「他人のやっているRPGを傍から眺めるほど詰まらないことはない?」
一応は問い合わせてからの投稿なのですが、二次創作に該当するかどうかは投稿後および、サイト運営者さまの判断ということで。
まあアレのようで、アレではないと思って読んでください。
「他人のやっているRPGを傍から眺めるほど詰まらないことはない」
「そうでもないと思うんだけどなあ……」
危機的な状況に置かれているにも関わらず、おれは唯一この場で自分たちの味方として立っている彼に対して、疑問を抱きました。
その彼が発したんです。
「他人のやっているRPGを傍から眺めるほど詰まらないことはない」
と。
あれこれ面倒な解説は省略します。
おれたちは、仮想現実型の多人数同時接続式ロールプレイングゲーム、つまりVRMMORPGの最終決戦に臨んでいます。(以下、VRMMORPG = VRMMO = MMORPG)
場所は迷宮。
塔の形をしていて、だいたい、5から10階で構成されています。
ざっくり言ってしまうと、このVRMMOは平べったい世界が下から順に100つほど上に向かって重なるようにできています。積層構造とかいうやつです。平べったい世界と世界の間にはもちろんかなりの空間があって、上の階の底を見上げていると現実の空を見ているのと同じような気分になれる……というのが個人的な感想です。
下の世界から上の世界にのぼるための手段が迷宮の踏破であり、物理法則を重視したシステムっぽいので必然的に塔という建造物になったのでしょう。
迷宮の最奥には、迷宮の主人であるフロアボスがいるのですが、こいつがいつもなかなかのデカさなので、ボスのいる部屋は迷宮の中とは思えないほど広く作られています。あ、ご親切にも壁一面には煌々と燃えさかる松明がそえつけられているので、『洞窟の中は真っ暗だから、まずは光源を確保しよう!』なんてことはありません。
1パーティは6人まで。
パーティ同士が連結して戦う、レイドというものが8つまでなので、合計で6X8の48人までが一匹のボスに立ち向かえるってことですね。
こう聞くとボスが可哀想になるような多勢に無勢というやつですが、そこは例に漏れずのMMORPGです。史上初のVRでMMORPGといっても、ボスの理不尽なまでの強さは礫氏……おっと誤変換。古き良き歴史を踏襲しているようです。
と言っても、最終決戦にまで臨めるほどやり込めるプレイヤーを最大人数まで保てるとは限らず、今回は30人での戦いになっていました。
ええ、過去形です。
30人のうち14人がフロアボスを倒すまでにやられて消えちゃったので、もともと48人用の部屋に今は16人しかいません。表現が適切かはわかりませんが、空間の密度がずいぶんと薄くなったように感じられます。
おれですか?
うん。周囲にも人は大勢いますよ。彼と対峙するもう一方が何やらプレイヤー全員に向けて語っているみたいですが、おれはそっちよりも最初に彼の発した言葉のほうにずっと意識がいっちゃってました。
つまりは、その他の大勢なんです。蚊帳の外ほどではありませんが、「えーそれってどうなのー?」とぼやけるほどには内側です。聞かれちゃいやなのでぼやきませんけど。空気を乱さないプレイヤースキルはとても大事です。
2人だけが正気で立っています。
容姿や服装はご想像にお任せします。
他の皆さんは、もう一方の語った内容があまりに衝撃的だったようで、脱力していました。
予想外のことがあり、先述した彼と、彼と対峙する男……あ、いま本人が認めました、まさかまさかなんとなんと仰天びっくりのラスボスさんだったようです。まあ、おれは『中盤あたりから戦線に加わるやたら強い味方』という時点で怪しんでいたので、周囲の方々ほど驚きはしませんでしたが。
あ、よせばいいのに。
あまり人のことを言えませんが、激情に任せて斬りかかったせいか……
彼と対峙するもう一方の男が、慣れた手つきで左手をしゅるりしゅるりと独特かつ滑らかな操作をしたので、きっとそのせいでしょう。このゲームにおけるメニューの操作は、右手でおこなうので、左手でおこなったという時点で不自然です、不合理です、確定的です。もしこれが現実ではなく物語の世界であれば……そうですね、小説であればわかりやすく横に点をつけて『左手』を強調しているんじゃないでしょうか。
びりっ、としました。
錯覚ではないでしょう、自分の分身である仮想体……アバターがおれの意思を離れたように、くたっと倒れてしまいました。
完全に動けないというわけではなさそうなので、首だけで周囲を見回してみると、皆さんも同様のようでした。
おれは食らったことがないので、知識としてしか入っていなかったのですが、これが最悪の状態異常である『麻痺毒』というやつでしょう。
