳴子の実力を表す指標と移り変わる。


 飛び出した瞬間、もし武者が人だったのなら死を確信したことだろう。




 振り抜かれる瞬間、鳴子の心・体が完全に満ちきる。


 十全に整えた精神と体勢に自分の魔力を載せきって...一つの技を導く。


 技名も無い...ただ無銘のままに。一振り。故に、もしこの技に名を付けるなら。


『無銘 薙』


 ただ一振りで、一薙ぎで。横一線に、真一文字に広範囲を切り伏せる。


 聖の屍山血河は一撃を分割する技。もし仮に、この薙と同じ威力で撃ったとすると薙の魔力の二倍...逆に同魔力量なら半分の威力。


 シンプルな一撃を最強に。必殺へと昇華する。


 故に...その一撃は。武者の竹刀も、具足も纏めて全てを切り伏せた...。





「うーん...天晴れ!」


 さすがやね。うんうん。と頷く暁人にいつから入ってきた、と息をつきながらも反発する鳴子。


 まぁまぁ、と宥めながら率直に暁人は評価する。


「いい技だね。というか、前より格段に進化してないかい?」


 まさか出てくるのが高評価のセリフとはついぞ思わなかったのだろう。数秒ほどキョトンとした表情でフリーズを見せる。


 そうして生まれた数秒の間の後に、綻んだ顔で...というよりどや顔で。


「頑張ったからね!そんぐらい当然よ!!」


 薙刀を片手でバットの如く肩に担ぐ。


 普通そういうものではないと思うんだけど...っていうか。


「得物しまえば?話すのには邪魔だろ?」


「え?これから話すの?」


 わーお見事な意思相違(アンジャッシュ)


 頭を掻きながら暁人は話す。


「まぁどっちでもいいんだけどさ。残魔力量に余裕がないみたいだから迷宮に一足お先に潜ろうかと思ってね?」


 ここなら誰かいると思ってー...とかいう白々しくも適当なことを言う暁人。


 得物を消しながら、不思議そうに鳴子は言う。


「うーん...なるほどね...理解は出来る話だけど、納得はしがたいね。」


「何が?」


「まぁいいや。あたしもちょっと違う相手と戦いたかったし。暁人相手でもいいけど...殺し合うまで行かなそうだしね。」


 まぁせやな。殺す気で味方内とはやらないよな。


 そんなこんなで、鎧から普段着に戻す鳴子。


(前から思ってたけど、誰も露骨に固有武装着ないんだよなぁ...やっぱあれかね?戦闘時だけとかそんな感じなのかねぇ?)


 まぁどうでもいいことだけどな。


 そんなどうでもいいことを考えながら、二人は下の階へ向かっていった。





「で、何が納得いかなかったん?」


「え?」


 暁人が口火を切って話し出す。


 二人の歩調は決して遅くはないのだろうけど、速いわけではない。


 いわば普通。普通に、階段を降り、体育館へ向かう。


 その間に聞いておきたかった、さっきの話。


「いやさっき、理解は出来たけどーって言ってたじゃん。」


「あぁ、その話?だって、一層の敵消えてたじゃん?」


「うえ?」


 何の話?状態の暁人に対して情報共有されてなかったのか、と鳴子は口を開く。


「一層の敵って全員消滅したの。多分そっちのが倒し終わったときくらいにはね。」


「・・・マージで?」


「マジもマジだよ。援軍として向かわせたのは、とりあえず救命用の沙紀と菜月でしょー、六花と愛でしょー。っていうか、疑問に思わなかったの?芽衣が来なかったこと。」


 そう言えばそうだな。ぶっちゃけ一大勢力って言い方をするのはあれだけど最高戦力ではあるはず。


 経験値的にはまだまだだが、才能、現戦力ともに申し分なし。それなのにこっちに来なかったのは、保険として来なかったものだとばかり思ってたんだが...。


「・・・あぁそういうことか。そっち側で一緒に戦ってたからってことね。」


「そーゆーこと。納得した?」


「うん、そっちは...で、何で納得は出来なかってん?」


 結局最初に戻るお話。あぁ、もしかして。


「一層の敵いないのにどこに行くのって話?」


「あ、そうそう。二層だったとしたって、今まで慎重に行動していたはずなんだけど...どうして急に?ってなったわけ。」


 あー、なるほど。そりゃそうだよねぇ...だって、今まではあんまりガツガツ行かなかったからなぁ...。


 でもな...。


「今は...強くなりたい。少しでも...英雄に届くように。」


 あの名に届くように...という美徳のような話ではないのだがシグルドに...あの勝ち方をしただけでは申し訳が立たない。だから...こっちも英雄になれば、少しは報われるだろう。


