第39話 |闘法2《ミディアム》
うずくまりながら腹をさする蒼衣と歩きながら体を捻じったり捻ったりと軽く身体を調整するような調子の鳴子。二人を見ながら満面の笑みの暁人。
その(邪悪な)笑みを浮かべながら、二人に問いかける暁人。
「で、復活したかな?かな?」
「すっごく...楽しげなことに...」
「超腹立つ!」
鳴子の苛立たしげな声に笑顔が止まらない暁人。ますますキレてそうな鳴子である。
ちなみに蒼衣はかなり強めに腹パンをしたので滅茶苦茶痛そうである。
鳴子に関しては結構軽めに打ちました。女の子だし。
それでもいいとこに入ったと思うんだけどなぁ...。
それはさておき、かなりの高威力で腹パンを喰らった蒼衣がうずくまりながら
「・・・クッソまだ痛い...。」
「まぁだろうね。」
「そうかな?私そこまで痛くないけど...。」
「加減はしたけど、イイとこ入ったんじゃない?」
聞く暁人に対し、当てられた位置を確かめながら鳴子は返す。
「ん...んー...そうだね。結構きつかった。でもね、私の異能『不屈』はそんなことじゃ倒れないから。」
「なるほど。確かに本田忠勝は、無傷の武将って呼ばれてたような気がするし...傷を負って死ぬってことを解釈すれば、死ぬまでノーダメージってことか。そりゃ復活するわ。」
色々あったもんな。戦国最強の武将とか言われてたし。
まぁ、それはさておき...っと。
「で、まだかい?蒼衣。そこまでうずくまっていると、流石に殺されると思うよ。」
「どこまでいっても...それなんだね...っ!」
めっちゃ痛そうだけど立ち上がる蒼衣。
「あ、そうだ。まだやる?」
「「やるわけないわ!」」
暁人はサイコパスなのかと疑われそうである。実際そうかもしれないが。
「あっはは。冗談冗談。でもまぁ、実力は測れたよ。とりあえず、正確な力量を測って、そのついでに蒼衣の弱点の指摘のために戦いたかったんだけど...思いがけず鳴子の方も課題が見つかったね。」
「ん?あたし?」
「そ。とりあえず、立てって言っといてなんだけど...座ろうか。」
「暁人...今度...絶対しばく...!」
「まぁそういうなって。継戦の意志があったら立たなきゃだしな。」
よっこらせと胡坐をかく暁人、真似をするように鳴子も蒼衣も胡坐をかく。
・・・正直、恰好次第では鳴子は胡坐をかいちゃいけないと思うんだが。まぁこの際おいておこう。
十分胡坐もやりにくそうだしな。
「さて、何から話そうか...とりあえずは何がしたかったか、から話すか。」
「そういえば、芽衣帰っちゃったけど良かったの?」
「問題ないよ。そもそも三人の力量を図りたかったんだって。」
暁人がこの三人を呼んだのは正確な力量を知らないからである。
知らない理由は主に校舎解放戦線での活躍がそこまでなかったからである。
「芽衣と蒼衣は、結局巨人の処理だったろ?確かに大変ちゃあ大変だが、多分感覚として強敵との戦闘って感じじゃないから、異能の出力がどんだけしょぼくても継戦能力が高けりゃ問題ないだろ?」
「まぁ...巨人は雑魚って感じだったけどさ。」
「菜月の一撃もド派手かつそれこそド級の力はあると思うぜ?でも、多分他の敵相手だとそう簡単には倒せんだろ。ホブゴブリン未満ゴブリン以上が一般巨人の戦力評価だが...違うかな?」
「多分あってる。その程度の実力でしかないよ。」
「それじゃあ、何で私?私は少なくとも、あの六本腕五刀流と戦ってるんだけど。」
暁人の分析とそれを肯定する蒼衣に割り込むようにして鳴子は質問を挟む。
「それはね。聖の予定調和の中での駒だったからだよ。」
「駒!?」
「うん。」
あっさりと認める暁人に対し、私がって感じの鳴子である。
「まぁ、聖の未来収束に含まれると誰もが役者に落とし込められるからね。」
多分、あいつの想定の中に含まれてたんだろうな。タロスの討伐には。
「まぁそのせいで、正確な戦力が測れてなかったんだよ。正確に言うと、三人の正確な戦い方と実力。」
ただ、まぁ篝とは一度、一緒に戦っているし。聖とは直接闘ったからどうゆうタイプかは分かったしね。
そう付け加える暁人の言葉を聞いて納得する鳴子。
「そっか。そうなるとあたしだけ戦い方がいまいちわかってなかったのか。」
「そうなるね。二人の戦いっぷりを聞いている限り、鳴子が前衛型、蒼衣が後衛型ってのは分かってたし、二対一でやればその役割に落ち着くのは自明の理だったからね。」
「そういえば...そうね。ある程度の情報は聞いているんだもんね。」
「そりゃそうよ。聞かなきゃ指揮官なってやってられますかっての。」
「まぁ、それは...。」
「そう...なるか。」
納得をする二人。腹パンされたことには怒ってそうだけど。
二人が納得したところで漸く本題に入れるや。
「とりあえず、したかったことの一つは終わったんだ。もう一つは直接示してからできるものだし。」
「もったいぶらずに教えてよ。」
鳴子のちょっとだけいら立ちが混ざったような言い草にまぁまぁ、と手を動かしながら暁人は続ける。
「まぁ、鳴子の方じゃないんだけど。俺が言いたかったのは蒼衣の方さ。」
