第23話 |鳴鍾《めいしょう》
修斗と聖が出た直後、数分で戻ってきた。
巨人が廊下に現れたらしく、とりあえず戦える人員は表に来いとのこと。
「んで、どうしろってんだよ。」
「説明は後!とりあえず全部殺して、PC室に全員で突っ切るよ!」
「じゃあ、俺が・・・」
「いや、あたしがやる。八束は下がってて。」
「え?あ、なつさんがやるの?大丈夫?」
「・・・この手の破壊力なら、たぶん誰にも負けないから。」
ぼそっとすごいことを言うなつさん、マジかっけえ。
「・・・じゃあ、倒し次第突っ込むよ!全員、移動準備!」
菜月の言葉を受けて、暁人は全員に指示を出す。
「・・・本当に大丈夫なの?岩金。」
「ん。余裕。まぁ、あとで少し休むし、みんな闘ってんのに、私だけ何もしてないってのもね。」
「・・・なら、まぁいいか。じゃあ、任せた。」
「ん。じゃあ、ちょっと行ってくる。」
巨人群と菜月たちの距離はおおよそ20メートルほど。PC室までは15メートル程度で、巨人は大体3~5mといったところだろうか。
(敵の数は...大体12...くらいかな。)
「行くよ!足場だけ気を付けてね!」
菜月が駆け出して、ドレスの裾がうっすらとたなびく。でも、そんなことよりも。
(うわ、速!)
暁人が驚くほどには駆け出した速度は速かった。それこそ、通常時の暁人以上、炎夜叉時の暁人未満...といったところだろうか。
こちらに気づいた巨人たちが突っ込んでくる。
集団の最前線を走っていく菜月はすでにクラスメイト達とだいぶ距離があった。それほどまでに速く菜月は進んで、それだけにいち早く巨人群と会敵する。
「ウボァァァァァアア!」
「遅い。」
緩慢な動作で巨人は一撃を見舞いに来る。しかしその身を空中へ投げるように、艶やかに、鮮やかに。
相手の速度なき超質量の一撃を右足を軸足にふわりと、相手の腕を跳んで避ける。
相手の腕を最小の動きで避けると左手で、そこにあった教室の壁に触れる。
すると、みるみる形を変えて鉄骨と緩衝材でできた壁が剣山刀樹よろしく、鋭く尖って巨人数体を纏めて貫いて。
「砕けろ!」
その一言でガラスは鉄骨は無茶苦茶な形に砕け散り破片になって地面に霧散した。
それと同時に、身体を貫かれた巨人群は地に倒れ伏す。
それを見た巨人たちは一歩後ずさる。
「・・・まったく、巨人たちの血は赤いのね。ハイヒールを正しく使うなんて皮肉だわ。」
そんなことを呟きながら走るのはやめ、ゆっくりと、先ほどとは違う気迫を以て巨人達に近づいていく。
「・・・やばいな。」
「・・・だな。」
聖と暁人が語彙力を失いながらゆっくりと全員を連れて進みながらその強さに敬意を表す。
「さぁ、さっさと終わらせましょう。」
菜月は腰をかがめ、足元にできた血だまりを指でなぞり、その指を身体と一緒に上へ持ち上げる。
指から血が滴る。滴る...?いや、あれは?
まるで、指から血が流れたように、線のように垂れ続けているように...一本の線に...?
例えるなら、本来なら水の滴る、汗の滴るとは蛇口を締めきったときに残った数滴の水滴のようなもの。それは決して、水が流れ続けているときのようにつながって出てくるはずがないのだ。
だが、目の前の光景はどうだ?暁人の眼前には、そのありえない光景がある。故に、暁人は。
「なつさん!大丈夫!?」
眼前の光景を、指を深く切って大分血を流しているのだと思った。
「ん?あぁ、ケガじゃないから大丈夫。まぁ、見てて。」
そうして一瞬、鬼気迫る迫力から解放された巨人たちははじき出されたように菜月に飛びかかるものと、その恐れに逃げだすものの二つに分かれた。
「逃げるのもいるのね。でも」
言葉を紡ぎながら、血の線が空中に集まる。
「これって...」
「血が空中に集まって...?」
逆だったんだ。
暁人がそう理解した瞬間にはその血球は空中で先程のような鋭さで飛びかかってきた巨人を貫く。
しかし血は流れない。巨人の肉がぐずぐずと崩れて、足元に肉塊ができるだけだ。
じゃあ、血は?
