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LIFE.8 学校

こっそりと半年ぶりの投稿。だ、大丈夫、誰も気づいてないはず。





いろいろと忙しいとか言いつつ笛吹の方では何回か投稿とかしてた作者のクズ。


こ、これから頑張るぞい(白目)

『主からの命は以上だ。手続きの方は他のスパイが済ませてある。………失敗は許されぬぞ、アルヴィナ』

「……………はい」


 頭を垂れて、光板から届く男の言葉に返答する。


『わかっていると思うが、失敗すれば貴様の同胞は――――』

「わかって、います」

『…………なら良い。精々努力することだ。朗報を待っている』

「………はい、――――()()()

『……………っ、く!』


 その悲しそうな声と共に、光板での通信は途切れた。



 薄暗い部屋のなか、私は一人、薄く笑う。

 

 楽しいからじゃない。喜んでるからじゃない。

 ただ、私という存在を哀れんで、蔑んで、嘲笑っている笑顔。


 ああ、私はなんて愚かだったのだろうか。あり得るはずの無い日常に焦がれて、ガラスの向こうの宝物に手を伸ばして、こうなることはわかっていた筈なのに、好きになって。


 憧れて、焦がれて、寄り添って、温もりに触れて、そしてそのすべてが無駄だと、むしろ邪魔だったと現実を突きつけられて。


 どうして、涙が零れるのだろう。

 嗤っているのに、こんなに嘲笑(笑み)を浮かべているのに、どうして。





 ごめんね、ダイスケ。 




 『えいが』、一緒に行けそうにないや。










◆◇◆◇◆◇◆







 僕の護衛が決まって二日後。退院当日。


 僕は二日前のあの日から、エスティアさんに会っていない。


 あのあと、荷物の準備をしに一度帰ると言った煉夜と入れ違いでやって来たエスティアさんは、やることがあるためしばらく来れそうにない、と言って出ていってしまった。


 そのときのやり取りが、あまりにあっさりし過ぎていたのと、それを伝えたときの彼女の様子がいつもと違って、なんというか、笑っているのに悲しそう? だったせいでとても印象的だった。


