第38話 |弱点《おに》
絡繰り武者と対峙する芽衣。蒼衣曰くは異様なほどに強い、らしいのだが...正直印象がない。小さいだけのイメージしかない。
そんな暁人は疑心の念から蒼衣に尋ねる。
「あいつの戦闘スタイルってどういう物なの?」
「徒手空拳だよ。異能は何も使わない。でも...開き直ってるからか、それとも純粋な才能なのかどっちなのかはわからないんだよね。」
「んー...いうほどか?」
近接戦闘なのに、そんなハードルを上げるって余程過ぎないか?
首を傾げる暁人に数秒考えて蒼衣が口を開く。
「僕が思うにだけど...廊下での戦闘においてなら炎夜叉より速いかもしれなかった。」
「!?マジか!」
「そしてなにより...360度使って戦闘ができていた。僕も真似したかったんだけど...それはできなかったから、壁だけしか使ってないや。」
「平衡感覚...やべえな。」
暁人だったら同じことができただろうか?考える。
確かに似たようなことはしている。適当に名前を付けた炎天三角斬り。これだってそもそも三角飛びが出来なかったら成り立たない技である。
がしかし、天井を使うのはなかなかに難しい。それこそ、飛び上がったときに態勢を整えて天井を蹴る構えに移行しなくちゃいけないし、速度を上げればそこまでの態勢に至るまでにかかる時間が短くなるためより難易度が上がる。
考えた暁人の中では、技術としては不可能ではないと思う...が、その場の思い付きだけでそれを行うのは不可能である、となった。
それを一日修業しただけでできるようにって...やばすぎだろ。狂気じゃん。才能ウーマンじゃん。怖。
「そろそろ始まるよ。二人とも。」
話を続していた蒼衣と暁人に芽衣の戦いを見るように促す。
絡繰り武者は暁人と戦った時のように竹刀をしっかり握り、摺り足でジリジリと距離を詰めていく。
一方の芽衣はボクシングのように前に手を構えはしないが、拳を握りながら軽く何度か跳ぶ。
フットワークのようなものだろう。拳自体は握っているが腕には力を入れず。軽く、軽く跳ぶ。
それは、武者がまた一歩と距離を詰めようとした瞬間だった。
芽衣が武者に向かって跳ねるように駆け出した。
その速度は、なるほど確かに。暁人の炎夜叉に匹敵するかもしれない速度である。
どんどんと距離を詰めていく芽衣に対し、自身の間合いに踏み込んだ芽衣に竹刀を振るう。
どう捌くか、三人は考える。
だが芽衣は、純粋に。
「「「!?」」」
一歩だけ横に跳び思いっきり右足を振り抜く!
普通の神経をしていれば、竹刀を相手に蹴りなんて打たない。
余程自身に自信でも持たない限り、斬られるのだから。
でも、魔力という性質をよく理解している芽衣にとっては。
関係ない。
魔力のこもった竹刀を大幅に超える魔力を右足に纏って、超威力の回し蹴りを以て蹴り抜く。
他のクラスメイトが出来なくて、芽衣にだけ出来ること。それは魔力による「魔力の硬化」である。
暁人は、魔力を灼装によって防具に置き換えることで、防御力を上げる。
他の面々も異能を使うか、もしくは身体強化に魔力を回すことで回避や受け流しを行う。
だが、魔力で身体強化をするのが、例えば筋肉を強化することなら。
別に、魔力だけで固めて魔力を硬化することぐらいなんてことないことだよね?
