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第8羽

「買い物とか散歩に行っているだけじゃないんですか?」

アトリは心にもないことを言っていることは解っていた。朝食ですらライが毎日用意していたからここで働き始める前からそうなのだろう。こんな治安の悪い街で独りきりで歩かせる真似をこのライがさせるわけがない。それはきっと兄のクロだってそうだったのだろう。

 ライは小型の機械をマナの部屋から持ってきてソファーに座って荒々しく打っていた。何をしているのかと思い後ろから覗き込むと、この事務所が入っているビルの入り口が映し出されていた。前に監視撮影機があると言っていたから昨晩の様子を調べているのだろう。倍速で映し出されるそれを一緒に見た。

 映像を見ているときにラストアオバがやって来た。

 ライは画面から目を離さずにいる。アトリも一瞬、目を離しておはようございますとだけ言ってまた画面に目をやった。

「なになに。何を見ているのー?」

そう言いながらラスが駆け寄ってきた。

「室長はまだ寝ているのですか?」

ライは画面を睨みながら、

「マナがいなくなった」

と言ったのと同時にサシバがやって来た。

「えっ?」

みんなの分の紅茶を淹れようとしてキッチンにいたアオバがライたちのいるソファーに駆け寄ってきた。事務所内にただならぬ様子を察知しサシバも慌てて駆け寄る。

「一体、何時(いつ)ですか?」

「昨日の監視映像を確認しているが今のところ怪しい所はない」

それぞれが見逃さないという面持ちで見ていたが急に画面が真っ黒になった。

「あれ?壊れちゃった?」

ラスが機械を軽く叩いた。

「こら。叩くな」

ライがその手を引きはがす。

 少し経って映像がまた映し出されるが特に変わった様子はなく、不思議に思っているとアトリが、

「時間が1時間ほど過ぎています」

ポツリと言った。

「なんだって?」

そう言うライにアトリは早戻しのボタンを押して最後に映った所に戻す。今度は全員が時間の部分を注意して見てみる。

「本当だー」

 アトリの言った通り、夜中の3時辺りの時間がすっぽりと抜けているのだ。

「この時間に室長は何者かにさらわれたのは間違いなさそうだな。しかし、誰が何の目的で?」

 サシバがテーブルに広げられた地図に近づきながらそう言うと書き込みをしている。

「何をしているんだ?」

「このあたりの無人の建物や監禁できそうなところをチェックしている」

 テーブルを囲んでそれぞれが思い当たる監禁出来そうなところに印をつけていく。

「ライ。犯人から連絡はありましたか?」

アオバがそう聞くとライは首を横に振った。

 好き勝手に書き込んでしまった影響で探す場所はかなりの量になってしまったがサシバとラスは別行動。アオバは犯人から連絡があった時のために事務所に待機。アトリとライは共に行動し、マナを探し始めることにした。

 アトリが事務所から出るときにいつもは閉じているはずのサシバのライディングビューローが開いている事に気が付いたが特に気にすることなく探しに向かった。

 アオバはみんなを見送ったあと誰も聞いていないのに、

「室長。どうかご無事で」

と呟いた。


 マナが目を覚ますと、見慣れない場所にいた。ソファーに横になっていて起きようとしたが体が動かせずにいた。背中越しに見てみると手首が拘束されていた。足首も拘束されている。

