第20-3話 今度こそ1階まで行ってほしい所存の作者。
2階での戦いは3階と違い守りから始まった。
というのも、三階から二階に敵に見つからずに降りられるのか確認をしていた時、これなら防火扉も防げるんじゃ...とはなったが、それも学校の機能の一つかもしれない。と判断したため、雅也の城塞の能力による壁の作成をすることで簡易的な砦を作ることを思いついていた。
「・・・さて、あとは合図を待つだけ...だね。」
「だねー。」
「えーっと、うん、まぁ、その」
「そんな緊張しなくても大丈夫って。最悪逃げればいいんだから、気楽にいこうよ。雨月。」
「そうだよ。志島君の言う通り、逃げればいいし、俺も戦うから。」
「えーっと、うん。志島君、雅也君。」
と、こんな調子で雅也と志島が間を保っていたがそんな中、琴実は。
(・・・声かけづらいんだけど...聖...許さない...)
まったく別方向に殺意を向けていた。
「それで...えーっと、矢野さん?」
「え?あ、何?」
「俺の城塞ってどんな風に固定するん?」
「あー...感覚だけど...どっちに固定する?座標?」
「それ指定できるんなら、座標がうれしいかも。」
「了解。任せて。」
「うん。お願い。」
気を使って声をかける雅也に申し訳なさを思いながら、ゆっくりと集中力を高めていく。
すると。
ズゴォォォォォォォォォォォォン!!!!
「うおっと。始まったか。」
雅也は言うが早いか、防火扉の位置に作っていた城塞を解除し、廊下に躍り出る。
大きな音に反応していたであろう敵、ホブゴブリンが率いるゴブリンの軍勢と目が合う。
「6、7...どころじゃねえ。ってそうか。バレないようにしてたら、そりゃ反応するなら中央階段も使ってこっち来るわな...」
雅也が軍勢の数の多さに違和感を持つものの、その理由に一瞬で気づく。
「・・・よし。志島君、雨月君。任せた!」
「了解」「うん。」
二人に一声かけて雅也は一歩下がった。
当初の予定だとここで城塞を立てそこから軍勢を生み出し続ける算段だったようだが、いかんせん数が多かったせいで、対応は後手に回ってしまう。
(やっぱ、暁人っぽくやっとくか)
志島は心で一言、つぶやき。
『来い!顔無しの軍勢!!!』
金色に光る武装を逆手に持ち、自身で決めていたのであろう技名を唱える。
すると、金色の剣が先端から少し、少しだけペキペキと崩れていく。
それに伴うように、地面に零れ落ちた刃片から、白色の。なんとも言えないブヨブヨとした生命体が生まれる。
それは徐々に人型をかたどり、色を変え、武器を生み出し、最終的には今の志島と全く変わらない姿になった。
「とりあえず、5,6体ほどだが...かかれぇ!」
金色の剣を順手に持ち直し、軍配を振るうが如く剣を振るい、自身の似姿をした軍勢に指示を与える。
「え、えっと...」
と、すこしまごつく雨月だが。
「えい!」
大きく旗を振るい、後ろから能力を使う。確かに、ホブゴブリンに向かっていく軍勢は速くなったが...。
「・・・あんまり強化されてない?」
「...ごめんなさい...ほんとに...」
「いやー、今俺絶好調なんだけどなぁ...?ってなると...」
近くで雅也が軽くシュッシュと槍を振るう。実際キレはかなりいい様子でほんの少しの強化って様子ではなさそうではある。
「射程が...というより距離が離れるたびに...弱く...強化が......消えて...いっ...て...」
「そんな消え入りそうにならなくても大丈夫だよ!?」
「そーそー。」
申し訳なさそうに縮こまる雨月。慌ててフォローを入れる志島と雅也。
「でもって...まぁ...お前の軍勢の調子はどうだ?」
「見ての通り...」
そこに広がってたのは。
「相打ちってとこだね。」
残っていたのは、ホブゴブリン1体。軍勢は肉片を飛び散らせ、そこいらに広がっていたか...と思えばだんだんと肉片を魔力に変えて還っていく。
「・・・うん。じゃあ追加でも出すか。」
「そんなおかわりみたく出すものなのか。びっくりだね。」
「っつーわけで」
『行け。顔無しの軍勢』
先ほどのように金色の剣が折れて、その破片が先ほど同様、白い生命体になり志島の姿をかたどっていく。
「敵を屠れ」
