その3
「結局何が要るの?」
「えっと、板チョコとバターと薄力粉と砂糖と……」
「待って待って!そんな一気に言わないで!というか薄力粉って何!?」
「あ、ごめん……え?」
「じゃあ、まずはオーブンを余熱」
「オッケー。温度は?」
「んーとね……」
「板チョコを割るって、どれくらい?」
「折り目の通りで良いよ。そしたらそれを何個かずつカップに入れて」
「えー、こんな感じ?」
「そうそう」
「で、溶かしたやつを上から入れて」
「完成?」
「まだだよ!オーブン余熱したじゃん!」
「あ、そっか……」
二人で作りながら、私はしょうもない事を考えてしまった――こうやって出来上がったお菓子達は、どうせ私が甘菜に想いを伝えた所で、甘菜の手によって違う人に渡されるのだろう、と。そう思うと何だか、遣る瀬無いというか、ある種の嫉妬の様な感情が私の内側で湧き出してきて、このフォンダンショコラを失敗作にしてやろうよという悪魔の囁きが時折私の頭をよぎった。
「よーし、後はオーブンに頑張って貰うだけだー!」
台所を離れ、居間のソファに飛び込む甘菜。同じ部屋に私がいるのに……いや、一緒にいるのが私だからか、すっかり脱力して寝転んでいる。空いたスペースに座った私は、改めてその油断と隙だらけの彼女を見、そして今更になって自分を問いただした。
どうして、甘菜の事を好きになったんだろう。
好きになんてなっていなかったら、ただの幼馴染のままだったら、誰に向けているのかは分からないけれど、きっと彼女の恋を本気で応援出来たに違いない。邪魔しようなんて考えは微塵も浮かばなかったに違いない。資格もないのに妬んでいる自分が本当に嫌になる。
もういっそ、この場で一度だけ滅茶苦茶にして、それで全てなかった事にしてしまえたら。とうとう馬鹿で過激な妄想までもが私を蝕み始めた。自分がおかしくなっているのは自分でも分かる。この場には私と甘菜しかいない。大丈夫。フォンダンショコラが焼き上がるまで、本当にそれまでだけだから……
ボンッ!!
最初に1発、それから立て続けに数発。甘菜の脚に手を伸ばし、まさに触れようとしたその瞬間、軽快な爆発音が狂い始めた私の思考を丸ごと吹っ飛ばした。
「何?今の……」
甘菜も驚いて飛び起きる。私だけに聞こえたとかそういうやつではないらしい。
「……何か、爆発したよね」
「うん……でも、何が?」
「まずどこから聞こえた?」
「え、どこって……」
……台所?
互いに顔を見合わせ、それから慌てて現場へ急行する。到着次第すぐにオーブンを止め、恐る恐る扉を開き――嫌な予感は確信に変わった。
「……うわぁ、大災害だ」
焼き上がりを待つだけの筈だったフォンダンショコラ達は、その悉くが爆発を起こし、オーブンの内壁やら他のカップやらに破片を撒き散らしていたのだ。運良く生き残ったごく少数も、他に比べればマシという程度でお世辞にも美味しそうとは言えなかった。おまけに若干焦げ臭い。
全滅、即ち紛う事なき大失敗である。