「え...俺?」
「うん。君の放電地についてだよ。」
「あっ!そうだ!暁人はあれどうやって」
「説明するから。落ち着けって。」
やっぱりまた、まぁまぁと両手を動かす暁人。癖なのかもしれない。
「とりあえず、一つ。技の詳細を聞いた時点で思ってたんだけど。正直な話当たれば必殺!くらいに思ってて。基本的に当たるの前提で考えてないか?」
「まぁ...そもそも喰らってからの防ぎ方は気付いたからわかっているけど...。」
「おっと。マジか。喰らってからだと...魔力を脱ぐ方法かな?」
「そう...だね。やってみないとわかりにくいけど。」
「・・・どゆこと?」
首を傾げるのは鳴子である。溜息をそれっぽくついてから説明をする。
「まぁ単純な話。傍から見ると、電撃が飛んでって、バカみたいな高時間電撃を与え続ける物なんだけど。その実態は敵の魔力を食い続けて放電し、感電させ続ける物なんだよね。だからこその電池で放電なんだよな。」
「ごめん。何がどうだかさっぱりわからない。」
「えーっと。そもそもが電流を流す対象を定めなくちゃ他のやつらも感電するかもだろ?それを防ぐために対象とする生物の魔力に電気を流すんだよ。魔力を食いながら。」
「敵の魔力を食いながら、敵の魔力に電気を流すの?」
「そうなるね。だから、身に纏ってる魔力を脱がなくちゃいけないって話になる訳。」
ポンっと音が鳴りそうな仕草をしながらわかったといった様子の鳴子。やれやれだぜ。
「ようやく納得いったわ。でもそんな技、初見殺しだし当たった時点でほぼ必殺なんじゃない?」
「そ。だからこそ、それを必殺技と思ってないって話に帰着するんだよ。」
「実際そうでしょ?」
「そうじゃなかった証明のための戦闘だったんすけど。」
「え?嘘?マジで?」
こいつ...。マジでさぁ...。
暁人の呆れが目に見える形に現れたのだが、鳴子は特に何も言い返せないためシュンと縮こまる。
そんな鳴子を見かねてなのか、タイミングが良かったのかはわからないが蒼衣が口を開く。
「...防いだのって、普通の銃弾だよね?」
「そうだな。」
「あれって、暁人の魔力だから防げたってことかな?」
「そういうことになるね。」
当たれば必殺。じゃなくても、スタンくらいはするはず。それでいて魔力にながすんだから防ぎようがないよね。って言うのが放電地の理論。確かに。否定はしねえししにくい。
だけど、どんなものにだって弱点がある。少なくとも、放電地には存在する。
それは、相手の魔力に流す点。相手が使用した異能の魔力にまで反応してしまうのだ。
つまり銃弾に反応して空中で電流が弾けたのは、暁人の魔力にぶつかって空中で銃弾分の魔力を食いきってしまったからにならない。
わかりやすく言うなら戦闘機などで使われるデコイ...所謂チャフに反応してしまったといったところだろうか。
そしてもう一つの魔力を脱ぐ方法。これを例えるなら、火のついた服を脱いで火傷の量を減らそうとしているのと同じである。
そもそも当たらない方法と、当たっても多少の代償を払えば死なずに済む方法。この二つが確立されている以上、必殺技は必殺技になりえない。
なにせ、必ず一つの命が消えるのが必殺技なのだから。
「要はさ。強すぎる技の弊害で、それさえ当てれば、使えれば絶対に勝てる。なんて思考に陥っちゃうんだよね。そしてそれって成長の邪魔なわけで。だから、無敵の技じゃないんだよ...って言いたかったんよ。口で言うだけじゃ伝わらないから腹パンを伴ってね。」
「代償がでかいんだよなぁ...。」
「ははっ。わりいわりい。」
片手ですまんって感じに謝る暁人。
「まぁそのつもりだったんだが...それ以外にも思わぬ発見だね。鳴子がここまで強くて弱い部分があったとは。」
「強くて弱い?」
「そ。優しさは強さの逆証明だからね。他人の心配ができるのは強さともいえる。ただそれで隙を作っちゃうのはいただけないんだけどさ。」
「あぁ、そういう。」
「そうそう。それ以外の弱さはないよ。ぶっちゃけ近接戦闘なら格上と思われる相手とだって渡り合えるしね。強いて言うなら遠距離使いにはもしかしたら強く立ち回れないかもしれないくらいかな。」
「あぁ、それかぁ...そういうところはどうにもならないから何とか距離を詰めたいくらいかな?」
「だね。で、だ蒼衣。」
「はい...。」
「なーにかしこまってんだよ。」
さっきのかばわれたくだりも暁人にあっさり負けたことも合わせて自信を滅茶苦茶喪失しているのだろう。わかるぜ、そういうの。
「お前はまだまだ強くなれる。それが分かっただけ重畳じゃねえか...なんていっても失った自信は戻らないだろうな。じゃあ、あえて今回ダメだったことを口にしようか。」
「慰める展開じゃないの?」
「な訳。俺は女の子には優しいが男にはクソ厳しいんだぜ?」
蒼衣の返答に笑顔を浮かべながら暁人は言う。
そんな状況に鳴子がすっごく複雑そうな顔をしている。当たり前だけど。
女の子を腹パンしといてよく言うって顔してるけどフルパワーで入れなかったの、優しさだからな?
