0.事の始まり
今度こそ完結させます。
掲載した後に多少修正が入るかもしれませんが20話ぐらいで完結する予定です。
『300年ぶりに発見!竜族の生き残りか!?』
そんな安っぽい大衆紙の見出しが出たのはもう半年も前のことだったか。
当時は世間を揺るがすほどの大騒動だったが今は落ち着き、エミリアも忘れていた。
父から呼び出されたあの日まで。
「ええと、ダンスのお相手ですか?」
思ってもいなかった話題にエミリアはぽかんとする。
「陛下は今度の舞踏会で竜族の青年を正式に社交界デビューさせるとのお考えだ。その相手をお前にどうか、と言われてな」
父、すなわちこの国の宰相は面倒なことこの上ないといった表情で私に告げる。
「わたしでお相手が務まるのでしょうか……?竜族と言えば貴族の中でも特別な存在ですし、もっと身分が高い方の方が……」
「もっと身分の高い方がいたら今頃お前に打診なんてこない」
ですよね、と同意したくなるほどの正論を父は返す。
「下手に身分の高いお嬢様を相手にしたら上手くいかなかった場合ややこしいのだろう。その分、今のお前は爵位無しだから気楽だろう。もしこれが上手くいけばお前に爵位を進呈するという話もあった。まあ悪い話ではないだろう。お前ももう18歳だ。流石にそろそろ爵位をもたせるべきだろうな」
爵位無し。今までからずっとエミリアは爵位を持っていない。
ある程度の貴族の令嬢であれば持たされている爵位だが、エミリアは未だに持っていない。爵位は一種の嫁入り道具でもあり、政略結婚の理由でもある。なので早い人では生まれてすぐにでも持たされるのだ。
にもかかわらず、エミリアが爵位を持たされなかった理由。
「では上手くダンスの相手が務まり、爵位を得られた際には領地に引きこもってもいいのですか?」
それはエミリアがひどい王都嫌いだからである。
父は盛大にため息をついた。
「……まあ、お前は末っ子だし領地を継ぐ必要はないから……。嫁に行ってほしかったがそれはもう諦めるべきだろうな……」
ぼそぼそと父は呟くが、一方エミリアは顔をしかめる。
「今時、嫁入りすることなく自身の領地で一生を終える女性も少なくありませんわ」
「だから……いやもういい。なら今回は引き受けるということでいいな?」
エミリアは頷いた。
「上手くいくか分かりませんが、よろしくお願いします」
かくして、エミリアは未だ顔も名前も知らない竜族の青年の相手役を務めることになったのだった。