目覚めの声
「………ナ…………ティ…ナ……ティナ!ティナ!」
必死に私を呼ぶ声が聞こえる。
うっすらと目をあけ、眩しい光と共に起き上がり声の主を見る。
声の主は、隣にいるシヴァお兄様だった。
「おはよう、ございます?」
「あぁ、おはよう。まったく、心臓が止まりそうだったよ。」
シヴァ兄様が胸をなでおろす所を見ると本当に心配していたようで、よく見てみると額に汗が滲んでいた。
何をそんなに心配する事が?と思っていたが、話を聞くところによるとシヴァ兄様が私の部屋の前を通りがかった時、酷くうなされていたのみならず私が部屋で横たわっていたのも相まって勘違いを起こし一気に焦り、駆け寄って呼びかけたものの返事はなくどんどん酷くなっていくばかりで、最終的に足首にまで広がった謎の模様が見えこれはまずいと思いつつも、でも今離れる訳には行かず必死にただひたすら呼びかけていたそうだ。
「あぁ、それなら大丈夫です。すぐに良くなりますから。心配をおかけしてすみません、ありがとうございます。」
「いや、いいんだよ。それより─」
「私は用があるのでここで失礼します。」
必要最低限の会話をして、自分の部屋にもかかわらずそそくさと出ていく。
机の目の前で寝ていたこともあって、立ち上がる時さりげなく儀式用の筆は取れた。
必要なものは取れたし、後はシヴァ兄様を近寄らせないで問答無用に健康だと言い張るのみだ。
あの人は過保護なところがあるからきっと追いかけてくるだろう。
立ち止まっている時間はない。一刻も早く急がなければ。
シヴァ兄様は足首まで謎の模様が広がっていたと言っていたし、実際着物の隙間から歩く度のぞく足首にあの模様が広がっているのが見える。
「(今日は一段とキツそうだ…)」
唇をキツく噛み、すぐ前を向いて目的地まで急いで歩く。
何処からか私の名前を呼ぶ声がかすかに聞こえた気がしたが無視してお風呂場にある手ぬぐいを取りに行く。
儀式をするのは別にお風呂場でもいいのだが、屋敷には兄様たちがいる為それは出来ない。
清く静かな場所でないと、下手したら死ぬのだから。
それに雑音が入ると集中出来ないし何より効力が大事。
草履を履き屋敷の目の前にある森の中へと入る。
だが、この時の私は知る由もなかった。
この出来事が、この暖かな日常が崩れゆく引き金だった事を。