第20話 |心見《こころみ》
場面が変わって探索隊に視点は切り替わる。
「んーと。四階の通常教室の向かい側は...?」
「PCルームみたいじゃね?」
聞いた暁人に対して軽いノリで返す志島。
場所は大体四階の、自身らの教室から遠いところに当たる教室の向かい側。つまり廊下を長方形見たら真逆に位置する場所である。
「え?あーマジだ。敵の有無は?」
「祥子ちゃん。お願い。」
「え?あっうん。了解。指定は?」
「とりあえず...ソナーでいいかな。あとは魔力指定。」
「うん。了解。」
「他はとりあえず周辺警戒しとこうか。」
てきぱきと指示を出していく菜月。それに従い動いていく面々。
「うん、と。ここには敵影がないね。」
「・・・あら?」
「ない...のか...」
「らしいわね...じゃあしょうがないわ。先に進みましょう。先遣隊として戦うべきところだけ闘いましょう。」
探知の結果を聞き二人の指揮官は困惑をしたが、片方の優秀な指揮官は今はどうでもいい、と言うが如く先に進むことを選択し全体に指示を与える。
「んじゃまぁ、先に進む...とは言ったって、ここの階はこれで終わりみたいっすよ?アネキィ。」
「あんたいつからそんな子分になったのよ、八束。じゃあこっち側の階段を下りるわよ。そして途中の踊り場で一度探知をお願い。」
「了解。条件は?」
「さっきと同じでいいわ。」
さすがに少し緊張もほぐれてきたのだろうか。先ほどまでの硬さはない返答を返す奈多さん。だいぶ普段の感覚に戻ってきたのかな?
そして先ほど言っていた踊り場の辺り...といっても、三階からギリギリ見えないくらいだろうか。そこいらの辺りから探知を使う。
ただ、使う前から暁人を含める何人かはすでに感じ取っていた。
「・・・敵はいる...かな。」
「・・・だよね。いるよね。」
「なんかもう...暁人が言ったせいで嫌な予感が確信に変わったわ。」
最初に口を開いたのは暁人だったがそれに呼応するように雅也と鳴子もいる気配を感じ取っているようである。
「...うん。いる。三階の敵影は...結構いるね。大型もいるかな?」
「敵はゴブリンだけかしら?」
「そう...だね。多分さっきとおんなじ容貌だから...ゴブリンだと思う。ただ。」
「ホブゴブリンもいる...ってことかしらね。」
「うん。厄介なことに。」
「まぁ、いるわよねえ...フロアマスター...みたいな感じなのかな。」
「・・・・・・・」
祥子の報告に対して適宜返答をする菜月。その二人の会話を聞きながらふと、暁人は考察する。
(なんで、ゴブリンなんだろう?それこそ、ゾンビでもよかったはずだろ?まぁ、人間じゃない分やりやすいけどさ...ここに何でとか理由ないのかな?んー...わかんねえ)
「どうか...したの?暁人。」
「顔。怖いぜ。いつもの三倍くらい。」
「心配と見せかけ悪口言うのはやめてもらえるかな?志島」
さらりと心配をしてくれる優しい桃園さんと罵倒を込めて聞いてくる志島。
「いや、別にどうでもいいことだから...」
「ちょっと...気になる。」
「んーと、何でゴブリンなのかなってだけ。」
「うわ、クッソどうでもいい。」
「わかってるから言わなかったんですー」
ちゃんと説明したらすぐこれだよ。これだから志島は。
多分これだからとか言ったらどれだよとか言ってきそうだけどな。
「...あ、そうだ。奈多さん。」
「え?んーと、何?」
「ここから『2階』と『1階』探知できる?」
「・・・その必要はあるの?八束。」
「いや。挟撃怖いけど、こっちからできれば強いかなって。」
「...それってさ。誰がやるの?」
「強襲かけるのは俺。他が食い止める形で引き付ける。最悪のために、ここに一つゲートを作って退散準備だけ整えるって感じ。」
「・・・なるほど。」
少し思案をする菜月。そして
「祥子ちゃん。できる?」
「えーっと。うん。大丈夫だよ。」
両手を合わせて目を瞑る祥子。しばらくして。
「おなじくらい2階にいる。1階も結構いるけど...どうする?」
その報告を聞いた菜月は暁人に聞く。
「だってよ。予想通り?」
