第52話 |闘法4《マスター》
...などと意気揚々と決めたものの、まだ特に何をさせるかなどが具体的に決まっていたわけではなかったので、結局その日はお開きとなり会議はそれで終わった。
志島は結局そのあと、何かしたかったわけではないけれど、暁人から
「しっかりと休んで、明日に備えておきなさい!」
と言われたため、することもなく食堂にいた。
最近の日課になりつつことは、対面の戦闘と瞑想だったのだが、今日の暁人による地獄発言のせいなのかは不明だが、対面の相手をしてくれる者もいなかった。
そんなわけで食堂でのんびりしながら他の人の会話でも聞いてまったりとしてある程度を過ごした。
聞こえてくる会話は大体こんなようなもの。
「どんな地獄なんだろう?」
「暁人が負けるって相当だよねー」
「帰れるのかなー?」
「還れるでしょ。」
と言ったものである。集約したところ不安の塊になりえるのはしょうがなかった。
そしてのんびりまったりしてそのあとは聖に呼ばれて迷宮組の属性診断だけ行った。
暁人はそこにはいなかったがどうやら行く前に図書室で済ませていたらしい。
一応暁人には伝えてはあるらしいのだが俺も全員の属性を聞いておいた。
まず五行の「木」に当てはまるもの。これは修斗・留目・蒼衣・愛。明確な理由があるのかは不明だがこいつらがここに入れられている理由がよくわからない。何でだろうね?
聖には聞かなかった。あいつなら分かってそうだから聞くより考える練習だとも思ったし。
それで「火」が暁人だけ。鍛冶の能力と言っていたから火か金のどちらかだとは思っていたが金の方ではなく火の方だったらしい。
これに関しては暁人曰く興味ない、そんで聖曰く僕は理由が分かってるからね、との各々対極でありながらもう関心の類が一切なさそうな感じの回答だった。
暁人のは聖からの伝聞だけどさ。
まぁわからんものを考えるのは無駄なこと。しょうがないから次へ行くしかない。
「土」は雅也と菜月。すさまじく納得がいく。まぁなんか土か石でできた城作ってたりしてたしね。納得だ。
「金」の方に関してはもっとわかりやすいのともっとわかりにくいのが一人ずつ。浩也と沙紀だ。
浩也は金剛だからってのは納得なんだけど沙紀が「金」ってのはわからない。いや、何で沙紀だけ?って話なんだけど、「水」に篝と六花がいて、それ以外の全員...つまり俺や雨月、聖なんかも含めて無属性ってのが多すぎてそっちに分類されないのが納得いってないってだけなんだけど。
まぁ聖も「金」の所は納得いってないらしいし、まぁなんかあるんじゃないかな。
知らないけど。
とりあえず、そんな感じで片が付いた。ちなみにルーン魔術適性があるのは、聖、俺、篝、芽衣、朱莉、祥子って感じだった。
なんで他が使えないのか、自分たちが使えるのか、わかんないけれど何か理由があるんでしょう。ほんっとに知らないけどね!
後はもうすることもないので今日のことを振り返り続けるだけ。本当にすることもなかった。
そうして床に就く。
長いようで短かった一日が終わった。
・・・明日からの地獄を、楽しみにしながら。
夢を見るかと思っていた志島だったが、何も見ることはなく、朝を迎えた。
少しだけ不思議な感覚を抱いて時間を確認する...。
「・・・って、まだ6時なのか、少し早めに」
そこまで思考した志島に唐突に。
ピロン!
「!?」
唐突な通知音が志島の脳みそを叩く。
いや割と正直な話、クソビビる。叩くって表現が一番的確な気がしてしまうほどにはびっくりした。
てかこれどんな機能があるんだよ...とか何とか考えながらどうにかこうにかして開く。
「やぁやあ!もう起きてるかな志島く」
ブチッ!
切断音が鳴り、やかましい暁人の言葉を遮った。
「・・・・・・。」
沈黙が志島の部屋に鳴り響く。
いやまぁ沈黙だから鳴り響きすらしないんだけどさ。
・・・と、少しして、かけなおそうかどうしようか迷ってる志島に。
コンコン。
「・・・・・・。」
ノックが二度なる。その音は日本人が通用的に利用する確認の合図だが何故だか志島には嫌な予感が感ぜられて。
ほんの少し、動くのを躊躇った。
そんな志島の対応は、間違っていたのかあっていたのかはわからない。だが...。
ノックの代わりに次に行われた行為は。
ガタガタッ!