 主目的にも、近づくんだろうしな。


「ふーん...。」


 よくわからないって感じに鳴子は言う。


 まぁ、そうだろうけども。


 ファフニールと対峙するっていう超常的なことを体験して...今ここで冷静に戻っているからこそ思う。


 本来のシグルド・ジークフリートの強さ、偉大さが。


 あの二人が龍殺しという異名を得ることが出来た最大の要因たりえる怪物に...その身で勝ったってんだから化け物じみている。


 幾ら神秘の世界に存在しているからと言ったって、並みの次元ではなかった。


 迷宮に入る...が、当然。第一層には敵はいない。


 そのまま二層に進むべく、道を進んでいく。


 暁人にとってはもう、慣れた道。


 故に、しゃべりながらでも...進んでいける。


「あんた、方向音痴じゃなかった?」


 大正解だが、初見でなければどうにかなる。特に何度も道を通ってれば何とかなる。


 そう言って迷うのが方向音痴クオリティ。のはずなんだが、今回ばかりは少しだけ勝手が違った。


 なぜなら...。


「・・・こっちであってるよな?マーチ。」


「うん...あってるよ。そのまま進んでって大丈夫だと思うよ。」


 一瞬だけ、不安に感じたと言うほどでもないが確認のための暁人の言葉に反応するマーチ。それを聞いて迷うことはないのだと鳴子は確信を持つ。


 ただそれと同時に...マーチが協力している訳が分からなくなる。


 何を理由に動いているのか...それがわからなくなる。


(強くなる...そう言ってたけど...。)


 それって魔力回収と一石二鳥って意味だよね?


 グルグル回る疑念は、違和感として。その頭に残り続ける。


 気づいたときにはもう、トンネルを越えて龍を倒した場所に至っていた。


 あの時の扉は...もうない。あの時の広場は、あの時のままに。


 ただ一つ違うことは、そこに大きすぎる扉があったこと。


 それは...もうここに支配者がいないことだけを指し示していた。


「・・・こうなるんだね。」


「まぁ、一つサンプルデータってとこだよな。」


 首を軽く鳴らす暁人、準備運動を始めているように見える。


「・・・行くんだよね。」


「ん?んー...どっちでもいいけど。」


「は?」


 暁人が何を言っているのかわからなくなる。


 だって...魔力...。


 魔力の量が...。


 グルグルと幾重にも疑問が巡る。


「まぁぶっちゃけ?行く必要もないんだけど、行かない理由も無いかな。」


 ・・・まさか。


「ねぇ...マーチ?聞かせてほしいんだけど。」


「あ...えっと...うん。鳴子さんの推察の通り・・・魔力量は別段足りてないわけではないです...。ここに来るまでは内緒だって言われてましたけど。」


 暁人・・・あんた...!激昂しかけた鳴子を暁人は片手で謝るポーズだけでもしながら語る。


「すまんね。そこは騙した。だけど、強くなりたいのはガチでね...正味焦ってる。」


「焦ってる...ようには見えないけど。」


 至って冷静そうに焦りを口にする暁人の眼を見た鳴子は、そこに焦り以上の感情を眼にする。


「俺は...十二分だと思うほど強くなった気でいたし、なんならもう英雄に匹敵するほどには強いつもりだった。だけど...今の俺で届かないから...いや、届かないっていうんなら話はもっと簡単だろ。」


 俺が...俺が強くさえなりゃあいい。


 眼に宿す光は、一瞬だけで鳴子を気圧すほどに。


(!!?なんって眼をしてんのよ!?こんなのもう...)


 狂気。振り切った最終地点。そこまでに至っている。


 どんな熱情も、どんな信念も。行き過ぎれば狂気へと差し変わる。


 徹底した正義感。徹底した自己主義。徹底した自己犠牲。一切の妥協のないそれは...まさしく信念などで済まない。例え信条、信念であっても一欠片だって歪まないなんてことは絶対にない。


 ただその歪みというものは、ある程度の妥協やある一定程度の酌量のようなものだ。何一つとして、悪い歪みなどではない。


 それは正しく...そう。人間としては()()()()()()()()()()であった。


 他の今までの信条としていた慎重さも、厳密さもかなぐり捨てて。ただ一人、強くあろうとするのを見て...私は。


 鳴子は、迷った。この強さへの渇望を、止めるべきなのか...それともこの背中を、押すべきなのか?


