LIFE.7 処遇
お久し振りです。本当に遅くなりました。申し訳ございません。
これからもタートルペースですが、再開していきたいと思います。
そして久し振りゆえに加速した駄文感。
文才が欲しい……………
「ふむ。君が新しく見つかった【文字付き】の竹井大介君だね? 私は月銀玄治。【文字】は【解析者】だ。よろしく」
そう言って右手を差し出してくるのは、武骨という言葉をそのまま体現したような厳つい顔つきと大柄で浅黒い体躯を持つ男性だった。
彼は煉夜と一緒に入ってくると、僕の顔をしばらく見つめたあと、優しく笑って握手を求めて来たのだった。
「大介、この間話したと思うけど、この人がが俺の直属の上司で、大尉の玄治さんだ」
「む、黒神軍曹、せっかく彼を萎縮させぬよう階級は伏せたというのに」
「あ、すみません」
大尉………大尉って確か少佐の下だっけ? 幹部級ってやつだよね?
「あのー、それで、その、なんでそんな人が僕なんかに会いに?」
「それはな竹井君。君が【文字付き】だからだ」
「前に言ったろ? 【文字付き】は軍から一応検査が入るんだ」
軍からの検査………それはつまり、軍の管理下に置かれるということ。そしてそれは、軍に配属されるのとほとんど同義と言われている。
軍に入る。つまり、戦いに身を投じるって事だ。
――――ゾクリと。
背筋が怖気立つ。
思い出すのは、あの日見た炎と、恐怖と、痛みと………。
「ぁ…………っ……ぁ……っ!!」
「大介!?」
体が震え、歯の根が噛み合わなくなる。
呼吸が乱れて、視界が歪み始める。
怖い。
怖い。
怖い。
ただひたすら、恐怖のみが僕の心を埋めつくし、体を蝕んで行く。
ふと、肩に手が置かれる。
分厚くて、固くて、暖かい手が、僕の両肩に置かれた。
「安心したまえ、竹井君。私たちは、君を軍に入れるために来たのではない」
「………え? で、でも!」
言われた言葉に、僕は疑問を覚えた。
なぜなら、『【文字付き】を見つけた場合、如何な理由であれ軍属とすること』と、国家間で取り決められているからだ。
「確かに君は軍属となるが、戦闘として前に出る軍人になると言うわけでは無いのだよ」
そういって僕の肩から手を離した月銀さんは、目の前の椅子に腰かける。
「軍人にならずにすむ方法が2つある。………まあ、明文化されていない暗黙の了解のような物だがな。黒神軍曹、ほれ説明」
「うぅえっ!? い、いきなりですね」
「教えた事の復習だ。ほれ言ってみろ」
煉夜は肩を落としてため息をつき、そして僕の方を向くと、口を開いた。
「軍人にならなくてすむ方法の一つは、15歳未満であること。これは国によって変わってくるけど、日本は15歳未満が禁止。確かこれが一番低い年齢なのはドイツの12歳だっけ?」
「制限はな。この制限を設けていない国もあったりするのが悲しいところだ」
「そしてもう一つが、重大な障害を負ってしまった者。後天性にしろ先天性にしろ、戦いに意識を向けられない味方は言い方は悪いけど、邪魔でしか無いからね」
それは確かにそうだ、と納得しかけたところで、ふと重要な事に気付く。
「…………それ、僕一つも当てはまって無くない?」
年齢は今年で16だし、何らかの障害を負っている訳でもないんだけど……………。
「いや、君は今PTSDという精神疾患を患っていると、君の主治医が言っていたよ」
「…………………」
ああ、なるほど。
うん、なんとなく察してはいたけど、そうか。
――――良かった。もう、怖い思いをしなくて済む。
――――ああ、もう、彼の隣に立つ事はできないんだ。
自分の症状を自覚した時、2つの感情が心に浮かんだ。
安堵と悲嘆。
あまりに相反した感情に、僕自身が戸惑っていると、月銀さんが声をかけてきた。
「まあ、そう落ち込むな。流石に治療援助に回せる金は殆ど無いが、君の安全は保証するし、立ち直るか君が志願すれば軍人になることはできるさ」
「…………はい」
「さて、次に君の護衛の件だがな」
「え? 護衛?」
護衛って、なんで?
