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魔将軍のご主人様になりました  作者: 浦 かすみ


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守るべきもの SIDE:ヴェルヘイム

ヴェルヘイム視点からのお話です。




 声をあげて泣くカデリーナを見て俺は狼狽えた。泣かせてしまった、怒らせてしまったのか?


 やがて見かねたルヴィオリーナ王太子妃がカデリーナの傍に走り寄ってきた。


「もう今日はここまでにしましょう、続きはまた後日ね。いいわね?」


 しゃくり上げるカデリーナはなんとか頷いている。


 ああ……どうしたらいいんだ。


「デッケルハイン候、ちょっといいかな?」


 ルーイドリヒト王太子殿下が手招きしている。なんだろうか、こんな時に。


「実は今日、ここに来たのはカデリーナがガンドレアの戦記録新聞を買っていたと聞いたからなのだ。カデリーナは変わっているし、新しい商売の一環なのかといつもならば捨て置く所だがな」


「ガンドレア軍のエーマントへの干渉ですね」


 俺の言葉に王太子殿下は頷いた。


「今は非常にきな臭い。そんな国の情勢をカデリーナが注視するのはどういうことだと。私の勘もなかなかだな。貴公がここに居た。して……候はどう見る?」


「どう、とは?」


「ガンドレア軍は動くか?」


 やれやれ……この王太子様は俺に策謀に加われというのか。


 ついいつもの癖で王太子殿下の表層魔力の揺らぎを確認してしまう。綺麗な波形を描いて空中に霧散して行く魔力を視る。魔力の色も綺麗だ。濁りが無い。感情は落ち着いている。


「候……ひょっとして今、私の魔質でも見ているのかな?」


 正解だ。鋭い人間は嫌いじゃない。


「綺麗な魔力波形だと思いまして」


 王太子殿下はおや?という顔をしている。


「魔力に綺麗も汚いもあるのかい?」


「これは私の独自の理論なのですが、感情が不安定な方。何か心に抱えている方。心身ともに衰弱している方は、魔質が濁っています」


「おお!すごいね。それは君の持つ魔力の見る特質ともいうのかい?」


「ですね。色んな人に聞いてみましたが魔力の濁りは見えないと言われました」


 王太子殿下は急にニヤニヤし始めた。な、なんだ?


「実はうちのルヴィオリーナも見えるらしいぞ」


 驚いた。自分以外にも見える人がいるなんて、おもわず王太子妃を見てしまう。


「カデリーナも見えているよ、多分もっと奥まで、ね」


 奥……心の中までという事だろうか?いやいや人間には無理だろう。俺ですら無理なのに、うちの父上ならいざ知らずだが。


「ルーイ、寝てしまったわ」


 王太子妃が呼ばれたので、殿下と俺はカデリーナに近づいた。カデリーナは泣き疲れたのか、妃の腕の中でぐったりしている。


「私が寝室に運びます」


一も二もなく名乗り出た。王太子妃は一瞬躊躇われたが「お願いします」と小声で答えられた。ゆっくりとカデリーナを抱き込む。


 小さいし軽いな。横抱きにしたまま彼女の寝室に向かう。


 寝室にはカデリーナの防御障壁が張り巡らされている。先ほど玄関扉を解術した手順で解いていく。扉は開いていった。


 俺の後ろで息を飲む音と、ほぅ……と声を上げる王太子夫妻が着いて来ていた。


「本当に解術出来ますのね、素晴らしいですわ」


 王太子妃が先に部屋に入り、ベッドの掛布団を捲り上げてくれた。ゆっくりとカデリーナをベッドに降ろす。少し身じろぎしたがすぐに布団の中に潜り込んで規則正しい寝息を立てる。そんなカデリーナの頭をゆっくりと撫でた。


「悪かった」


 小さく呟いた。カデリーナは随分と怒っていた。朝起きてもまだ怒っていたらどうしよう。そればかりを考えてしまう。


「さ、行きましょう」


 王太子妃に促されて俺も部屋を出た。部屋を出た後にカデリーナを模して防御障壁を張る。俺独自の術式が混じってしまうがなんとか張れた。防御系もあまり得意ではないな、うん。


 部屋を出て居間に戻った瞬間、王太子妃殿下はくるりと振り返り俺を見つめた。


「ヴェルヘイム様!私、あなたの人となりは認めておりますのよ?でも未婚の男女が、枕を共にするかは別問題です!」


 え?それって同衾のことかな?待ってくれ……


「ヴィオ、それは極端な発想だよ?何もヴェルヘイムは性奴隷としてここに来た訳ではないだろう?」


 な、なんだってっ!?まさかそんな誤解を受けていたなんて……ああ、そうか若い男の奴隷とくればそうなるのか?


