報告会・後
・オルウェンキス隊:オルウェンキス班、キャスパー班、ディスケンス班
・ハルティア隊:ハルティア班、ダニール班、グリフ班、ルールー班、フェルト班
・遊戯会:ベルナルド(会長)、アズルト、クレアトゥール、チャク、ガガジナ、ココト
隊の話にひとまずの区切りがつくと、話の中心はアイナ・エメットへと移った。
アイナへの言及は気安くて煩わしいという人格評から始まる。
同じ班として組み込まれたため、遠征中はなにかと話しかけられて気の休まる暇がなかったとほとんど愚痴の有様だ。
ただ能力については、私情を廃し高く評価を下している。
武術の腕はキャスパーに及ばぬものの、騎士家の出身で獣人のニーに比肩するほど。
幼少期から剣に親しみ戦いの術を叩き込まれて育った騎士家の子息と、騎士としての素養はどうあれ出自で言えばただの町娘が同等だ。もうこれだけでアズルトは苦笑を漏らしそうだった。
ゲームのアイナがどちらかと言えば後衛寄りの性能だったのも、驚きに拍車をかけた理由だろう。プレイヤーにこの手の才能があったのかもしれないが、いずれにせよ相当な修練を積んだに違いない。
当然、魔術を併用しての戦闘ともなればアイナに軍配が上がる。
肝心の魔術については踏み込んだところはあまり語られなかった。
術比べで彼女に勝てる者がキャスパーしかいないこと。魔術理論への関心が強く魔導師の素質もあること。ただしそれらが異端の思想であること。アズルトらにも増して騎士として異質であること。
もっとも、最後のひとつはアズルトが意識して安全な知識のみを遊戯会に流しているからそう見えるだけなので、参考にはならない。
この話の中でアイナは知識の理由づけに『騎士を志すきっかけになった旅の天位』を使っていることも判明した。
それから、アズルトとクトのことを色々嗅ぎまわっていたと、面倒くさそうにチャクは語った。
彼女もまたあれやこれやと質問攻めにあったようだ。
4組が打倒を目標に掲げている問題児がどんな人物なのか、といった話が多くを占め、能力的なものよりも人となりを聞きたがったそうな。
そうして挙句の果てには、話をしてみたいので間を取り持ってほしいと頼まれたのだと言う。断ったらしいが。
そもそもチャクはアズルトらについて立ち入った話をしていない。精々が『魔道に魅入られ四六時中それしか頭にない失格人間』といった程度のものである。
班を組んでいるという以上の繋がりはなく、仲介を頼むなら他に適任がいるだろう。
それ故に、アズルトには気にかかった。
どうにも噛み合わないのだ。アズルトの知るアイナ・エメットは、無為無策で動くような少女ではない。
明らかに別の意図をもってチャクにこれらの話を振っている。
ではその意図とはなにか。
今こうしてチャクから話を聞いているのが答えなのではないかとアズルトは考える。
自身の行動がアズルトたちに伝わることをこそ、アイナは望んでいるのだ。自分という存在についてアズルトらに思案を促すために。
そうしてアズルト側の反応を引き出そうとしている。
ただ、これはアズルトをプレイヤーと推察しての動きではない。どちらかと言えばその逆で、プレイヤーではない可能性を考慮してのものだ。
アズルトはゲームで言えばモブだ。その行動からプレイヤーである確証を得るのは酷く難しい。
だから彼女は断定を諦め、目に映るままのアズルトを相手どることに決めた。
その手始めとして、己の存在を強く意識させることを選んだのだろう。敵視されかねない際どいラインを攻めつつも、メッセンジャーとなるチャクには友好的な提案をチラつかせて。
アズルトがこれをどう受け止めるにせよ、アイナにしてみればまず認識してもらわなければ話が始まらないというわけだ。
彼女は自身の陣営にアズルトらをも取り込もうと画策している。そうアズルトは考えていた。
今はまだ様子見の段階なのだ。
本格的なアプローチがあるのはこれからのことになるだろう。
そして最後に、遊戯会の面々を中心にアイナとの間で取り交わされた協定へ話は及んだ。
その内容は『騎士として成功を収めるための相互扶助』を題目に掲げるもので、知識の共有による技術の向上を図る一方、それら知識の流出を厳しく戒めている。
つまるところ、もうひとつの遊戯会というわけだ。
アイナに懐いたココトと己の道を進むガガジナがまず賛同の意思を示し、躊躇うベルナルドにチャクが『遊戯会の代表はベルナルドである』と助け舟を出したことでこの協定は始動した。
経緯を聞くからに、遊戯会の情報がアイナに流れたのはチャクが原因とその責任を問うことも出来る。けれどアズルトは「手間をかけたな」と短く感謝を述べただけだった。
遊戯会の面々とアズルトとの関わりは、利害のひと言に尽きる。
時折、魔導の極意を薄めたものを遊戯会に提供してはいるが、彼らが得たものの真価を理解することはない。
そのためアズルトのもたらす益は、遊戯という形態を借りた訓練道具の考案に集約している。
手本として晒した術式から得た知識も経験も、彼らにしてみれば遊戯会で得たものであってアズルトから与えられたものではないのだ。
そんな彼らに信義を期待するなどお門違いも甚だしい。
利に敏いチャクのことであるから、彼らの心の内も手に取るように分かったはず。だからこそ会の代表であることを強調し、ベルナルドに判断を委ねた。
チャクが行ったのは損切りだ。流出を避けられない情報を早々に見切って、遊戯会の本体に等しい赤山羊班の情報に蓋をした。ベルナルドに判断を仰ぐ相手はおらず、知識もベルナルドが知るものですべて、という形にまとめたわけだ。
実に頼りになる少女である。信用は、とても出来るものではないが。なぜならばチャクもまた徹頭徹尾、己の利のために動いているのだから。
チャクは協定に加わらなかったようだ。
別にアズルトに配慮したからではない。キャスパーの件と同じだ。そうすることでより秘匿性の高い知識を得られると彼女は踏んだ。
そしてそれは、おおよそのところで正しい。
アズルトは夏までに伝えた知識に限り、遊戯会の面々に教授する裁量をチャクに認めた。必要に応じてそれを使い、アイナの技を得るべしと提案したのである。条件として、キャスパーに求められた場合にその指導をするよう言いつけはしたが。
眼鏡の奥の陰気な瞳が野心にそっと輝いたのを、アズルトは見逃さなかった。
遠からずチャクは動くだろう。
合同演習に向けて打たれた布石として、彼女は負わされた役目を知らぬまま遊戯会を育てていくことになる。表立って動けぬアズルトの代わりに。
アイナの思惑が如何なるものであれ、アズルトにはプレイヤーである彼女と相対しようなどという考えは露ほども持ち合わせていないのである。
かくして策謀燻る報告会は解散となり、アズルトたちの夏は幕を閉じたのだった。
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