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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ブラック×パーティー

作者: 日々

 どうしてこんなことになってしまったのだろう。

 こんなはずじゃなかったのに。

 今日は楽しい夜になるはずだったのに。

 そうだろう?

 だって今日は……。


『悪魔のいけにえ』

『エクソシスト』

『オーメン』

『13日の金曜日』……。

 おれはレンタルビデオ屋の棚を上から順に目線を下げながら見ていく。

「……クリスマスイブなのになー」

 夜のこんな時間なのに店の中人多くね?とおれは思った。ほとんどがカップルか家族連れだけど。

 あれか、年末年始は浮かれて消費を抑えられない期間ってやつ。

「やっぱテッパンは『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』だよなー」

 隣のタケシがそう言って、棚からディスクを取り出して片手に抱える鑑賞リスト(仮)の中に加える。

「『バイオハザード 』シリーズは?よくね?」

「どうかな。コウヘイゲーム全部持ってるからもう観てんじゃね」

「じゃ却下か」

 ちぇーと言いながら一旦取り出したディスクを、タケシはもう一度箱に戻す。

「ていうか野郎四人でイブにホラー映画大会とかマジ終わってね」

「そー言うなって。でもまあ終わってんな」

 笑いながらもタケシは冷めた目をしている。やっぱりコイツとはこういうところで気が合う。

 そう、世間ではイベント盛りのクリスマスイブにも関わらず。

 彼女ナシ、家族と予定もナシ、とーぜんヒマ。

 そんなクラスでいつもつるみ、おまけにサエないときた野郎四人組でイブにホラー映画鑑賞会なんて酔狂なことをやろうと言い出したバカが誰なのか、今となっては思い出せない。

 ただし、確かおれとユウキじゃないはずだ。おれはノリが良い方じゃないし、映画を観るなら断然アクションだ。

 そして、ユウキはさらにない。絶対にナイ。あいつ超ビビリの優等生タイプだし。

 となると、言い出したのはタケシかコウヘイってことになるわけだが、ホラーをごり押ししたのはタケシとみた。

「お、コウヘイからライン来てる。もう準備終わりそうだからいつでも来ていい、らしいぞ」

「そんじゃ借りてもう行こうぜ。セレクトはお前に任せた」

 そう言っておれは入口に向かってすたすた歩く。

 ホラー映画大会を開催するに当たって、映画調達係として任命されたおれとタケシは近所のレンタルビデオ屋で観る映画の物色をして、家を会場として提供してくれたコウヘイと腰巾着のユウキは家で準備係というわけだ。

 まあおれはビデオ屋に付いてくるだけで、実際の選定はほぼタケシに任せっきりだったけど。

 あーだこーだと悩んでいた割にあっさりとタケシは店内から出てきた。

「おう。待った?」

「いや別に。もう決まったわけ?」

 ちなみに映画のセレクトには妙なしばりがあって、その一・ホラー映画大会なので当然ホラージャンルであること、その二・なるべくB級のくだらない映画は避けること、そしてその三が四人全員が観たことない映画にすることというものだった。

