第10話 |協導《きょうどう》
「…は?」
あのとき聞こえた柏手の音。それを全員で聞いたときのように、総立ちの状態であった。体感では3ヶ月から4ヶ月、あるいはそれ以上経っているんじゃないかと言うほど戦ってた気がする…が。
実際にはそんなことはない。夢の世界、御伽噺の中だから本当に当てにはならないが、校舎の中に、教室の中にある時計は。せいぜい1、2分程度しか経っていない。
先ほど叩きつけられたバレーボール。もとい服に目をやると、服は持っていなかった。
が、それを確認したとき、初めて気づいた。
自身の腕が露出していることに。
とりあえず暁人は旧友たちと話をすることにした。
「…志島、留目、ひじりん」
「…」
沈黙を返す志島。
「・・・」
沈黙で答える留目。
「ちょっと待ってね」
少し黙れという聖。
(´・ω・`)
悲しい顔になる暁人。まぁ、そりゃあ、ねえ。
そんな暁人を置いて周りは皆校内放送のスピーカーを見ている。
(ってみんな衣装違うし、眼も心なしか鋭くなってねえかな?)
『・・・・・・」
完全な沈黙。昔こういう状況を誰かがお化けが通るって言ってたっけ?
そんな風に気の抜けた考えをしながら、校内放送を待った。流石にこの状況で放置ってことはないだろう。それやられたらマジで困る。
「・・・・・・さて、待たせたね」
『!!』
空気が緊迫する。先ほどの状況で誰が何を教わったかは知らない。だけど空気感から察する。
(・・・みんな強くなってんなぁ...今回ばかりは俺も置いていかれずに済みそうかなぁ...)
「まぁ、個々人に伝えたと思うが。君たちにはこの世界、御伽噺を攻略してもらいたい。」
「とりあえず、まず目標として校舎の全機能を開放するところを目指してもらって」
「迷宮に入り、各階の試練を司るもの、及びイレギュラーを全て退治し迷宮を攻略してもらうのが君らの最終目標ってところだ。」
「任せたよ、諸君」
話したい事を一方的に校内放送で伝えるだけ伝えて、夢の支配者は沈黙した。
「・・・で?暁人は何を言いたかったの?」
志島は暁人の方を向き直る。それを皮切りに...ってわけでもないけど、みんなバラバラと、最初の時のように行動を始めていた。伏せていた奴らも、何とか情報交換をしようと話しかけようと動き出す。
「あぁ、うん。みんな装い新たに、って感じだなって。みんな修行とかしたん?」
「おう!大鷹を使いこなせる...とまではいかないけど、体の一部を、変形させるぐらいにはできるぜ!」
「俺も軍団を、まぁ、ちょっと。少しだけ呼び出せるようにはなった...かな?」
「俺は軽く武道の手ほどきを...ね?」
暁人の問いに対し、留目・志島・聖が答える。
とはいっても、まだまだみんな納得いってなさそうで、割と頑張ってたんだろう。慢心がないっていいね。
「サボんなくてよーかった(ボソッ)」
「さぼってたら死ぬだけだ。」
「ほんとに」
志島が厳しいが割とリアルな話だった。
「それで?暁人はどこまでできるようになったんだ?」
聖が暁人に対して成果を問うた。
「んー?俺か?俺はな?...おろ?」
成果を勿体ぶっているとこそっと後ろから二人顔をのぞかせる。
「...あー今...いい?」
「・・・えーっと・・・そのぉ・・・」
「どしたん?蒼衣・雨月」
声をかけてきた男が二人いた。
一応、すっごく控えめに声をかけてきた子は高木 蒼衣。彼は学級委員をやっているんだが、すごく控えめ。なんだけど、昔に学校行事で話してから、随分と仲良くなれた...とおもうから声をかけてきてくれたんだと思う。
そしてもう一人。声をかけるのも苦手なくらいの子は雨月 稜。最初に突っ伏してたくらいの子。本当に人見知りがすごい子だったんだけど、声をかけたら少しは話してくれるようになった。
蒼衣が口を開く。
「あー、いや。みんなはどんな異能を持ってて、どういう感じなのかを少し把握したいんだけど...やっぱり、学級委員の俺が前出た方がいいんかな?」
「あ、えっと、俺も...声だしたりとか、しなきゃいけない、だろうし...一応...うん。」
「あぁ...なるほど。」
話しかけられた暁人以上に、聖が困りだす。
「みんなの異能の把握は急務だしな。」
「...ってなると...俺...前出なきゃかな?」
「・・・なるほど」
聖が困り、蒼衣が怯え、暁人が理解する。
つまり、リーダー役が必要になるのだろう。
「んー...じゃあ、そうだなぁ。」
聖が悩みだす。
「俺ら置いてけぼりだな。」
「そうだな。」
志島と留目がそんなことを抜かしている。
「よし。一計案じよう。」
『ん?』
暁人があることを閃き、一同総ぽかんであったが、暁人がこそこそ話し出すとほとんどは納得そうだったが、とりあえず賛同した。
反発ではないが、普通の賛同をしなかったのは聖と蒼衣だ。
「...まぁ、そうなるか。しゃーないな。」
「まぁ俺もだから安心しろ。」
「それはそうなるだろ、人脈的にも」
「まぁな。」
聖の反応に対して暁人はさらりと肯定をかえす。
逆に蒼衣は
「えぇ...助かるけど...いいの?」
「まぁ、ね。それにそもそも。これにはもう一人助力求めなきゃいけないし。」
「まぁ...そっか。」
「うん。つーわけで、女子のとこ行ってくるわ。」
「あ、うん。了解。こっちはこっちで何言うか考えとく」
「おっけー」
と、言った調子であった。
そんなこんなで、暁人は企みを始めようとしていた。
(さて...と。やっぱりここは...)
