第3話 |裏開《りかい》
「時に、君は。全力を出す場を求めている、と。」
自称ヒュプノスは問う。
「え?うん」
呆気にとられたかのような声を出す。
「大学受験の時、全力を出さなかったのか?」
「え?いや、調子こいて大して自主勉強しなかったりしてたら。そしたら馬鹿みたいに頭悪いとこまで落ちちゃった」
「は?」
呆気にとられた自称ヒュプノス。
「ただ、ちゃんと学校通ってたぶんちゃんと大学には受かってはいるんだよね」
「・・・」
眼が訴えてる。お前バカだろ、と。
いやぁ、勉強ってちゃんと積み重ねなきゃいけないものだね。普通に落ちて、バカみたいな大学行ったけど。結局周りのレベルが低すぎて何とかなっちゃって怠惰になってたり。堕落してたりす...
「お前バカだろ」
ついに口に出しやがったこのジジイ。
「うん。」
まぁ、認めてるんですけど。
「まぁいいや。てめえが馬鹿だがもともと天才肌なのは知ってたし。」
「・・・おい、ちょっと」
「とりあえず解説してやるからそこに座れ」
「お。おう。」
暁人は何もない真っ白な空間に胡坐をかいて座り、敬意という敬意をまったく払う気もなくとりあえず聞いておこう。
「んで?何の解説をしてくれるんだ」
「んー。何の解説からしようか」
「ノープランかよ」
「そうだなぁ。じゃあまずこの世界についてからかな」
と、同じように胡坐をかき話を始める準備を整える、が。
「じじい。ちょっと待て。」
「あん?」
話を遮り、暁人が聞きたいことを聞く。
「先に一つ」
「なんだよ。」
「ジジイの本名教えて?」
自称ヒュプノスと頭の中で思考整理するにしても、ジジイと置いても名前を統一させたい。それに、そもそも夢の世界を作り上げたのがこのジジイなら、現実での手掛かりを獲得できるから、暁人としてはどうしても知っておきたかった。
「・・・それはクリア報酬だな。じゃねえと意味がねえ」
意味がない、と意味ありげに語るくそジジイ。割とむかつくが、ゲームにクリア報酬を用意してるってんならあまり介入するべきではないのだろう。
「じゃあいいや。ジジイの解説を聞こう」
「ようやっとだな」
ふう、と小さく息を吐いて説明を始める名称不明ジジイ。
「さて、まずはこの世界について」
「ヒュプノスってお前が名乗ったことから、ここが夢の世界だってことはわかったんだが。」
「まぁ、間違っていない。だが、正確に言うならヒュプノスは能力名なんだよ」
「・・・マジ?」
それが事実なら、割とやばい。そもそも、神の力、つまり権能を会得しているという扱いになる。どんだけやばいって現実世界で神様になれるということになるわけだから、次元違いのレベルである。
「ああ、俺の能力は夢描というのさ。まぁ、能力でいちいちヒュプノスというのも、面倒だし、慣れてないから、行使するときは基本的には夢描と使うがね。」
「・・・ってことは、一つ問題が出てくるな」
暁人は、先ほどの動揺を隠しながら、口元に手を当て考えるように言う。
「うん?」
「鶏が先か、卵が先か。相互存在のパラドックス・・・?だったか難しく言われるアレだ」
「ん?本当にそう思うのかい?」
「あ?」
「そもそも君らが異能を会得した理由は単純に夢の世界に来たからだろ?」
「あぁ。少なくとも俺は使ってないから知らないけど」
「それはまたあとで」
と、軽くいなすように言う。
「うん?」
暁人が何か忘れてるということを思い出し、加えて核心に迫る何かを思い出し、違和感の正体の何かに気づいたようにふと、口元を触っていた手を放し理論の構築を始める。
(何に気づいたんだろう)
ジジイは少し楽し気に考え、聞く。
「さて、何に気づいたかな?」
「・・・」
沈黙しながら考える。
