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異能と迷宮で青春を!  作者: 銀之蒸
夢と異能と校舎解放戦線編
31/103

第25-3話 いつになったら主人公の出番は帰ってくるんだろう。

 ところ変わって特殊作業室。


「ハァ...ハァ...。」


 両の膝に手を置き。乱れた息を整える。


 最初のヒリヒリ感とは真逆に、今は劣勢の淵に立たされている。


 手も足も。鉈に削られ、殴られ...切られ。その衝撃を物語るように。


 手足に線状の傷をいくつも、いくつも。身体につけられる。


 それは痣もあり、切り傷もある。身体からは血が流れてるし、見ているにはあまりに痛々しい。


 足元に流れ出る血は大したことはない。でも、体中に滴る。血。


 腕にも、額にも足にも、胸にも腹にも腿にも様々に。


 体のほとんどの場所に。その傷はある。


 ないのはただ、背中にだけ。


 乱れる息。かすむ視界。しかしそれでも燃える心。


 敵を倒さんと燃える心。


 ただその心だけが...浩也の心を支えていた。


「ふぅ...ふぅぅぅ...」


 息を吐く。息を吸う。そしてまた息を吐く。


 まだ敵はいる。わかっている。だが。


 ()()()()()()()()()()()()()()()()


 ただ、身体を血が流れ滴っていくのがわかるだけ。


 芸術家が動かない理由は不明。蛹が殻を破る瞬間を待っているのか。失血死を待っているのか。


 あるいは...芸術家が恐れたか。


 実際。刃物を掲げ切りつけてくる男がいたのなら、まぁ逃げるだろう。普段の浩也でもきっとそうする。逃げない奴がいる方がおかしいからそれはまぁ、怖いのかもしれないが。多分そうではない。


 でも、なんで。今は逃げないんだろう...俺は。ふと、浩也は心で思う。


 それは仲間のため。


(・・・な訳ねえんだよなぁ...。)


 ではなかった。浩也は、ただ、純粋に。


(俺がやらなかったら、誰がやるんだってだけだもんな...。)


 その胸にあるのは。責任だった。


 責任。この言葉は基本的に、脅しや保険として使われるだろう。所謂、連帯責任を命じられ、失敗したらお前も罰を受けるんだ...的な思考と、自己責任の範疇で、といったあらかじめ何が起きても知らないよ、といったスタンスで使われることが、よくある。


 だがまぁ、考えてもみれば、連帯して責任を取らされ命を失うことになる運命共同体はいない。加えて、ここに一人で来ると決めたのは自分。それなら最初っから、何も変わらず自己責任である。


 聖に指示されたわけでもなく。まして、誰かにそうしろと言われたわけでもなく。


 ただ、自分の意志で。誰に決められるでもなく、選んだ。


 じゃあ、なぜ選んだのか。


 その理由は、自分が強い(弱い)からだった。


 それは所謂傲慢という言葉で表される自惚れや傲りなどではない。そう意味ではない。


 そうではなく。自身の胸にある覚悟。その形の見方の話である。


(あぁ...そうだ。暁人は俺なんかよりも強い。ホブゴブリンを2体も屠っているし。俺じゃ勝てすらしなかっただろうに...。だから、他の作戦に挑んでいる。他のやつらだって、命を削って、他の作戦に出てる。じゃあ。)


 じゃあ、俺にあるのは?ただ硬いだけのこの身体に。何が在って...何ができるというのだろう。


 何もない。()()俺には胸を張って言えるものなど、何もない。


 でも...だから。一人でよかった。誰かの命を背負う覚悟もない。


 それは一人でも戦えるという強さであり、誰の命も背負えないという弱さだった。


 誰よりも弱い(勝てない)と思うのに、誰よりも強い(倒れない)という矛盾。誰かと一緒に戦う覚悟はないのに、一人で闘える強さを持っている矛盾。


 誰かが一人で闘うのが怖くても。浩也にとっては誰かと共に戦う方が怖い。


 そんな彼の胸にある責任は一人で闘えると決めたのが、()()だったという責任。


 一人で闘う。それを決めたのが自分なら、折れて、誰かと戦うことを選んだなら...他の誰かが一人で闘うことを背負うことになる。


 責任という物が、保険や脅しだというのなら。彼にとって、自身があきらめないための。折れないための楔のような保険であり、脅しである。


 自分への保険であり...自分への脅しである。


(倒れて...なるものか...決めたんだ...少なくとも...今は一人で闘うって...決めたんだ...)


