魔将軍と魔術師団長2
やっと本筋に入ります。
「出来た!どう?」
「完璧に煽ってます。よい出来ですね」
私はオリアナ様の手紙を読みながら、思わずニヤリとしてしまいました。
ある意味、嫌味たっぷりなオリアナ様の力作、ロブロバリント魔術師団長宛の挑発状……もといお手紙はあらゆる限りの方法を使って速攻でガンドレア帝国に送られました。
私はルラッテさんを伴って『配達屋』でお手紙を出した帰り、ユタカンテ商会に顔を出してから市場で雑貨を見てキャッキャッして夕飯の食材を購入して帰って来ました。
今度はルラッテさんにもレディースヨジゲンポッケをお渡ししてお買い物お任せしちゃおうかな~女子だから一人でアレコレ見たいこともあると思うのですよね。
そして帰宅しましたが、家の玄関横の植木鉢に目つきの鋭い鳥が止まっています。
あれ『お鳥様』ではなかろうか?
このお鳥様というのは、指定した人に術者の声をそのまま伝える魔道具になります。上書きして何度も録音、再生が可能な異世界日本で言う所の、動くICレコーダーみたいなものだと思って下さいませ。
私は『お鳥様』に近づくと頭の鶏冠の部分をチョンとつついた。
「カデリーナ=ロワストです」
『魔力確認。再生します』
『カデリーナ、明日で構わんから一度登城せよ。エーマントの魔将軍が動き出しそうだと斥候から知らせが入った。ヴェルヘイムも忘れず連れて来い』
こんなややこしい時に王太子殿下ですよぉ。一度ヴェル君と相談しましょうか。
私はお鳥様をよっこいしょと抱えると(実は案外重いのだ)玄関を開けました。
「姫様、先ほどのお鳥様のお声の方、どなたなのですか?」
そうか、ルラッテさんは初めてか。
「はい、ルーイドリヒト王太子殿下ですよ」
「まあ!」
私達はキッチンで買って来た食材を仕舞いながら、世間話を始めました。
「それはそうと、ルラッテさんはラブランカ王女殿下をご存知ですか?」
ルラッテさんは、ゴのつく生き物を見た時のようなすんごい顔して頷かれました。
「坊ちゃまに纏わりつく、あの変な姫のことですか」
ルラッテさん……
「とにかく妄想が激しい方なのですよ。え~と、坊ちゃまのお話だと……十八才の時に魔物の群れの討伐から帰ってきたら、初めて話をしたはずなのに、いきなり馴れ馴れしかったとか?」
「あ、うん、授与式の時かな?ヴェル君に聞きましたよ、私という至高が手に入るのだぞ!でしたかね?すごい自信ですね〜」
ルラッテさんは更に、ゴのつく生き物を足で踏んでしまったかのような顔をして、首を横に何度も振りました。
「自分の事を至高の存在かの如く、思い込んでいらっしゃるのですよっあんな厚化粧!」
今、聞き捨てならない言葉を耳にしましたよ?厚化粧ですか?え?ラブランカ王女殿下ですよね?
「化粧を濃くしないと、大したお顔では無いと言うことでございましょう?まぁ年齢も年齢ですからね、ふんっ!」
また聞き捨てならない言葉が出て来ましたよ?年齢?もしかして、行きおく……あ~ダメダメ!
私も現在十八才ですし、同じ王女仲間……心中お察しします。
「あの、ラブランカ王女殿下って、今はおいくつなのでございましょう?」
ルラッテさんはゴのつく生き物を退治し、ゴミ箱に捨てる時のざまあみろ!みたいな顔をしながら私を見ました。
「……二十八才ですよ」
な、なんだってぇ!私より十才上のお姉様でしたか……え?でもじゃあ……
「ヴェル君より六才年上ですね」
「ですから、厚化粧なうえに厚かましいのですよっ。よいですか?ヴェルヘイム坊ちゃまは、それはそれはおモテになられるのですっ!ええ、ええ、あの容姿であの性格ですものっ。妙齢の淑女の皆様、時には殿方までから、それはそれは熱い視線を受けられていましたともっ!なのにっあの王女ときたらっ自分と坊ちゃまが熱愛しているかの如く吹聴して回り、挙句に嫁に行ってやる!婚姻しろ!と騒ぎまくりっ屋敷に無断で入り込み、坊ちゃまの寝こみを襲い……あ、これは私が撃退しましたよ?とにかく許せませんっ!」
すごいね……何がすごいって一息でラブランカ王女殿下の悪口を言い切ったところです。
「ルラッテ、興奮し過ぎ」
思わぬ声にギョッとしてキッチンの戸口を見ると、ヴェル君が壁に凭れてこちらを見ています。
びっくしました、ヴェル君ですか。
それにしても気のせいでしょうか、いつもヴェル君の気配が無いような気がしますよ。
私とルラッテさんは給湯室でお局様の悪口を叫んでいたのを、若手イケメン営業社員に見つかった時みたいな気まずさを感じながら、その場を後にしました。
さて……私は夕食の下ごしらえがございますので、キッチンの奥の物置に入ります。
モル、ジャガイモに似た食品とか常温備蓄の出来るものを置いてある物置です。
「さっき、母上から聞いたのだが……ロブロバリント魔術師団長に手紙を出したそうだな。内容は煽っておいた、としか母上は教えてはくれなかったのだが、どういう意味だろうか?」
若手営業……ではない、ヴェル君は薄暗い物置の中にゆっくり入って来ると、私が持とうとしていたモルの袋とモロンの干し肉の塊を、ヒョイッと持ち上げて首を傾げながらこちらを振り向いた。
「なんだか、母上が迷惑をかけてすまない」
「そんな、そんなお気遣いなく!それに……」
私は一旦言葉を切ると、悪戯っぽくヴェル君を見上げました。
「ヴェル君はもう奴隷ではありませんが、私が買ったことには変わりありませんでしょう?私がご主人様です!大人しく私に迷惑をかけて下さいませ!」
ヴェル君の目がユルリと潤んでいます。そしてゆっくりとヴェル君の体がこちらに近づいて……
私の頭にヴェル君のお顔が乗ってます。チュッと頭部に、何か柔らかいものが触れました。
ん?んん?んんん!まさかの頭にチュー!?
「!?!?!?」
それから後の私はボロボロでした。モルの炒め物は焦がすし、朝食用のパンを捏ねている時に、手が滑って粉まみれになるし、お風呂場で転ぶし……
そして翌朝、朝六刻前……玄関にやって来た眩しい生き物に叩き起こされました。
「今日登城せよと言っておったではないか!何をしておる!さっさと支度をせいっ!」
いやいや、まだ六刻前だけど?起きてるの朝鍛錬中のヴェル君だけだけど?ヴェル君だって汗まみれでびっくりしてるけど?
ていうか、正直……寝起きで顔がブッサイクなのに、起き抜けの顔をイケメン近衛の皆様に見られて死ぬほど恥ずかしいんだけど?確かに昨日、お義兄様に呼び出しくらっていたの忘れてた私が悪いんだけど?




