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異能と迷宮で青春を!  作者: 銀之蒸
軍神と女王編
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第60話 |光と影 女王と龍《another》

 自身の背中から、心臓をぶち抜いた二本の槍を見て驚きながらシグルドは問う。


「君は...いつから...!?」


 その問いは暁人にではなく、自身の肉体を穿った男...篝に向けて放たれたものだった。


「...さぁな。いつから...と問われたのなら、むしろ聞くがそもそも何がいつからだ?」


 いつから君は後ろに立っていた、か?いつからお前はここに来た、か?


 いや、むしろ。


「お前が聞きたいのはWhen(いつから)でも、Where(どこから)でも。ましてWho(どいつか)でもねえ。How(どうやって)?だろ。」


 時も、場も、その存在も関係なく。ただ純粋に。手段を。


 それだけだろ?篝はそう言う。


 それもそのはずだ。心臓を貫いたのだから。長くは生きられないのだから。


 その言葉にゆっくりと笑うと、シグルドは訊く。


「あぁ...だな。聞かせてくれ。」


「まぁ、大したことじゃねえさ。俺の異能は影を操るもの。影を刃にも、糸や縄のようにして縛り上げることもできるんだが...その用途の中に、影を液体のようにとらえるものがあってな。そこに敵を沈めてズタズタにしたりできる。」


 まぁ、これはあくまで色々と試していた時の副産物で、これそのものは大したことじゃないんだがな。


 そう首を捻る篝の言葉を聞きながら、口には出さなかったもののシグルドは戦慄する。


(・・・これは...参ったな。ここにも...もう一人、化け物が居やがった。)


 その内心を露知らず、篝は語り続ける。


「だが、さっき言った液体的な使い方。これは完全に液体ってわけじゃあねえんだ。あくまで影の中に空間を作ってるだけ。平面のように見える空間の実体は立体でしたってだけなんだわ。だから、沈めることもできる。用途を変えれば...()()()んだよ。」


 これを応用すりゃあ、不自然でないように光の補助を与えてやることで、壁走りじみたショートカットも、この通り簡易シェルターみてえな隠れ家も出来上がる。


 そう語る篝に、一つ思い当たるシグルド。


(あぁ...なるほど。炎環走竜...あれは、攻守一体で済まない。攻守補助の全てをこなしていたってか。)


 その照明としての役割は、ほんの少し、最初のうちに暁人がシグルドと手合わせしているうちに見せたものに過ぎず、直接的攻撃の意味は持たなかった。


 だが、その役割は決して役立たずなんかではなく。十二分すぎる程に光と影を生み出した。


「まぁ、その間にお前の影に俺の魔力を溶かして、影潜りをさせてもらってな。ここぞってタイミングを待ってたわけさ。それこそ、必殺を狙えるその瞬間をな。」


 先にも述べた通り、必殺の瞬間は誰もが無防備だ。獲物を狩るときに、狩られることを考えながら爪を振るうものはそう居ないだろう。


 暁人の様に、誘わない限りは...ほぼほぼ必殺である。


「まいったね...戦う相手を間違えていたようだ。」


「ハハッ、確かにな。お前らが相手にしなきゃならんのは、暁人じゃなく、暁人が率いる俺達だったわけだし。まぁ、しょうがねえさ。会話と戦闘の中に、幾つもの毒を混ぜてた暁人が一枚上手だっただけだ。」


 言葉という毒。情報という毒。


 これらは思考を縛るものである。確かに信じられる情報に縛られたのなら、行きつくところを予測することは簡単なんだとさ。


 そうは言いながらも、篝は表情を少しだけ曇らせて言葉を続ける。


「とは言ってもだ、あいつ自身。お前だけは一騎打ちで倒したかったらしいぜ。真っ向からたたっ切りたいって全力集中の限界値を上げ続けたり、アホみたいに居合だけを鍛え続けたり、てめえら二人を相手にするための戦い方ばっかり鍛えてたりな。」