 一と二はまだしも、三が何気に難しくタケシは手こずっているようだった。

「ああ、バッチリ。これは絶対コウヘイも観たことないと思うぜ」

 おれたち四人の中ではコウヘイの家が一番お金持ちだ。ガキの頃から多くのものを与えられて育っているため、コウヘイを出し抜くのは四人の中で一番難しいというわけだ。

「おーそれは楽しみだなあ」

「てめ絶対思ってないだろ。めっちゃ棒読みじゃん」

「お、着いたぞ」

 文字通り近所だったためコウヘイの家にはすぐ着いてしまった。結構大きめの一軒家でこれまで何回か遊びに来たことがある。

 反応してもらえなかったタケシが不機嫌そうにしているが、無視無視。

 ピンポーン、とおれは家のチャイムを鳴らす。

『どうぞ』

 そう声がしてドアのロックが外れたので勝手に開けて中に入り込む。

「おじゃましまーす」

「すげえなアツシ。ドアが喋った」

「ドアじゃねーだろ。インターホンがあんだよ」

 おれとタケシは言い合いながら家の奥へ入っていく。

 何度か遊びに来ているので勝手知ったるものだ。

「よおコウヘイにユウキちゃん」

 タケシがニヤニヤしながらそう言うといつもお決まりの応えが返ってきた。

「ちゃんはやめてってば」

 ダイニングではユウキとコウヘイの準備係二人が、何やらコンビニの袋をがさがさやっていた。

「よお」

 コウヘイが挨拶を返す。

「ていうかすぐにドア開けたら不用心なんじゃね」

 おれがそう言うとコウヘイは首を振った。

「インターホンにカメラ付いてて誰が来たかわかるから大丈夫だよ」

 そう言いながら今度はデリバリーのピザらしき箱を開けている。チーズのいい匂いが部屋に充満した。

 テーブルの上にはチキンやケーキまで用意されている(コンビニのやつだけど)。さすがクリスマス。イブだけど。

「めっちゃうまそう!」

 こらえきれない様子で叫ぶタケシをコウヘイは制する。

「ハイハイ、後でな。それで何借りてきたわけ?」

 コウヘイがそう聞くので、タケシは待ってましたとばかりに借りてきたディスクをみんなに見えるように机の上に並べて置く。

「じゃっじゃーん」

「あ、おれそれ観たことあるわ。こっちとこっちはないけど」

 コウヘイが左端を指差して次に真ん中、右端を交互に示す。

「は、マジで!」

 どうやらタケシが熟考の末に借りてきた三本のうち、すでに一本はコウヘイが観たものだったらしい。

おれは悔しそうなタケシの顔を見てチャンスとばかりに囃し立てる。

「バッチリって言ったのは誰ですかー」

「うるっせぇなおれの予想もたまには外れるんだよ。でもマジで面白いもんなこれ」

「そうそう特にゾンビが荒れ狂って店の中に入ってきた時の格闘シーンとか手に汗握るよな」

「わかるわかるあそこもう爆笑もんだから」

すでに観た二人の会話におれとユウキは付いていけずぽかんとしている。

「じゃ居間に移動するぞ」

そう言ってコウヘイがさっさと歩き始めるのでおれ、タケシ、ユウキは各自それぞれピザやお菓子、定番のポップコーンを持って居間についていく。


「おおーでっけえ」

「本格的!」

 タケシとユウキが思わずため息をつくのもそのはずで、居間には大きな画面の最新型テレビとプレイヤーがデンと置かれていた。

なんでも映画鑑賞が趣味のコウヘイの親父の私物らしい。

「今日親二人とも出張だから自由に使っていーよ、だってさ」

「マジぱないなお前の親」

「ほんと最高」

 そう言っておれとタケシはべたべたとプレイヤーのあちこちを触っていたが、コウヘイが途中でそれを制した。

「ほら観るなら早く始めるぞ。映画一本二時間とかなんだからちゃっちゃと観ないと明日帰る時間に間に合わないだろ」

 そう言われて時計を観るとすでに十一時を回っている。おれは明日も特に予定なしだけど、タケシがバスケットボールの練習試合、ユウキは家族旅行とかで午前六時には解散ということになっている。

 借りてきた映画は三本なので六時間ちょいぐらい。休憩なしでぶっ続けで観て観終われるかどうかってところだな。

「ていうかコウヘイ映画一本もう観たならそれパスでよくね?」

「いや観る。もう一回観る。だってお前らと感想とか語りたいし。これってそういう会なんだろ」

 そう言われればそれもそうだけど。

「おっしゃ観るぞ。じゃまず一本目いきまーす」

 そう言ってタケシがプレイヤーにディスクを滑り込ませる。

 一本目の映画が始まった。


 一本目の映画はドキュメンタリー調のパニックゾンビ映画といった感じで、まずまず楽しめた。ゾンビ映画お決まりの人がバンバン死んでいく感じは観ていて今更感で、最後も暗い不穏な終わりがじめじめしていたけど展開のスピードやスリル感はよかった。

「僕トイレ行ってくる」

 タケシがディスクを取り出している間にユウキがそう言ったので、コウヘイがトイレの場所を教えるために二人で出て行った。

「……あいつらトイレは一緒に行くのな」

「なんだよその言い方」

「連れションかよってだけだよ。なあ映画残り二本の内容教えて。ネタバレなしで」

 おれがそう言うとタケシは見ていてそれとわかるくらいに顔を顰めた。

「難しいこと言うなっつの。そーだなー」

 そう言いながらも考えてくれるところが世話焼きの兄貴分のタケシらしいところだ。

「そうだな、一本はホラーコメディでゾンビもの。もう一本は有名だからタイトル聞けばわかるだろうけど殺人鬼が出てくるパニックもので叫ぶ系」

「なんだよ、今観てたやつもゾンビだったじゃん。つまりほぼゾンビでスプラッタじゃん」

「お前ゾンビ映画バカにすんなよ、すげえ面白いから」

 そう言ってタケシが力説を始めそうだったのでおれは手を上げて説明とかいいから、と受け流す。


 他の二人も合わないわけじゃないが、おれは小学校から一緒のタケシと特に気が合う。タケシはどっちかというとお喋りで社交的、考えるよりスポーツで体を動かすのが好きなタイプ。おれは反対で、あまり喋るのが好きではなく引きこもって漫画読んでいるのが好きというタイプ。それにも関わらず、不思議とよくやるゲームとか好きな芸能人のタイプとかで話は合った。ボケと突っ込み、磁石のN極とS極って感じに。おれがアツシで向こうがタケシと名前が似ているのでお互いの母親に紛らわしいと言われるのが共通点だ。

 中学に入るとそれにコウヘイとユウキが加わった。コウヘイは家が金持ちで器用、ユウキは優等生で不器用とこれまたタイプが違ったが四人という数はどこか収まりが良く(主に体育でペアを作ったり、グループでどこかに遊びに行ったりする際に偶数だとやりやすいという意味で)、おれ達はよく一緒にいるようになった。

