2.ダンス
毎回が短い上に全然進まなくてすみません……。
「憂鬱だわ」
起きてまず、そう口にした。
けれど昨日言ってしまった以上行かなければ。
エミリアはやる気のない体を動かして準備をした。
ジークの屋敷に着いて、エミリアは自分の目を疑った。
「どうなされたのですか」
昨日とは違う部屋に通されたと思えばそこでジークは着せ替え人形のような扱いをされていた。居心地悪そうに立たされているジークは目線を泳がしている。
「やあおはようエミリア。今日もジークを頼んだよ」
そして昨日と同じくエーリヒが傍で見守っている。
「これはジーク様の衣装を仕立てているのですか?」
「そう。ほら舞踏会まで1か月を切っているだろう?彼は採寸すら渋っていたけれどもう待てなくてね。だからこうして私がお目付け役としてきたんだ」
「それは……王子様も大変ですね」
そう言えばエーリヒはにっこり笑った。
「それはエミリアもじゃないか。昨日は上手くいかなかったのだろう?」
やはりばれていた。
昨日は早々に屋敷を立ち去ったが、きっとこれは逐一国王陛下へ連絡がいくのだろうと薄々気づいていた。
エミリアは小さく息を吐いた。
「本人が嫌がっているのに舞踏会へ参加させるのですね」
「けれど今、彼は王家の庇護下にいる。それ相応に働いてもらわないとね」
それ相応に働く。それは300年ぶりの竜族を世間への見世物にするということなのだろう。
少し、ジークが哀れだった。
「ジーク。エミリアも来たこことだし、今からレッスンするよ。もう時間がないからね」
エミリアが準備を終えて中広間へ入ったところ、中にはジークしかいない。
「エーリヒ様はどうなされたのですか?」
「エーリヒ……殿は少し衣装に関して意見があるとかで遅れるみたいです」
内容よりも違和感のある敬語にエミリアは顔を顰めた。けれどエーリヒが居ないのなら今がチャンスである。
「失礼します」
エミリアは一言そう断ってジークの手を取って、扉とは反対方向へ向かう。
「一体、なにを…」
戸惑った声を無視して壁側にまでやってくるとエミリアはジークと向き合った。
「ジーク様。貴族に慣れないのも、王族に関わりたくないのもわかります。けれどどんな事情があったとしても今のあなたは王家の下で生きています。だからこの際、舞踏会へ出て竜族の生き残りとして爵位を得て、その領地で生きてはどうでしょう?社交界の時期には王都へ参らなければいけませんが最悪代役でも立てればいいでしょう。300年ぶりの竜族の生き残り。きっと王族もいつかは存在を手に余らせます。なので今はジーク様のお立場を安定させるために舞踏会へでませんか?」
矢継ぎ早に言い終わると同時に扉が開いた。
「すまないね、衣装に少し……おやもうレッスンを始めていたのかな」
壁際に居る二人を見止めてエーリヒは意外だと言うように声をあげる。
一方のエミリアは言いたいことを言えたことにまずはほっとした。
「ええ。最初ですので王宮での場所のお話からしていたのです。扉と反対側に王族の皆様がお座りになるでしょう?そのことを説明していたのです」
エミリアは何事もなかったかのように言葉を返す。
そしてエミリアはジークの目を見て、ほほ笑んだ。
「精一杯、ジーク様のお役に立てるようお手伝いいたします」