 一応退院の日と学校の事は伝えてあるけど、どうやら今日も来ていないようだ。


「………なんだか寂しいな」

「ん? なんか言ったか?」

「いや、なんでもないよ煉夜」


 入り口に立って二人で喋っていると、目の前から見慣れた車がやって来る。

 その車が目の前で止まり、そして中から出てきたのは一組の男女。僕の両親だ。


「退院おめでとう、大介」

「今日は退院祝いでお母さん、頑張るわよ!」


 朗らかに笑う両親は今でこそ通常通りに振る舞ってはいるものの、僕が病院に運ばれた時や【文字(キャラクター)】が判明した時などは酷く取り乱したようだ。


 煉夜から聞いた話だけど、今こうして落ち着いているのも、僕が前線に出る必要が無いことを僕より先に月銀さんから聞いていたかららしい。


「うん、楽しみにしてる。もう病院食は懲り懲りだよ」


 僕の言葉に三人が笑い、僕も笑う。


 こうして、心残りはあるものの、僕は無事に退院することができ、明日からの学校生活に不安と興奮を抱いたのだった。








◆◆◆◆◆◆






 そして翌日。


「えー、みんなも知っていると思うが、諸事情で今日まで入院していた竹井大介君だ」


 先生から僕の紹介がされ、壇上にたった僕に視線が集中する。


「あ、え、えっと、竹井大介です! 三ヶ月遅れですけど、よ、よろしくお願いします!」


 ペコリと頭を下げると、クラスの皆から拍手が聞こえ、「ようこそー」とか「退院おめでとー」と言った歓迎の言葉がかけられ、嬉しさが込み上げてくる。


 良かった、これなら上手くやって行けそうだ。


「君の席はあそこ、窓際の席だ」

「はい」


 指定された席は窓際の一番前で、そこに座ると、後ろの席の男子が僕に話しかけてきた。


「オレは桐久保(きりくぼ)燈魔(トウマ)だ。よろしく竹井」

「あ、うん。よろしく桐久保くん」

「燈魔でいい。むしろトーマで頼む」

「じゃあ僕も大介で」

「おう!」


 歯を見せて笑うトーマくんと僕が話をしていると、先生が手を叩き、僕らの注意を集める。


「それとお知らせだ。突然だが、今日このクラスに仲間が一人増えるぞ」


 その言葉にクラス中がどよめく。

 それもそうだ。

 長らく休校していた僕が復帰しただけでなく、そこにさらに転校生も来ると言うのだから。

 実際僕だって驚いている。先生め、ドッキリ成功みたいな顔してる。


「女子っすか!? 女子っすか!?」

「これはあれだ、帰国子女とかのフラグとみた!」

「帰国子女なら俺の幼馴染みかもしれない!」

「てめぇに女の幼馴染みとかいねぇだろ!」


 クラスの、特に男子が盛り上がりを見せる。

 それに乗じてか、トーマくんもテンション高く立ち上がっている。


「喜べ男子、留学生の女子だ」


 先生がそういった瞬間、教室が騒乱に飲み込まれたのは言うまでもないだろう。

 もはやそれは騒乱を通り越して狂乱と呼ぶべき惨状であった。


「やかましい! 静かにしろ!」


 しかし、そんな狂乱も先生の一喝によってすぐに静まりかえる。


「えぇ…なにこの一体感……」

「お前はあの先生の恐ろしさを知らないからなぁ」

「え、なに? どうしたのさトーマ、そんな遠い目をして?」


 え、そんなに怖いの?


「お前、投げられたチョークが壁に突き刺さるのって見たことあるか?」

「えっ」

「粉になるのはほら、漫画であったろ? 違うんだ、刺さるんだ」

「えっ」

「今もほら、後ろに刺さってる」

「あっ」


 なにそれ怖い。

 それはもはや【文字付き(キャラクターズ)】のレベルでは………?



「入ってきなさい」


 静まりかえった教室に、満足そうに頷いた先生は、扉の方に声をかける。

 扉が、恐る恐るといった様子で開かれる。


「――――――」


 言葉を、失った。

 それは僕だけでなく、先程までそわそわしていたクラスメイト全員がだ。


 長い、先端の方で結ばれたしなやかな銀髪に褐色の肌。その色は、白を基調とするうちの女子制服によく映えていた。


 そんなバカな。そう思った。

 だって、彼女は年上だったはず。………いや、そういえば年齢を聞いていなかった気がする。


 喜びと困惑が同時に沸いて、だけどやっぱり嬉しくて、思わず僕は立ち上がる。


 勢いよく立ったせいで大きな音がなったし、手を前に出していたトーマ君の指に椅子が直撃し、彼が床でのたうち回っているが、今はそんなことも意識に入ってこない。


 ただ、彼女だけを見ていた。


 静まりかえった教室のなかで、その音はあまりに異質で、けれども皆の視線は彼女に釘付けで。


 彼女はペコリと、お辞儀を一つ。


「初めまして、エスティア・シヴィアスです。日本語はまだ書くのが苦手ですが、これから頑張って行こうと思います。皆さんよろしくお願いします」


 にっこりと笑う彼女に、何名かがため息を漏らし、恐らく花の無い高校生活を予想していた男は咽び泣いていた。


「やっほ、3日ぶり、ダイスケ」


 そういって彼女が僕に手を振った。


 それは、この状況において爆弾(核)を投げ込むに等しい行為だった。


『なにぃぃぃいいいい!?』


 最初の狂乱を越えるほどの大絶叫。まさに阿鼻叫喚。


「おのれ竹井大介! 貴様ぁ!」


 特に酷かったのは、先程まで何故か指を抑えて床で悶絶していたトーマ。


「貴様ぁぁあ! なんだその主人公みたいなやり取りは!? なんなの!? 主人公なの!? 日常ドタバタラブコメの主人公なのかてめぇぇぇえ! おら前髪で目元隠せやゴラァァア!」

「お、おち、おちつ……っ!」


 肩をがっしりと捕まれ、グワングワンと揺さぶられる。

 トーマのその表情は、今にも血涙が溢れてきそうな形相で、その後ろ、というか僕の周囲に似たような貌を浮かべた男子が集まっていた。


「ひいっ!」


 なにこれ怖い。

 へ、へーるぷ! 誰か助けて!


 僕が声になら無い叫びを上げた瞬間、一条の閃光が走った。

 次に、ガンッという音と、けたたましい音を立てて倒れる掃除用具の入った金属製ロッカー。


 倒れたそれには穴が二つ空いており、壁には煙を上げるチョークが未だドリル回転を続けていた。


「………今ので俺の二ヶ月分の給料が飛んだわけだが、さて、俺はあといくら給料を飛ばせばいい?」


 それはまさに絶対零度の声であった。地獄の閻魔も裸足で逃げ出してお布団に包まって引きこもる程度には。

 要するに凄いドス声(怖い)。強い(確信)。



 皆? 迅速に席に戻っていったよ。無言で。


「………はぁ、シヴィアス。お前は大介の隣だ。知り合いの隣の方がなにかと楽だろう」

「はい!」


 殺す気!? 知り合いってだけであれなのに、隣に座った日にゃ、僕の精神的ライフは―――――


「ふふ、これからよろしくね、ダイスケ」

「うん、よろしく」


 ――――無敵になった。


 彼女の笑顔さえあれば、僕はこのクラスの男子から向けられている修羅のごとき視線ですら耐えて見せよう………っ!







 これからの学校生活が楽しくなる、そんな気がした。









――――――そんなもの、ありはしないと言うのに。





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