 マナは自分が連れ去られたことを瞬時に理解したが、犯人は検討もつかなかった。

 首を動かし見渡してみるとどうやらここはどこかの部屋の一室らしかった。

 窓を見てみると見慣れない景色だったが、日はすでに昇っているから事務所にはライが来ている頃だからマナがいない事に気が付いているとは思うが捜し出せるとは限らない。

「ライに縄抜けの方法教わっておけばよかったかな」

と独り言を言った。そんなことを思っていると腹の虫が空腹を訴えてきた。

 かすかに足音が聞こえてきてそれが段々と近づいて来るのが分かった。扉が開き、

「目が覚めましたか?」

そう聞きなれた声で話しかけられた。

「サシバ!?どうしてお前がここにいるんだ?」

サシバを見てみると慌てて捜しに来たという様子ではない。サシバはしゃがみこみマナの顎を掴み視線を合わせて、

「それは、ここに連れてきたのが俺だからですよ」

息がかかるほど顔を近づけ耳元でそう冷ややかに囁いた。

「なんだって?」

「俺の両親はクロに殺されたんです」

マナは拘束を解かれ、ミネラルウォーターを手渡された。それを一口だけ飲み喉を潤した。信じたくないという気持ちで、

「兄さんがそんなことをするわけない」

マナの知っている兄、クロはどんな時でも対等な立場を取っていて他人の為に行動していた。その兄が人を殺した?信じられないし、信じたくなかった。

 

 陽も落ちかけてきた時、壮年の男が入ってくるなり、

「私は殺せと命じたはすだが?」

と言うと、足を上げサシバの顎をめがけて降り下ろした。その衝撃にバランスを崩し、床に崩れ落た。

「―――の事は殺せたのにさすがに情が湧いたか?」

壮年の男はけん銃を取り出し、サシバの肩口目掛けて引き金を引いた。

「あなた、さしばの味方じゃないの?」

「これはお仕置きだよ。お嬢さん」

肩を撃たれ、痛さで苦しんでいるサシバのジャケットとベストを脱がし、肩口の傷をマナは自分の髪を結んでいたクロの形見であるネクタイをほどき縛った。

「いい機会だから教えてあげるよ。お嬢さんの兄を殺したのはそこにいるサシバだよ」

マナは思わず、サシバの顔を見た。サシバの顔は汗で濡れていて、撃たれた痛みなのか知られたくないことを知られたからなのか歪めていた。

「……本当なの?」

マナのその問いかけにサシバはゆっくりと頷いた。

「ついでに言うとね。サシバ。君が仇を討つ相手はクロじゃなくて私だよ。残念だったね。私がしている事にいち早く気が付いた君の両親は私を警察に突き出そうとした。私が君の両親を殺し匿名でクロを呼び出し、処置をしている所に君がやって来たというからくりさ。こんなにうまくいくとは思ってもいなかったけれどねぇ」

壮年の男は可笑しさを隠しきれないかのように笑いながら言った。

「そろそろ()()かな」

マナに銃口を向けるとサシバが飛び出してきた。銃口から弾丸が飛び出し、サシバの心臓を貫いた。そんなサシバの様子に慌てる様子もなく壮年の男は、

「それではお嬢さん。またお会いするのを楽しみにしていますよ」

と立ち去った。

「待て、話は終わっていない」

壮年の男を止めようとしたが、このままサシバを放っておくわけにもいかずマナはブラウスを脱いで止血しようと必死に傷口を押さえるが、血が止まる気配はない。

「もう、誰も……死なせないって誓ったんだ!私より先に逝くなんて赦さないから」

「すみません……。しつ…………ちょう」

「私は謝ってほしいんじゃない。どんな理由でそれが正しいことだったとしても、謝ったところで兄さんが帰ってくることはない。だから!生きて償わせる。あとでライにボコボコに殴られたとしても助けてなんかやらないんだから」

マナがそう言うとサシバが笑みをこぼして、

「少しは庇って下さいよ」

と洩らした。

「庇って欲しかったら死ぬな」

真っ白だったブラウスはもうサシバの血で真っ赤に染まっていた。

「いつも葛藤していた……。あなたを見て……あなたと過ごしてあなたについて……行って自分のやって…………いる事は本当に正義なのか…………判らなかった。でも、もう止められ…………なかった。室長、……はちか…………く……にいます…………」

「もうしゃべるな。すぐライたちが来てくれるから」

パタリと音を立ててマナの手から握られていたサシバの手がこぼれ落ちた。

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