 ただし、最近はなんか関係がギスギスしている。


「この前さ、ユウキがコウヘイのことであんまよくないこと言ってたってバスケ部のやつに聞いたんだよな。なんか悪口っていうか」

コウヘイとユウキが誘いに乗らずタケシと二人で遊んだ際、バーガー屋でハンバーガーを頬張りながらタケシはぽつりとおれに言ってきた。

 ぼかした曖昧な言い方で何を言っているのかよくわからなかったが、つまりはいつもにこにこ笑って受け身なユウキが、コウヘイやおれ達がいない場でそんなことを言っていたことに、タケシは引っかかったらしい。

「なんか最近付き合い悪いのってそういうことらしいんだけど。別におれは気にしねーしいいと思うんだけどな。誰でもたまに悪く言われたらムカつくことくらいあるだろうし」

「ふーん」

 おれは相槌を打ちながら、前に置いてあるトレイの上からフライドポテトを摘んで口に入れた。

 まあなんとなく楽しいからつるんでいるだけだし。

 おれも別に、どうでもいい。


「ユウキとコウヘイにこの前言ってた話それとなく話したほうがいいかもな。これはそういう会でもあるんだから……。そういや」

 以心伝心か。おれが考えていたのと同じようなことを言いながら、タケシは携帯の画面をおれの方に向けた。

「なんか今話題になってるんだけど、お前このニュース見た?」

「見てないけど。てかこの家来てから携帯触ってねえし」

「ほら」

 そう言ってタケシが見せてきたのはとある大手のSNSサイトで、そこには変なニュースが載っていた。

『サンタ姿の男が現在◯◯町に出没。刃物を持ってうろついている姿が目撃されています。外出は控えて、皆さん戸締りには注意しましょう』

 そんなメッセージとともに何かぼやけた赤いような黒いような姿が画像で添付されている。確かに見方によってはサンタに見えないこともないけど画質悪すぎだろこれ。

 スクロールしていくと今話題になっているらしく、メッセージへの返信がかなり付いていた。

『何これ』

『殺人サンタ?』

『マジやばい』

『これ情報源どこですか?』

 そして最後にこう書いてある。

『クリスマスだから?』

 おれは画面に表示された情報を隅から隅まで読み、少し沈黙してから言った。

「何これ。ていうか◯◯町って隣町じゃん」

「しかもこいつなんかこっちに移動してきてるんだよな。ほら聖夜の△△町にサンタ、って」

 △△町は今おれ達が今いるコウヘイの家がある町の名前。そして、それはさっき行ってきたレンタルビデオ屋から近い場所にあるコンビニ前の画像だった。

 コンビニの照明でサンタの姿がさっきよりもはっきりと映し出され、手に持った刃物らしきものも見える。何か液体が付着していて、サンタの手にあるそれは濁って見えた。

「なんだよ、これ。コウヘイに言って戸締り強化したほうがよくね?」

「あいつらさっき便所行ったよな。まだ戻ってきてないんじゃ……」

 おれとタケシは二人して押し黙った。重い沈黙が流れる。

「……トイレって廊下を出て突き当たりだったよな。行って見てくる」

「ああ。なんか離れないほうがいい気がするから、おれも一緒に行く」

 タケシの提案におれは頷くと、プレイヤーを停止したまま二人で廊下に出た。大柄でガタイが良いタケシが先を歩き、おれがその後ろにちょうど隠れるような形で進む。

 廊下は静まり返っている。

 そろりと携帯電話の懐中電灯を点灯させながらおれたちはトイレに歩いて行く。

 電気を付けない方がいい気がしたし、第一スイッチの場所がどこか分からない。

 こんな状況にも関わらず、なんかホラー映画みてえ、とおれは不謹慎なことを考えていた。

 現実にはあんなこと起こるはずがないのに。


 トイレには電気が灯っていた。

 おれとタケシが唾を飲んでその前で陣取っていると、水を流す音がしてドアが開く。

「あれ二人とも何してんの?」

 中から出てきたのはコウヘイだった。

 おれ達の姿を見て目を丸くしている姿に、おれは安堵する。

「それが大変なんだよ」

 先ほどの画像を見せて、タケシが状況をまとめて話した。

「だから、鍵締めを強化した方がいいと思って」

 そこでおれは見当たらない顔に気づいた。

「そういえば、ユウキは?」

「あれ、さっき先に戻るって言ってたけど。部屋に残してきたんじゃないの?」

 空気が、凍りつく。

 その時おれはトイレに隣接した玄関の方から実際に冷気を感じた。

 見るとドアがわずかに開いている。

「これ自動ロックじゃなかったのか?」

 閉めようと、おれはドアに近づく。

「中からは鍵が手で開けられるようになってるんだ。バカやめろ!」

 早口で喚く声が言い終わる前におれは玄関に手をかけようとして。

 玄関の隙間に刃物が差し込まれたのを見た。

 ドアが外側から開く。

 おれは、口を開けて呆然とした。

 そこには、今日という日にお似合いなサンタが、夜の闇で赤黒く見える衣装を身にまとい。

 右手に刃物、左手には首を掲げて立っていた。

 最初人形かと思ったそれは恐怖に目を見開いたままで、脳を割られている人の首だったもので。

 立ち尽くすおれ達に、そいつは口を開いた。

『メリークリスマス』


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