第33話 |反射《スタンダード》
お昼寝をしたせいでなかなか寝付けないことに多少のいら立ちを覚えながらも、ゆっくりと布団を出る。
微妙に温もりが残る布団は寝起きだったり疲れていたりする時はすごく魅力的に思えるのだが、残念ながら目が覚めているときは微妙に暑苦しく感じるだけである。
そんなわけで、多少不機嫌になりながらもまぁ、身体を動かせば目が覚めるはずだろう、と不快感由来の重い足取りとはまったく対称的な精神及び考えで外に出る。
すると。
「あっ。」
少女漫画もあわや、といったようなごっつんこ展開かと思いきや、別にどっちも速度を出していたわけでもないので事故りようがなかった。
ちなみに、少女漫画を謳っておきながら暁人の前にいたのは男だった...なんてことは暁人にしては珍しくなくそこに立っていたのは普段着と思われる沙紀だった。
普段着といっても校舎に来てからの格好、ナースワンピ(暁人命名)ではなく、ラフなタイプのホットパンツ?と言われるようなジーンズを短パンにしたとでもいうようなズボンに白色のTシャツ。Tシャツには特に面白いことが書いてあるわけではないが英文が書いてある。
「おろ?どうかしたん?」
「んー...寝付けないから、身体動かそうと思って。」
「じゃあ、同じだ。俺もついていくわ。」
「ん。じゃあ、着替えたら?外で待ってるわよ?」
確かに未だ迷彩服の暁人は正直おかしいのかもしれない。でも服の作り方...?知ってたっけ?
「どーやって作るん?」
「あれ?服作れないの?」
「うん。やり方知らないの。」
「・・・コンピュータールームでさらっと作ってなかったっけ?」
「え...あー!なつに作ったな。」
「・・・どうしてできたんだか。」
俺にもわからんと両手を上げて仕草で示す暁人。理論とか何もかも気にしていない方が有能という極めて稀なタイプなのかもしれない。
「...あの時の感覚覚えてないんだよねえ。」
「普段自分が着てる服思い出せる?」
「えーっと、まぁ当然ながら。うん。」
要は普段着を思い浮かべろってことだよな。普段着って言ったら...白と青ボーダーTシャツかな?それに...。
「そしたら、両手に魔力込めてバサって。洗濯物を取り込むときに埃とか花粉払う感じで力込めたらわかるよ。」
「・・・?」
訳が分からないけれど、とりあえずイメージは分かった。けどそれでできるのか?
半信半疑になりながらも暁人は両の手に魔力を集めて言われた通りバサっとやってみる。
バサッ。
「ほらね?」
手元に生まれたのは白と青の半袖の、想定通りの服である。
「・・・できた。」
え?理論とかすっ飛ばしてこれでできんの?すっごく納得いかない。
そんな暁人の表情を見て苦笑しながら沙紀は言う。
「難しく考えすぎなのよ。魔力とか異能って言ったって身体機能には変わりないし、仮に後天的に備わったものだとしてもできるようになるわよ。」
「えぇ...」
「そもそも、そんな風に起源がどうとか理論がどうとか考えなくたって、どうにかなるものはどうにかなるわよ。どうにもならないほど難しいことだけ考えてればいいの。」
なんか釈然としない。けど、実際その通りなんだよなぁ。
確かに、ひじりんの奥義はそのままの流れを断ち切って、自身が望む流れに誘導するために自身の行動でできる範囲で動く技である。沙紀の言いたい事は、これほどの奥義なら思考も要すると思うって話だろう。
逆に言えば、俺で言うところの火縄銃を作るときみたいに感覚だけで存外なんとかなるだろってことなんだと思う。
そりゃ本能に基づく行動なら無意識でできるか。
まぁ、その話を深く掘り下げると脳死が出来なくなるからもう考えないけど。
「さ。さっさと着替えて稽古室に行くわよ。あたし外で待ってるから。」
ひらひらと手を振って外に出ていく沙紀。さてズボンも作んねえとか。
いつも通りのハーフパンツをイメージして...っと。
青のハーフパンツを何事もなく作り、着替えを始める。
「・・・靴...どうしようかな...。」