その一言で、踊るようにホブゴブリンに向かっていく。ホブゴブリンは少し驚いた様子ではあるものの、あまり気にも留めない様子で全員を屠ろうとしている、といった状態である。
その様子を見てため息をつくように
「...ジリ貧だな...」
「ねえ、志島君。ちょっと仕様の質問なんだけど...」
「仕様?能力のこと?」
「そうそう。志島君の能力って剣が魔力量を表してるの?」
「あ、そうそう。そんな感じ。流石だね、矢野さん。」
「それはいいんだけど...ってことはこの後手詰まりになる?」
「あ、あのさ...やっぱり、僕が前に行けばいいのかな?」
「んー...」
「その必要はないわね。」
雨月のおどおどした提案に、雅也は首を傾げるがはっきりと言い切る琴実。
「何か策でも?」
「ええ...まぁ、まずは向こうから見えないように廊下を封鎖しましょうか。」
その一言に呼応するように、一個先の教室の前の入り口らへんから諸共に城塞を組む。
「こんな感じでいいかな?矢野さん。」
「うん大丈夫。それで...検証しなくちゃか。」
『座標固定』
琴実は壁に手をかざすと、今はまだ脆く壊れやすい状態の壁だったはずが、これ以上はない最高位の盾へと変わる。
「ふぅ...それで作戦だけど...」
そう言った瞬間、壁にズシン!ズドンッ!と何度も棍棒をたたきつけているであろう音が聞こえる。
「・・・無駄みたいね。」
「すっげえ。」「固定って侮れないな。」「かっこいい...」
「それはさておき...」
と、簡易に作戦を説明する。それらを聞き、皆納得した様子でそれぞれの配置につき、その策に必要なものを各々、用意する。
「それじゃあ、解除するわよ。」
今の会話の最中もひたすらに、ただひたすらに壁を殴り続けるだけのホブゴブリンに4人は勝ちを確信しながらも策を積み、警戒して挑む。
「固定...解除!」「形状、変形!」
先ほどのように、琴実は壁に手を向ける。ただ先程とは違い、近づかなくても、距離を取りながらでも解除自体はできるようではある。
そして、それに呼応するように地面をツツッと槍先でなぞる雅也。その瞬間、先ほどまであった城塞の壁は崩れる前に内側に、門を開くように道を作る。
タイミングが良かったのだろう。城壁を壊さんと棍棒を振るっていたホブゴブリンの一撃は空を切る。
先ほどまであった手ごたえが唐突に消えて、目の前に現れたのは、全く同じ顔、同じ武器を持った3人の兵士、その少し後ろに槍を下段に構え、闘気を滾らせる戦士、眼に恐怖の色こそあるものの、腰が引けているわけではない旗持ち。小さな鎌を両手に持ち、腰を落として構えている女。
大体このようなものだった。先ほどの戦いで敵が分身のようなものを使えることを理解したホブゴブリンは戦術として即座に前に飛び込んだ。
大方の予想通り、突っ込んできたホブゴブリンに対応したのは分身体と思われる同じ顔をした2体だった。
予想と違っていたはその速度、それは先ほどよりも速くそれ故に両側から一撃ずつもらうものの、大きく棍棒を振ることで、その2人を後ろに飛びのかせる。
その様子を見て本体と思われる1人とそれぞれの戦士も後ろに飛びのく。
それを見てホブゴブリンの推測は確信に変わる。これらは分身体だと。
先ほど後ろに飛ばされた2人の下にホブゴブリンは飛びかかり、棍棒を振るおうとする。
しかしその瞬間、ホブゴブリンは目の端に捉える。
城壁の、門を開いたときのように生まれる一瞬の死角にいた右端の、もう1人の分身と同じ顔の刺客に。
「!?」
空中で真っすぐと振り下ろそうとしていた棍棒をあえて早く振り、空振りをし遠心力を使った回転打ちとでもいえる一撃をかまし、タイミングを合わせ飛びかかってきた同じ顔の3人を。
纏めて。全て。一撃で。
グシャりと。胴の部分を吹き飛ばす。
「「「「!?」」」」
一瞬反応の遅れた4人。それらはホブゴブリンの予想通り、すべて分身ではあったが死角の刺客に気づかないとでも思っていたような様子に、ホブゴブリンはうっすら笑みを浮かべ、また4人へと肉薄する。
「チッ。クソが!」
そう言いながら、槍を床に当てながら後ろに飛ぶ雅也。
一瞬で城壁の生成は間に合った。だが。
固定までは間に合わず。
ドゴォン!