そんな考えの答えを示すように、空中に浮いた血球は大きさを増す。
「でも。逃がさない。喧嘩を売る相手を間違えたことを後悔させるまでは。」
空中に浮いた血球は、刃のような形状に変わって猛スピードで逃げようとする巨人数匹を切り刻む。
「ふう。」
菜月が一息ついて、その刃をただの血に戻した時、自身らが拠点としていたところから最も遠い階段は血まみれ地獄だった...。
とりあえずの危機が去った様子は見ていたので、追い付いて全員無事にPC室に入る。
「・・・なつさんやばいな。」
「そう?あれぐらいは、まぁ、可能よ。今すっごく眠いけど。」
「あー。じゃあ、岩金は寝てるといいんじゃないかな。」
「そう?でも...」
「この後もしばらく休めなさそうだから、なつさんは休んでなって。」
「・・・そう。じゃあ、無理しないで横になってるから。」
「おやすみー」
「おやすみ。」
そんなことを言ってPC室の教師が使うところから最も遠いところで横になっている。
「・・・Zzz」
って、寝るのはやいな。いいことか。
とりあえず...なんか適当にあったかそうなコートでも作って毛布代わりにかけておこう。
「そんで、ずっと気になっていたんだけど、まぁ、多分ひじりんかな。」
「うん?」
「俺のせいってどゆこと?」
「あー...うん。とりあえず確定してんのはお前のせい。そんで、理由がどっちかわからない。もしかしたらどっちもかもしれない。」
「・・・2つの理由?」
「そうだね。」
そう言いながら、PC室についた全員を適当に席に座らせていく聖。
「んじゃまぁ、時間もない...可能性が高いし、ここからは俺が主に仕切るけど、いいか?」
「俺としてはそれでいいけど、進行としては質問は適宜受け付けてくれよ。」
「おっけ。じゃあ、まず、巨人発生の理由についてだが...」
全員の関心を集めながら、聖は話を進める。
「一つは、暁人の遭遇した青銅の巨人。これの...起動とでもいおうか。これがトリガーになった可能性。」
「・・・あのユミル?」
「それで固定しない。そもそも、それ正式名称じゃないから。」
「別によくない?」
「よくない。その名前が原因の可能性だってあるんだよ?」
「え。」
マジの戦犯じゃないか?これ。
「ちょ、ちょっと待てひじりん。あいつの存在って...っていうか。名前つけただけでそんな変わるか?」
「それこそ、自身がユミルでもいいとでも考えた可能性はあるけどね。まぁ、この世界では、名は体を表すらしいし?」
「あー...なんか聞いた気がするけど。」
「正式名称はタロス。まぁ、ものによってはタロースだったりとかあるけど...まぁ、ニャルラトホテプがナイアーラトテップと呼ばれるみたいなものだけど。まぁ、詳細は省くが、ギリシャの、とある青銅人形...のようなものとでも考えてもらってもいいかな。」
「・・・倒し方あんの?」
「まぁ、仮にも神が作ったものだしね。大変だけど方法はいくつかあるよ?」
「例えば?」
「かかとにある釘を引き抜くとか...大弓を以て射貫くとかでもいいんだけど...」
「それ出来そうなのいる?」
「・・・私出来るんじゃないかな?」
「市ノ瀬が...って牛女だし可能か」
「張り倒すぞ暁人。」
「ハイすいません...って、それはいいんだけど...んー。」
「何よ?暁人文句あるの?」
「俺、あいつ、自分の手で、倒したい。」
「・・・・・。私怨?」
「私怨っていうか...そのー...なんていうんだろう。こう、何とも言えない感覚があったんだよ。」
「...あんたねぇ。」
割とみんなから冷ややかな目を向けられる。ごめんて...でもさぁ、なんかなぁ...。
「じゃあ、いいです...」
「いや?俺は賛成だよ?」
「はい!?」
「ちょちょちょ。ちょっとだけ待って。」
唐突な聖の一言に驚く愛。隣に座っていた芽衣が待ったをかける。
そんな様子を全員黙してみていたがさすがにざわざわしてくる。
「何で?愛でいいなら。」
「んー...理由か...そうだなぁ...」