さっきの話からすると、僕のように軍人になれない【文字付き】は沢山いるはずで、でもそこに人を回せるほどの余裕はないはずじゃ………。
「あー、それはな、俺がちょっと頼んだというか何と言うか、とりあえず無理言って取り付けて貰ったんだ」
僕の疑問に、煉夜が頬を書きながら少し気まずそうに答える。
「全く、大変だったんだぞ? そういうわけだ竹井君。君の護衛は彼が着くことになる」
「ありがとう、煉夜」
「よせよ、照れるじゃんか」
僕らのやり取りが終わると、月銀さんが立ち上がり、煉夜の前に立つ。
「では黒神軍曹、あとの事は任せたぞ。私は野暮用でこの場を離れる」
「わかりました」
「ではな、竹井君。………と、ああそうそう、黒神軍曹」
「はい?」
「君が護衛につくと聞いて、君の班からの抗議が酷くてな。そんなわけで、君の班のメンバーのうち三人が三日後、ここに来ることになっている」
「……………はい?」
「諸々の手続きは済ませてある。安心したまえ」
それを伝えると、月銀さんは病室から出ていってしまう。
煉夜はその連絡が衝撃的立ったのか、ポカンと口を開けて固まっていて、しばらく後に僕の方を向く。
「あー、まあちょっと予想外の事もあったけど、そういうわけだ」
「うん、よろしくね、煉夜」
「おう」
こうして、突然決まった僕の護衛は僕にとって、とっても心許せるものとなったのだった。
◆◇◆◇◆◇◆
運転手席に座り電話を耳に押し付けると、幾度かの呼び出し音がなり、その音が途切れて受話器の向こうから可愛らしい声が聞こえてくる。
『はい、どうしました、月銀大尉?』
「赤神さん、あんたの視た通り、黒神軍曹は竹井大介の護衛となった。まぁ本人達には伝えていないが、これでいいのだろう?」
『はい、ありがとうございます』
静かな声を聞きながら、タバコを咥えて火を付ける。密閉された場所で吸うと後で周りがうるさいのだが、こんな話、タバコ無しではできるものではない。
「しかしまぁ、この判断が良かったのかどうかわからんな」
『? なぜです?』
「あんたが視た『夢』は、竹井大介と黒神軍曹が共にいることで起きる一連の争いだ。それはつまり、彼らを危険に巻き込むと言うことなのだろう?」
『………ええ、ですが』
「わかっているさ。あんたの【文字】が見せる夢は、その通りにしなければ最悪の結末になりやすい」
『はい。私の【文字】、【夢見】は、最善の未来を見通す物。精度は半々ですが、打てる手は打っておかなければなりません』
ふと外を見れば、ポツポツと少しずつまた雨が降り始めて来ていた。
「ああ、だからその一環として俺がここに使わされたんだろう?」
『はい』
「しかし、未だに信じられんな。魔法文明のスパイがこの町に潜んでいるなんて」
『ええ。私の予知も完璧ではありませんので、彼らの理由は定かではありませんが、【不死】が目的であることはほぼ間違いないでしょう』
「だから魔法を感知できる【解析者】がここに駆り出されたのだろう?」
短くなったタバコを灰皿に押し付け、窓を開く。
雨天の冷たい空気と湿ったアスファルトの臭いが入り込んできて、タバコの臭いを押し出していく。
『ええ、手間をとらせますが……』
「軍人としての仕事だ、手間じゃねぇよ。……ま、あとは任せてくれ」
『はい』
「じゃあな。勇守中佐によろしく」
そう言って電話を切って、窓を閉めると車を走らせる。
と、その時、
「ん?」
すれ違い様に見た、一人の女性。
その外見の珍しさからか、やたらと印象に残る女性が、病院の方へ歩いていくのが見えた。
「ほー、褐色銀髪の美人さんとは、なかなか珍しい人を見たもんだ」
もっとも、車であるがゆえに止まることは出来なかったのだが。