夢の彼
君の事はなんでもわかる。
黒く暗い空間。
どこまで続いているのか分からないこの場所は、何度も出入りしている所だった。
ある時から、眠る度に見る夢。
あの後眠ってしまったのだろう、ここにいる事が何よりの証拠だった。
足首位まである水の中を一筋の光が指す方向まで歩いて行く。
白い光が指すところへ行くと、ピンク色の淡い光を放つ桜の大樹がそびえ立っていた。
大樹が立つその周りは小さな孤島みたいになっており、その孤島へと足を踏み入れる。
桜の根元へ行くと、淡い光がより強い光となって目の前へと集まり、その中から見慣れた『彼』が出てきた。
彼は私と同じ長い銀色の髪を持っている。
お兄様のように優しく、まるでもう1人のお兄様のような…そう、第二のお兄様のような人。
彼のそばにいると、とても安心した気持ちになる。
私達の出会いは複雑で、色々あったりもした。
だが、この夢を見るようになって、自分の置かれている状況を彼のおかげで少しずつ受けいれられるようになった。
現の世界で何かあると、すぐに眠って彼に心の傷を癒してもらったり、アドバイスをもらったりして眠りからさめることも多々あり、ただ会うためだけに仮眠することだってあった。
光の中から出てきた彼に歩み寄ろうとすると、彼は私を見て手を前に出し、手のひらをこちらに向けて止まれと合図した。
疑問に思ったが大人しく彼の言う通りにその場で立ち止まり、彼が話すのを待った。
少しの沈黙の後、彼が一言呟いた。
「もう、ここに来てはダメだ。」
「……何故?」
必死に自分の気持ちを押し殺し、悲しみで歪みそうになった顔に意識を集中させ無表情になるよう努めた。
頭の中ではなぜ彼が突然そう言い出したのかを色んな情報を一気に集め解析し、そして結論を出す。
でも、そんな事をしても結果は変わらない。
その答えは、分かりきっていたことだから。
だがそれは彼には気づかれていないハズだった。
自分でも上手く隠しきれていたと思う程に。
でも、彼が続けて話す言葉を聞いて、本当に彼には隠し事なんて出来ないと再認識させられた。
「君の内にいるモノが、抑えきれなくなってきている。」
「…なんで、そんな事がわかるの?」
本当に、何故分かったのだろう。
彼は私が夢から覚めた時の状態なんて分からないはずなのに。
そもそもここは夢の中。
彼が私の中のモノならまだわかるが、違う。
色んな思考が飛び通う中、それでも私は彼を見つめたまま知らないフリを続けていた。
下手すればストーカー。