第1話 |才解《さいかい》
君たちは、選ばれてしまった。神の戦士とでもいうべき、魔物に対抗するべき人間に。望まないなら手放すといい。しかしながら、君らがその力を手放さず、世界のために使うことを信じて。
私は君たちに試練を授けよう。
目を覚ますと、見慣れない教室だった。見慣れないのに教室だと思ったのは、きっと、今いる「ここ」が、THE 学校って場所だったからだ。小学校とも中学校とも高校とも、その教室一つだけではどうとも、判断の出来ない場所であった。
「くぁぁぁぁぁ」
大欠伸をしながら起きたこの男は八束。八束暁人という男である。大きく伸びをしながら、体を起こし三つのことに気づく。
一つ目は、右手になんらかのメモと思しき、紙を握っていたこと。
二つ目は、自分の寝ていた体制こそ、寝落ちした結果の体制であり、違和感こそないが、こんな場所で寝た記憶はないということ。
そして何より、三つ目。周囲の人間が、少なくとも
全員がクラスメイトだったということだ。正確に言えば、八束を含むここにいる全員、大学生なため、クラスメイトだったものたち、なのだが。高校時代の3年生を過ごした者たちと同じ教室にいる。どうやら、みな、同じように目を覚ましたようだ。そんなわけで、仲の良かった男、志島瞬に話しかける。
「おー、おはよー?志島ー」
「なんで、おはように?がついてんだよ」
「場所見てからのたまってくれます?」
「・・・」
そりゃそうなる。ってかこんな反応するってことは、これは夢であっても夢ではないんだな。
「あ、暁人。質問なんだけど、この紙に書かれた軍団って何?」
「いや、知らねえよ。俺も聞きてえわ」
俺の右手には、灼装と書かれた謎の紙が一つ。意味が分からない。頭の中で思い当たるものに検索をかけてみるが、そんな神話、伝承はでてこない。
頭の中で少し検索していた時、志島と会話をしていたからだろう。水を打ったように、昔のクラスでの親しかった者たちが集まり会話を始める。まぁ、いくつかのグループに分かれるのはよくある光景だろう。
こっちに一人の男が近づいてきた。
「瞬と暁人じゃん。二人はなんて書いてあったー」
こんな軽いノリで、まるで占いを受けたかのようなノリで近づいてきたのが鷲崎留目。基本的に明るいがまじめなタイプである。
・・・まぁ俺以外は皆真面目なんすけど。
「俺はよくわからん灼装とかいうもの。留目は?」
暁人は紙片をぴらぴら振りながら、あっさり答え、聞き返す。
「その前に、瞬は?」
「もったいぶるやん。俺は軍団とかいうものだよ」
「へー、かっこよ」
すごい小並感だがあまり気にせず、志島は答える。
「訳もわからんのに、かっこよくてもなぁ。そういう鷲崎はどうなのよ。」
「え?ああ、大鷹だって。んで、一個聞きたいんだけどさ。」
「ん、何?」
グライフという単語から何か、ラノベかなんかの本かは忘れたが聞き覚えがある...とかちょっと考えてたけど、聞かれたとき答えるかーぐらいに考え、次の質問もそれに類似するものと考えていたのだが、質問はまた違ったものだった。
「俺の眼さ、何かできものとかできてたり、なんかしらの変化ない?」
『はい?』
「いや、なんか、こう、顔の輪郭とか、物の形状とか、いやにくっきり見えるんだけど、色彩感覚おかしいし、目になんかできてんじゃないかと」
「・・・なるほど」
一言相槌をうつと、瞬はじっくり眼を眺める。
「おい、絵面がやべえぞ。」
適当に茶化しながら、もう一度鷹について考察を始めた。その時にふと、あることに気づいた。それを伝えようと、口を開こうとしたとき、一連の会話が聞こえていたと思われる男、クラスきっての優等生が暁人に対して声をかけてきた。
「なぁ、暁人。」
「ん?どったの?ひじりん」
ひじりんと呼ばれた優等生、相沢聖はその懐かしい呼び名に苦笑しながら続ける。
「さっきの声聞こえてたんだけど、グライフで、目の色彩感覚がおかしい、だったよね」
暁人に話しかけてはいたが、確認を三人に取る。
「え?うん。なんかわかる?」
代表として、当事者の鷲崎が答える
「えーっとだね。結論から言おうか。」
一呼吸、間を開けて推測を告げる。
「多分だけど、それは、比喩でもなんでもなく鷹の眼になったとおもうんだ。」