「理由なしに言ったわけ...ではないんだよね。」
「まぁ、当然そうなんだけどさ。今は内緒でもいいかな?」
「・・・私はいいけど。張本人である愛がそれでいいなら。」
「・・・・・。暁人で勝ち目あるの?」
「あるよ。というか、ユミル相手でも、タロスが相手でも、どっちでも同じだし。勝率が元々100%だったのが200%になったようなものさ。」
「・・・俺勝てる未来見えてない。」
「暁人に後で必勝の策はあげる。だけど...今回のは魔力の方が尽きるだろうから、覚悟しといてね?」
「え?あ、うん。」
ひじりんは俺に何をさせたいの?正直怖いんだけど。
とか考えてしまっている暁人を置き去りに聖は話を進める。
「あぁ、といっても、みんなも仕事はあるんだ。さっき言っていた、校舎の全機能の開放のことだね。ここで錠を外すことができるから、一斉に解除するよ。各個撃破の方が、いいだろうし。」
「・・・一応理由聞いておくね?なんでなの?聖君。」
「簡単なことだよ、左山さん...あ、間違えた。初歩的なことだよ。左山さん。」
「ホームズっぽさはいいから。で、どうして?」
「いや、単純にさ。これだけの戦闘可能な人数がいる事実と、倒さなきゃいけない敵が複数いる事実と、あとは一斉に動き出したことを考えれば、もうそうせざるを得ないだけだよ。」
「まぁ、そうよね。あと、戦闘可能人数の話だけどさ、さっき探索組が言っていた時確認したこと感じ、バリバリ問題ないって。少なくとも、暁人くらいは行けるってさ。」
「それ人間じゃないから。まぁ、大丈夫かな?」
「なんでディスられたのかな?ひじりん。」
「ははは。気にしなくていいよ。さて、解放可能な場所は...っと。」
おいこらスルーすんな。そんな言葉も聞こえていないようで、手元にあるタブレット端末をすらすらとスワイプしているようである。
「読み上げるね。まず、食堂。ここは...どんな機能かは言うまでもないか。そして二階。報告にあったけど...聞いている?」
「んにゃ、その前に」
「あぁ、僕らが教室に来たのね。了解。二階にはまぁ、なん箇所か特殊な部屋はあったようなんだが...この表示を見た感じ稽古場だね。機能開放を行えば訓練が可能になる...ようだね。」
「そのまんまだね。」
「まぁ、だろうね。学校で言うところの第二体育館...とでもいうところか。」
「どこにあるんだ?」
「二階へ上がる階段は4か所ある。3か所は知っているだろう?」
「・・・あ、あそこか。」
「暁人は知っているのか。まぁ、そうだよね。一階の下駄箱の所を右側に進んでいったところにある広い階段のようだからね。まぁ、知ってもおかしくはないか。」
「・・・一階って他になかったっけ?」
「いや、他にもあるけど...これは何かの順番になっているようだね。重要度?んー...危険度...とかかな。上から強い順でいいかな?」
「それ下が強かったらどうすんだよ。」
「だよね。均等に行こうか。まぁ、いいや続けるね。」
一瞬きるとまたすぐに続ける聖。
「まとめて上から行くよ。図書室。特殊作業室...?あぁ、三階にある作業室みたいなところのことか。んで、次が...会議室...放送室...保健室...ってとこか。ふむふむ。どうしようかね。」
「ってことは体育館含めて8か所?」
「ついでに言うなら廊下に湧き出た巨人狩りもあるから9かな。」
「あ、はい。その節はどうもすいませんでした。」
「わかればよろしい...んじゃ編成しないとね...早急に。」
「え?時間かけないと。」
「掛けたら敵増えるから駄目です。」
確かに。ポンッってしたけど当たり前だったわ。すんませぬ。
「んじゃまぁ、個々人の作戦は後にして、とりあえず、体育館組は暁人と足止め組だね。暁人には一撃で屠ってもらうつもりだから。巨人の足止めが少しいるかな。魔力の温存もしてほしいし。2...いや3人。3人追加で行こうか。足止めに定評がありそうな人。」
「ん...!」
真っ先に手を挙げたのは桃園さんだった。そんなに頑張らなくても大丈夫だよ?