 この心は...覚悟(こころ)だけは...折らせねえ!


 その覚悟の在り方は...不動の...何よりも固い物。


 まさしく、金剛のように。


(・・・腹は決まった。というより、自分で理解した。さっきまでのギリギリが楽しいんじゃない。俺一人で闘っている実感があったからよかったのか...。)


 ゆらりと...体を起こす。


 その目に、輝く...清く澄んだような光が宿る。


 その目の光は、目に映る全てを輝きで照らすように。


(いつもより良く見える。)


 物理的な光ではない...が、迷いも何もかもが取っ払われた眼前にあるものは。


 自身の眼に宿る光のように...澄んだ世界。


「・・・はははっ。そうか、そうかよ。芸術家。これが芸術(アート)ってやつか。」


 傍目から見れば何言ってるんだこいつ状態である。


 当然、芸術家は気味の悪さのに数歩後ずさり気づく。


 自身の眼のくもりに。その審美眼の差に。


「--------!!!!!!!!!」


 芸術家は狂った。嫉妬に。怒りに。


 自身より美しい物を持つ浩也に。怨み妬み嫉み怒り逆上し。


 だから、それを全てかけて速度に乗せて一撃のもとに壊そうと。


「!!!!!」


 一歩、躊躇する。その目に宿る覚悟を見て不覚にも。芸術家は。


 憧れてしまった。焦がれてしまった。


 壊したくないと思ってしまった。破壊こそが芸術だと思っていたその信念をほんの一瞬、曇らせる眼光。


 その光に、眼が眩む。


「じゃあな。芸術家。」


 その一瞬を突くように。


『極点 金剛魔手』


 右手だけを、金剛で固めて、クロスさせてバツ字に切り抜こうとした芸術家の鉈二本ごと。芸術家の胸元を射貫く一撃。


 極限まで一点に力を集めたもの。最高硬度のその一撃は。


 まさしく。今の浩也の覚悟を表すようだった。




「・・・終わりか...な。」


 息も絶え絶えに呟く浩也の頭上からアナウンスが流れる。


「へっ...でも...まぁ...そうだなぁ...次は...分かち合える方が...いいなぁ...。」


 自身の覚悟を心で理解したけれど...一人はちょっと寂しいものだな。なんて考えながら、変わりゆく世界を見て仰向けに倒れて。


 ゆっくりと、寝息を立て始めた。




 会議室で今、菜月と祥子は焦っていた。


(...腕が...貫かれた!?)


 瞬いた光は、光線になって。菜月の腕を貫いていた。


 瞬間的に、視線の先に祥子が映っていたことに気づいた菜月が咄嗟に片腕で祥子を押したことで何とか、祥子は致命傷を防いではいた...。


 代償に菜月は片腕を撃ち抜かれたが。


 その腕から流れる血はあまりに痛々しい。服ごと貫かれているため、明確にはわからないが、ダラリと垂れ下がる腕の、白くきれいな二の腕部分に穴があき。手の甲の方へ血が流れ続けている。


 かなり絵面としては痛々しい。当然それを見る祥子も驚愕に染まった表情で駆け寄ろうとする。


「なっちゃ」


「敵から目を離しちゃダメ!」


 血に濡れた腕を...無理矢理に動かしてまでも、祥子を牽制する。


 こっちへ来るな...と。


 片腕を動かすだけで、その腕にかかる負担は並大抵のものではないはずだろう。しかしそれでも。


 整った顔に眉根を寄せながら...それでも戦意を失わない菜月。


 その姿に心を撃たれる...とまではいかずとも、気を入れなおす...というより。


(なっちゃんに...かばわせてしまった...なら...次はあたしが守る...!)


 そんな風な気持ちを抱く。抱きながら、祥子は天井部の眼を見る。


 今の攻撃はなんなのか。魔力による光のような攻撃。眼の焦点にレーザーを飛ばすような技...な気がする。だって、ガン見されてたし。


 ・・・だが、実体がなさそうであった。というのも、現在もリアルタイム進行で空間に存在する物体を空間色覚で調べ続けているが、引っかからない。


(ん...?もしかしてこれ...)