 大体の人は岐路において、そのものの覚悟を量ろうとする。その推量の果てに、決断をする。


 だから、鳴子は。


「でも...いいの?聖はまだ寝てるとしたって、菜月に篝だって...!」


「菜月は、多分止めるんだろうな。だけど、それも覚悟の上だ。」


 それで篝は...。語ろうとする暁人の開こうとした口を封ずるように現れるは一筋の光。


 否。


「俺がどうしたって?」


「「!!!」」


 影が差す。ずいぶん昔より人は言う。噂をすれば影が差す。まさしく...まさしくだ。


「・・・いつからいたんだよ、篝。」


「お前にしては愚問だな、暁人。最初っからだ。っても、稽古室に行ったとこは知らんが、さっきマーチから同時進行で聞いた。」


 そう飄々と語る篝。止められる、そう思うから鳴子は苛立ちもしない...むしろ安堵が残ってる。


 だけど、暁人にも苛立ちは見られない。


「・・・わりいな、鳴子。今日の俺は暁人(こっち)側なんだわ。」


「え...?」


 そう言いながら、暁人の側に立つことを堂々と宣言する篝。


 鳴子にはほんの少し、理解が及ばなかった。


「なん...で?」


「・・・いいか?暁人。」


「別に言ったって構わない...が、理解できないと思うんだが。」


「まぁ...そうだろうな。」


 鳴子は知らない、龍殺しに「勝てた」理由の真実。それはそうだろう。暁人が菜月たちに共有しなかったから絶対に知る由もない。


 知らなければ...死に急ぐような暁人の強さへの渇望の意味は分からないだろう。


「暁人は...純粋に英雄を闇討ちしたこと自体を嫌悪している。幾らまっとうに情報を溢してたとしたって、英雄らしくない気がしちまっている。幾ら古今東西の英雄が似たようなことをしていてもだ。真っすぐじゃねえ。純粋な強さじゃねえ...ってな。」


 別に純粋である必要はないのかもしれないが、そのままだとあいつらに明確に勝てたと言えないとか...まぁそんな理由だと思うぜ。


 そう言いながら暁人を確認する。


 ふんっ、と軽く鼻を鳴らす暁人。


 大まかに言えば間違いではない。国語の回答としてはちゃんと完答がもらえるだろう。


 厳密に言えば。


 暁人の優しさや甘さ、敬意と言ったものが彼ら龍殺しを謀略で殺すという手段を全員に取らせてしまったことへの負い目がその心に重くのしかかっている且つ、リーダーとしてこのまま弱いままで誰かを失うということへの恐れであった。


 だからこその渇望。だからこその狂気。


 どちらの理由にしても決して暁人だけが負うものではない。だが...リーダーとして、大将としての自分自身が、自分を追い込まずにはいられない。


 全てを賭けろと。命を賭して闘えと、死を恐れながら叫ぶ矛盾。


 それら全てを多分、暁人ですら理解しきってはいない。だが...篝はその一端となった闘いを知っている...むしろ、それに手を貸している。


 だからこそ、この強さへの渇望に俺は...手を貸さなくてはならないと考える。


「俺はあの戦いで影討ちに手を貸しちまった。その手法を取らせちまった一端なんだよ。だから、止められない。止めるつもりもない。」


 流れる沈黙。その冷たさに、心が冷え切りかける鳴子。


 だがどうしても...もう一つだけ気になってしまった。


 その言葉を振り絞るように聞く。


「じゃあ...じゃあ何で一人で来なかったの?一人で来たのなら...誰も止めなんて...。」


「それじゃ死ぬ気でできないからだよ。」


 自身の総てを振り絞る、そのあと帰れなかったら...誰が暁人の死を伝えるのか。そういう意味で暁人は鳴子を連れて来た。別に鳴子じゃなくてもよかったといえばよかったのだ。


 その言葉を聞いて鳴子は...。


「・・・ない。」


「ん?」


「私は...誰も死なせたくない!」


 その台詞は、今まで少しずつ...少しずつ毎日培い続けてきた女の意地。それも、守れなくて弱いと言われた女の。


 小さくとも積もりきった意地だった。


「・・・だとさ、暁人。」


 肩をすくめる篝を見て、鳴子に笑いかける。


「じゃあ、任せるわ。だから...死ぬなよ?」


「当っ然でしょ!」


 三人はそのまま第二層の扉の下をくぐり下っていく。


 各々に、信念を秘めながら...。

チャプターをついに作ってしまった...作るつもりなかったのに。


まぁこの後のタイトル考えんのしんどいからね、しょうがないね。


そんなメタな話じゃ無くてだね...まぁいいか。


最近月曜投稿が多いと思うんですけど...このままで大丈夫ですかね?


あ、不定期投稿の代わりに速度上げるかっていうだけの話です。まぁ、感覚に寄るんであれなんだけどね。


色々考えまーす...と言ったところでいつもの挨拶をば。


いつも読んでくださっている皆様!誠にありがとうございます!


ギャンブル系の漫画って面白いけど作者どういう頭してた辣くれるんだろう...。

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