第49話 |乙女達《インポッシブル》
幕始めの挨拶を遮るように、暁人の銃声が鳴り響く。
その銃弾は、真っ直ぐに名乗りを上げようとしていた人物に着弾し、地に倒れ。
死んだように見える。
・・・少なくとも、彼らの側からは。
だがしかし、いつの時代も礼法を欠いたものに侮蔑が飛ぶように、幕が上がるよりも先に幕を下ろそうとした暁人に対し、志島以外の三人が思いを、口にしようとする。
が、それよりも一歩だけ速く、志島は暁人の胸倉をつかみ上げる。
そこに言葉はなくあるのはただ、思いだけであった。
漸くのことで、絞り出した言の葉は。
「てめぇ...。」
この一言だけだった。
そんな志島に至って冷静に。暁人はこう返す。
「・・・何キレてんだ。お前ら。」
「暁人...いくらなんでもそれは。」
「まだ終わってねえぞ。」
四人は驚き、なんなら胸ぐらをつかんでいた志島はその手を胸倉から離してしまうほどには驚く。
その言葉が聞こえていたとするにはあまりにも遠いが、おそらく様子で理解していたのだろう。
ゆっくりとその身を起こしながらその女は口を開く。
「・・・とんだ無礼者もいたものね。正直驚いたわ。」
侮蔑や嘲笑の混ざったかのような表情で語る女に暁人は笑って返す。
「ハッ。驚いたよ。てめえの所じゃ戦争ってのは態々相手に名乗り上げを行って攻撃するもんなのか。お綺麗なことだ。」
より煽るように言う暁人。
当然のことながら、戦争とは宣戦布告してから行われるものである。
だがそれは、戦時国際法とかそういう規律が出来てからの話。
故に...立場として、暁人は相手に合わせただけの話だ。
そう言うかの如き、態度を堂々と見せつける。
「そう。あなたたちは名乗り上げを行わないのね。」
「いやー...どうだかな。する奴もいるんじゃねえの?」
「・・・あなたはしないのね。」
「だって敵だってわかってるからな。これ以上御託いる?」
戦士だろ、と。たった一言、火をつけるように。糸を切るように、暁人は言う。
その言葉を鼻で笑って流すと、たった一言。
「・・・シグルド。やりなさい。」
その一言を発する。
その瞬間、暁人達の目の前に大きな剣と、屈強な肉体を持った男の戦士が現れる。
唯一この状況下で反応できるのは...宣戦布告しなかった者だけだった。
先程から全身に魔力を回して、名乗らざるとも戦う気だった男は。
『灼装 炎夜叉』
普段とは違い声には出さず、即座に全身に纏う。
刀一つ。垂直に振るわれる大剣に合わせで抜き、真っ向から打ち合い、力比べの様相を呈する。
(流石に...重いな...!)
潰すような体勢へ力づくで持ち込む戦士。
戦士は刀の峰を左腕で支え、真っ向から払おうとしていた暁人に対し、段々と上から圧をかける形で圧倒する。
瞬間、踏ん張るために力を入れていた足から力を削ぎ、自身の肉体を下へ押し込ませる。
左膝は直角に曲がった瞬間に再度踏ん張らせ、右足は伸ばしきらせて身体を回し、大剣をいなす。
受け止められていたはずの重さが咄嗟に戦士の両腕にかかる。
それを推察した暁人が、回った勢いを乗せた一撃を加えようとする。
するり、と膝を地面に垂直に持っていきながら振り抜いた刀の一撃を、戦士は両手にかかった加重をものともせず...防ぎ、そのままの勢いで暁人を吹き飛ばす。
吹き飛ばされた暁人を追い、連撃を加えるが暁人は刀一つで舞うが如く、その連撃を流す。
龍を屠ったとされる男の連撃。それらを正確に流せること自体、割と異常なことではある。
が、それだけである。それ以上は暁人と言えど踏み込めず、それで手一杯と言った状勢である。
そんなおり、ふと戦士が手を止める。
「うん。思ってた以上に強い。まさか流しきるとは思わなかったよ。」
「いやはや、音に聞こえし...もとい、文字に語られし龍殺しに褒められるとは。どうも捨てたものじゃない。」
「まぁうん。君が会話が嫌いじゃなくてよかったよ。さっきは奇襲を仕掛けていたくせに。」
「それを止めといて何言ってんだてめえ。」
一瞬、驚きに染まる男の表情に暁人は確信する。
さっきの攻撃のときに現れたのも、あいつの元で俺の一撃を防いだのも、恐らくブリュンヒルデの異能だと。
「・・・見えてたのかい?」
「いや?見えるとか、見えないとかの話じゃ無いじゃないか。」
ゆっくりと口元に笑みを作りながら、暁人は語る。
「そもそも、攻撃のとき、どっからどう見ても、目の前に突然現れた。お前がジークフリートだったのなら、タルンカッペ...だっけ?とかいう姿を消すバケモンみたいな武装纏っててもおかしくはなかったんだがな。それなら姿晒さなくてもいいはずだが、姿を晒してるし。それに...俺の眼には、着弾したように見えてる。弾かれてんじゃなくてな。」
「それなら、銃弾が空中で止まったように見えるんじゃないか?」
着弾してたのなら、俺に当たって空中で止まるだろ。と尚も、続ける戦士に暁人はこう語る。
「かもな。でも、皮一枚分くらいなら...と言うか、咄嗟に腕にでもぶつけさせれば、着弾したようには見えるはずだろ。」
「それを喰らったやつはダメージを喰らうのに、そうするメリットがあるのかい?」
戦士の追及に、もうわかってるだろお前。そう言いたいのをこらえて暁人は続ける。
「ねえわけねえだろ。死を偽装できるうえに、異能を秘匿できる。」
帰ってきたのは苦笑のただ一つ。間違えた...か?
