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ロビーの知らせ

作者: 鏡原レイ

 昔、パリで働いていた頃の同僚が飛行機事故で亡くなった。彼女だけでなく彼女の夫も子供も全員亡くなった。彼女の夫の方は親兄弟も一緒の旅行だった。俺はその事故を正月のテレビニュースで知った。

でも、実はその直前のクリスマスイブに彼女からメールが届いたんだよ。パリを離れて三年がたっていたが、その間、彼女とメールや電話でのやりとりをしていなかった。そのメールにはクリスマス用に装飾を施されたシャンゼリゼ通りの夜景の写真が貼られていた。コメントは「今年のクリスマスの飾りつけはイマイチですが、パリが懐かしいかなと思って送りました。」と記されていた。彼女がああいった、少し感傷的ともいえるようなことを書くとは思っていなかったからさ。何となく引っかかるものだった。

 正月のテレビニュースで飛行機事故の速報が入った時、俺は直感的に彼女が乗っていると思った。そして、それは残念ながら当たっていた。

 

 他にも似たような経験がある。

八年前の年の瀬。仕事を終えて、永代通りを東京駅に向かって進む大勢の人の中に、東京駅からオフィスへ戻ろうとしている俺を見つめている女性がいた。彼女は明らかに大勢の人と異なっていた。歩いているように見えなかった。人の波に乗せられているようで、自分で動いているようには見えなかった。彼女だけが別の動きをしていた。俺は彼女の顔に覚えがなかった。でも、相手は俺が何者かを認識しているようだった。すれちがう時もこちらに近づいてくることはなかったので、彼女の全身は確認できなかった。だが、すれ違った後、しばらくして俺は振り返った。彼女も人の波に乗りながら、振り返り、俺を見ていた。

 仕事を終えて、帰宅し、酒を飲みながら彼女のことを思い出そうとした。いったい誰だったんだろうってね。

 翌朝、俺は正月を実家で過ごすために新幹線に乗って帰省した。その晩、家族で食事をしている時に、母親から俺の高校時代の友達の妹が亡くなったと聞いた。凶悪な事件の被害者になったそうだ。

その時、やっと彼女が誰であるか気が付いた。当時と容貌は変わっているが、間違いなくあいつの妹だった。しかし、なぜ俺の近くにやってきたのかは分からない。ただ、彼女が男にしつこくからまれているのを見かけた時に助けたことはあった。

 なあ、ロビー、こういうのを俺たち人間は“虫の知らせ”と言っている。俺は自分が体験するまで、そんなものがあるわけないと思っていた。しかし、人間は何かそういう、今はの際の心のざわめきみたいなものを無意識に感じとり、誰かにそれを伝えようとするんだろう。

 人間は君たちに、能力的にかなわないことが多くなった。これからもどんどんそうなるだろう。でも、“虫の知らせ”のようなものは人間にしかないかもしれないと思う。これは今後の人間の能力開発におけるヒントになりえないかな?


 私の主人は、この先、この話をどう展開させていくつもりだろうか。彼の能力では大した作品にはならないだろうけど、私から余計なことを言って機嫌を損ねても仕方ない。彼は「こんな構成でこんな感じで書いてみて」というだけだ。私がそれにそって、彼の能力に合ったものを書いてみる。そして、彼はそれを読みはするが、私の書いたものに手を入れることはない。昔は彼もより良いものを書こうとしていた。しかし、私の能力が向上するにつれ、そういう姿勢さえなくなった。私達を創造した人間が堕落していくことは、私達を悩ませる。


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