第53話 |集中《ランクS》
暁人が軽々と武者を倒した後の稽古室。
そこにいた面々は少しづつ姿を消して、残っているのは朱莉と聖。篝に志島、雨月に暁人と言った感じになっていた。
殆どの長物組は流石にメシを求め、体育館で暁人の修行に付き合っていた祥子と六花も流石に疲れたようで風呂に入りに行った様だった。
とかく、残った面々は暁人の方に近づいて各々に聞きたいことを聞く腹づもりの様だった。
というわけでまずは聖は暁人に問いかける。
「滅茶苦茶な速さだけれど…維持はできるの?」
「無理だね。瞬間的な最高火力みたいなものさ。」
「ほー…ちなみにコツは?」
「超、集中。」
やっぱりか。やれやれ的な顔になる聖と篝。
正直なところ、志島には、何が何だかって速さだった。集中したから出来るものでもないだろうって感じだし。
それは多分、雨月と朱莉も同じなんじゃないかな?
だからこそ…なのかは分からないけれど、朱莉はこんなことを聞く。
「さっきの居合いって、あたしにも出来るやつ?」
「…難しいね。全く同じは無理だと思う。ってーのも、灼装の特殊強化込み込みであの速度だからね…。」
濃縮100%自前身体能力じゃないからなぁ…と暁人は言う。
しかし、暁人はそこに但し書きを付け加える。
「ただ、これから技術、身体、後はまぁ精神とかも身につけたらあれぐらいは余裕なんじゃないかな。なんなら、あれ以上行けると思うよ。」
暁人の言葉には(こう言う時はだが)表裏がない。淡々と事実だけを述べている。だからこそ希望があると言うのは切々と伝わってくる。
「そっか。じゃあ、頑張ればできるやつだ。」
そうだね。と、さらりと笑顔で暁人は朱莉に返すが、ちとポジティブが過ぎるだろ…とか思っちゃう。
そこに口を挟むのは篝。
「でもさ、あの技。速いけど読まれたらそれまでだよね。」
「だよねー。あの状態、あくまで魔力による爆発的な加速みたいなもんだから本当に瞬間的だし、身体的集中と技術的集中の二つを使わにゃならんし。」
どゆこと?ってなる三人に、聖が解説する。
「さっきの技は、そもそも純粋な集中力が必要なんだよね。身体にしっかりと魔力が満ちる瞬間とかを狙わないとできないし。多分そっちが身体的集中。それに対し、魔力を局所的に濃くして密度を跳ね上げ爆発的に強化する技法…それが多分、技術的集中かな。」
「ピンポーン!原理はそんな感じ。だからそこに灼装を使うか使わないかくらいしか差がないから、頑張れば出来るやつだよ。」
「それでなのか…納得。」
いや納得しても使えないんだよな…いや、いずれ出来れば問題ないやつ…かな?
とりあえず、俺の聞きたいことは別だからな。
「んで暁人。この後はどうする?」
「あー…この後?宣戦布告しに行って一週間後に潰しに行こう。だからある程度の手合わせで留めておきたいけど…うーむ…。」
「どうした歯切れの悪い。」
ってかなんだよ宣戦布告って。何すんだよ。
まぁそれはさておき系なんだろうけども。
「いや、出来ることがないか考えてたんだが…聖。志島の魔術センスって、どんなもん?」
「微妙だな。理論は頭に入ってるんだろうけど、まだ戦闘経験が浅いからな。」
「I see。じゃあ、そうね。志島にはこれから、武者と戦ってもらうかな。ただ、アドバンスで無茶をするのは良くないので、まぁノーマル程度でこなしつつ。ルーン魔術や五行の両方を使うことを頭に入れて闘ってみ。」
「えーっと、魔術オンリー?」
「にしてもいいけど、それブリュンヒルデ相手にオンリーで出来ると思う?」
無理ですね。連続攻撃が必須ですわ。
納得のセリフを言われてしまった…。
続けて暁人が言う。
「そも、ルーン魔術に於いては、何をどうやっても本場には勝てない。けど、五行ってイレギュラーや、軍勢って異能があることを考えれば、そんなに分の悪い闘いってほどではないと思っててね。」
まぁ、ブリュンヒルデの事はルーン魔術とかの勉強の時に聖にある程度は聞くことができた。