「まぁ、だよね。で、なつさん。ちょっと聞きたいんだけど。」
「なに?」
「これだけ手札はそろっているけど、作戦はどうするの?」
「そうねえ...誰が、どこで、どう戦うのって話よね?」
「そうだね...」
「じゃあ、一つ不確定な要素だけ潰しましょう。」
「・・・というと?」
「これから私たちは3階の攻略に当たらなきゃいけないわけでしょ。そうじゃなきゃ先遣隊としての仕事はできない。別に排除しなくてもいいけど、これだけ人員いて何も成果がないってのも、どうかと思うし、どうかしら」
「俺にお伺いは立てなくてもいいよ?指揮官はなつさんだし。でもまぁ、こんだけいるってことは、闘い前提ではある気はするけど。」
「でしょうね。だから。3階におりて各員の準備が整ったら、一番大きな音の鳴る技を使いましょう。」
「んー...と。誰の?」
「誰でもいいわ。そしたら即座に探知ね。」
「うん。了解。」
「指定する内容は少し複雑だけど、生命探知の大まかなくくりで。」
「そうなると私使った後少し役立たずになっちゃうけど...大丈夫?」
「問題ないわ。ただ、報告はお願いね?」
「うん。」
暁人の質問も、祥子の不安も、即座に潰して次の説明へと移るなつさんを見て少しだけ安心した暁人。
作戦の内容は端的にまとめるとこんな感じであった。
3階で闘う人は鳴子と市ノ瀬、六花と蒼衣でその後ろにはバックアップとして芽衣と菜月が控える。その近くに祥子が控えて、初手で市ノ瀬が一振りで校舎を揺らすらしいので、それが終わった後の敵のレスポンスを図るとのこと。どのような動きしても軽くは応戦してほしいとのこと。
そのほかの面々についても指示があり2階に行くメンバーは雨月と志島、琴実と雅也といったメンバーである。主に壁で守りながらゴリゴリ削っていくそうである。なお危なくなったら即座に3階に逃げるつもりらしいので問題ないらしい。
ちなみに、ゴリゴリの武闘派である暁人は...
「・・・それで八束は一人で1階ね。殲滅しといてほしいな。」
「難易度高くないですか?」
「まぁ、最悪あなたが戻ってきたら即撤退だし...こっちの戦いがやばいようなら最初と同じくらいの轟音を鳴らすか、撤退して校舎全体に詩織ちゃんの能力で知らせるわ。」
「つまり、ほとんど一人で何とかしろってことね。」
「そう思ってね?」
無茶苦茶だが、信頼はしているようではある。もしかしたらハイになっているのかもしれない。
「あ。でも、そうねえ。会話ができないのは困るし、これ持っていきなさい。」
と、小さなイヤリングもどきを壁の素材を「創造」で作りかえたと思われる謎の素材で作られたイヤリングをくれる。
「これで何すんの?」
「境界のゲートを設定しておいてもらう。そして何かあったらつないで電話するから。」
「できるの?」
「できるよ?」
知らなかったの?と続ける芽衣。そりゃあ聞いてなかったからね、それが不可能かどうかは。
「・・・あ、あと八束。もう一個、縛りを追加していい?」
「・・・・・まだなんかあるんすか?なつさん。」
「うん。さっきの炎夜叉は使用禁止ね。」
「・・・ホブゴブリン来たら?」
「そんな暁人に秘策を一つ。」
と続けるなつさん。その内容は...
「・・・ってこと。わかった?」
「わかったけど秘策ってほどでも無くね。」
「まぁ、できるなら戦略の幅広がるくらいかな。」
「それもそうだわな。んじゃまぁ...まずは準備に取り掛かりましょうや。」
その一言で全員が動きを始める...第一次総力戦に向けて。
「さて...と。とりあえず...八束、聞こえる?」
「え?あ、うん。ほんとに聞こえたわ。大丈夫」
「配置についた?」
「ついたよ。下の4人も配置についたのは確認した。」
「おっけ…幸運を祈りますオーバー。」
ふぅ...2階の連中は隠れる形で反応を見ているような形で配置が終わって...ってこれイヤリング境界フォン(造語)でつなぐならそもそもいくつか作ればよかったんじゃ...って、そうなると境界が混線するのか?いやでも...。
暁人のいい癖でもあり悪い癖でもある考え込む癖である。だが。
ズガガガガガガガガガガガガガガガガガン!