そう考えた芽衣にとって、身体強化も魔力硬化もなんだって変わらない。
ただ純粋な魔力操作の一環として、扱われる「技」である。
それが、天才である所以であり、未だ異能の力を扱いきれていない根本的な理由とも言えた。
その蹴りは竹刀をへし折って絡繰り武者を吹き飛ばす。
見ている暁人からすれば。
「・・・マジかよ。」
の一言しか出てこない。正直もっと苦戦すると思ってた。
ただし、本番はここからでもある。
一撃で絡繰り武者を屠ったように見えたがゆらりと武者は立ち上がる。
芽衣は構えにしては珍しい構え、拳を握り腕を開いた状態の構えにする。
先程よりもはるかに速く間合いを潰す。もう、摺り足はやめたようである。
(・・・第二形態...とでも言うべき状態に、一瞬で追い込むのか。たまげたな。)
暁人は戦慄し安心する。芽衣が味方であったことに。
先程よりも急激に速度を上げた武者の横なぎの一撃を大きく後ろに跳んで躱す。
「おっと!」
割と慌てたようで、かなりの間合いを取る。
先程とは打って変わった武者の変容に芽衣は戦慄...など微塵もせず、口元に微笑を浮かべながら、三点着地のように右手を床につける。
「・・・ここからだよ。暁人。」
「ここから...ってさっき言ってたやつか?」
「うん。これが、おそらく最速の技だよ。」
蒼衣の語りを聞くだけでもわかる。
恐らく、純粋な対人戦闘で現状最強は芽衣である...と。
ゴクリと、自分の生唾を飲み込む音が聞こえそうなほどに。
静寂の中で、その一片も見逃さないように集中する暁人の口元が緩んでいるのを鳴子は見逃さなかった。
鳴子が視線を戻した瞬間には、武者が動き出そうとしている瞬間だった。
暁人が闘った時と同じ、恐れや警戒よりも真っ直ぐに全速力でかかろうとする。
が、その動きは一瞬で止まる。
見失ったのである。
自身のスピードをふんばりで押し殺した武者だが、その理由は対峙している芽衣の姿が一瞬。ほんの一瞬だけ左にぶれたように見えた。
だが、一瞬。その一瞬を、捉えきれなかっただけで、目を離しただけで、もう。
視線ですら、追い付けない。
武者に許された自由は、周囲から反響する音から敵を探すことだけである。
暁人たちは何とか、全体の俯瞰という形で把握できていた。
芽衣から見て、右に跳んだ直後、右の壁まで飛びきらず、視線を切るために、前方に向かって跳躍。直後、壁を蹴り飛ばし加速。床に降りた直後天井に向かって跳ぶ。今度は壁に向かって跳ぶ。次は床。次は壁。次は...。
その軌道はまるで小さな空間で、壁に思いっきりスーパーボールを叩きつけた時のような軌道で跳ねまくる。
スーパーボールの速度は本来、初速から段々と速度が落ちていく...がこのスーパーボールは関係なく加速を続ける。
その加速はもはや何物にも止められず、捉えられず。
連続跳躍によって生まれる最高クラスの蹴りは、武者の脳天を勝ち割るように振るわれて。
この戦いに幕を下ろした。
「・・・足痛い。」
「だろうな。」
確実な一撃を以て武者に止めを刺したが、当然その代償はある。
どうやら魔力の比率を間違えたらしく、脚の硬度の設定を間違えたらしい。
後跳びすぎて足が痛いとか。アホかな?
そんなアホの子が口を開く。
「痛い...辛い...もうヤダ拗ねる。」
「はいはい。それじゃもう保健室に行ってていいよ。」
「あ、もういいのー。やりー。」
芽衣は大きく伸びをし、足の調子を整えると保健室に向かった。
それを見送ると、暁人は二人に向き直りこう言う。
「いやー...あいつ強すぎんなぁ...。」
「ほんとよね!あれは無茶苦茶だわ!」
「わかる...すっごくわかる...。強すぎる気しかしないし...うん。自信を無くすよね。」
三人の意見は一致する。それこそ芽衣ならいずれ恐竜をゆうに超えるような巨人すら殴り倒すんじゃないんだろうか?
確かターロスの大体のサイズが...10メートル以上15メートル未満ってとこだよな。それをワンパン...うわ考えたくねえ。忘れよ。
気を取り直すように、軽く暁人が手を叩き注目を集めなおして話始める。
「さてとりあえず...だ。自動修復で武者は復活した...復活したんだが...こっから先は調整ができた方がいいと思うんだ...っつーわけで。」
「「?」」
首を傾げる二人に満面の笑みでこう告げる。
「言ってたことと矛盾するけど、俺と闘ろうか!」
「「...。」」
沈黙が返ってくる。せめて返答はしてよ。
「いや、まぁ...そんな気はしたんだよ。いやな予感として...。」
「だよねー...めんどくさそう。」
「まぁまぁ、あんなふうに瞬殺できなくて危ないのも困るし。というわけで様子見がてら...ね。」
「ちゃんと理由があるのがまた腹立つ。」
臍を本気で曲げてそうな言い草の鳴子。後さらっと蒼衣まで嫌な予感呼ばわりしやがったの許せねえんだがな...。
まぁいっか!全部事実だと思うし。クソが。
「もし怖えってんなら、二対一で構わんぜ?時短だしな。」
「「!」」
イラッ...ときたって顔だよな。そうそれだよ。戦いの開始に必要なのは、沢山の緊張と一滴の感情。
ほんの一滴で、張り詰めた糸は切れるんもんだし。
まぁ、今回の「キレ方」は字が違うんだけどな。
「舐めてくれんじゃん!やってや」
「ちょ...っと待って。七嶋...じゃない鳴子。別に暁人の肩を持つ気はないし、ボコすことには反対しないけど。」
おっと言ってくれる。かばってくれてもいいのになぁ...。
「二対一の方がよくない?そっちの方がボコボコにできる。」
「そうね。ボコしましょう。」
「よし。かかってこい。」
そういう問題かよ。はぁーめんどくせー...。
ゆっくりと身体を伸ばす。身体が痛い...でもまぁ...さっきの見ててテンションが上がってるし、こういうのも悪くないし...。
何より、あいつの弱点を教えてあげないとな。
「さーて...かかって来いよ。」
身体をほぐしながらある程度の距離を取る。ゆったりと身体を整える。
指をクイクイっと、挑発の仕草を取る。
鳴子が全身武装で構え、その後ろで両手でスパークをし、『雷電』を準備する蒼衣。
先に動いたのは鳴子だった。
鳴子は横一線に薙刀を振るう。
暁人は瞬時に発現させた二つの灼刃で受ける。
だが。
「ッ!」
後ろへ飛ばされる。パワーの差とかも当然あったが、純粋に二対一だと。
「雷電 射雷槍!」
数の暴力に気を付けなくてはならない。
鳴子を避け、暁人を打とうとした電撃は外れ壁に直撃する。
(今までの技とは違い、正確に相手に着弾点を設定せずに打つ電撃か。自身の魔力量がどれほどかをわかるようになったが故に今までの計測にかかる時間は減らせるってわけだな...)