 どんだけ鍛えても、足りねえ。足りねえ。って、汗水たらして、血反吐も吐いて。てめえを最高に警戒して、お前以上の身体能力に対処できるようにしたり。


 そうまでして、勝ちたかったんだ。


「でも、その理想だけじゃ確実じゃないから。数多の毒と策謀で。絶対にしたんだとさ。」


 もっとわがままでもいいのにな。


 そう言う篝の表情は、なんとなく物足りなさそうだった。


 傍にある気配は篝も分かってる。だから、そっちへ闘いに行きたいのはそうだろうけれども。


 そう言う意味ではなく、もっと...何かを望んでいたかのようであって。


 そう思いながらもシグルドは揺らぐ景色と、崩れ行く肉体を感じて。


 ゆっくりと目を瞑る。


 そこに篝はただ一言。


「眠るあんたに一つだけ。それでも、公正でいたいから、()()()()()()()()()騙しながら、真実を吐いていたんだぜ。」


 少しだけ言葉を添えて。


「はっ...はは。今度の言葉は...随分と...心が軽くなる。」


 毒じゃなくて、薬だな。


 小さく呟くとシグルドは光の泡沫となって消えていった。



「だとさ、暁人。聞こえたかよ。」


 極限の居合を放ったまま、膝から地に落ちたのだろう。正座のままでとどまる暁人に篝は訊く。


「・・・聞こえねえよ。聞いてる暇なんざねえんだ。」


 その顔から、数粒。滴るは汗か涙か。聞くのはおおよそ無粋なんだろう。


 そう思うから、暁人に背を向けて篝は訊く。


「・・・で、あれは想定内?」


「・・・なわけねえだろ。だが、想定外は想定外だが、まだ対応圏内だ。」


「ほぉー...素直に感心。さっきみたいに、ぶった切んのか?」


 あいつも確か龍の肉体だったんだろ?


 と、既に光となり散ったジークフリートを言う篝。


「バカ言え。まずもってサイズが違うし、それ以上にあれだってコツコツ戦闘中に仕込んでんだよ。」


 炎環走竜は攻守一体。あれで少しずつ焼いてたからこそ一手で断ち切れたわけだし...それに。


 ゆっくりと立ち上がろうとした暁人だが、その立とうとする瞬間にほんの少し、眩んだかのように、ふらつく。


「!?大丈夫か!?」


 崩れかける暁人に肩を貸しながら篝は考える。


(魔力の過剰消費による影響か?だが、深炎夜叉そのものはそんなにコスパが悪いか?確かに炎夜叉を常時使用してたし、炎環走竜も常時使用してたとはいえ、基本出すとき以外は維持はそんなに難しいわけではないだろ。ちょっと「集中」すりゃあ...)