「あ、なつさん。ちょっとよかー?」
「ん?なにー?」
暁人が声をかけ、少し隅っこの方へ手招きをした相手は岩金 菜月という、女の子だった。基本的にまじめな女子であり、スタンダードを貫くタイプの女の子であった。運動神経もかなりよく、頭もよかった。姉御...というと怒られるだろうが、女子の中でも割とまとめ役に位置するタイプの女子だった。
「ちょっと頼みごとがあってね?」
「何?」
「・・・このクラスのまとめ役を一緒に引き受けてくれない?」
「・・・誰と?」
至極まっとうな質問である。
「まず、俺とひじりんと、だね。」
「理由は?」
「俺とひじりんだけだと女子から反感買いそうだもん」
「それ女子目の前にして言う?」
「でもわかるでしょ?」
「まぁ、うん。」
通じてしまうこの悲しさ。
「それに、みんなが何ができるかをまとめる人。率先して前線に出る人。あとは精神的支柱の役割をまとめる人、って役割を分けなくたって、リーダーポジが何人かいれば十分だし。」
「・・・八束は人柄と運動神経で分かるけど。聖は?」
「頭脳枠。異能がそういうものだから。」
「あぁ...」
随分と腑に落ちたようである。もう一押しかな?
「今も、ひじりんの能力わかんなくてちょっと納得いかないところがあっただろうけど、そこらへんも統括する人が必要だと思うし、精神的な面でも、男子が女子励ますより、女子が女子を励ました方がよかったりすることのが多いだろうし。そこらへん任せられるの、なつさんしかいないかなって。」
「信頼されてるのか、丸投げなのか...」
ごもっともである。
「まぁいいよ。あたしが女子代表としてのリーダーとして立つってことでいいんだよね?」
「そうだね。後は自分の異能説明とかをするタイミングを設けるから。そこで...ね?」
「ん。了解。」
流石なつさん。めっちゃ、あっさり決まった。
とりあえず、一区切りがついた。その様子をこっそり遠巻きに見守っていた聖は
(まぁ、妥当だね)
とでも言いたげな表情だった。ぶっちゃけひじりんは誰でもよかったんじゃないかな?
「戻ったよ。」
先ほどの、面々のところに戻り、暁人がそう声をかけると、各々反応を返した。
「お帰り、岩金にしたんだね。」と、納得した様子のひじりん。
「どう自己紹介しよう...」と、悩み抜いてる蒼衣。
「お疲れさんー、みんなどんな力なんだろうね?」と、元気いっぱいの留目。
「あ、えっと、うん。お疲れ…様…」と、やっぱりどこかオドオドしているように見える雨月。
「わー、女子と話せてるー、陽キャー。」と、煽り度の高い志島。
みんな思い思いの感想を一斉に述べる。つまり
『○▼※△☆▲※◎★●』
「おい待て、何言ってるかわかんねえよ。順々にしゃべれ。」
こうなるのは自明の理であった。
ちゃんと個々から言葉を受け、ついでに志島に軽くチョップで突っ込みを入れ、ちらりと岩金の方を見る。
どうやら、向こうもまとまり始めてたみたいで、こっちに軽く目配せしてきた。
「おっと、そろそろみたいだけど。準備は大丈夫そう?主に人見知りどもとひじりん。」
「え...あ、うん。大丈夫。」
「う、うん。大丈夫。」
「OKだよ。俺は前に立つ準備はできてる。」
雨月と蒼衣はおどおどしながら、しかし、一応前に立つ準備はできたみたいだ。ひじりんは最初っから心配してなかったけど。
「反応しなかった、人見知りじゃない奴らは最初に持ってくるからな。覚悟しとけ。」
「ひでえ。」
「まじか。」
志島と留目はブーブーと批判している。
その実、特に本気で言ってないと信じ(実際は知らんが)、各々の説明をするために、教卓の方へ向かっていった。
つなぎの部分って面白み薄いよね...俺の文体じゃ無理だ。
少しでも楽しんでもらえるよう精進していきます。
...あ。あけましておめでとうございます。