第6話 |生火《うか》
「…んー。痛え」
暁人はゆっくりと目を覚ます。胸の痛み、さっきの掌底食らったとことか、胸骨のとことか、あそこらへんの痛みと、顎を擦ったような痛みを感じ、身体を起こす。
「お、おきたかの?」
瞑想をしていたクソジジイは、漸く起きたか、とでも言いたげな様子で腰を上げ、こちらを見てくる。
「だまれ鬼畜じじい」
「元気そうじゃの?」
「うるせえ、流石にまだ治っちゃいねえだろうよ」
とかなんとか言いながら、自分のブレザーを脱ぎ、傷痕を確認する。
「・・・なおってらあ」
傷痕一つなかった。
「当たり前だろうよ。お前さん、自分の能力、自覚したか?」
「あぁ、あの鍛冶師の爺さんと、自称女神の女神級美女な」
「女神は知らんが、多分それじゃな」
なんなんだろう、あの自称女神の美人さん。まぁ薬塗って貰ったし、綺麗かつ可愛かったから許す。よくわからんけど。
「んで?能力の自覚はしたけど、どうしろと?」
「んあ?あー、それな、仮称魔力の話、聞いたか?」
「湧き出るもので信じれば誰でも使えるだっけ?」
そんな話を美人がしてたな。一部ドヤ顔で。
「そうそう。そういうやつなんだが、とりあえず魔力と呼ぶことにするぜ。」
「あー、了解だ」
そーいや正式な名前がないとか言ってたな。このことで微妙に不利になったりしねえだろうな。全く別の起源のものを魔力と勘違いしました、とか。
…うわフラグっぽい。違うことを祈ろ。
「魔力についてなんだが、いくつか効能があってな。さっきのわしの動きについてもなんだが、身体能力を跳ね上げる力を持っている。他にも、治癒力の向上もあるし、五感の性能を上げる力も持つ。まぁ、万能だな。」
「なんかめっちゃ胡散臭い詐欺組織が使いそうなもの、もしくはインチキ温泉にでもありそうなくらいにな。」
「全く、長生きにはもってこいじゃな。それはさておき。ここの空間はそもそもの性質上、魔力における身体強化や治癒力等、魔力を使用する能力をかなり上昇させる力があるんじゃよ。」
「…なるほど。つまり一応魔力は扱えてるってわけか。いまいち実感ねえや。見えねえし。」
「そもそも、魔力を見るには魔力を眼に宿さんとな。宿すっていうか、眼を強化するって感覚かな。」
「…眼に、か。」
なんか納得できるけど納得したくないな…まずは魔力がどう流れるかを理解しねえといけないし。とりあえずそのためには…
「とりあえず質問していい?」
「ほんとお前質問好きだな。好奇心旺盛か?まぁいいがよ。」
「大前提としてのここの空間は魔力の強化が出来るって言ってたやんか?」
「あぁ、言ったな」
「ここってどこまで?夢の中全体?それともこの真っ白空間?」
「ふむ。どっちもだが、例えるなら倍率が違う、と言ったとこだな。現実世界を1倍の等倍と捉えるなら、フェアリーテイル自体が1.5倍。白紙の世界が10倍ってとこかな?」
「クソ倍率じゃねえか!魔力の暴力かよ!死ぬわ!やっぱりクソジジイじゃねえか!」
「ははっ。なに言ってるかわかんねえや!」
「死ね!!!!」
こいつほんとクソだ。そりゃ見えねえよ。身体能力に魔力強化10倍で戦ってりゃあそりゃ…
「ってか、ジジイ。魔力による身体強化ってどの程度なんだ?」
「あー。なるほど。困ったな…ふむ。次の段階に進むか」
「ん?次の段階?」
「あぁ。そもそもお前さん、魔力の配分とか眼に宿すとか、何一つとして出来ねえだろう。」
「うん。どう使うかすら知らん」
「だろうな。多分お前は無意識で治したに近い。何かしらのアクションをされた可能性はあるがな。」
「あー、うん。心当たりはある。」
「そうか。まぁ、しかし…能力と対話したんだろう?なら…もしかしたら能力の顕現程度はできるんじゃねえのか?」
「え?程度?程度なの?」
「初歩中の初歩かもな。お前の場合」
「…俺にとっては、か。試してみよ」
魔力の流れを感じることすらまだ出来ないから、次は魔力を感じとる修行から始まるんだろうけど、その前に能力の顕現が出来るかどうかって話か。頑張ろ。
(イメージは、刀を生み出すこと。一振りの日本刀を、熱せられた鉄を、何かを生み出すこと…)
「いや、なんか違えな」
「何がだよ!お前こええよ!」
「あ、悪い。独り言」
「お前なぁ…」
(何をイメージするか、なんだよなぁ…うーん。炎…じゃあダメだし、炎生み出すものじゃないし)
(炎も生み出せるぞ?)
(!?)
めっちゃびびったように周りを見る暁人。また何が始まった、といわんばかりのヒュプノス。
(いやなに。俺だよ。灼装だよ)
(あぁ、なんだ、おっさんか、ってこれで会話成り立ってる?思考の中で言葉を思い浮かべてんだが。)
(あぁ。成り立ってるぞ。)
(OK。んで?火を生み出せるって?どーゆーこと?)
(そのまんまの意味だが?…ってあぁそうか。確かにお前の能力は赤熱、及び液状なんかでもいいが、要約すりゃめっちゃ熱い鉄でありとあらゆるものを作ることが可能な能力なわけなんだが。あくまでルーツと基本。おまけで火も扱えますよ、ってとこだな。)
(そんな能力なん?)