麻痺といっても微妙に動ける程度は行動ができる制限のようですね。
嵐の前の静けさとばかりに立っているふたりを、皆さんは見続けています。
彼の仲間でしょうか。
名前を大声で叫んでいます。きっと応援ですね。
ソロプレイ……いわゆるパーティを組まずに彼は自分ひとりで戦っているらしいのですが、フレンドはいたようです。おれとしては「勝てればなんでもいいんじゃね」と思うので、ソロプレイだろうとパーティプレイだろうと選り好みはしませんが。
* * * * *
というわけで、ふたりの最終決戦がはじまったようです。
うおー、見えねー見えねー、はえーはえー。
おっそろしいまでの速さでした。さすがのラスボスですが、それについていく彼も尋常ではありません。
見ていて戦慄を隠せませんよ、おれは。
尋常じゃない彼だからこその発言だったのでしょうか。
「他人のやっているRPGを傍から眺めるほど詰まらないことはない」
まあ彼ほどの腕があればそうでしょうね。見えねー、はえー。つえー。
もし彼と話す機会があったとしたら聞いてみたいものです。
「いや、面白くね? だってゲームの動画配信とか、エレクトロニックスポーツがそうじゃん?」
と。
見るのも面白いと思うんだけどなー。
……相手を本気で殺す目ってああいうのを言うんだろうな。こええ。
おれは、このVRMMOをずっとやらされる以前に見ていた動画配信と、目の前の光景を重ねていました。
「他人のやっているRPGを傍から眺めるほど面白いこともねーなー」
おれは空気を乱さない子なので、決して聞こえるような声にはしません。
まさにここは特等席!
これからの時代はVRMMOじゃない、VRビデオストリーミングだ!
そう、あれだ。
ゲームに命を捧げた廃人のプレイを、VRを通して見られるんだぜ?
ほぼ同化できちゃうんだぜ?
おれにはそっちのほうが魅力を感じるね。
「ゲームは自分でやるだけのものじゃあない、人にやらせて横でにまにまするもんだ」
こういう意見があってもいいだろう?
だってさ、面倒じゃん?
おれだって好きで最終決戦にまでついてきたわけじゃあねえんだよ。
このゲーム以外にやることがない状態がずっと続いていたもんだから、偶然にもボス攻略の水準とやらに拾われちゃっただけだし。
ギルドの所属だって一箇所だけじゃないさ。
面白そうなところがあったり、趣味嗜好の異なるところがあれば、色々と移ったりした。
もちろん後腐れのないように、さわやかなお別れをしつつ、だ。
そして現在、絶対に文字では表現できないであろう、剣と剣が凄まじい速度と角度で入り乱れる決闘を見られているわけだ。
うひひ、どうだ、うらやましいだろう? くっ、映像中継アイテムがあれば、ここで取り出して、ここに入ることの許されなかった普通のプレイヤーたちにもお裾分けできるというのに!
ふむ。
やはりアクションを見るのは楽しい。
「他人のやっているRPGを傍から眺めるほど詰まらないことはない」
ないな……くもないから困る。
一理あるのも事実だ。
もうちょっと詳細に改変しよう。
「他人のやっているRPGのクエストを傍から眺めるほど詰まらないことはない」
これならば完全に同意する。
MMORPGに限らず、RPGのクエストってのは基本的につまらないのである。
敵モンスターを討伐しろ、とか、アイテムを収拾してこい、とか。
メインクエストならまだしも、いわゆるサブクエストを傍から眺めさせられる苦痛ったらない。
そんな動画配信ならすぐに切っている。
特にMMORPGはこいつが顕著で、いかに報酬が豪華であろうとも、バシバシ戦闘をやりたいやつにとっては、最低最悪クラスで怨めしい仕様なのだ。(注:個人の見解です)
ちょうど最終決戦の結果も出たようなので結論を言おう。
「他人のやっているRPGを傍から眺めるほど詰まらないことはない」
「アクションはおもしろいよー? ただしクエストがつまらんことは完全に同意する」
いつか彼と会う機会があれば、見解の相違を話し合ってみたいものである。
彼ははたして、このVRMMORPGをどう感じながら最終決戦にまで至ったのだろうか……
どうでしたでしょうか。
自分でやるよりも、人のやっているスーパープレイを観るのも楽しいと、著者は思うのですが。
じゃないと成り立たない業界が現に台頭してきているわけでして。
そこについても、どうなのかねえ、と疑問を投げかける内容でした。
ゲームプレイにまさか『観客』を必要とする時代がやってくるとは……自分はもしかしたらあるんじゃないか、くらいには思っていました。
なお、一応、観客に『魅せる』側に立ったことのある経験者です。
なので、「あるんじゃねえかなあ……」くらいには予見できた次第です。
現在は第一線から退いており、『観客』をしています。