 ゆっくりと...試していく。自身のひらめきに対してゆっくりと。


(なるほど...だとすると...これは...)


 確証はない...が、核心にせまる仮説を立てる祥子。


 一方の菜月は片手で地面を操って、死角になるよう敵の眼から自身らの姿を覆い、連続で撃たれないよう数歩、後ろへ後ずさる。


(こんなの...気休めだけど...ないよかはマシなはず!それより...)


 菜月は自分の左腕を見る。光に貫かれた左腕は、ほとんど力が入らず、無理矢理腕を振って動かすのが限度である。


 当然ながら、無理矢理動かせば腕は痛むし血はより流れる。


 さて...どうするか...。少し考え、ふと思いつく。


(止血ぐらいになればっ...)


 右手を左腕の...二の腕の部分に押し当て力を込めて握る。


 経験したことのないほどの激痛が電流のように体を走る。


「っあ!くっ...ぅぁあ」


 苦悶の声が、口から漏れ出る。


 痛みを伴う結果ではあるが、『創造』の異能で腕の傷口の出血部分の形状を無理やり変化させ血管をつなげる。もちろん応急処置程度だが、まぁ無いよかマシというやつである。


(左腕はもう使えない...けど戦えるはず。まずはあの攻撃を防ぐ術を考えないと)


 そう考えた菜月だったが、上を向いた瞬間。


「えっ」


 輝きが、菜月が作った壁を貫いて。


 次の瞬間には菜月に一直線に飛んでくる。


 ・・・はずだった。


 ダンッ!


 一発の銃声が光を弾く。正確には、銃声ではなく銃弾だが。途中に割り込むようにして光の進行方向を逸らした。


 逸れた光は菜月のすぐそばに着弾し、底が見えない穴を作る...がすぐに再生したようである。


 銃声の方を見ると先ほどの射撃を行ったであろう祥子が立っていた。


「祥子...ちゃん...?」


「からくりは分かったよ!なっちゃん!」


 先程、試したこと。それは。


 『魔力探知』であった。


 先程までの魔力でどこに何が在るかを調べる空間色覚は、あくまでイルカの使う反響定位(エコーロケーション)のようなものに近い。


 より正確に言うなら、液体を纏ってそこに触れているものを知覚する方法なのだが、まぁ要は魔力を使って物体自体を探す技である。


 それ故に、重力や空気といった目に見えないものはわからない。光は粒子だから見えるかもだが。


 それでも、察知するのに時間がかかったのは...あらかじめ読めなかったのは。


 それが技であり...異能のようなものであったからである。


 要は魔力攻撃だったわけである。


「と、言うわけで魔力探知に切り替えたら大当たりでね。下の眼玉は魔力の炉心みたいなもの。正確にはわからないけど、あそこから魔力を汲み上げて目から射出するってわけだね。」


「ちょ、ちょっと待って!じゃあ何で『創造』で作った岩壁は穴が開いて、あなたの銃では光を弾けたの!?」


「うーんと、それには確認が必要なんだけど...。」


 そう言いながら、銃を連射する。


 やはり敵は会話を待ってくれるほどやさしくはないようで、魔力光による攻撃を繰り返してきていた。


 照準が魔力光を弾いた祥子に向いたが、祥子はそれらを先程と同じく銃弾で進路を防ぎ、躱し続ける。


 光は遥か彼方の壁の方向に逸れていく。その隙を縫うように菜月は祥子の近くに移動する。


「それで?確認って?」


「確認なんだけど...菜月ちゃんの『創造』ってあくまで物体を()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()使()()()()()()()()()()()?」


「・・・そうね。あくまで、動かすための魔力だからね。」


「だよね...ならさ、()()()()()()()()()()()()()()()...とかだったら、どう思う?」


「・・・どういうこと?」


 正直言っていることがわからない菜月。銃を天井の眼に向けながら続ける。


「これは仮説だったんだけど...魔力を持った物質は、物質でも弾けると思う。現に私は最初、天井や柱で跳弾してるし。でもさ。」


「でも?」


「でも魔力には物質では干渉できない。魔力の光...というかもっとわかりやすく言うなら、魔力ビームって光を魔力で動かしてるんだとしたら。魔力で作った光を...ちょっと理系っぽく言うなら。魔力をAだとすると、Aを光の粒子と、力の向きを表すベクトルの二つに変換する。そうすることによってビームが成り立っている...のかな?それを否定するには。」