蒼衣の弱点として、電流を流す対象を決めなくてはならないところがあった。それがなければ予備動作が一つ減る。加えて、どれだけの威力で打つか...とか、弾種とかを正確に定めなければこのように使える。
わかりやすく例えるなら、今まではその場その場でオーダーメイドで作っていたものを、あらかじめ作っておいた既存の型に流し込むのが今の型って所である。
というか最初っから型にしてなかったのが不思議なんだけど...それを突っ込む余裕はない。
あと入れ知恵しやがった聖は許さない。いいことだけども今だけは許さない。
「フンッ!」
下がった暁人に対し、もう一度力技で上から薙刀で切りつけようとする...が。
そこはさすがに暁人。回転をしながら捌き、瞬時に間合いを詰める。
勢いそのまま右手一本で薙刀と打ち合う。
さすがに威力が足りないようで、刀と薙刀がぶつかり合う鍔迫り合いも片手では押し切れない。
普段なら左手で追撃を加えるが、一瞬忘れかかった蒼衣を思い左手を籠手だけにして刀を無理やりに押し、何とか鍔迫り合いを成立させる暁人。
漸くのことで押し切ると、それを予期していたのか、もしくはどっちが勝っても何の問題もないと思ったのかはわからない...が、蒼衣は側面に回り込み。
そして。
「雷電 放電池!」
知りうる中で、もっとも喰らってはいけない一撃が...暁人に迫った。
「おっと!」
横目でなんとか蒼衣を捉えた暁人は左手で拳銃を作り出す。そして。
「これで防げるって、知ってたか?」
ダンッ!
灼装によって作られた拳銃が火を吹き、放電池にぶつかって。
バチバチバチッ!
空中で電気がはじけて消える。
「なっ!?」
予想外って顔をする蒼衣。正直今のタイミングなら当たると思っていたのであろう鳴子も面を喰らったかのように一瞬、動きが止まる。
その一瞬を縫うように暁人は、蒼衣へと距離を詰める。
咄嗟のことで反応できなかった蒼衣と違い、鳴子は一歩遅くとも割り込むようにして暁人を留めようとする。
だが。
「甘い!」
防ごうと大回りになった鳴子にはかなりの隙があった。他人をかばおうとすれば逆に自身に隙を作ることになる。
それが鳴子にとっての弱点だった。
「カフッ!」
咄嗟に灼装を消して無手による腹パンからの一本背負い...雑に放り投げる。
鳴子にとっては態勢を完全に崩すどころではなく、思いっきり放り投げられ受け身を取ろうとする。
空中で受け身を取ろうとして気づく。今の行動で完全蒼衣に盾がなくなってしまったことに。
蒼衣が瞬間的に両手にスパークを...。
「っあ!」
するよりも速く、下半身だけ炎夜叉を顕現。瞬時に間合いを完全に潰すとゼロ距離から鳩尾に縦拳を見舞った。
かくして、存外あっさりと。二人への稽古は終わった。
二人は腹パンを喰らって超痛そうである。主に蒼衣の方。
とりあえず何を話すにせよ、暁人は二人の回復を待つことにした。
銀之丞です。先週の投稿、間に合わなかったとです。
銀之丞です。最新話で後書き、書き忘れたとです。
銀之丞です。最近、暑さのせいか作者のスランプが目立つとです。
銀之丞です。銀之丞です。銀之丞です...。
ハイ先週はほんとにごめんなさい!!!今週は三本上げたいなって思ってる!けど無理かも!ごめんね!
イヤー...疲れてるわけではないけどなんか調子悪いんですよね。
ほんとごめんなさい。頑張るね。
というわけで暗い話はここまで!
いやー、スタンプールの防ぎ方の話が絡んできましたね。
正直今回の弱点の話は蒼衣に関する話です。正確には次回に引き継がれます。辛い。
というわけで今日も読んでくださった皆様!誠にありがとうございます!
プリコネ楽しいですね!(病気)