『え?』
瞬と鷲崎は、あっけにとられる。
「あー、鷹って紫外線も見えるから、物の輪郭がより鮮明になる...んだっけ?」
「うん。ただ、ほんとにそうなるのかは。俺も知らないけどね。」
「元にそうなってるってことは、そうなんじゃない?」
「そこは疑問の余地があるけど。あとグライフについてだけど、確か、グリフォンのドイツ読みのはずだよ」
疑問をあっさり解消していく。あまりの手際に暁人以外の二人は呆気にとられていた
「聞き覚えあると思ったらそれでか。ってかお前への質問が増えたんだけど」
「ん?なに?」
あっさり聞き返す聖。
「質問その1、お前がドイツ語で神話を知っているのが不思議ってこと。その2、お前の紙片には何が書いてあったのか。その3、グリフォンはそもそも鷲獅子じゃなかったか?」
「ひとつづつこたえるよ」
突然の質問攻めに、苦笑を浮かべこたえていく。
「1つ目と2つ目は一緒にこたえられるか。この紙片に書かれていたのは、万術者だった。本来なら会得してない知識まで、頭から引っ張り出せるみたいかな。鷲崎と一緒で不可能だったものが、実現可能になってるみたいだ」
紙片を3人に見せながら、答えるが、疑問が残る。
「って、その理論だと瞬は軍団を呼び出せるか、軍団になれるってことにならないか?」
「そうだと思うよ。あと暁人、お前のは多分、熱を持った武装とか装備とかを作り出せんじゃない?もしくは身にまとえるか。」
「んー、嘘くさいけど、説得力あるんだよな」
「まぁ、気持ちはわかるけど。やり方がわからないってのはどうしようもない。言ってしまえば、常時発動型と瞬間発動型の差、みたいな感じかな。俺だって、やったことない武術の知識があるぐらいだし」
軽く、八極拳の動きをする聖を見て、苦笑した。
「納得した」
まさしく、道端でやっていた婆さんの太極拳にそっくりだった。
「でも、練度は高くない?」
「そこだよね。あくまで知ってて、ある程度実現できるだけみたいだ」
「指揮官型やんな。そんでもって、質問3の答えは?」
「2つ考えられる。一つは、本当にグリフォンになる可能性、つまりまだ練度が低いだけの可能性。」
「お前と同じか。そんでそんで?もう一つは?」
「もっと簡単で名づけられてるだけの可能性。こっちのが高いと思うんだけど」
「・・・確かに。ダヴィンチが八極拳を知ってるとは思えない。加えて、ドイツ語も微妙なラインだ」
「だろう?そこいらを考えると、そう捉えたほうが正しいとは思う。ただ、練度次第では、身体能力に変化が出るとは思う」
「え?マジで?」
黙って聞きながら、複雑な表情をしていた鷲崎だが、少しうれしそうである。
「もしかしたら、夢の、そーらをじゆうにとーびたーいなー、が実現可能かもよ」
「うわ、ビミョイ」
暁人が茶化し、素直な反応を瞬が答える。
「ってか大群呼べるって使い道なくね?」
瞬が嘆く。そんな瞬に対し、暁人が、
「呼び方もわからんしなぁ。利点で言うなら、俺もだけど。お前のは...ほら。二人組作ってーの呪いから解放されるよ。やったじゃん。」
「規模がそんなんじゃねえし、呼び方わかんねえから実在するのかわからない架空の友達みたいで、ただのやばいやつやん」
「俺はあったかいだけだけど。場合によっては発電所送りかなー」
「いやーごめんな、俺と相沢だけ勝ち組で」
『うわ、むかつく』
こんな茶番をしていると、ふと何かに気づいたかのように、聖が
「そういえば、ここ夢っぽくないよな。」
「あーそれ、俺も思ってた」
「あ、瞬もひじりんも気づいてたん?」
暁人は最初に思ったことを、万術者と化した聖が述べたことで、自信を得る。
「どゆこと?」
鷲崎が素直に聞く。暁人が簡潔に説明する。
「夢でこんな好き勝手は不思議だろ?」
「たーしかにー」
「あれ?鷲崎さんお気づきでなかった?」
「き、キヅイテイマシタヨ?」
「うわ嘘くせえ」
暁人が少し煽ると、昔の、普段の調子で返答を返す。
「ってか、大学生になってから、全員と会った記憶はないから身長とかとか髪の毛とか反映されねえはずだしな」
瞬がそう続けると、聖は
「夢って、記憶の整理中っていうしね。脳が勝手に予測演算した可能性もありうるけど、グライフの単語はさすがに出てこないかな」
