第5話 |養華《ようか》
「さて、なにから、説明したものかな」
「いや、何からも何も俺が聞いたのって基礎の基礎だって聞いてたんだけど」
「そういやそうだったなぁ。」
そう言いながら鍛冶場の方に向かっていく。当然肩を貸している俺も一緒に歩いていく。肩を貸していると感じる温度は暖かく、人の温度としては平熱が高い人...くらいの感覚だった。夜寝るときに手足があったかくなるような感覚とあんまり変わらないかもしれない。ぬくもり的な意味で言うとなんかすっごい安心するけど。それこそ、いつも一緒にいる友達とか家族に感じる、あの暖かさだった。
「ここが俺の作業場なわけだが、ここがてめえの心の一部だと言われたら簡単に信じられるか?」
「んー。無理」
「だろうな。」
「正直、鍛冶の打ち方の一つも知らないんだぜ?」
「・・・そうか。そりゃすまないな」
すっごくやれやれ感出される。すまんな。
「まぁ、端的に言えば、素材を溶かす。軽く伸ばす。叩いて成型する。型を整える。繰り返す。みてえなもんだ。」
「・・・ざっくりしているけど、俺らしいな」
「あぁ、お前だからな」
・・・さすがっすな。なんかちょっと俺だもんな感あるわ。ちょっと感心していると、男は
「それはいい」
「え?それはいいの?」
「あぁ。俺の鍛冶場見たってなにもわからないのはわかってた。俺が見せたいのはそれじゃなくてな。」
「違うの?」
「うむ。それじゃねえんだ。俺が作ってたものを見てほしいんだ。」
作ってた刀を見る。パッと見ると、刀や銃がたくさんある。正確に言うと、日本刀、曲刀、西洋刀、青龍刀、山賊刀、刀に限らず、大型の両手剣や、ロングソード、あげく処刑用の刀に薙刀までなんでもござれ。銃に関しても、拳銃、ライフル、猟銃、マスケット銃、火縄銃、銃剣タイプの銃、ショットガンにリボルバーまであるのだが。
「・・・なぁ。これさ。」
「ん?なんだ?」
暁人は、何かに気づき男のほうの顔を向く。意味ありげにニッコリとしながら顔を見合わせてくるジジイ。
「これ、全部見たことあるし、何なら知識として知ってるけど...」
「ふむふむ、それで?」
「全部めっちゃかっこいいな!」
「そうだろう!そうだろう!」
超楽し気に満面の笑みで男を見る暁人。よくわかってるぞ、というような男の、暁人の見ている眼である。なお美人は
(正直よくわからないわ)
って顔をしているけど、それは置いておき、
「この日本刀!きれいなそり返しだし、刃物の部分も美しいし、本気でかっけえじゃねえか!」
「その通りだとも!打つのに苦労したぞ!なんて言ったって6年かかったしな」
「6年!?そんなにかかったのか!?」
6年って言ったら小学校卒業までかかるほどだろうけど、そんなにかかるか。普通はそんなにかからないし、いくらなんでもなぁ。
「そこにあるエグゼキューショナーとかは3年だし、そこの薙刀なんかは6か月で、バラバラなんだ」
「3年とか6か月ってバラバラなんだな」
「まぁ、3年って言ってもなぁ。正確には2年と6か月ってとこか。」
「そうな...のか...」
何かに引っかかる。そう、何か。
「まぁ、大体1時間半から3時間ってのも多いんだがなぁ。お前の中じゃ大した武器になってることがないものが多い。たまーに2、3日かかるおかげで武器化することもあるんだがな」
「俺の中...」
「言っただろ?お前の中にあるのが灼装なんだよ」
「・・・・・」
そうして、考えてゆく。時間の意味を。武器になるの意味も。それらは。多分。
俺の中で、力になって、武器のように、鎧のように、火種となって、体に、心に、
全て培われている!!!!!