「いやはや、そこまで読まれると正直感嘆しか出ないよ。」
「バカ言えよ。ここでお前の反応っていう答え合わせができるからこうやって考察を口にしてるんだ。そうでなきゃ間違える覚悟もねえよ。」
より驚いた表情を見せる男。
こっちはてめえの様子なんて正直、どうだっていい。
俺はお前の後ろの方のやつらに危害が向かないなら、それで十二分なんだ。
...さて、さっさと気付いて撤退の準備をしてくれよ...芽衣...。
「・・・うん。君は紛れもなくリーダーで、司令塔で、最高クラスの戦士だ。」
「あ?何言ってんだ?」
「ちゃんと味方を気にかけている。うん。間違いなく。君が統率者だね。」
「・・・それがどうしたってんだ?」
「いや、それならそうと...話が速いだろう?」
もう一度...しっかりと、大剣を握りなおす戦士。
「君を倒せば、其れで詰みだ。」
「ハッ!やってみろよ!」
その言葉に戦士は、大剣を騎士の如く構え。
「北欧の龍殺し、シグルド。いざ...尋常に勝負!」
吼える龍殺しを相手に、暁人は極限の集中に入り。
二人の戦士の攻防が始まった。
暁人がシグルドに弾き飛ばされてから再度、槍を構えた女戦士が四人に目を向ける。
「・・・さて。無作法者は退いたわね。」
その声を受けて暁人に向いていた8つの目がその女戦士に向き直る。
志島がゆっくりと口を開く。
「君は...ブリュンヒルデで、間違いないね?」
「ええ。あなたの言う通り。私は北欧の戦乙女、棄てられた女王...ブリュンヒルデよ。」
悲壮感と、怒りと、怨嗟と妬みと殺意と焦燥と困惑と嫌悪と侮蔑のありったけの負の感情に、たった一握りほどの名も無き空白の感情を込めた名乗り上げ。
それらは、全て敵意と言う名前に変わって、4人を襲う。
それに向き合うと決めた男は、口を開く。
「・・・一応、名乗っておく。志島瞬。御大層な二つ名も、大きすぎる役職も、未だ何も持たない平平凡凡な存在の、志島瞬だ。」
その名乗りは、自虐と...これから先への変化の期待を自身と自信に込めて。
互いの名乗り合いは済んだ。厳密には、他三人はしていないが。
なれば、次に起こること。それは。
互いの意地と主張を込めた全霊の...。
命の奪い合い。
ゆっくりと、槍の先を志島に、腰を落としながら構えるブリュンヒルデ。それに対し、志島は構えを取らない方式の無形の構えで対峙する。
真っ直ぐに突っ込む、ブリュンヒルデと志島。
しっかりと踏み込んで放たれる一撃。
拮抗はしない。当たり前のように、志島は後ろへ飛ばされる。
「っ!」
その場で何とか踏みとどまろうと、足に力を籠める。だからこそ、生まれる減速時の、体勢の崩れ。
その隙はあまりにも大きすぎて。
(まずっ)
貫かれた。そう確信した志島だが、二撃目は訪れない。
それよりも早く、留目の蹴りが訪れたからだ。
志島の上から放たれたが故に、二撃目を打てば喰らう。防ぎようも流しようもない。
そう判断したブリュンヒルデはその隙の多い腹を刺し穿つより、一歩引きながら槍を回しながら上へ払うことで蹴りをギリギリ防ぐ。
槍の腹で受けるようにして威力を後ろへ流すブリュンヒルデ。
正直、乱入が無かったら死んでいた。その恐怖に焦る志島と、敵の強さを見誤ったことを認識しなおした三人。
ゆっくりと、前に出る雨月。三人が戦闘態勢を整える。
後ろで、境界を張ることに専念している芽衣には、まだブリュンヒルデは気付いていないのか、もしくは後衛だと思って完全に前衛のみに集中しているのかはわからない。
でも、それだけが今の好機だった。
互いにほんの少し、見合う。
ゆっくりと、もう一度。今度は先ほどより下段に槍を構えた状態で突っ込んでくる。
その速度は、先ほどよりも遅い...が、十二分に脅威である。
次点でのブリュンヒルデの攻撃は横なぎの一撃。
留目は上に跳び、二人は武器で何とか受ける。
かなりの威力。それでも一人のときとは違い、二人のときなら何とか防げる。