 急に生々しい話題になって、俺自身どうしていいか分からない。つい、ではあるがカデリーナとの色々を妄想してしまって更に焦ってきている。


「とにかく、二人きりでこの家に置いておくわけには参りません!即急に国の父に連絡せねば!」


 ええ!いきなり実家の父親が出て来るのか!?なんだか大事になって来た。


「ヴィオ?」


 王太子殿下が窘めるように名前を呼んだ。


王太子妃は鼻息も荒く、俺に手を差し出している。芝居がかっている……


「それは確かにヴェルヘイム様の魔力は澄んでいて、とても綺麗ですのよ?」


 おお、やはり妃殿下には見えているのか。しかし今は邪な色欲で濁っていると思うけど。


 ルヴィオリーナ王太子妃はツンッと顔を上げた。


「口では嘘をついても、魔力は嘘をつきませんしね」


 なるほど、すごい名言だな。


「でも、殿方の理性とやらは信用なりませんものっ。私はあの子の姉ですよ?たとえ王籍を離れても、私の可愛い妹には違いありませんもの、全力で守ります」


 ルーイドリヒト王太子殿下は、参ったという風に手を上げた。


「分かった!ヴィオ、こうしよう。アネロゼと護衛のロアモンドとロージも残して行こう。とりあえず今日はそれでいいだろう?」


 ルヴィオリーナ王太子妃は、王太子殿下と俺の顔を交互に見てから、分かりましたわと小さく呟いた。


「でもいいこと!?カデリーナを醜聞に巻き込みましたら承知しませんことよ?」


 また鼻息の荒くさせている、妃殿下を見て溜め息がもれた。


 なんだかな……俺ってそんなに信用無いように見えるのかな、無いかな?うん。


 そしてルーイドリヒト王太子殿下は、何か嫌な感じの笑みを浮かべながら俺の肩を叩いた。


「候は馬鹿ではないから、もう分かっているのだろう?カデリーナは候の過去話で、候の無体な行いを責めていたのではないぞ?理由はどうあれ、命を粗末に扱ったことを責めているのだろう」


 ぐうの音も出ない。


「私ならばこうも言うな『いらないと思う命なら今、死にかけている幼き者へ命を譲り渡せ』とな。出来ぬだろう?人には命は一つだからな。だから命あることを感謝しろ。己を大事にし、自分を律し、身を慎め。そして自身を愛し許してやれ」


 この御方……俺より少しだけ年上だよな?流石こういう御方のことを王気があるというのかもな。


 でもいいこと言っただろ?俺?みたいな顔してるな。すごくニヤニヤしてるな、嫌な予感も感じる。一体俺にどうしろというのか。


 それにしてもなんだか攻めて来るな、この王太子。ああ、そうか。


 やけに近視感感じるなと思ったら、なんとなく父上に似ているんだな。人が嫌がりそうなことをわざとつつく所とか、色々意地悪されたなぁ~父上にしたら可愛い息子弄りのつもりかもしれないが。


「まあ、カデリーナの所にいれば候もすぐに元気になるさ。あの子は優しいだろ?癒しの力があることも影響してるとは思うが、彼女の傍は浄化作用があるね。溜まりに溜まった毒素も排出されそうだろう?」


 確かにそれは分かる。一日しか一緒に過ごしてないが、暖かい。家の中も優しく暖かい。


「折角カデリーナに買ってもらったんだ。いつまでもフラフラしていないで、もう自分の足で立てるだろう?足りなければいつでも私に言って来い。立てるまで面倒見てやる」


 びっくりしてしまった。こんなマトモなことを言える王族がいるなんて思いもしなかった。ああ、でもこの人はいいな、王族になんて何も望まないと思っていたけどこの人はいいな、魔力も綺麗だし。


「このような言い方は不敬かもしれませんが、おまけに母国の王族に対しての不敬に当たると思いますが……お伝えしてもよろしいでしょうか?」


「なんだ?申してみよ」


 ルーイドリヒト王太子殿下は偉そう胸を逸らせた。こういう仕草も父上に似ているな。


「この国の国民は幸せですね。ルーイドリヒト王太子殿下がいらっしゃる。私の国の王族には、失望しか与えられませんでしたが、あなたからは希望が与えられる。私もこの国に生まれたかったです」


 俺がそう言うとルーイドリヒト王太子殿下は一瞬、キョトンとした顔をしたがそれは美しい微笑みを俺に向けられた。なんだか眩しいな……眩しい生き物だな。


「なんだ?ヴェルヘイムは知らないのか?」


「なんでしょうか?」


 輝かしい微笑みからニヤニヤ笑いに変わって来た。また嫌事でも言うのかな?


「喜べ!カデリーナに買われた瞬間からお前は我が国民の一人だ!身を粉にして働け!私に仕えよ!その代償として必ず幸せにしてやる!」


 やばい……泣きそうだ。この夫婦いちいち心に刺さる名言を吐くなぁ、ああやばい。


「なんだ?泣きそうなら私の胸に飛び込んで来い!」


「それは結構です」


 何が悲しくて男の胸で泣かねばならんのだ。泣くのならカデリーナの胸がいいに決まっている。


 護衛二名とメイド一名を残し、王太子夫妻は帰って行った。帰り際に王太子殿下がこう言った。


「いつまでも燻ってはおらんのだろう?舞台を用意してやるからさっさと俺の所へ来い!」


 こういう物言いも父上に似てるな。


 ルヴィオリーナ王太子妃は先に行きかけて、またこちらに戻って来られた。


「先ほどは言い過ぎてしまいました、謝罪させて下さいませ。でもね、やっぱり節度のあるお付き合いをして欲しいのよ。あなた騎士様でしょう?淑女を……私の妹を守って下さりますわよね?」


 節度のあるお付き合い?やっぱりこの姉上は何かを勘違いしているな。まあ勘違いにはさせたくないのは事実だけどね。


 しかし俺は正確には騎士ではないのだが……まあいい、もちろん守ってみせますよ。


 俺の大事なご主人様ですからね。


 メイドの女性と護衛の方にお風呂場の使い方を教え、客間を案内してから俺は自室に戻るとやっと一息ついた。


 長い一日だったな……今日で俺の人生がガラリと変わった気がする。


 明日から自分の足で立てるだろうか。そうだ、気持ちを切り替える意味でもカデちゃんに騎士の礼を捧げてみようか。カデちゃんは元とはいえ王女様だったし、そういえば随分と不敬なことをしていたな。一緒に風呂にも入ってもらったし……やばくないか?


 しまった、またよけいな妄想してしまいそうになった。しかしこんなに明日が待ち遠しいのは久しぶりだ。そんなことをウトウトと考えている間に俺は眠りの中に引き込まれていった。





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