「!!?」
声もなく、ドアをがたつかせる音だった。
それは一般人の常識ではとても異常なことで...というのも、普通の常識を持ち合わせている人物なら声をかける。
つまり...それをしないこいつは...余程の常識外れか...。
人でないかのどちらかである。
嫌な想像をしてほんの少し正気度を減らしながらその場で様子を見る。
ガタンッ!ガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタッ!
続いた音はまたも容赦なく心ともにドアと部屋を揺らす。
またもやむ音に、一瞬の警戒と、流石にドアを開けなくてはと言う意思に駆られる。
しかし、次の瞬間。
ドンッ!ガンダンッドンッ!!!
すさまじい衝撃と、いまいち聞き取れない大声が校舎全体に響き渡った...。
「・・・で、どういう惨状?」
そんなセリフを吐きながら、ほんの少しの間をおいて、恐る恐るドアを開けた志島が見たものは主に山とかなんかそんな感じのもの。
いや、何で廊下に山があんの?
って考えるのが普通なんだけど、徐々に山が一定方向に引いていった。
志島が部屋からチラっと山が引いていった方向...志島から見て右の方向を見ると、菜月がそこにいて。
左を見ると地に伏せてなんかの生物の自爆に巻き込まれた伝説の第三者のような体勢で倒れている暁人がいて大体を察した。
まぁこいつしかいないのは分かっていたけれども。
「・・・朝からうるさい...こっちは低血圧なの...。」
先程の山は寝起きの殺意だったのだろう...ってか暁人生きてんのか?いやまぁ死んでても自業自得っていえばそうだけどね。
「まぁ...うん...って今のは菜月のだったわけね。」
「そうよ...頭痛い...怠い...。」
大丈夫か。そこまでくるともう。
「まるで二日酔いみたいだね。」
気づいたらすぐ近くには復帰している暁人。
何事もなくー復活をーしているー暁人にーーーーーーーーー。
「フンッ!」
左手の裏拳で打つ...だがしかし、片手で軽ーく止められる。
「手ぬるい。もっと殺意を隠せよ。」
何言ってんだこいつ。頭おかしくなったか。
「・・・ってかお前、つい先ほど山の様な一撃を喰らってなかったっけ?」
「あーうん。まぁ文字通りな。」
なんてことなく受け身を取ったり、流したりしたぜ、とかいうあたりヤバいやつでは?今更だけど。
「まぁそれはいいんだ。とりあえず雨月を起こしてー聖も起こしてー...後は...鳴子と篝を起こさねーとか。ってわけだから、手伝ってー。詳しくは飯のときに話すわ。」
とか、なんとか。
っていうかこのテンションが高いの絶対昨日言ってた地獄と関係あるよね。
どうしようもないので渋々って感じで了承する。そのままの勢いで暁人はすぐ近くにいた不機嫌な菜月にも両の手を合わせて依頼をする。
結局、菜月が鳴子を、俺が雨月を起こす、って感じになった。
まぁ、さっきのガタガタで雨月は起きてたのでそのまま食堂に連れて行くだけで済んだので俺としては楽々と言った感じだったのだが。
菜月の方はそうもいかず、わざわざ稽古室まで行って食堂に連れて来たらしい。あの人勤勉だなぁ...。
また少しした頃に、食堂に暁人が聖と篝を連れてきた。
暁人が口を開く。
「お待たせー...っと、とりあえず、飯でも食おうか。食ってからが本番だからね。」
あんま食いすぎっと、動きに影響出るかもだけどとか言いながら自分は大分飯を用意する。
なんだかんだ長机で七人で食事をとることになった。特に話す話題がないのか、あまりよろしくない寝覚めに皆テンションが低いのかはわからないが黙々と食事をとる。
少しし、全員が食事を終わらせ食事への感謝を済ませた後、暁人がさて、と口を開く。
「とりあえず、みんなを...って言うとあれだけど、菜月以外は明確に起こした理由があってね。」
「...あたしは完全に被害者だよね。」
「しかも想定外のね。マジすまん。」
情緒が不安定なもんで、なんておどける暁人。いつか殺されるかな?