「...ベクトルによって防がないといけない?」


「まぁ、それでもいいんだけど。根源が魔力だし、魔力で防げばいいと思うよ。現に、私の銃で防げてるし。まぁ、魔力のおかげか、魔力での推進力のおかげかは知らないけどさ。」


「そこでその話に戻ってくるのね。」


「多分、身体強化の魔力が内部を鍛えるものだとするなら...外殻のように纏えばいいんじゃないかな?」


 それを聞いて菜月はふと、閃く。


「・・・じゃあ、そういう理屈なら...多分...」


「うん?どうしたの?」


「ちょっとした技だけど...一個思いついた。」


「・・・今は聞かないでおくね。攻撃は任せたから、代わりに空中のは任せてね。」


「了解。」


 守られるだけではないと心で思う菜月。なんかいつもと逆な感じがするなぁ...と感傷に浸りかけるも先ほど思いついた技について思考を巡らせる。


(魔力をもっと単純なもの。例えば魔力だけで探知みたいなことができるみたいだし...魔力を固めて鞭にしたりもできるのかな?それにベクトルにだって...って、ベクトルに異能で変えてるのはあたしがいつもやってることか。なら。)


 異能の応用で、魔力をベクトルにだけ変えることもできるはず。


(存外魔力って万能みたいだしね。)


 そう考えて、右手に魔力を集める。身体強化は切らずに...先ほど言っていたように外側の魔力を右手に集めたような感じである。


 そうすることで、準備ができる。


 ふっ...と、軽く息を吐くと相手に向かって走り出す。あの目玉の球体のある場所へ走り出す。少しでも早くたどり着けるようにと、走り出す。


 近づこうとする菜月を...敵を排除するという防衛意識が。天の眼から幾度となく、菜月を狙う。


 だが、その光線を...祥子曰く魔力ビームを全て、祥子がすべて打ち防ぐ。


 すべて、妨げ、すべて、防ぐ。


 片端から撃って、光線を弾き飛ばす。


 そうこうしているうちに、菜月は球体にたどり着く。


 球体の目玉と目が合う。


 最初は気味悪がっていた菜月だったが、そんなの関係ない、といわんばかりに接近し。ゼロ距離にまで近づいて見せる。


(この技はベクトルを操って大気をぶち抜く技...衝撃波を生み出す技。ちょっといいかえれば...創造で衝撃波を産み出すようなものかしらね!)


 球体から触手のような鞭を、身体から生み出して菜月の胴体を狙おうとした...が一瞬早く、菜月は宙を舞う。


「これで...どうだ!」


 空中で右手に集めてた魔力を、衝撃波に。大気を操って...敵をぶち飛ばす!


(あんまり名付けとか好きじゃないけど...!)


『創造 絶空(ぜっくう)!』


 空気を...大気を吹き飛ばして敵の命運を絶つ一撃。

 

 それはまるで空間に物理的に存在しようと、存在しない(から)の存在だろうと全て、纏めて...根絶する一撃。


 空中から放たれた衝撃波は菜月の身体を反動で上に吹き飛ばした。


 そして放った技...絶空は。球体を上から潰して。


 その戦いに終止符を打った。




「終わった?」


「終わった...けど...腕痛い...。」


「あはは...とりあえずなっちゃんは保健室だね。」


「終わってるかしら...まぁ...行かないとね!」


 息も絶え絶えになっている菜月とそれを慮る祥子。そんな二人の頭の上に勝利のアナウンスが響き渡って...。


 二人は元に戻った会議室を見てやれやれといった様子で保健室に向かっていった...。



 そして暁人の戦いに戻っていく。

ギリギリ終わった...多分次は日曜に上がるはずです...多分。

それはそうと、絶空とか名前が無駄にかっこよすぎません?


まぁ、ノリで決まったんですが。


そんなわけでいつも見てくださっている皆様。誠にありがとうございます!


次回はようやく暁人の番ですね!(多分そんな書くことない気もするけど。)

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