意気込んで手を挙げた桃園さん見ていたひじりんは少し微笑みを浮かべながら、
「大丈夫?」
って聞いている。そんな問いに対し、桃園さんは。
「力が有り余ってるし...できる。」
確信をもってるがごとく言い切る。なんか、教室でのお話からすっごく自信がついてきたみたい。いいね。
「よし。じゃあ、まぁ、そうだね。後二人か...こっちから指定してもいいかな。」
全員無言でこそあるものの頷いたり、首肯したりとしっかりと反応を返している。
「・・・よし。じゃあ、雅也...と矢野さん。お願い。」
「おっけぇ!」
「・・・わかったわ。」
「さて...次だ。食堂は。」
「私が行く。」
元気いっぱい手を挙げたのは。
「ん。じゃあ、市ノ瀬に任せるね。」
「やっぱ、食にこだわりが」
「よし、暁人。そこに座れ。関節技を極めてやる。」
「ご遠慮願います」
「はいそこ、遊ばない。」
「「はーーーい」」
「さて...そうだな...補助役は...誰に任そうかな。」
「・・・俺やるよ。」
「・・・ふむ。鷲崎君か...いやなるほど。問題ないな。」
「・・・なんで?」
「や、別に詳しい理由はないが...二人とも身体能力強化系の能力であるだろう?速度も含め身体能力の高さで連携もとれるかと。」
「なーる。」
留目の方を見るとこくこくと頷いている。いつになく真剣な顔だった。
そんな状況を確認した聖は満足そうにうなずき。
「うん。大丈夫そうだね。じゃあ、次。稽古室は...そうだな。俺が行こうかな。」
「・・・ひじりん出るの!?」
さすがに一瞬全員が驚くしざわめく。
「まぁ、総力戦だろうからね。それに稽古室だろう?相手の強さのイメージになるが武道系と予測する。」
「えー...うーん...どうなんだろ。考えてなかった。」
「まぁ、そうだなぁ...ほかにも何人かいると嬉しいんだけど...」
「武道ならあたしが行こうかな。」
「七嶋さんか。任せた。」
「・・・そこ危険なのか?」
「まぁ、そうだろうね。篝も来てくれるのかい?」
「...俺も行くかぁ...楽できそうだしな。」
「ははは。楽はさせねえから安心しな。そんで次は...図書室か。」
「図書室...なら俺が行こうかな。」
「志島君か。任せたよ。」
「おっけぇ。」
「あ...じゃあ、えっと...俺も。」
「おっと。いいね。任せたよ雨月君。」
「う、うん。」
少しうれしげだな。ひじりん。雨月も前向きになってきたし...いいことだらけだけど...なんか志島不服そうだな。どうしたんだろう。
そんな志島を気にせず...なのか気づいていないのかは不明だがそのまま次の議題に移る聖。
「さて次は...特殊作業室だね。ここは...どうしようかな。」
「・・・俺が行く。」
「おっと浩也か。頼もしい。任せたよ。」
「うん。」
「他には...」
「大丈夫。俺一人でやるよ。巨人だって雑魚とは言い切れないんだし...人数的にもどこかしらは一人になっちまうだろ?ならここは俺一人でいい。」
「・・・すまないね。頼んだ。」
「任せろよ。」
浩也の漢気...かっけえ。
実際、結構強い部類に入るかもしれないしタイマンならそう簡単には負けないだろう...負けないよね?
「じゃあ、あとで能力のお話しするから、ちょっとだけ聞いてね。」
「わかった。」
「会議室には...誰が行く?」
「ん...あたし...」
眠たげに、ゆっくりと...横になっていた菜月が手を上げる。毛布代わりにかけられていたコートを羽織りなおしながらよっこらゆっくら、といった様子で身体を起こす。
「...大丈夫かい?」
「任せて。誰かもう一人手を借りられると嬉しいかも。」
「じゃ、じゃああたしが行く。」
「わかった。任せたわ祥子ちゃん。」
「うん!頑張る!」
奈多さん、いつになく元気いっぱいだ。緊張とかする必要がないと思いはじめたのかな...それとも振り切った?
「・・・うん。頼もしい。じゃあ、次いで放送室。」
「サクサク行こうぜ。俺が行く。相方は...」
「え...じゃあ、あたしが行く...よ。」
「・・・うん。修斗はさっき言ったこと守るようにね。黒卯さん...はサポートメインで大丈夫だけど...一応...二人にもあとで作戦は話すよ。」
「わかった。」
「うん...頑張る。」
「最後に保健室か。」
「じゃあ、そこは私と沙紀で行くよ。それでいい?」
「うん。大丈夫。」
「・・・まぁ、保健室だしね。任せた。ってなると必然的に。」
「僕と」
「私が」
「巨人狩りだね。任せたよ蒼衣、佐々木さん。」
「「おー!」」
「・・・さてこんなところか。各々作戦は伝えるから...そうだね。15分後に全員解散で」
そうして各自作戦を共有する。各々の狙いを。明確にして...確実に敵を倒すために。
「さて。時間かだね...行こうか。」
聖が全員に発破をかける。そうして全員。次の戦いに赴くのだった...。
いや…つらいっす。文字数が長すぎるっす。
会議って長引くよね(マジすんません)。
とまぁ、そんなわけで、いつも読んでくださっている皆様。誠にありがとうございます!
・・・ドウガヘンシュウッテムズカシイネ




