戦地にて後編 SIDEヴェルヘイム
ヴェルヘイム視点後編です。
圧倒的な力の元に、ソレはガンドレア軍の眼前に突如として現れた。
天高く、遥か彼方から見下す二対の瞳。瞳は赤々と光り、大きく開け放たれた口からは無数の牙が見える。時折心臓を潰さんほどの咆哮を上げ、爆風を上げながらその聖龍は眼前に降り立った。
「ド、ドラゴンだ……」
フィリペラント殿下の呟きに、周りはやっと呼吸を思い出したようだった。
俺は隠密の術式を解術して、ルーイドリヒト王太子殿下の前に現れた。
「只今戻りました」
「え?ええ?お前ここ居て良いのか?ドラゴンがホレ……」
「大丈夫です。術式の魔力が切れたら勝手に消えますので。適当に、炎の魔法と風の魔法を自動発生するようにしてきましたので、とりあえず見学しておきましょうか」
ドラゴンから心臓を潰さんばかりの咆哮が聞こえている。
「あの音はどうやっているのだ?」
心底楽しそうなパッテジェンガ将軍閣下が、俺の横に静かに立たれた。
「風と声を遠くに届ける、伝達系の魔法の複合魔法です。鳴き声は魔獣の鳴き声を、記憶から乗せました」
「なるほど……実に真に迫るものだな。実際に見たことはないのに、ソレだと思わされるな、これは」
ガンドレア軍は総崩れだった。
眼下では阿鼻叫喚に陥ったガンドレア軍が闇雲に矢を射り、魔法を仕掛け、時折自動で発生しているドラゴンの咆哮を模した炎魔法に巻かれ自滅していく様が良く見えた。数万いた兵がアッという間に引いて行く。
脆いものだな、俺だってコレを見た時は失禁したけどな。しかし我ながらよく出来ている、うん。
そうだ、そろそろレイゾウハコの中見てみようかな?胸躍らせながら内ポケットを探った。アレ?結構 でかいものが入ってるな?なんだろ?
力を入れて引っ張り出すと大きな藤籠が出てきた。籠の上には封筒がくっ付いている。カデちゃんの字だ。封を開けて読んでみた。
『ヴェル君へケガとかしていない?無理はダメですよ?こちらは平穏です。オリアナ様の魔石の治療を始めました。初回ですが大成功です。詳しくは帰って来てからね。お昼になりましたので、クラブサンドウィッチ作ってみました。たくさんあるから皆様で召し上がってね。青の包みが野菜、赤がモロン、黄色が、マンゴー、緑色が、バルンのフライです。飲み物はサラーのホットミルクです。食べ終わったら籠はまた戻しておいてね。もう少ししたらバナナタルト入れますから待っててね。カデリーナ』
ヤバい……嬉しすぎてニヤニヤしてしまう。
そのニヤニヤしている顔を、ルーイドリヒト王太子殿下に見つかってしまった。
「おいっなんだ?その籠は……ん?カデリーナの差し入れか。早く中を開けて見せろ、おおっ!サンドウィッチか~おいっ誰か昼食の準備しろ。手に持ったそれは手紙か?貸してみろっ!」
あっという間に、カデちゃんの手紙を引っ手繰られた。王太子殿下はいきなりニヤつきながら、読み進めて行く。
「ほぉ~~ふ~~んなるほどなぁ~~これはこれは」
腹黒が滲み出て見えますよ、弄る気満々ですね。
「兄上、私にも見せて下さい」
「フィリペ、お前が見たら鼻血でも出すんじゃないか?」
おいっ?どういう意味だ。フィリペ殿下は手紙を読みだした。途端に赤くなる。どうした?
「これ……恋文ですか?」
「どこをどう見たらそうなりますか?ただの報告ですよ」
「甘酸っぱいですな」
何故かパッテジェンガ将軍閣下が覗き見して、そう評する。
一体何だって言うんだ。
俺は準備された机の上に、カデちゃん特製のサンドウィッチの入った籠をドンッと置いて、サラーが入った水筒を横に置いた。
「どうぞ」
「おいっ旦那の許可が出たぞっ!皆も相伴にあずかれっ!」
な……旦那って!ご主人のことかっ!?夫のことかっ!?
唖然としている間に、サンドウィッチが少なくなる。ああ!カデちゃんのサンドウィッチがぁ~
「ホラ、旦那も早く食べんと無くなるぞ」
いちいち嫌味だなぁ、本当に父上っぽいなこの王太子。
とりあえず取られてたまるものかと、急いでサンドウィッチを口に詰め込んだ。
どれも美味しいな……食べ物がおいしいってカデちゃんのご飯を食べて気が付いた。初めて食べたあのスープも美味かったなぁ、あのレモンパイも最高だった。
「もうなくなりましたね」
そんな誰かの声で慌てて籐籠の中を見た。
「無い……」
えぇ!俺、三切れしか食べてないけど!?
周りをよく見ると、ロージもロアモンド殿も、おまけにパッテジェンガ将軍閣下ですら、口の中にものすごくため込んでいる。俺のサンドウィッチ……腹黒兄弟は、しっかり食べてるっぽい。
今、無性にカデちゃんに会いたい。悔しくなって、内ポケットをまさぐった。
アレまた何か入っている。俺は皆に見つからないように、廊下の隅へ移動してコソッと内ポケットからそれを取り出した。まだ温かい。今度は走り書きみたいな、紙が包み紙についている。
『ヴェル君へ
もしかしたら食べそこなっているかな?と思ってモロンとジュウジのハンバーガーというのを作ってみました試作品だけど上手く出来てると思うので食べて見てね。 カデリーナ』
もう俺、泣きそう……
目に涙の膜張ってるな、はぁ嬉しい。包みを開けてみた。お肉の香ばしい匂いと丸いパンと葉野菜に包まれた、ハンバーガーとやらはものすごく美味しかった。甘辛いソースがまた最高です。
「ああーーー!ヴェルヘイム様が一人でいいもの食べてるっ!」
こっこらっ!大きい声で騒ぐなっ!
先ほど転移門の前で、神聖期物語を音読した坊主じゃないか、あっちに行けっ!
俺は坊主の魔手から逃げ切るようにして、最後のハンバーガーの欠片を口に押し込むと、ニヤリと笑ってやった。
「悪いな……もう無いぞ」
もう~~っ大人げないですよぉ~~と、文句を言う坊主が背中に張り付いてきたが、そのまま移動してやる。すると楽しそうに笑い声を上げながら、坊主が床に飛び下りると俺の前に回り込んで来た。
「ヴェルヘイム様の作ったドラゴン、すごいですね!僕あんな幻術、初めて見ました」
「そうか」
「僕もあんな術、いつか使えるようになりたいな」
俺は思わず、坊主の頭をワシャワシャと撫でまわしてやった。
「知っているか?術は使うのではなく、覚えるんだ。先達の残した術を覚えて使う。ただそれの繰り返しだ。お前のように記憶力のすぐれたものは、良い術士になる」
坊主の顔がパーッと笑顔になった。可愛らしい顔だな。そういえばカデちゃんがこの坊主を見て、あいどる、とかブツブツ呟いていたな。
「坊主、お前、何て名前だ?」
「はいっ!テリン=ビュルフェルです」
全然、あいどるとか言う名前じゃなかったな、なんだろう?
俺はその後、暫くテリンと一緒に散り散りに逃げて行くガンドレア軍の撤退の様子を、眺めていたのだった。
甘酸っぱいですな