まぁそれはさておき。
と手で表しながら暁人は続きを話す。
「うん。とりあえず、志島君。」
「何?」
「はっきり言います。君はクソ弱いです。」
いきなりの直球ドストレートは抉れる。いやシュートとかなら抉れるのは内角なんだけど、ストレートは心が抉れる。
「・・・はい。自覚してます。」
「特に剣の基礎がなっていません。その上正しい意味の方での剣道三倍段と言うものがあります。」
ケンドウサンバイダン・・・?何だろう、小林が三人集まって大森になりましたとか?
「・・・基礎がなってないのはわかってるけど、そのコバヤシがどうとかって何?」
「いやその手の冗談じゃなく。所謂、長物...薙刀や槍などを持った相手に対し、剣での立ち回りには三倍の実力が必要と言うことです。」
つまり今俺に求められているのは...。
右手を上げながら志島は聞く。
「先生。純粋に考えて、ブリュンヒルデの三倍の実力がなければブリュンヒルデに勝てないということですか?」
「はい。そして偉い人は言いました。3倍の数には勝てないと。まぁいろんなものでもいわれてるけど、3倍の体重差とかだと柔よく剛を制すとは行かず、剛よく柔を断つとなることが多いのです。」
なんだそりゃ。つまり...えーっと...なんだ?
その様子を見かねて聖が口を開く。
「暁人の言いたいことを纏めるとだね。たとえ君がブリュンヒルデと等倍の実力を持とうと、得物の差で負けてしまう。例え少なくても3倍の実力が欲しい。あわよくば9倍くらいの実力がなきゃ安心なんてできない、って言ってるわけだね。」
・・・そこまでですか。
溜め息をつきたくなるほど必要な実力に心は折れかける。
「まぁ、実際のところはブリュンヒルデとはタイマンじゃなくて向こうが追加の軍勢を呼ぶ可能性もあるし、君は少なくともブリュンヒルデとは雨月とタッグで闘ってもらうつもりだけども。」
だとしても強さは全く足りてないよね。雨月もまだまだだし。
事も無げに真実を口にする暁人がいれば相手の心をズタズタにできねえかな?とかちょっと思うほどの今日の暁人は言葉が鋭い。
まぁその辺も込みで地獄なんだろうけども。
「っと、言うわけでー君たち二人...つまり志島と雨月にはー三倍の速度で実力を身に着けてもらいます。」
「「・・・・・・は?」」
二人の声が綺麗にハモった瞬間だった。
少しして稽古室。対峙する聖と志島、もうすぐ近くでは鳴子と雨月が対峙している。
「・・・三倍ってさ。まさか...?」
「うん。今日から...大体1ヶ月くらい。雨月には槍使いを相手にし続けてもらいます。まぁ三倍段なのは志島だけだから雨月的には三倍でもなんでもないんだけど...まぁもう少ししたら雅也と修斗も来るから4人で回してもらいます。」
「・・・で...俺はなんで聖と向かい合ってんの?」
「あれ?言わなかったっけ?君は基礎がポンコツクソ雑魚ナメクジ男だって。」
そこまでは言ってないじゃろ。クソが。
志島は怪訝そうな顔をするけれどそのまま暁人は続ける。
「まぁ、どちらにせよお前はこれからは午前中は聖に剣の稽古を死ぬほどをつけてもらって、午後からは槍使いとの戦いを回してもらい続けます。」
文字通り、死ぬほど...な。
二人が段々と引いていくような顔になっていくがはっきりと言い切る。
「ちなみに身体が壊れたり、筋線維が死に始めたら食事と沙紀で無理矢理治してもらいます。その上でもし時間が必要な怪我ならその時間はルーン魔術とか五行とかの特訓をし続けてもらいます。」
「「・・・・・・。」」
あぁ、うん。文字通り地獄だわ...これ...。
地獄のような笑顔でハッキリと言い切る。
「さぁ、死ぬかもしれないけれど頑張りましょうか!」
こうして地獄のような特訓が始まった...裏で暁人の特訓だったり、魔力の補充などの色々を兼ねあいながら...。
そうして、三週間が過ぎていった...。
と言うわけで未だ忙しい作者の銀之丞です。
いやー...もう少しだ。もう少しで戦いが進んでいく...。
まぁもうちょっとだけ、修業内容を決めて殴り込み編となることでしょう。
多分、何とか...なるよね?
知らんけど。
何の話をするかが特に思いつかない...まぁ少し早いけど、ここまでと言うことで(雑)
と言うわけでいつもの挨拶をば。
いつも読んでくださっている皆様!誠にありがとうございます!
あー...勉強しなきゃなのに眠い...。