(もし、夢の中で超常の存在に触れたことがきっかけなら・・・俺らは呼び起こされ...いやおかしい。それだとあの発言ができたわけがない。これは、つまり。)
「じじい、てめえ」
怒りを込めた目で夢を描いた男を睨む。
「・・・なにかな?」
「植え付けたな?」
「...言葉の選びようはあるにせよよくたどり着いたな」
「いや、割と露骨ではあった。」
そもそも、ここにこの男が迎え入れた時に言った言葉。
「君のことは知ってるよ。確か、『灼装』持ちの八束 暁人君、だったよね?」
この言葉、そしてもう一つ。
「はぁ、切れ者はダ・ヴィンチだけで十分だと思うんだが...あえて答えない方向でいこうか」
この二つが問題なのだ。名前を知っているのはまだいい。いや、どっから情報が漏れたとか聞きたいけどさ。
『ダヴィンチだけで十分?』『灼装?』
なんで知ってんだよ。
こいつが全知なら。それは、きっと知りえて当然だったろう。だけど、しかしそれは。先ほどの暁人の問答で神性の剥奪、つまり、暁人はこの老人を全知全能ではないと証明したばかりなのである。なら、それは。
本来知らないはずの情報を知っているということになる。
ただし、これは。あくまで偶発的に能力が発生していたらの話。そもそもの話。めっちゃ簡単に考えて。
夢の中で各人物に異能という名の設定を割り振れば、知っているのは当然のことである。よって、暁人はこの結論に至ったのだった。
「これを与えた理由も、意味も分からない。全部説明してくれるんだよな。」
「まぁ、最初からそのつもりだったんだけど。よしよし。自分で気づくのはいいことだ。格が上がる。」
「あん?」
「時機にわかる」
「・・・まぁいいや」
怒りを抑えて、ふう、と息をつく
「おとなしく解説を聞いてから噛みつくことにする」
「噛みつく気満々ではあるんだな。お前」
やれやれ、といった様子ではあるが話を始める。
「まず、お前の言っている通り俺は夢の世界、『御伽噺』に呼び込み異能力を与えた。使い方はあとで教える。」
「御伽噺...」
「そこかよ。引っかかるところ」
「え?」
「てっきり『どう呼び込んだの?』とかきくかと。」
「んー、それは俺寝た記憶あるから夢と夢つないでんのかと」
「うーわ。特に質問もなしで答え当てやがった。腹立つな」
「あ、やっぱり。」
暁人は寝た記憶こそはあったし、なにより気づいたら教室にいたというより教室で目を覚ましただったし、夢をつかさどる能力で、人の真意が見抜けないけれど設定を与えることはできる。加えてひじりんの言葉、
「そうだね。例えば『世界』とか『創世』とか、『舞台』とかもあり得るかもね。」。
ここに合わせて考えるとどう考えてもこう考えられる。
俺らの夢とこの夢の世界ここ自体がリンクしている、と。
要約すれば全員で共通の夢を見ている、ということだろう。
「じゃあ、ここでクエスチョン。」
「うわ言い回しが旧い」
「うるせえ」
とひとこと、一蹴しながら仕切りなおす。
「さて、なんで御伽噺なのでしょう」
「ジジイの趣味」
「意味のねえことはしてねえわ」
「モチーフにした漫画やアニメ」
「いろんな意味で死ぬんじゃねえか?」
「横文字使いたかった」
「なら、御伽噺でええわ!さっさと答えろ!」
「...冗談はさておき」
一通り悪ふざけを終えて、暁人は一息ついて
「モチーフってのは、あながち間違ってねえと思うんでけど」
「・・・あぁ、漫画とか抜きでな」
「多分さ。偉人とかの逸話も、神話に近いものも全部含めて御伽噺なんだと思う」
「どうして神話が絡むんだ」
「お前がヒュプノスなのと、グライフのことがあったのと、そこらへんかな」
「・・・まぁ、正解かな」
「満点回答じゃないのか」
「手持ちのデータじゃ完答できねえよ」
「チッ」
満点に近いだけ上等ではあるのだが。なんとなく悔しくはある。