予定通り且つ唐突な振動が校舎を襲い、暁人の思考を掻き消す。
(...って、もう始めるんかい。びっくりすんなぁ。)
そんな感想を口に出さないよう心で留め、その場にしゃがみ込み指で振動を確認することで足音が来ているかを探ろうとした。
だが感じ取れる音は。
ズーンズーンズーンズーンズーン。
先ほどの余波だけである。それはそうだ。暁人は今、1階と2階の階段の踊り場にいるのだ。そりゃ揺れやすいし、さっきも大震動だし、揺れを確認する方法を確認してなかったことが一番の誤算であった。
(やっべ。どうしよう。)
そう迷った暁人の階下に、数匹のゴブリンが躍り出た。
「あ。」
「・・・キシャァァァァアアァ!!!」
まさかいると思ってなかったとでも言わんばかりの一瞬の間を開けて叫ぶゴブリンたち。なんだこいつら、ちょっと愛嬌あんな。
まぁ、そんなことはどうでもいいか。
『灼装 灼刃』
いつも通り、突如として右手に生まれた赤熱した刀を煽るようにゴブリンに向け...
「・・・こっから先は...先は?...ええっとどっちだ...えーと...もういいや!2階の廊下だァァァァアアア!」
いまいち閉まらない掛け声とともに、1階の戦いは始まった。
市ノ瀬が轟音で校舎を揺らしていたころ。教室前の廊下では。
「ハァ!」
「フッ...ハァァァアア!」
鋭く疾い一撃を先読みして軽く刀で軌道を逸らしその勢いを利用しながら修斗に切り込む。刀とは言ったが模造刀にしてはいるようである。
残念ながら修斗はそれに気付いてはいないため必死になって避けているし、闘っている修斗は槍先を丸く作り変えてなどいないが。
そんな必死になっている修斗は先の踏み込みからの袈裟斬りを無茶苦茶な体勢で避ける。
「ッ!」
そのまま、振り返る勢いを利用して横なぎに槍を振るう。その一撃を聖も振り返りながら刀を逆袈裟斬りの軌道で、下から槍先に当て軌道を逸らす。
刀身と槍先がぶつかり合い甲高い音を鳴らす。互いに体勢を立て直し、聖は正眼の構えを取り修斗は下段の型を取る。
「さすがに強いね。やっぱりその足さばきは厄介だ。」
「・・・戦闘訓練で殺されかけるの初めてなんだが。」
「大丈夫。殺さない殺さない。」
飄々と答える聖に恐怖すら覚える修斗。そしてすり足でじりじりと近づく聖。
次に仕掛けたのは修斗。片手持ちに変えて連続で突きを打つ。それを聖は的確に切り払う。槍先を逸らされるたびにすぐに戻しまた突く、また払われ戻し、また突く。
片や一方的に押されているようにすら見える聖だが。少しずつ、少しずつ、ジリジリと。ゆっくりとであるが体勢としては聖のほうが押していた。
次の瞬間、修斗は意表を突こうと槍を戻した瞬間、槍を一瞬で縦に回し上から振り下ろすことで威力と速度を上げた一撃で決めにかかる。
「甘い!」
その一言とともに避けながら前に飛び込み突きを打つ聖。
「ウオッ!」
即座に槍から手を放し、無理矢理地面に倒れこみながら避けた修斗だったが手から槍が床に落ちカランと音を鳴らした。
「・・・ここまでかな。」
「・・・は?」
床に寝っ転がりながら修斗は聖を見上げる形で言葉を交わす。さっきまでの一切の敵意が消えうせ刀を腰の鞘に納めた聖を見て本当に終わった、と理解した。
ゆっくりと息を整えながら天井(と聖)を見上げ聖に声をかける。
「...まじで殺されるかと思ったわ...」
「いや...あのね?あれ刃引きしてあった模造刀だからせいぜいとても痛いぐらいで即死はないから大丈夫だったんだよ。まぁ、当たり所が悪ければ死ぬけど。」
「嘘やろ。」
「マジだよ。どちらかと言えば僕の方が死にかけてるんだけどね。」
「確かに。」
「おっと、立てるかい?」
そんな風な会話をしながら聖は手を差し伸べる。その手を取り、ゆっくりと起き上がる修斗。
「そんで?俺の強さは測れたかい?」
「うん。大丈夫。君が能力をちゃんと使えていないことだけはよく理解した。」
「は?」
「少し意識してほしいことがあるだけだがね。とりあえず教室で話そうか。」
「まぁ、いいけど...ってかほとんど防がれたのどうやったの」
「あぁ...あれはね...」
そんな風に会話をしながら教室に戻っていく二人。そんな風に、聖と修斗の戦いは他の戦いより少し早く、幕を下ろした...。
そうしてまだまだ戦いが続いていく。
話が まったく 進まない。
いつ完結するんだろう...さっさと書かなきゃ。
いつも見てくださっている皆様誠にありがとうございます!
次の回は...20-2話にしてだそうかな?
 