足元に魔力を集めてから、軽くトントンと床で音を立てる。
すると今まで使っていた靴がさらりと使い慣れた黒のスニーカーに変わる。
まさかここまで簡単に変えられるとは思わなんだ。
やっぱり存外簡単だったってのは間違いないね。本能で何とかなったわ。
身体にどれだけフィットしてるかを準備運動をしながら確認する。
(うん...結構具合がいい。というかフィット感は完璧だな。あのとき修斗のしっかり合ってるって言うのも、あながち間違ってないのだろうな。)
さて、出るか。
「マジお待たせです。」
「女の子を待たせる!?とか言おうと思ってたんだけど...。想定より早いじゃない。」
「本当に簡単だったよ。まぁ、ほら、言ってた通りだったわけでね。そこはさておき。行こうか。」
「そうね。行きましょうか。」
軽く言葉を交わしてから肩を並べて稽古室に向かう。
その道中でまた暁人と沙紀はのんびり話をしてた。
「それにしても...暁人は随分と戦いなれてるように思うんだけど...。」
「まぁ...そうだね。その質問についてちょっと確認しておきたいんだけど。」
「うん?」
「いや、どんぐらい修行してたんかなって。」
そもそも暁人の才能云々の話を全て取っ払ったとしたって周りに比べて3ヶ月半のありとあらゆる武器の基礎修業があったって言うのもあるし、加えて戦闘で使えるような体さばきにしたり魔力の扱い方をできうる限り会得したり、と濃密な修行期間自体があったことは間違いない。
暁人として言うのであればもっと修業したかったほどであったわけだが、3ヶ月半も毎日毎日戦闘のみに特化して過ごしていれば基礎ぐらいは身に付く。
まぁ、十二分に戦えるような期間を設けて修行していたからこそ、今は大体の敵と渡り合えるようになっているわけである。
故に、暁人にとって他の連中がどの程度闘っていたのかを知らないからアドバイスのしようがないのはしょうがないとしか言いようがない。
「あたしは3週間くらいかしら?割と多い方だと思うんだけど。」
「それって、体術だけで?」
「えーっと、多分そうね。異能は合間合間に使ってた感じかしら。」
「そっか。身体を治して修行してたのか。そりゃあ、沙紀も強いわけだね。」
「それで?暁人は?」
「俺は3ヶ月半だね。」
「3ヶ月...半って長すぎじゃないかしら!?」
絶句する沙紀。そりゃまぁ、1ヶ月でも十分多い。それに対してその三倍なんだから...そりゃそうだな。
「都合100日以上だね。」
「何をそんなに...。」
「俺はほら、色々鍛えなきゃいけなかったから。体術、刀術、槍術、銃術...あと何が在ったかな?」
「やりすぎでしょ。」
「そりゃまぁ、何でもできなきゃ、生き残れないでしょ。」
「・・・一芸を極めるのも強さの内だと思うけど?」
「ごもっとも。だけど強さの形は幾つもあるからね。勝つために手段は選んじゃいけないと思うんだ。」
「...騎士道賛成派じゃないけど、邪道は反対するわ。」
「まぁね。人として勝つために。英雄になるために、邪道は選べない。ただまぁ...武芸百般、知略百式。まぁ、少し造語だけど、正道な搦め手ってのもありかなって。」
「まっ、そうね。だったら色々できた方がいいか。」
「そーそー。最終的には覚えた全てを悉く至高にして必殺のものに押し上げるようにできれば最っ高なんだけどね。」
「よくばりすぎでしょ。」
「英雄は多少欲張りな方がいいでしょ。」
イリアスのお話とかめっちゃ強欲やで?と付け加えるがそもそもイリアスを知らないため伝わっていなさそう。
というわけでイリアスの説明をし始めたけど残念ながら時間が足りず稽古室に着く。絵面だけなら彼女の機嫌を取りなそうとしている彼氏の様ですらある。
すると、沙紀が何かに気づいたように首を傾げる。
「・・・ん?」
「どしたの?」
「誰かいない?」
「マジっすか。」
耳をすませば何やらガシャガシャ聞こえてくる。というかだいぶうるさいのに気づいてなかったの割とポンコツなのでは?