「まぁ、そういう顔をするな。これの正確なことはクリアしてからな」
「・・・そういう事情ってことか?」
「いや、お前を育てるものとしてこうしたほうがいいからな」
「育てる?」
「時機にわかる」
「まーたそれかい」
「そういうものなのよ」
「しゃーねえか。」
「物分かりがいいな。じゃ続けるぜ?」
暁人を軽く宥めて進めるジジイ。
「そんなわけで、てめえらを集めたわけなんだが。そもそも、てめえらを集めた世界はこの能力、夢描で作ったもんなんだよ。」
「あ、そういやひじりんも現実世界で力を保有している人がいるとか言ってたわ。」
さっきの考えるまでもなかったわ、と今更ながらにいろいろ恥じた。
「さすがダヴィンチ。慧眼だね」
「・・・ってか、今同時に会話してるんじゃねえの?」
「あぁ、しているけど。そもそもみんなと会話している俺はクローンみたいな独自思考型の俺だからな。同期してねぇんだよ。」
「そーゆー」
「話を戻すぜ。俺が夢の世界を作るときに、まぁある奴の夢に干渉して、適度に優秀なお前ら見つけて夢の世界へ拉致した、と。」
「・・・それで?。」
「そして、異能力を与えて、目を覚まさせて、今に至る、と。」
「じゃあ、次。俺らは何と戦い、何をすればいいの?」
「話が早いんだか、遅いんだか。」
と一度悪態をついてから、ヒュプノスは語る。
「迷宮最下層、第10層への到達、及び迷宮の主の討伐を目標に行動してもらう。」
「何?ミノタウロスでも出てくんの?」
「いや、本来はそんな予定はない」
「本来?」
「うむ。正直イレギュラーが何体か巻き込まれた結果、迷宮が構築されたって感じでな。はっきり言えば、ただの試練がいくつかあるだけのつもりだった。だが、何体かまではわからんが、一部イレギュラーとして入り込んでいるのだけは間違いない」
「その中にミノタウロスがいる可能性は?」
「かなり高いんじゃねえか?迷路ではなく迷宮が作られているわけだしな」
「あぁ、確かに。んで?何体紛れ込んだのか、はわからねえのか?」
「俺が気付いたのは迷宮の入り口が設置されちまったところにわけわからん巨人がいたからでな。命の危険もないし、試練として放置したが。」
「おいちょっと待て」
「やっぱ放置はいかんかな?」
「それもだが、お前今二つくらい爆弾発言したぞ?」
「あぁ、戦う敵の話と命の危険の話か」
「そう。それだ。」
「戦う敵は神話の敵もいるし、御伽噺の敵もいる。」
「だから、御伽噺なのか」
(まぁ、それだけじゃないがな)
ヒュプノスは内心そう思いながら、口には出さず。
「そして命のリスクだが、この夢の世界で死んだところで現実世界には影響がない。が、君らには是非にも英雄になってほしい」
「何でここで英雄?」
「詳しくは話さんが英雄らしく戦い振る舞い、この世界を越えてほしい」
「...なんか意味があるのか?」
「ある。今は言わんが。背負いきれなくなった死んでもいい。だが、」
そこで切りジジイは言う。
「頼む。」
はっきりといい、頭を下げる。
「俺は別に気にしねえよ。この世界なら飽きなさそうだしな」
「そうか。あっさりとだが感謝する。」
「んで、迷宮内部のことは詳しくわからん。が、試練も取り込まれているとは思う。」
「ほへー。きつそうだな。」
「まぁ、きつかろうな」
「しゃーねーなー。やるしかないか。」
「その前に」
と、一言置いて
「力の使い方、じゃな」
「おれ、さっきも言われておきっぱだったんだけど。何?後回しにでもしすぎじゃないかな?」
「すまぬ」
一言おき、力を使いこなせるよう、簡単な手ほどきを受け始めるのだった。
読んでくださってる方、戦闘シーン書こうと思ってたら、気づいたらこの長さになってて手ほどきのところまでいきませんでした。許してヒヤシンス・・・