 そこで気づいた篝は、ほんの少し苛立った様子で暁人に聞く。


「...おい、暁人。お前今、どんだけ集中してた。」


「・・・最初っからフルスロットルだってーの。おかげでこっちはゲロ吐きそうなくらい眩んでやがる。」


 とどのつまり、集中力のキャパオーバー。


 それほどまでに龍殺しは強敵で、化け物じみていて、そうせざるを得なかったほどで。


 少なくとも暁人はそれ相応だと、敬意を持っていたのだ。


「・・・どちらにせよ、やるべきことは変わんない。ってーか、あいつらを助けに行かねえと。」


「・・・わかった。急ごう。」


 そう言いながら暁人は肩を組み外す。


 そのまま二人は歩を進めようとする。


 きっとそのまま、そのまま何も起こらず、ただ龍が敵として暴れ続けていただけなのなら。そのまま、二人は止まることなどなかっただろう。


 だが、その歩を一瞬止める出来事が起こる。


 それほどまでの予想外。それは。


「「!!?」」


 女王、ブリュンヒルデがその爪に掛かり大きく引き裂かれたことであった。







 志島の「閃電」はしっかりとブリュンヒルデの胸元を大きく切り裂いた。


 小さくであれば恥じらいもあろうか、もしくはそれもなかったかもしれないが大きく切り裂く一撃は雨月とブリュンヒルデの攻防の流れごと、断ち切った。


 それは簡単に治ると言えぬほどの深手。仮にルーン魔術に優れているブリュンヒルデであったとしたって。


 その一撃を放たれた時、ブリュンヒルデは迷った。


 そうまでして、私を越えたいのかと。この越えるという感情に、殺意や恨みはないのはなぜかと。


 それは閃く稲妻に胸を打たれたからなのか、それともあまりの深手に文字通り血迷ったのかはわからない。


 心に訪れた充足感と、相対するもう一つの感情。


 初めてこの戦いで...認めさせたいではなく勝ちたいに。


 ただ、ありったけ(全身全霊)()出せるだけ(全部賭け)を。


 自身の中で禁忌としていたはずだった。


 他人の力を誇る王など無意味。自身の無力を叫んでいるのと同じだから。そんなものを我が物顔で振るったところで自身の強さを認めさせることなんかできやしない。


 そう思っていたからこそ、使う気も使いたくもなかった。


 だが、この瞬間から。王ではなく武人として...戦士として。


 全てをかけて戦うと決めた。


 倒れそうになったその身体を、ブリュンヒルデは何とか起こす。


 自身の後ろへ斬り抜いた直後に両足で滑りながら着地した志島と、その一撃が放たれた瞬間のその衝撃故に後ろへ大きく仰け反るように退いた雨月の両方を見えるように立つ。


「・・・まだ、立つのか。」


「やばすぎ...でしょ。」


 畏怖や畏敬を表す二人の言葉に小さく笑いながら、槍を消して言う。


「安心していいわ。これはあたしの力じゃない。このままいけば間違いなく...あなた達の勝ちは揺るがないもの...だから、あたしの()()()()()()。最大、最悪、最強の眷属をもって、あなた達を倒す!」


 ただ、ゆっくりと右手を挙げて...振り下ろす。


 その瞬間に二人は感じる。そこいらから吹き上がるその威圧感と魔力量。


((間違いなく...今までとは桁違いの...!!))


 暁人が対峙していたタロス。それも間違いなく神話の存在だ。間違いない。


 だが...ここまでの威圧感も魔力量も無い。何より...神話に於いて存在しなければならない重要性が違う。


 例えタロスが存在しなくなったとしても物語は成り立つ。ユミルがなくなったらだいぶ問題だが。


 だが、ファフニールが居なければスクルドやジークフリートの物語はない。


 故に、夢の世界において有り得てしまう巨大すぎる存在感は。


 その場にいた英雄予備軍...暁人、篝、留目、志島、雨月の全員を戦慄させるには十二分...否。


 二重に十分すぎて。


 暁人の対応圏内という言葉を聞いていない三人としては遥かに大きすぎる絶望が立ち塞がったようなもの...。


 だが、一瞬志島の頭を掠める何か。


 しかしその刹那。


「グルアァァァァァァァァァアアアアアアアアァァァ!!!!!!!!!!!!!!!!!」


 轟く咆哮。竦む足と霞に消える違和感。


 敵の攻撃の意思表示。一瞬だけ口元にちらついた様に見える炎。


 二人が一瞬立ち止まる瞬間に、唯一別種にして同質の幻想の翼(グリフォン)だけは。


 翔んで、二人を掴み空へと駆る。


 その直後に放たれる、幻想の頂に座する邪龍からの火炎。


 ただ、その威力は...あまりにも...。


「これはやべえぜ...鳥肌が走るったりゃ、ありゃしねえ...!」


「お前が言うな。冗談に聞こえる。」


 留目は冗談交じりに放った言葉を志島は咎めるように言いながらも、否定しない。


 幻想はあぁ、人の果てなき幻想は...悉く、尽く...。


「規格外・・・!」


 空を飛ばなければ、それこそ...。


 そう思うほどに、その一撃は異次元すぎる程に床を焼き焦がしていた...!


 数瞬ほど遅れていれば...。そんな想像をしてしまうほどの威力に少し尻込みをする三人。


 宙を舞う鷲獅子(グリフォン)とその腕に捕まれる二人...に留目はついに。


「ってーか、せめて背中に乗れ!?!?持ちにくいねん!?回避するにも邪魔やねん!?」


 と似非りながら留目はキレる。すまんかったって、でも一回降りなきゃだな...とかなんとかグダグダやってる間に...。


 放たれる、二度目の...!