その音ともに、壁をぶち抜く。
あっさりとした手ごたえに、驚きながらも攻撃の手は、ホブゴブリンは緩めなかった。
その対象は、一番前にいた分身使いだった。
頭上から思いっきり、一撃を振り下ろす。
受け止めようと剣の腹で受けようとした。だが。
剣諸共に。潰される。
その姿に驚きながらも、他の3人の判断は速かった。
真正面から床をなぞりながら槍で攻撃する雅也。槍で棍棒をさばく姿はさすがの一言に尽きる。
その後ろから、何度も旗を振る雨月。その影から思いっきり鎌を投擲する琴実。
いくら身体強化があるとはいえ、体力の問題はある。結局のところジリ貧であるし、投げた鎌とて仲間に当たらないよう投げていたんじゃ、相手に当たらず、床でカランカランと音を立てるだけであった。
そして、そのときは訪れた。
「!?」
一瞬。ほんの一瞬。流し方をミスったのか、焦ったか、少し隙を作ってしまう雅也。
その瞬間を見逃さず連撃を加えんとするホブゴブリン。棍棒で思いっきり突きを撃とうと腕を引いた。
そして。
「終わりだよ。ホブゴブリン。」
その一撃は、構えで固まった。
後ろから、グサリと。心臓を刺し穿ったものがいた。
それは、金色の欠けた剣で。刀身の半ばほどまでしかない剣で。ホブゴブリンの心臓を貫いた騎士。それはもちろん、分身使いと見紛う男、志島瞬であった。
「作戦はこう。志島君は4体自分に似た人形を作って。1体は精密に。残りの2体もまぁ、精密に。1体は、まぁ、雑でもいいわ。」
「どうして?」
「精密な1体はあなたのふりを。残りの2体は偽物として側近に。雑な1体はバレてもいい伏兵として。」
「...それで?」
「雅也君。門上に内側に開く、もしくは作り直すことは可能?」
「モチのロン。余裕だよ。」
「そしたら、ホブゴブリンに死角ができる。教室側には志島君の分身体はいらないわ。」
「ふむふむ。それなら雑に作らなくたっていいんじゃないかな?」
「まぁ、ね。でも、金色の剣が欠けきったとき志島君に戦闘手段が残らないのは困るから、数を減らすの。」
「なるほど...それで?」
「その雑な奇襲で倒しきれればよし。それでダメなら...」
「「「ダメなら?」」」
「その時は、さっきの分身体を配置しなかった布石として、教室の中で待機していてもらう予定の志島君本人に止めを任せるわ。」
「・・・俺!?」
「えっと...門上に開いたら、後ろの出口ふさがるぜ?」
「撤退しながら、解除はできないの?」
「戦闘しながらでもできるけど...攻撃と合わせてだとキツイかも?」
「でも強化が至近距離でかかっているのなら不可能じゃないはずよ。」
「まぁ、うん。そうだけど...」
「それに、攻撃する必要はないわ。」
「え?」
「捌くだけでいい。そうすればそれだけで十分。」
「まぁ、止めは志島だからね。それもそうか。」
「えーっと、ちょっといいかな、矢野さん。質問なんだけど...」
「何かしら?雨月君」
「そのー...合図とか決めなくてもいいの?」
「2つ用意しましょう。条件が整った証明にあなたの強化と...私の鎌での投擲を...」
「...ちょっとだけ、苦労したぜ。まさか、鎌を外すから、その音を聞けだなんてさ。」
「見事に型にはまったわね。これはスカッとするわ。」
「グ...グルゥアアアアアアァァァァァァ!」
「うるせえ。」「えいっ!」
断末魔と最後の渾身の一撃を振るわんと棍棒を振り下ろそうとしていたホブゴブリンを、情け容赦なく。
雨月は旗先の尖った部分で喉を、雅也は槍の切っ先で棍棒を持っている腕を。正確に貫く。
3人が刺した自身の獲物を引き抜き、魔力に戻して消すと、大量の緑色の血を流してホブゴブリンは地に崩れ落ちた。
「存外なんとかなったわね。」
「だーね。」
「じゃあ、3階にもどるわよ。」
「「「了解」」」
いつの間にか4人のリーダーのようになっていたことに琴実はほほえましさを感じながら指揮官の待つ3階へと向かっていった。
いかねえじゃねええかぁあぁぁあぁぁぁぁあぁぁ。
...はい。心が折れそうです。嘘です。今すっごく書いてて楽しいです。
まぁきっといつか行くって、次の回は暁人回だって。
え?待ってない?(´・ω・`)
それはさておき、いつも読んでくださっている皆様、いつもありがとうございます!
ココガラ?しばらくやってない(デモシーラカンスツッタヨ)