と、続ける。
「ラノベ読み漁ってる俺だって、グライフなんて単語、思い出すのも無理だっての。聞き覚えあったって、グリフォンに近かったからだしな。」
暁人はそう答える。
「それ以上に気になることもあるし…」
聖が考え込むように言う。
「これ以上に何があるんだか」
「まったくもってついていけねえや」
暁人両手を上げお手上げのポーズをとりながら、瞬はやれやれ、といった様子で呆れた感じを出している。
なお、鷲崎に関しては、無言で真面目そうな顔をしている。
「さっぱりわからん。」
真面目そうな顔は気のせいだったようだ。そう述べたことから鷲崎もついていけてないのだろう。
「いや、考えてもごらんよ。暁人の灼装も、瞬の軍団も、どう考えても戦闘向けじゃないか。そもそも軍団と称される能力、レギオン…だっけ?元はローマの軍団がモチーフだよ?そんなものが戦闘向きじゃないとは、とてもとても。」
そこまで言われて、ようやく気づく。用途が使いにくいことではない。全て戦闘において優位性を発揮するものであるということである。それにグライフという言葉も文字的には鷹であったとしても、グリフォンと称されるのであれば戦闘においての使用のほうが思いつく。
正直、ラノベ脳だからかもしれんが。
「・・・どちらにせよ、説明がほしいよね。それに・・・」
聖は言葉をとどめた。
「だーれが説明してくれるんだよ。そもそも。ここに召集、召喚、呼び出し・・・まぁどれでもいいけどさ。ここにいる人間、見た様子じゃ回答が得られてないからあわててたり、驚いたりしてんじゃない?」
暁人はそのように述べ、軽く周りを見渡す。
その時の周りの様子は、簡単にまとめるとこんな感じだった。
親しいものとの再会を喜ぶもの。ここがどこなのかわからず慌てた様子で会話しているもの。特に友人関係を築かず、孤独になりながらも思考をしているように見えるもの。
・・・どれにしてもこの現状を鑑みるに誰も事情は知らないだろう。
「俺だって、目を覚ました時、暁人が声かけてきたから適度に会話できてるだけだし」
「お?俺に感謝してる系??もっとするとよい」
「帰れ。土に還れ。」
いつものノリで茶化す暁人。辛辣に返す瞬。
「んで、変わってない二人を見て俺は近づいてきたわけだしな」
鷲崎がそう括る。それを聞いて、頷いて聖は述べる。
「まぁ、ここで落ち着いて解説できてる俺が一番怪しいんだけどそこには触れない感じ?」
「ひじりん八極拳やってないだろ」
「まぁね」
あっさりと信用する三人に警告の意味を込めたのかもだが、二重の意味で無意味である。
この三人は、信頼している相手は疑わない人柄だし、暁人は疑わなかったわけではなくて、ちょこちょこ「お前」と言っていたりして真剣になってはいたし、それでも裏切られても気にしないつもりではあった。
そんな3人に対して感謝とわずかながらの呆れを含んだような苦笑を浮かべて聖は答える。
「信頼・・・と受け取っておくよ」
「まぁそれはいいよ。おいとこう。」
瞬が遮り、続ける。
「問題は...」
「これを起こした人物がだれか、かな?」
鷲崎が言葉を続ける。それに対し、聖は、
「それは大まかにいえばここにいない人。想像可能な範囲には1人だけだからいいとして」
「それ以上にどうやってこれを起こしているかじゃないか?」
聖の衝撃発言より、この世界にみんなを集めたことのほうが怖い、と暁人は述べた。だが、
「そっちのほうが簡単だと思うよ。」
もっと衝撃発言である。
『は?』
三人が本気で疑問符を浮かべるが、それへの返答はもっと簡単なものだった。
「僕らは答えを最初から握ってたじゃないか。」
『あ!』
紙片。これは僕らが手に入れた特異な力を表す。...実感ないけど。
「つまり、最初から持ってた人が俺らを集めたってこと?ひじりん?」
「そうだね。例えば『世界』とか『創世』とか、『舞台』とかもあり得るかもね。」
さすがとかいいようしかない洞察力に舌を巻く。
「で、その正体についてだけど・・・」
言葉を紡ごうとしたひじりだったが、突然の学校のチャイムに遮られ、加え校内放送に邪魔される。
そうして、世界は、彼らに試練を与える。