お陰でその厄介さが身に染みて理解できたんだけど、いまいち、相手の実力への理解に完全に結びついているとも思えなくて、厳密な分析ができたとは言い難かった。
多分その点を埋められるあたりが暁人と俺との差なのかもしれない。
知らんけど。
「まぁ了解。要約すりゃ全部できるようになっとけってことな。」
「うん。それでいいよ。」
と、なんだかんだと雑な指示をされる。ほんまにこいつはって悪態をつく暇もなく、雨月や篝に指示を出していくもんだから腹が立つ。
全体に指示が終わったのか聖が暁人に確認をする。
「で、これから宣戦布告しに行くってなんか意味あるの?」
「え?ないけど。」
ないのかよ。お前のことだからなんか意味あんのかと思ったわ。奇襲とか。
そんな表情をしていたのがバレたのか、暁人は苦笑する。
「いや...少し考えてね。ヒュプノス曰く、『英雄になれ』...でしょ?闇討ちって英雄じゃないんじゃないかと思ってさ。」
「真面目かよ。」
「真面目だよ。だから正々堂々、真正面に姿晒してから真っ向から影討ちでもしてやろうかなー...って。」
もはや支離滅裂じゃねえか。その一言で笑いが起こって。
結局そのあと、俺らは各々の準備を兼ねた最終調整に取り掛かった。
細かな作戦と言えるほどの物はなかったけれど、包括的には対策はとれた...と思う。
暁人の『切り札』と正々堂々とした影討ち。俺の戦闘技術の向上。聖の作戦...。
色々なものを揃えていく、決戦までの一週間。
そうしていくうちに、俺の一日...ひいては一週間は簡単に過ぎていった。
暁人が指示を出した夜...つまり、武者を相手に極限を魅せたその日。
芽衣と暁人は二人、迷宮へと向かう準備をしていた。
「で、暁人。ほんとに宣戦布告だけして帰るの?」
「うん。今回はね。」
コツコツと、階段を下りながら。口を動かしながらも、その歩みを迷宮への入り口に進めながら。
「今までの暁人とはずいぶんと違うね。」
「まぁね。英雄を目指すっていう目的の自覚かもね。」
「ふぅーん...。」
どことなく納得してなさげな芽衣の様子。その様子を理解し、暁人はほんのりと苦笑をすると、こう言い始める。
「いや...正直なところさ。ぶっちゃけ、力押しだって、不可能じゃないと思うのよ。幾ら慎重に慎重を重ねてたとしたって、全員がある一定以上の総火力を放出すれば、多分ゴリ押せる。その次元の技ぐらいは、まぁ揃っているとは思うんだ。」
「・・・?それとこの宣戦布告がどう関係するの?」
「うん。それが可能でもな。何も持たなかった志島とさ、雨月がこんだけ頑張ったわけじゃん?仮にも地獄って名前を付けたものを乗り越える程度には、成長をしてさ。そりゃ、最初っからただのフルパワーでゴリ押しててもよかったんだけど...戦う意味も、戦う強さも迷走してるように見えてた二人が明確に勝ちたいって言って、半強制でもここまでついてきたんなら...その努力は応援したいじゃない。」
努力は必ず報われる...だなんて理想論をはっきりと語れるほど子供の年齢ではない。
だけれども、せめてその努力を発揮する場ぐらいは与えられて欲しいとは思う。
できれば報われてくれてもいいんじゃないかなとは思うけども。現実がそう甘くないのはよく知っている。
「お菓子作りが趣味の人がお菓子を振舞う機会に恵まれなかったとしても、料理でその才能が活かせるのならそれでもいいと思うんだけど...どうせならちゃんとお菓子を振舞う機会に恵まれてほしいとか、ほんの少しだけ思っちゃうんだよ。」
「例えが唐突だなぁ...でもまぁ、その気持ちはわかるよ。」
でも別に宣戦布告しなくてもよくない?って疑問は何ともならなかったらしい。
まぁこれは誰をぶつけに来るか相手に叩きつけに行くだけだからね。
やる意味は...無い!(断言)
けどまぁ、いいんだ。それでもな。
この宣戦布告は、ある種の決意表明みたいなもんだからな….。