そーっと、暁人がドアを開けるとそこで修行していたのは志島だった。
能力を使わず、絡繰り人形の武者と剣を合わせ、何度も何度も切り結ぶ。
新しい戦いの方法を模索しているのだろう。動きは悪くないが正直、ぎこちない。
「・・・誰がやってるのかしら。」
「志島。ただ動きが硬いから...多分、新スタイルを試してるのかも?」
暁人がのぞいている場所から少し下の位置で顔を出し、沙紀も見始める。
「んー、あれは多分...普通に修行中ね。もしかしたらだけど、真っ向勝負、苦手なんじゃない?」
「あー...そういえば、剣使ってまともに戦ってた感じそんなになかったような...?」
報告を聞いた感じそうだったかも?なんて軽く首を傾げて考える。
沙紀は沙紀で、踏み込みが甘いとか、動きが硬い、とか割とよく見ている。っていうか、沙紀ぜってえ強いだろ。
「見ててもつまんないし、そろそろ入ろうか。」
「そうね。行きましょう。」
ガチャリと中に入ると、驚いた様子でこちらを見る。が、闘いをしている最中に敵から目を離すという愚の骨頂を堂々と行った志島は、至極当然の結果として。
「ウガァ!」
武者から痛恨の一撃を受ける。竹刀の突きを。思いっきり腹に。
鎧を纏っているから流石に貫通はしないだろうが、貫通してもおかしくないくらいの威力を腹に受け思いっきり吹っ飛ばされる。
「あらら。」
「いたそー。」
めっちゃ軽い反応をする暁人と沙紀。ぶっちゃけ想定してたしね。
笑いながら暁人がふと、前を見ると志島はまだ立ち上がれていないが、絡繰り武者は今なお動き、志島に攻撃を加えんとする。
「っと、このままじゃ危ないか。」
瞬間的に全身に魔力を流す。最近一番使う技をイメージ...構築して。
『灼装 炎夜叉』
体は炎を纏い、全身は燃え滾る夜叉へと変貌する。
髪の色も赤く、紅く。緋色へと染まっていく。
おそらく暁人のイメージとして最高に近い、完全体に近い炎夜叉。
(ものによっては理論構築よりも反射で行った方がいい...か。あながち間違ってないな。よく馴染む。)
全身を緋く染めた夜叉は、膝を曲げたうえで、前に倒れるように動く。
それこそ、このまま地面に倒れこむんじゃないかというほど、身体を前に倒した瞬間。
跳躍した。その勢いのまま空中で身を捻ると絡繰り武者の前に割り込み回転切りを放つ。
受けた武者は大きく吹き飛ぶ。竹刀が折れなかったのは、竹刀でありながら余程の業物であったか、あるいは死ぬ気で魔力を込め防いだからなのだろう。
(・・・できるとは思わなかったが...この状態なら行けるか...!)
暁人が行ったのは無歩による助走とでもいうべき技である。
陸上でクラウチングスタートをする理由は少しでも空気抵抗を減らしてロケットスタートを切るためである。同様に水泳にある蹴伸びや飛び込みの際、両手を真っ直ぐ伸ばすのはそういった理由からである。
物で言うならロケットなどもいい例かもしれない。
さて話を戻すが、空気抵抗がどうこう言うのなら確かに手を伸ばしながら飛ぶ必要があるのだが、体勢を垂直に飛ばすだけでも意味はある。
できる限り頭の方から飛んだ方が空気抵抗は減らせるのである。
というわけでこの跳び方を選択したが残念ながらそんなに意味はないような気はする。やるのが難しい癖にリターンが少ないのである。
割とバカなのである。
そんなバカの回転切りで吹き飛ばされた武者はゆっくりと身体を起こす。
二人の間に火花を散らす。
ゆっくりと構えなおしながら間合いを潰しに来る武者。
後ろの志島も体勢を立て直し暁人に声をかける。
「暁人!俺の修業なんだけど!」
「ちょっとだけ休憩しとけって。沙紀いるんだし。」
「・・・チッ!」
(おーおー盛大な舌打ち。すまんね。)
心底腹立たしそうに舌打ちをする志島に対し正直すまんと思いながらも、目線は外さない。
(なんだっけ。心得その...何だったかであったやつ。油断するな...だからね。)
ヒュプノスとの戦い、及び修行において教わった心得。これらすべてを適当に扱う暁人はやはり優秀なのかもしれない。
「さて...と。」
小さくため息をつきながら両の手に刀を具現する。
二刀流バージョンの炎夜叉。手数を増やした作戦に出る。
(さーて、どうやって使うかなぁ...。)
つもりだったが、いまいち使い方に慣れていない。やはり暁人は優秀ではなかった。
そんな試みを胸に抱く暁人と相対する武者の。
戦いが、始まる。
ほんっとうに遅くなって申し訳ないです!!!
はいどうも、一週間丸々放置した銀之丞です。
いや、裏で設定纏めなおしてはいたんですけど…書く機会がね。本当にごめんなさい。
とりあえず土曜日にあげられるよう頑張ります。上がらなかったら?
土下座ものですね。
少し時間もないので締めの挨拶をば。
いつも読んでくださっている皆様!誠にありがとうございます!
Twitterとかで色々した方がいいのかな...?