(鉄の硬度を再現できないうちは、多分炎から始めるべきだろ。鉄をただの炎では溶かせねえし。アホほど熱して溶かすもんだからな。副次的に炎が使えるってことはこういう理由なんじゃねえの?)
(マ?)
(いや、そんなこたぁ、ねえっちゃねえが。別の理由もあるにはあるが、まぁ説明しても意味ねえからな)
(意味ないとか素で酷いなお前)
(まぁそういうな。そのうちわかる。とりあえず炎を手からポッと出すイメージをしてみろよ。どこぞのお姫様みたく。)
(そんなのいたっけ?)
(まぁそっちは雪だか氷だかだったが。)
(あー、察した)
「ふぅ…」
一通りの会話を終えて暁人は一息つく。そんな様子を見てヒュプノスが声をかけてくる。
「どうした?」
「能力と対話してた」
「頭おかしいようで間違ってねえのが笑えるな」
「喧しい、誰が頭おかしいだ」
いやお前だよ。そんなことを言われてる気もするが完全にスルー。とりあえずイメージを進めることに専念した。
(あんな感じだと、手から、なんてことないように、ふわっと炎が)
ふわぁ。
『・・・』
軽く腕を外側へ払うように振りながら、右手の手のひらをグーからパーに。まるでゴミでも払うような動作に合わせて、火のイメージをした。ちょっとだけ。そうしたら、ふわぁ。だ。炎が、ふわぁ、と。なんか、温風みたいに。火の粉が舞った。
「ジジイ」
「…よかったな」
「ここって火力10倍だよな」
「よかったな。」
「煽ってんじゃねえええええ!何が、ふわぁ、じゃ!火力不足だわ!これで何と戦うんじゃ!寒気か?それとも家計の電気代か!?あぁ!?」
「いや、別に能力顕現の火力は過剰にしてねえよ」
「それでもこれじゃ何にも勝てねえわ!?アホかぁぁぁぁぁぁあ!!!!」
暁人は激怒した。この邪智暴虐なジジイを焼き殺さねばならまいと思った。
「とりあえず死ねやぁぁぁぁ!!!」
ブチ切れて凄まじい速度で飛びかかる。なお凄まじい速度が出た理由は単純。魔力を纏っているからである。しかも、無意識で、先ほど以上に。怒りのパワーのことを暁人はあまり信じていなかったが、わりと苛立つと人間いろんなことを忘れて、想像以上の力を発揮するものである。そして、右手を手を少し広げて、指を曲げ、力を込める。人間技の「ひっかく」である。そして思いっきり、ヒュプノスに向かって腕を内側に振り抜く。すると、
ゴウッ! ヒュン!
曲げた指の爪の先から、出っ張っている関節のを方へ、炎の爪が、顕現していた。
「・・・なんか出た」
「とりあえず、痛え」
「すまんな(ゲス顔)」
「無性に腹立つな、てめえ」
「クハハ。どうなってるのかさっぱりわからん。」
はっきり言うが何かを考え、この形を作り出したわけではない。狙ってやったわけではない。が、明らかに形状はその場の状況に適した形であった。普通に爪を切りそろえている暁人が、狙ってひっかいたとしてもせいぜいが、ちょっと引っ掻き痕が残るだけ。その程度だっただろう。
だが、顕現した炎の爪は己が敵たるクソジジイの胸元を切り、軽くえぐっていた。血が溢れ出る...こともなく、体から一瞬だけ、血が噴き出し、暁人にほんの少しだけの返り血を浴びさせたが、言うてもちょっと服に血が付きましたテヘペロ、みたいな程度であった。そうして血を浴びることとなった原因のはずの傷ですら魔力で傷が治り始め...といっても傷が治る速度が以上に速すぎてほぼほぼダメージを受けてないようにすらみえる。ダメージを受けていたと確信できた理由は、服をも切り裂いていたのだが、その服も再生していっていたからである。体の治りは見ることができなかったものの服の治りは見ることができたのだ。
・・・ちょっとだけど。あと、あいつの顔が微妙に歪んでやがった。あー、スカッとした。
「んで?これが顕現ってことでいいんだよな?」
「あぁ、まぁ、あってるがよ」
歯切れ悪くジジイが言う。なんかあったんかな?
「なんか、むかつくな。修行方法変えてやろうかな?」
「はぁ!?てめえふざけんな!?薬だって用法容量を守って正しくご使用ください、だっつーの!?バカなのか!?ボケてんのか!?」
「誰がボケジジイの、痴呆の、認知症なハゲくそジジイだ、ゴルゥゥゥゥアアアアアアアアア!」
「そこまで言ってねえだろうがクソジジイ!ってかハゲかよ!一応髪の毛あるように見えてるけど、そんなことねえのかよ!クソヅラゴミジジイがぁぁぁ!」
「よーし!わかった。よーくわかった!てめえはボコす!ぜってえボコす!」
「何がわかったんじゃボケ!あぁ、いいよ!かかってこいやクソジジイ!!!!!」
こうして修業は始まった。いや、修業っていうかただの喧嘩なんだけど。始まった。ただ、彼がここから学ぶのは決して正しい戦い方でもないし、まして、並みの人間の戦い方とは遠く離れた異常なものであることは間違いない。
しかし、それでも、いや、間違いなく。魔力に慣れさせる。この一点においてだけは間違いはなかった。
なんか尻切れトンボみたいやんなぁ...こいつらいつになったら異能使いこなすようになるんだろうね。筆が早く進むよう努力します。