「とりあえず、過信だな。放電地が最強だって思いこみが近接戦闘の道を閉ざしたんだ。それが腹パンを喰らった大きな要因。そも、巨人狩りは無手で行ったんだろ?」
「まぁ...うん。俺は電気纏いながらだけど。」
「なら近接でも十二分に戦えるじゃないか。別に問題ねえよ。」
「そっか...心構えか...。」
「そ。そこに...新しい使い方を授けよう。」
「えーっと...何?」
疑心暗鬼と言った様子で眉をしかめる蒼衣。ヤバいもんは出さないって。
「要はさ。雷電が電力を司る能力なわけだろ?そして、魔力を燃料に魔力に電力を流すことが可能なわけだ。」
「まぁ...そうなるのかな?」
「ってことはだ。電力と切っても切り離せないものが存在すると思う。それは...。」
「・・・磁力!」
「正解!」
聞いていた時は考え込んでいた蒼衣が、閃いたかのように暁人の方を向く。
そんな蒼衣に指パッチンをしながら指を向ける。
「その理屈で言うなら魔力を持ってる人物に対して、その人の魔力を金属のようなものとすると。」
「異能すら捻じ曲げられるってことになる!」
そうだね。頷く暁人に興奮する蒼衣。ただし問題は。
「絶対それ緻密な魔力操作必要にならない?」
「なるんじゃない?でも理屈の上ではできるとは思うよ。」
「なるんじゃないって、暁人なぁ...。」
「まぁまぁ。そしてこれは俺の提案だけど。」
「???」
蒼衣と鳴子は首を傾げる。
「イメージ化の問題でさ。型とか決めといたらいいんじゃない?」
「例えば?」
「射雷槍。これは直線上に電気を飛ばす技で貫通系。放電地は当たった時点で発動し、喰らった相手を感電させ続ける技。これ以外にもいくつかの型を作らなくちゃ弱すぎるでしょ。」
「まぁ...弱すぎるっていういわれは悲しいけど。」
「でも、そこに磁力の技も加えるとなるとわかりにくい。というわけで分類ごと変えようって話。」
「つまり...分類;電力と分類;磁力の二つに分けるってこと。」
「まぁ...そうだね。そんな感じかな。」
両手を使って説明をする蒼衣。それを聞きながらうなずく暁人。
「まぁ、どんな分け方でもいいと思うよ。聖が言ってたように電力なら何でもできるわけだし。それこそ電気として使うか、それ以外で使うか、とかみたいな使い方でもいいしね。」
「そっか。それでもいいね。」
割と明るくなる蒼衣を見て昨日を思い出す暁人。
「まぁ、ほら、なんだ。もう少し修行に付き合うから。午後は頭使う可能性もあるしな。」
「よし!頑張ろう!」
「あたしのにも付き合ってもらうからね。」
「うえー...まぁいいよ。」
なんだかんだ三人でお昼まで修行することになった。
修行を終えて風呂で汗を流し終えた後は、お昼ご飯にした。お昼ご飯は鳴子や聖、蒼衣と話しながら過ごし探索組の帰りを待つこととした...。
はい。そろそろネタが尽き始めてまいりました。どうも、銀之丞です。
ちなみに、いつもは昼ご飯の話が入るのですが、昼ご飯の所ではちょっと解説をしておかなくちゃいけないところが出そうなのでそこのところを補足しておこうと思います。
ただ、別に読まなくてもいいところにしたいんだけど、どうせならって感じで補足編にしようか39.5回にしようか迷っています。
ぶっちゃけどっちでもいいのですが、補足は読まなくてもいいやつ、.5じゃ呼んだ方が後々楽しめる奴って感じにしたいと思ってます。気が向いたら読んでほしいな。
後この状態だと3本上げられんかもしれん。すんません。
というわけでいつもの挨拶をば。
いつも読んでくださっている皆さん!誠にありがとうございます!
最近石配布が多いな...また限定か!?




