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嶺上開花短編集

5回目の猫の噺

作者: 嶺上開花

我輩は猫である。

え?見れば分かるって?いやいや、そんな事は解っているさ。我輩が言いたいのはそう言う外面的な話じゃなくて、我輩の中身、つまるところ我輩のことについて話したいのである。

そう、我輩は猫だ。しかし、そんじょそこらで日向ぼっこしたり人間ごときに愛想を振り撒いたり夜な夜な盛ったりするほど猫猫していない。何せ、我輩はもう5回目であるからな。

え?何を言っているか分からない?本当に人間とは無知だなぁ…致し方ない。折角だから5回目の我輩が一つ説明してやろう。

我輩たち猫というのはその内に7つの魂を持っている。にゃん生をきちんと全うすれば次の魂に進む。つまり、我輩はそれを4回繰り返し、今5回目を全うしていると言うわけだ。良かったな人間よ。一つ賢くなったじゃないか。

さて、それで我輩が何を言いたいか知りたいと顔に書いているな。ん?よく分かったな、だと?分かるさ。5回目だからな。人は嫌と言うほど見てきた。大体何を考えているかは見れば分かるさ。

それで話の内容だったな。何、只の老猫の独り言さ。別に聞いてくれとは言わないさ。だが、そんな独り言も君が聞いてくれることによって噺になるんだよ。

さてと、では噺を始めるとしよう。我輩はこう見えて昔は随分なイケ猫だったんだ…おい、今失礼なことを考えただろう。そりゃあ、今となっては痩せ細り、毛皮も薄汚れてはいるが、それは今の事。分からない?が言いたいのは昔の、それこそ1回目のにゃん生の時の話だ。人間よ、時に貴様は『立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は百合の華』と言う言葉を知っているか?我輩はそれを体現したような猫でね。町を行くだけで「おや、あの猫は随分と綺麗な体躯をしているな」と見たものを唸らせるほどだったんだ。そこいらの猫のように執拗にモノをねだらなくとも人間の方から勝手に貰えたくらいだ。

ある時だった。我輩は気まぐれからとある人間に拾われたのだ。別に我輩は誰か一人のものになる気は無かったのだが、その人間と言うのが可哀想な奴でな。当時では手も足も出ない所謂不治の病を患っていたのさ。ソイツの家族は病が伝染るのを恐れてソイツを残して何処かへ行ってしまっていたのさ。

一応、食い物は貰っていたようだが、貰った食い物を少し食っただけで殆ど残していた。ソイツの身体は見るからに痩せていて、まるで死んでいるかのように冷たい。我輩も猫であるから、冷たいものは心地よくて好きなのだが、その冷たさは何処か不気味で気持ちが悪かった…おい、今度は貴様『人の言葉を喋る猫の方が気持ち悪い』等と考えたな?4回もにゃん生を全うしたんだぜ?人の言葉くらい嫌でも覚えられるさ。

それでその人間だが、我輩が側に居るときは心安らかに笑うのだ。にゃんと鳴いてみれば骨ばった冷たい手で頭をそっと撫でる。その人間にとって、我輩は最期の心の拠り所だったのだろう。

そしてある時だった。目覚めた我輩がその人間ににゃんと声を掛けたのだが、一向に返事がない。前足で頬をぐにぐにとしてみるが全く反応がない。悪いは「あぁ、今コイツは深い眠りについているのだろう。下手に起こさないでやろう」と思って傍らでもう一眠りすることにした。

そして次目が覚めたとき、我輩はソイツの顔を見て驚いた。黒紫と言えばいいのだろうか、兎角生きている人間の色をしていなかった。我輩は取り乱して何度も何度も呼び掛け、顔をぺちぺちと叩いて見せた。しかし、その人間はピクリとも動かなかった。それどころか、今までのとは比べ物にならない位冷たかった。

その後、近くの人間が話をしていたのを聞いた。何でも、身体が弱ったところに猫を飼った事で体調が一気に山本悪くなったと言っていた。その時、我輩は恐ろしくなった。我輩のせいで人が死んだのだ。恐ろしくない訳がない。


ふぅ、最後まで聞いてくれてありがとう…ん?その後どうしたか、だと?勿論、それまで通りぬらりくらりと生きたさ。

さて、我輩はもう行くとするよ。何、あと2回もにゃん生が残っているのだ。楽しく生きねば損ではないか。

では、また何処かで逢うことがあれば…

どうも、二作目になります。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

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