「あっぶねえ!!?」


 口元に火が集まるようにしてから、光線の如く真っ直ぐに炎は飛ぶ。


 留目は二人を掴んだままその場で宙返りして地へと駆ける。髪…というより羽根一重で避ける…というか寧ろ抜けて宙を待った羽根が焼かれる次元で、留目は心底恐怖する。


 やはり余りにも規格外。これは…。


 そう感じた瞬間、留目の両眼は左右で全く異なるものを眼にする。


 左眼は二人の龍殺しを確殺する、陰陽大将の姿。


 右眼は龍を捉えながらも、その手前に突如として現れた通知で。


「・・・?なんだ、この通知?」


 地に降り、二人を放しながらも突如眼前に現れた「何か」の通知に気を取られその詳細を読もうかと考えたが…。


 スゥゥゥゥゥと、息を吸う龍を前にそんな余裕はなく。二人を背に乗せ直して空へと駆け出し、龍の攻撃を避け続ける。


 出来れば反撃もできるように…と、考えながらもまずは回避に専心しなければと留目は炎撃を回避することに心血を注ぐ。


 雨月は雨月で瓢箪に入った水を飲み干す勢いで飲みながら、ゆっくりと集中力の回復を。


 そして志島はただ一人、思考していた。


(ガチの邪竜…でも、何かおかしい。ってーか、そんなに魔力量残ってるとは思えねえ。なんなら、あいつの魔力量を遥かに上回ってる存在をどうやって呼び寄せてる?もしくは、どうやって手懐けてるってんだ?)


 あらかじめ述べたように、魔力量が桁違いに多い邪竜を前にその違和感が拭えない。


 自分の異能がどれほどのものを溢していたとしたって、その本質まで覆る訳ではない。


 志島自身が魔力で呼び出すっていうより、そいつの形を魔力で作ってやって、魂の宿らぬ人形を作ってやる程度。


 それに指示を持って動きを命ずるのに…。


(考えてもみりゃ、シグルドもそうか?あいつも割と思うがまま動いてるし…もしかして、俺が配下にしているのが「自分自身」の分身だからなのか?だと仮定して魔力量はどう覆す?シグルドもジークフリートも…)


 留目の背に跨りながら、志島は思考する。その思考はまるで、暁人や聖同様に…正しく考察をしていた。


 その過程で、一つ。志島の違和感に対する答えが出る。


(というか、そもそもこんな魔力量あるのなら、あんだけ出血してても治し切れるだろ?ルーン魔術だってあるから少し効率は良いはずだし…加えて、あの深手で呼び出したって…。)


 そう思って下を見た志島。ブリュンヒルデは片膝をついて地を這うほどの低姿勢をとりながら、それでもなお息がある。


 虫ですら死ぬほどの状況で、虫の息を保ち続けている。


 その明確な理由を解ってはいない。だが…。


「このまま、時間稼ぎじゃ絶対ダメだ。」


 唐突にそう呟くほどの思考を志島に与えて。


 二人が同時に「「えっ?」」と呟いた時に。



 先程、陰陽大将の足を止めさせた衝撃が三人にも襲う。


 それは余りにも唐突に、無造作に。


 まるで虫でも払うかのように。


 ブリュンヒルデの背をざっくりと、その爪で切り裂いた。



 

 混沌と混乱を招く災厄の戦いの幕はまだ...上がったばかりだ。

ご飯食べた後で満腹しながら後書きしてます。


どうも、作者の銀之丞です。


相も変わらず寒いですね。先週は割と疲労で死にかけていた(?)のが腹だたしいほどです。今は立つと言うより膨れ切っていますが。


それはさておき、漸く第一層の終わりが見えてきましたね。


あれ?これこの前も言ってた?マジで?言ってなかった?わかんないか。


そう、ラスボスは邪龍ファフニールだったのです。とかなんとか。まぁ、詳しくは追々ね。


とか言ってるけど、お腹いっぱい過ぎて幸せですが少し食休みをしたいと思います。


というわけでいつもの挨拶をば。


いつも読んでくださっている皆様!誠にありがとうございます!


え?終わる終わる詐欺?何度目かの最後?そんなまさか、某少年誌じゃあるまいし(遠い目)

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