その上で三人なら、攻撃にまでは転じれる。
空中から留目が急降下し、異常な速度でほぼほぼ垂直ドロップキックをかます。
最高クラスの速度の一撃だが、振り切ったはずの槍を回して何とか受ける。
その一撃はかなりの重さだが、流しきり槍を回す。
もう一度横薙ぎに振るわれた槍を留目は空中で飛びすさび身をかわす。
「あら、なかなかに速いわね。」
なんて簡単に感嘆を漏らすが、留目は肝胆を冷やす。
「そいつはどうも。」
口に漏らす言葉と内心は真逆。
(あぶねえ。あぁ、嫌だ。身が竦む。肝も冷えるし、ほんと怖え。)
だからって引けないんだけど...こんなに怖いとは思わんだろ。
ほんっと、暁人とかあんときの愛とか。何で立ち向かえんだよ。
超怖え...。
そう思いながらもゆっくりと、地上に戻る。
他の二人は、どう戦うかをゆっくりと模索する。
威力は強いかと言われると自信はないが人海戦術を使う?
みんなに強化を振りまきながら立ち回る?
空中から間隙を突き続ける?
三人の思考よりも先に飛ばされる攻撃。
「・・・はぁ、しょうがないわね。少しだけ本気を出そうかしら。」
何かが来る。それ以外は何もわからないけれど、厄介を極めてる何かが来る。
それ以上もそれ以外も必要なく、ただ警戒をする。
その三人の思考と警戒を遮るように。
「暁人!!!」
芽衣の、声が轟く。
眼の前に立つ存在の強さは言うまでもない。
だからこそ、情報を限って言葉を吐く。
一瞬、三人が暁人を向く。何かあると思ったからだ。
だが呼ばれた本人が、一瞬だけ、視線だけで芽衣を向いて、先ほどまでの速度から加速した瞬間に理解する。
違う。ピンチの方じゃない。なら?
頭の、上澄みを流れた思考。
暁人 戦闘 戦力差 手段 芽衣 目標
((( 離脱!!! )))
暁人は何とか連撃を捌ききると回転し、遠心力ですべてを乗せた一撃で距離を作り出すと。
「んじゃ、逃げさせてもらうわ。」
「は?」
左手に乗せた炎は。二種。
物理的な炎と精神的な炎。
片手で戦士達との視界を遮るように振り抜かれる。
そこにあたかも炎の壁を作るように。
その刹那にブリュンヒルデが見たものは、背を向け後ろへ走り出そうとする三人の背中...
(・・・逃げられる!)
理解した直後、炎の壁に遮られる。片手に魔力を込めて慌てたように使う。
『来なさい! 戦乙女!』
三人の戦乙女が放たれたかのように、炎の壁の前に生まれる。
そして、凄まじき速度で4人の方に向かっていく。
炎の壁をものともせず、剣を持った乙女、槍を持った乙女、そして、針の如き双剣と殺気、そして魔力を持った乙女が飛び込んでくる。
だが、少しだけ間に合わない。
そして、暁人はたった一言、炎越しにシグルドへ言葉を残す。
「八束暁人だ。覚えとけ。次はきちんと俺らがお前らを屠ってやる。」
その一言を残して、先ほどよりもはるかに速い速度で境界へと飛び込む。
あと一歩、届かぬところで境界は消える。
ブリュンヒルデとシグルド、ワルキューレたちに言の葉の呪いを残して...。
よし。今日はギリギリ一週間以内に上がったぜ。
はいどうも!最近職場の人に投稿頻度話したら、頑張ってるんじゃないと言われました。どうも、作者の銀之丞です。
まぁ確かに専門的にしてないこと考えたらそりゃまぁ頑張ってる方だよね。
進捗遅いけどね。
まぁそれはさておき。第一層ボス生きてましたね。まだ続くんか。辛いな。
ようやく判明しました、一層のボス。ブリュンヒルデ。
シグルド迄います。辛いね。
どうやったら勝てるんでしょう?
それは暁人たちにしっかりと考えてほしいですね。
え?お前がやれって?
ソンナー。
一瞬シンナーに見えたあなたは心がやばいです。
もしくは職業病。
と言うわけでいつもの挨拶をば。
いつも読んでくださっている皆様!誠にありがとうございます!
プリコネに進捗ないんだよなぁ...。