「まぁ、いいよ。暁人にとっては、大事なことなんでしょ?」
「そだね。とりあえずそれでいいかな。」
そう言って、二人は迷宮の入り口の前に立つ。
芽衣がブリュンヒルデの待つ部屋の入り口に『境界』を繋ぎ、そこに二人で入ってゆく。
当然の如く待ち受けているブリュンヒルデ。
「あら、遅かったわね。待ちくたびれたわよ。」
「あーあー。女を三週間待たせて悪かったな。でも後一週間待ってもらうけどな。」
「・・・何しに来たの?」
そりゃそうなる。戦う以外の目的なんてないんだから。
暁人は堂々と、ハッキリとブリュンヒルデに言い切る。
「一週間後。志島と雨月を連れてここに来る。まぁてめえらの足止め要員も潰してやるから全力で待ってやがれ。」
「・・・・・・。」
流れる沈黙を無視して、境界の方に歩き出す二人。
しかし暁人は少しだけ止まり顔だけブリュンヒルデに向けてニヤリと笑みを浮かべて言い切る。
「とどのつまり、俺達…特に名前とかはねえが俺達は、お前らに宣戦布告する。首を洗って待ってろってことだ。」
いつも以上に眼に光を宿しながら、言の葉を発すると暁人は元来た境界を通り体育館へと戻っていく。
境界と共に二人の姿が消えた時、そこには様々な感情の入り混じった表情を浮かべた女王の姿があった…。
「はぁー緊張した。」
そう言いながら大きく伸びをする暁人。
「そうは見えないけれど?」
芽衣は暁人の顔を指しながら言う。
その顔は晴れやかで...笑顔で。
「緊張は顔には出ないの。ただ...まぁそうね。」
ほんの少しだけ、意識的に笑顔を作って。
「楽しくなってきた...かな。」
なんて言って見せた暁人を見て芽衣は芽衣で、私も強くありたいとほんの少し思った。
そんな様々な心を乗せて、一週間は過ぎ去った。
朝目覚める志島。今はもう、あの時の...最初に思った嫉妬も。理解してからの緊張と足掻きも、どっちももうない。
悪夢も、嫉妬も、緊張も、全てを呑み込むほどの地獄。
悪夢にも勝ちうる力と、嫉妬の必要のない余裕と、緊張を防ぐ精神力。
それらの総てに負けない強さを地獄は志島に贈ったのだ。
全てを呑み込んだ志島はいつものルーティンをこなす。
朝風呂。食事。瞑想。
全てをこなし迷宮の入り口、体育館に向かう。
(漸くだ...待ってろ。ブリュンヒルデ!!!)
その心に強い意思を宿しながら。
そんな志島を待つ面々。そこにはほとんどみんなが居て。
最初に戦いを見守り、その傷を癒し続けていてくれた沙紀も。
死ぬほど痛めつけながらも地獄の如き修行に付き合ってくれた鳴子も。
誰もが志島の成長を感じるとともに、その背中を押しに来ていた。
代表なのかは知らないが修斗が志島を鼓舞するように話しかける。
「よっ!遅くは...ねえな。むしろはやる気持ちが抑えられないってか?」
「いや?時間通りでしょ。多分。」
「んにゃ、少し早くねえ?」
「まぁそうな。ちょっと暁人のことボコしておこうかと思って。」
「それは草。」
なんて、ちょっとだけおどけて見せる...けどまぁ暁人には勝てんだろうけどな。
そんな風に言われた暁人は苦笑して。
「いいぜ。終わったら少しだけ相手してやる。」
とかなんとか。やべえよ俺。殺されるかな...。
まぁいいか。とにもかくにも、今は...。
そんな思考を持ちながら暁人の招集を待つ。
少しして、暁人から全体に声がかかる。
「うし!んじゃ全員きいてーな。今回の出撃メンバーと大まかな作戦を...。」
迷宮一層攻略戦が今...始まる。
えー...はい。先週投稿をせず人権を失いかけている作者、銀之丞です。
漸く...決戦ですかね。いまいち不安なことは12月中にこの戦いが終わるのかどうかがさっぱどわがんね状態なことです。
え?終わらせろって?ソンナー。
努力します。
と言うわけでいつもの挨拶をば。
いつも読んでくださっている皆様!誠にありがとうございます!
いーつになったらーこの物語はー(遠い目)