きっと、そういうことなのだろう。
「なぁ、」
「何も言うな」
「いや、」
「礼もいらん」
「なんで、」
「俺がお前だからだ」
「・・・そっか」
感謝も何もいらん、と。生まれてから学び続けて自己を形作るそれらを、全て武器として作り続けてくれていることに何年も作っていてくれたことにすら。全てお前のためだった。と言い切ってくれてるのだ。
「まぁ、なんだ。」
「うん?」
「お前と連れ添って18年と半年だが、てめえの人生は確かに面白いから、こっちがうれしいんだぜ。」
「え?そんなに一緒なのか。」
「当たり前だ。」
「てっきり設定としてお前らは俺らに与えられてんのかと」
「それは違う。」
男は、暁人のはっきりと眼を見て言う。
「確かに、形を与えたのはこの世界が、俺らに灼装を与えたからだ。だからこうやって話もできる。それは間違いない。だがな、そもそもな。そんなものがお前らの身体に馴染むわけないだろう。」
「・・・確かにぃ」
「そんなわけでお前らが受けた評価や、お前ら自身の個性の一部から抽出された。お前の場合は無数の才覚ってとこだな。」
「・・・ちょっと待て。俺にそんな才覚が」
「そうか?大体のスポーツは少しやればある程度以上に磨きがかかり。大体のことには思案すれば気づく。鍛え上げれば化け物をも超える才覚。それがお前よ。」
「って言ったって」
「そこまで鍛えぬきもしないし、いい師にも、巡り合えなかったようだがな。優秀ゆえのさぼり癖とそれを許した師の落ち度。加え、師の技量が超人じみていなかったことが問題なだけだ。これは、お前の思い込み抜きでの話。鍛えれば鍛えた分だけ育つ原石だったわけだ。」
「俺が己を信じなくてもそこまでの器だって周りが信じたってことか?」
「現にさっき、てめえは否定したろ?それが周りが信じたっていう一つの証明なんだよ。俺らは、てめえが鍛えて育てた才覚を武器にし続けてた。鍛え続けていたんだ。」
「鍛え...つづけた?」
「そうだ。だからそこいらに飾られたのはてめえ自身の力、経験、技量の集大成...みたいなもんだ。まぁ、心の中ではな。」
「ちょっと待て。」
「なんだよ。」
怒涛の説明すぎてこんがらがった頭を一度まとめる。
「つまり俺は俺自身の経験を武器にして形にするのが能力ってことか?」
「いや、違う。そうしているのは俺だ。」
「じゃあ、能力ってことじゃねえか」
「違うといっただろう、話を最後まで聞け。」
と、言い切り男は続ける。
「これはあくまで心の中のもの。形にし力であることを示すためにこうしているに過ぎないんだ。」
「じゃあ、俺の能力は?」
「それはさっき伝えた通り、無数の才覚からきている。」
「...それって、ダヴィンチみたく、いろんなことができるようになるってこと?」
「否。常に成長を続ける貴様は。鉄は熱いうちに打て、と、ある通り、常に熱い鉄と同じと心得よ。それゆえに、常に熱い鉄であり、加えて無数に並ぶ才覚は、どんな形も成しえる最強の攻守であり続けるのだ」
「っつーことは」
「俺の鍛冶と同じように、森羅万象、ありとあらゆるものを熱せられた鉄の形で再現する能力である。」
「はぁ。なんかうまい具合に帰結したな。」
「多少は夢の中の形づくりが加わる故な。起源はそういうものなのだよ。だからこそ、果てがない。」
「才能なら果てがあるだろう?」
「その考えがなくならない限りは果てがあるだろうな。」
「・・・さっき聞いた精神論みたいなものか」
「その通りよな。そしてだが。」
・・・正直すでに頭がこんがらがっているがなんなんだ。
「お前自身の本質は、きっと鍛錬にある。お前が最もしなかったことな。」
「うえぇ。いてえとこをつく。」
「当たり前だ。それに俺はお前なのだぞ?どんなものも武器にしえるのは、才覚故、それを果てなき果てへ至らしめるのは、きっと鍛錬だからな。」
「・・・つまり、果てなき果てを目指して、鍛えろ、と?」
「お前自身も、周りもな。」
「・・・なるほど」
「お前が行ってきた考察や練習は全て鍛えるという行為となって、心の中で武器になっている。故に、この形を得ている。そんな風に、てめえ自身を鍛えぬくこと。異能がそう言うものだと信じること。それが、できるかどうか、それだけだ。」
「それだけ...ねぇ。」
「信じてみろよ。てめえの才能ってやつをさ。」
「・・・あぁ、分かった。やってみる。」
そんな風に返事をした...したのかな?出来たのかな?そういう風に感じたのは...ゆらりゆらりと、夢に落ちていくようなそんな気がしたからだった...
一応できたので投げておきます。修行シーンはまだまだ続くよ。